たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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ドレスローザ 愛と情熱とおもちゃ⑧

 

 革命軍がドレスローザに来たのは、このドレスローザが裏で各国の戦争を助長させているからだ。裏社会のブローカーでもあるドフラミンゴにより、製造された武器がここに運ばれ、それらが他国へと売り渡される。

 これの詳細を把握し、止めるためにサボ、コアラ、ハックの3人が送り込まれている。ハックは大会に出場した際に手が折れたため、サポートに回っているが、コアラは王宮に潜入。"リスト"の所在を探していた。

 

「仕事熱心だなコアラ」

 

「わっ!? ……なんだベルナートか。もぉ! 驚かさないでよ!」

 

「声かけただけなんだが……」

 

 どこからともなく現れたベルナートに文句がつけられる。単独で潜入中なのだから、コアラが怒るのも無理のない話だった。

 コアラは魚人空手が使える強者なのだが、音もなく現れられると心臓に悪い。

 

「そうだベルナート。この王宮になんだけど」

 

「ジーザス・バージェスだろ?」

 

「あ、うん。気づいてるなんてさすがだね。サボ君には連絡してあるんだけど、今コロシアムの地下にいるって」

 

「こっちに向かってはいるみたいだな。一応そのまま向かってもらうとして、それまではオレとヤマトが相手をしとく」

 

「それもう片がつくんじゃ……」

 

「オレとしては邪魔ができれば十分。黒ひげ本人ならとことんやるが、部下は別に」

 

「ルフィとローは戦いを始めてるみたいだね」

 

「少し気になるのはあるが、なんとかするだろ。……コアラそこ離れろ」

 

「え?」

 

 ベルナートがコアラの手を引っ張り強引に壁から離れさせると、その2秒後に壁が殴り壊された。その向こう側にいるのは、標的であるジーザス・バージェスだ。

 

「そっちから来てくれるのは、手間が省けていいな」

 

「ウィ~ハッハッハ! 横槍を入れられちゃあ面倒だ! 今のうちに消すに限る!」

 

「お前にそれができるならな」

 

 バージェスの拳とベルナートの刀がぶつかり合う。単純な膂力ならバージェスが上だが、覇気の練度ならベルナートが上。結果的にパワー勝負がイーブンとなる。

 

「お前がいるってことはウタもこの島にいるんだな? うちにはあの能力を欲しがる奴はいねぇが、ウタ本人なら別だ。どう使うにしても利用価値が高い」

 

「……」

 

「そこの女も悪くねぇ! ウィーハッハー! おかげて良い手土産が増えるぜ! ありがとよ!」

 

「やれるもんなら、やってみろよ!」

 

「オゥッ!?」

 

 爆発的に力を増したベルナートが、バージェスの懐に潜り込んで斬り飛ばす。バージェスの体は王宮の外へと浮かび上がり、その上には追いかけてきたベルナートが刀を振りかぶっている。下ろされた一撃をバージェスが腕を交差させて防ぐも、空中では衝撃までは相殺できない。そのまま王宮のある台地から町へと弾き飛ばされた。

 

「……あーあ。結局また町に戻らなきゃ」

 

「大変そうだね」

 

「まぁね。でもベルナートといると飽きないし楽しいよ」

 

「へぇ。彼、ちゃんと冒険楽しんでるんだね」

 

「だと思うよ。さてと、僕も追いかけなきゃ」

 

「女扱いされたから?」

 

「え? さっきの男が言って女って君のことでしょ?」

 

「あ、私か」

 

 おそらくは両方である。

 どちらにせよ、バージェスはウタのことを口にした時点でベルナートの地雷を踏み抜いている。その後の発言はすべて火に油を注いだだけ。

 さすがにもう頭は冷静さを失っていない。ベルナートがバージェスを叩き落としたのは、怒ったのももちろんあるが、ルフィたちの邪魔にならないようにするためだ。そのままこの場で暴れていては、王宮が崩壊し上にいるルフィたちの妨げになる。

 

「今のベルナートなら問題ないだろうけど、一応ね。僕も一発くらいはお礼しないとだし」

 

「何か因縁があるの?」

 

「エースは僕とベルナートの親友だったから」

 

「! ……そっか」

 

「エースにはエースの冒険があった。頭ではわかってるけど、簡単には割り切れなくて。一撃くらいは入れないとスッキリしないからさー」

 

「黒ひげ海賊団とはいずれ?」

 

「ううん。それどころじゃないし、追いかける気もない。ばったり出会ったら、かな」

 

 今回のように、たまたま同じ島にいて戦う理由があれば戦う。交戦理由はそれぐらい低くていい。白ひげ海賊団の残党との落とし前戦争だって終わっているのだ。親友と言っても枠組みの外の人間。今さら積極的に掘り返すつもりはない。

 

「コアラも仕事がんばって」

 

「うん。気をつけてね」

 

「ありがとう!」

 

 ピーカの能力により、王宮から町までの高低差が100mはあろうかという土木改造が行われた。それにも拘わらず、ベルナートとバージェスの戦闘と思わしき場所がわかりやすい。ベルナートにその気はなくとも、バージェスが町への被害を厭わずに戦っているのだ。

 ヤマトはそこを目指して王宮から飛び降り、人獣型になって下の段に着地。急ぐために獣型へと移行して走り出した。

 

(決着が着く前に追いつけるかな)

 

 

 

 

 

 

 

 戦況が傾いていく中、国の行く末を海賊たちに任せることを選んだ王族たちの下に、ウタたちも合流した。しれっとコロシアムに参加していたガープに国民たちは驚かされていたが、その後に始まったこのゲームによりそのことがすっかりと頭から抜け落ちていた。

 王の台地にウタと共に現れたことに、再度驚愕の声が上がっている。

 

「……ガープ……!」

 

「久しいなリク王。体は鍛えとるようじゃが、老けたな」

 

「お前は変わらずか」

 

「いいや、これでも衰えとるわい。もはや老兵。今は若いもんの育成に回っとる」

 

「この時期にこの国に来といてよく言う」

 

「ぶわっはっは! 今回は例外じゃ」

 

 奇跡の王と呼ばれるリク・ドルトと、世界にその名を轟かす英雄ガープ。2人の会話に国民たちはごくりと固唾をのんでいる。

 その空気をものともせずにしれっと会話に混ざりこんだのは、その名を知らぬ者が少ないウタ。深くかぶっていたフードを外し、その素顔を晒した。

 

「「ええぇぇぇぇ!?」」

 

「君がなぜここに……!?」

 

「うーん、成り行き?」

 

「それにそこにいるのは……モネか……」

 

「…………戻ってきていたのねモネ。抱えているのはシュガーね」

 

 隠れることなく、堂々と姿を晒しているモネにリク王とヴィオラは警戒を顕にした。モネはドンキホーテファミリーの一員であり、そして事前に侍女として王宮に潜入していたスパイでもあったからだ。王族の2人にとって、他のドンキホーテファミリーとは少しばかり違う因縁のある相手でもある。

 そしてその腕の中で気絶しているのは、ドフラミンゴの10に及ぶ支配を根本から一手に支えていたシュガー。おもちゃの国の実現者だ。

 もしシュガーが気を取り戻し、王族をおもちゃにしてしまえば国民は心の支えを記憶と共に失う。特殊な形でのゲームセットとなるだろう。

 

「……あなたたちに手を出すつもりはないわ」

 

「それを信用しろと言うの? 他でもないあなたが」

 

「ま、待って待って綺麗なお姉さん。モネのこと信じてあげて」

 

「きれいなお姉さんて……」

 

「本当の事だよ? よかったら美容のこととか教えてほしい」

 

「えーっと……それよりウタとモネの繋がりが不明なのだけど」

 

「ともだち」

 

「……ヴィオラ。彼女たちの言葉を信じよう」

 

「ですがお父様……」

 

「これでも多くの人間を見てきた身だ。その言葉に嘘がないかはわかるつもりだ」

 

 リク王のその言葉でヴィオラも警戒を薄めると、ウタはほっと息をついて足下にいる小人族に気づいた。近寄ってしゃがみ込み、手のひらを差し出してみると1人が気前よく乗ってくれた。

 

「かわいい~~!!」

 

「あなたはウソランドが言っていたルフィランドのお友だちれすか?」

 

「ウソランド? うぇぇ!? ウソップさん酷い怪我!!」

 

「今か……!」

 

「ウソランドがシュガーの呪いを解いてくれたのれす! ヒーローなのれす!」

 

「そうなんだ! ウソップさんもすごいね。さすがルフィの友だち!」

 

「あいつと同じ扱いだけはするなよ頼むから」

 

 クラーケンを殴り飛ばすような男と同列の扱いをされては命がいくつあっても足りない。今回だってすでに重傷である。少しは体を動かせる程度に回復しているが、ついさっきまでは身動き1つできなかったのだ。

 

「ウタさん、ルーシーと友だちなの?」

 

「うん。幼馴染だよ。あなたはレベッカだよね。コロシアムで見てたからわかるよ」

 

「ルーシーって昔からあんな感じなの? 楽しくて、わくわくさせてくれる人だった?」

 

「昔はもっとガキンチョだったかな~。意地っ張りで、負けず嫌いで。一緒にいて飽きないのは変わらないか」

 

「そうなんだ……! ルーシーが海賊って聞いた時は驚いたけど、全然海賊って感じしないよね!」

 

「わかる! 略奪とかしないし! 支配とか嫌いで自由が好きだし!」

 

 ガールズトークで盛り上がりを見せる2人に、海軍の人間であるガープは心底複雑な胸中だった。海兵にするために鍛えた過去があり、フーシャ村を離れている間に海賊となった孫だ。

 せめてもの救いは、略奪などを嬉々として行うような海賊にはならなかったことか。

 

「話が盛り上がっておるところ悪いがウタ。お前さんがやりたがっていたことの準備は整っとるぞ」

 

「あ、はーい! ありがとうガープさん!」

 

「なーに。この島には海軍が来とったからの。連絡を取って手伝わせりゃすぐじゃ」

 

「ウタさん何かするの?」

 

「私にできる精一杯のことをやりたくて」

 

 そう言ってウタはガープから電伝虫を受け取り、受話器をその手に取った。やってもらっていたのは、国全体に声が届くようにする準備。それが終わったことにより、ウタはようやく声を届けられる。

 

『あ、あ。よし、ドレスローザにいるみんなに聞こえてるよね。ウタだよ』

 

 悪夢の只中にあるこの国で、されど不思議と彼女の声はよく通った。戦闘している者たちの手は止まらない。それでも耳にはしっかりと届いている。

 

『みんな傷ついて、傷つけられて、傷つけてしまって。心も痛いよね。辛い気持ちは私もよくわかる。どうやったらこれが終わるのか。本当に終わるのか。不安だよね』

 

 ガープが睨んでいた通り、鳥カゴはただの牢ではない。それは収縮を始め、建物をものともせずに切断し、触れた者を傷つける。

 

『でもねみんな。諦めないで! どれだけ苦しくても、辛くても、嫌になっても! それでも生きることを捨てないで! 今私の友だちたちが、この状況に抗おうとしてる人たちが、ドンキホーテファミリーと戦ってくれてる! 信じて!』

 

 海賊に支配されていたこの国の国民が、その本性を見せつけられている今、海賊を信じろというのも酷な話だろう。だがそれは言い方1つだ。知っている者はすでに、海賊たちが戦っていると知っている。ドフラミンゴにより懸賞金の提示もあったからだ。

 だがウタはそこを塗り替える。戦っているのは()()()()()()()()()()()だと。

 

『どん底でも闇の中でも絶望に押しつぶされそうでも! それでも光は必ず届くから!』

 

 それが綺麗事にならない新時代を作りたい。

 

『"明日"を捨てないで!!』

 

 必死に呼びかけるウタのその姿に、1人の男が自身の頭を殴って立ち上がった。

 ウタの手からその受話器を取ると、彼もまた国民へと呼びかける。

 この国を、ドフラミンゴの魔の手から逃れさせられなかった。その責任の取り方は、決してこのまま何もせずに国民が死にゆくのを見届けることではない。

 

『私は元国王リク・ドルト3世。皆、王の台地を目指してくれ。信頼できる男の見識によると、ドフラミンゴが仕掛けたこの鳥カゴはドフラミンゴ本人の下へと収縮していく』

 

 外に出ようとするのではなく、中心を目指すことで少しでも人的被害を減らす。ドフラミンゴに勝つまでに取れる手段として、それが懸命な判断だろう。

 

『ドンキホーテファミリーの幹部たちは次々に討たれている! ドフラミンゴを倒せばこの鳥カゴも解ける! そして希望はあるのだ! 頼む!! 生き延びてくれ!!』

 

 その呼びかけは、等しく国民の心を掴んだ。負傷していない者たちは負傷者に手を貸し、皆で生き延びようと鳥カゴの中心を目指す。リク王の呼びかけにより、目的地は設定されていた。

 

「ヴィオラ。残りの幹部は?」

 

「最高幹部のピーカとディアマンテだけよ」

 

「ロロノア・ゾロもこの島におったな」

 

「ええ。王宮に潜入した時から麦わらが任せていたわ。けれどこの国は石が多い。なかなかピーカを捉えきれないわ」

 

「フン。なら()()()()()()()()()()()

 

「え?」

 

「直接の対峙を避けておる時点で、ピーカはロロノアには勝てん。さてと、ひと仕事しに行くぞ藤虎」

 

「うぎゃああ!? 海軍大将!? いつからそこに!」

 

 いつの間にかいた藤虎にウソップが悲鳴をあげているが、藤虎は今海賊を捕らえるつもりがなかった。特に麦わらの一味は見逃す。なにせ目が見えていない、とかの理由をつけて。

 今回の件、藤虎はドフラミンゴと戦うつもりもなかった。なにせ世界政府の作った制度により、今この国は苦しんでいるのだ。10年間見逃していたそれを、今さら海軍が動くのは筋違い。正義を語れたものじゃないというのが藤虎の判断。

 ガープもその意図を汲んでいる。その上で、別件で動こうというのだ。

 

「何をするつもりです?」

 

「なぁに、ヒヨッコの作った縮む鳥カゴを止めるだけのこと」

 

「へへへっ。あんたの考えは単純明快でいいや」

 

「軍を動かせ。海楼石性のものなら斬られん。使えるものを使って全員に尽力させろ。それがわしらにできる精一杯のことじゃ」

 

「ごもっとも」

 

 この王の台地を目指す国民。鳥カゴの外側を目指して動く海軍。人波に逆らう動きは、かえって被害を生むことだが、そこはリク王の手並みが発揮された。海軍がスムーズに移動できるように、一部の道だけは避けるようにと言い、国民もそれに従った。互いの信頼関係あってこそである。

 

 このゲームも終盤へと向かっている。

 それを受けて、人々の姿を見て影響を受ける者だって現れる。

 

「ウタ。シュガーを預かっていてくれないかしら」

 

「え、モネ? 何をするつもり?」

 

「逃げてばかりじゃ虫が良すぎるもの。私も、通すべき筋を通さなきゃ」

 

 




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