たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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 ドレスローザ編は今回で終わりです。ようやくです。


ドレスローザ 愛と情熱と妖精②

 

 レベッカはリク王の孫にあたる。つまりはドレスローザの王女なのだが、その昔母親であるスカーレットが、キュロスと結婚するためにその立場を捨てた。

 しかし血筋自体は変えようのないもの。ドレスローザがリク王家を再び迎えるという中、レベッカは王女に戻るという道があった。

 生まれた時から一戸建ての家での生活。王宮に足を踏み入れることなく、コロシアムの出場者となった。

 王族でありながら王族らしい生活とは無縁だった彼女に、王女だと言ってもあまりぴんと来ないだろう。

 キュロスは、レベッカのことを思って嘘の情報を流した。王族であるほうが幸せなはずだと、彼女の人生を考えて。結局レベッカはそれを捨て、キュロスとの生活を選んだ。

 

 今もこうして、ウタとマンシェリーと共に街へと赴いている。

 食材の買い出しを終えた一向は、昼食を取るために飲食店へ。午後からはウタのライブが控えているが、まだ数時間の余裕がある。

 

「改めてありがとうウタさん」

 

「ほぇ?」

 

 ドレスローザの料理に舌づつみを打っていると、レベッカから感謝の言葉を伝えられた。

 一緒に買い出しに来てることだろうかとウタは思ったが、そういうことではないらしい。レベッカが言いたいのは、ウタがキュロスにぶつけた言葉のことだ。

 

「ウタさんに気付かされたって、お父さんが言ってたよ」

 

「あ~~。ううん、私は思ったことを言っただけ。勝手に決められて離れ離れになるのって、何歳になっても辛いと思うから」

 

 キュロスは自身のことを罪深い人間だと思っている。本来ならスカーレットと結ばれていいわけがないと。レベッカが生まれた時も自身の手は汚れているとして、手袋を必ずしてから抱き上げていた。

 その意識はまだ消えておらず、だからレベッカのためにと離れることを選んだ。

 それをウタはルフィたちと一緒に聞き、キュロスに一喝したのだ。「ちゃんと話し合ってから決めろ」と。「レベッカの気持ちを目の前で聞いて確かめろ」と。

 かつてエレジアに残された過去を思い出しての言葉だ。看過できなかった。

 ルフィはそれに協調し、レベッカを王宮から連れ出した。キュロスたちの家がある台地に、誰も近づけさせないとしてベルナートも海兵の足を止めさせた。おかげでゾロたちも悠々と東の港に行けたが、それはベルナートからすればおまけ。

 そういった流れの末、レベッカはキュロスに気持ちを伝えられた。

 だからウタにお礼を言っている。

 

「私はそれを経験してる。……二度とごめんだし、似たようなことは見過ごせない。私のエゴだけどね」

 

「それって、エレジア? ウタさんがエレジアの人って聞いたんだけど」

 

「……うん。いろいろあってね。……長い時間だったけど、おかげでベルナートに会えたから。今はもう父親のこと許してる」

 

「そうなんだ。ねぇ、ウタさんにとってベルナートさんってどんな人?」

 

「へ?」

 

「ベルナートさんのこと、なんだか嬉しそうに話してたから気になって」

 

「私も気になります」

 

「マンシェリーまで……。私にとってか」

 

 もぐもぐと食べていたものを飲み込み、口元を拭いて考えてみる。

 相棒(パートナー)と言ってしまえばそれで終わる話だが、レベッカもマンシェリーもそれを聞きたいわけじゃない。詳細に聞きたい。

 それをウタも感じ取っていた。

 

「ベルナートは、私にとっての星明りかな」

 

「星明り、ですか?」

 

「うん。どんな暗い場所でも、私に光を届けてくれる。大丈夫だよって、差し伸ばしてくれる。引っ張るんじゃなくて、押してくれるわけでもなくて」

 

 もちろんそれをやってくれることもある。その事も伝えながら、ウタは目を閉じて思い浮かべた。

 エレジアにいた時のことも。クライガナ島での出来事も。それ以外でも。

 闇の中でも光を射し込んで。立ち上がらせて、共にいてくれる。

 

「隣にいてくれて。疲れたら寄りかからせてくれる。そういう優しさがあって、だから」

 

 そこでウタは不意に止まった。

 何やら思案顔になって、口元に手を当てている。

 レベッカとマンシェリーは顔を見合わせるも、声をかけていいのか判断がつかなかった。

 ただ、ウタにとってそれだけ大きな存在なんだと、その事は十二分に伝わっている。

 

(だから……ベルナートは……)

 

 2人の様子に気づかないほど、ウタは深く深く考え込んでいる。そんなウタにも、届く声があった。

 

「なに悩んでんだ?」

 

「ひゃっ!? べ、ベルナート……!?」

 

 ベルナートの声だ。

 いつの間にか店内に入ってきていたベルナートは、ウタの斜め後ろにいる。

 何やら慌てている様子のウタを不思議がるも、不穏なことではないため追及はしない。あたふたしているウタを面白がりながら、ベルナートは隣に座った。

 

「うぇ!?」

 

「? 隣は駄目だったか?」

 

「いやっ、ちがっ! 大丈夫大丈夫! 気づかなかったから驚いてるだけ!」

 

 それならレベッカの隣に座るかと腰を上げようとしたベルナートを、ウタは腕を掴んで引き止めた。ウタが変な調子になってることに、ベルナートは首を傾げる。

 

「ベルナートは何食べる? それとヤマトは?」

 

「せっかくだからガッツリ食べれるやつかな。ヤマトは外で食べ歩きしてる」

 

「ヤマトも来ればよかったのに」

 

「声はかけたんだけどな。美味しそうなものが多いからいろいろと回るってさ」

 

「昨日も回ってたよね……」

 

「食べ切れてない分を狙うんだろ」

 

 昨日は揃って一緒に回ったが、今日は初めから別行動していたためそうならなかった。ウタのライブが始まるまでには合流することになっている。ビブルカードもあるから心配はいらない。

 

「ベルナート」

 

「うん?」

 

「あ……。えっと、次の島のこと決めてる? どこに行くとか」

 

 何かあったのかと聞こうとしたが、ウタはそれを聞くのをやめた。聞かない方がいいと感じ取ったからだ。

 その事にベルナートも気づいていたが、知らないふりをしてウタが逸らした話題に乗っかる。

 

「まだ決めてないな。ウタが行きたい島があるならそこに行くけど、ヤマトとの約束もあるから」

 

「それもそうだね。行くとしてどこか1つになるのかな」

 

「そうなる。船はバギーズデリバリーに持って来させてるから、移動は問題ない」

 

「いつの間に」

 

 本当は王下七武海という立場を利用しての海賊派遣組織。傭兵を送りつける会社なのだが、ベルナートが予備として確保しておいた2隻目の船の管理もしていた。エレジアで関わりを示していたために、それを断ることもできなかったわけだ。

 すでに船も港に着けられている。バギーズデリバリーもあくまで会社だ。送料はちゃんと請求された。

 

「バギーもあれから会ってないね。シャンクスもだけど」

 

「会いに行くか?」

 

「……ううん。いい。私は音楽家なんだし、ライブしてるんだからシャンクスの方から来てくれなきゃ」

 

「なるほどね」

 

 調子を取り戻してきたウタは、ベルナートの隣で髪をぴこぴこ跳ねさせている。その様子にレベッカとマンシェリーは、温かい目で見守っていた。

 

「あ、ごめんごめん。2人にはわからない話しちゃってたね」

 

「ううん。気にしないでウタさん」

 

「とっても楽しそうれしたよ。ベルナートさん、献ポポのご協力ありがとうございました」

 

「あれぐらいいくらでもやるよ」

 

「おかげさまで皆さんの怪我も治ったれす。治癒力高いのれすね」

 

「まぁな。でもそれは、マンシェリー姫のチユチユの実があって活かされた。優しい姫に合った素晴らしい力だよ」

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

 頼んでいた料理も届き、ベルナートは切り分けながら食事を進める。ウタがその料理に興味を示し、ベルナートがウタの口の大きさに合わせて一口大に切る。

 フォークで刺したそれをウタの口にまで運び、ウタも自然にそれを食べた。

 

(今度お父さんにしてみよう)

 

(レオにやってもらうれす)

 

 それを見ていた2人にしっかりと影響が及んでいた。後にキュロスとトンタッタ族のレオは間接的に巻き添えくらう。

 

「これも美味しい!」

 

「食べ過ぎるなよ。ライブもあるんだし」

 

「いや一口で十分だよ!? 私自分の分も食べ終わってるんだから! ……それに食べすぎると太っちゃうし」

 

 最後の言葉だけは小声でごにょごにょと濁された。ベルナートは聞き取れず、もう1回言ってと伝えて足を踏まれている。

 これにはレベッカもマンシェリーもウタに同調した。聞き取っていないが同じ女性として言いたいことが伝わっている。

 

「ベルナートさんデリカシーないれす」

 

「気をつけてはいるんだけどな……」

 

「そうなんれすか? なら仕方ないれす。もう手の施しようがないれす!」

 

「これからも努力するが!?」

 

「あはは。それにしても、小人族ってかわいいよね~」

 

 ファッションセンスはダサいのに、かわいいものへの感性は人並み。少々、子どもっぽいところがあるのは愛嬌か。

 

「ねぇマンシェリー。一緒にライブツアーやらない? 絶対盛り上がるよ!」

 

「まぁ! 素敵れす!」

 

「なりませんぞ姫様!?」

 

 素直な反応を示すと、側近であるマウジイが姿を現して止めに入った。マンシェリーはトンタッタ族の王の娘。つまりは王女。ライブツアーは楽しいかもしれないが、航海による危険も付きまとう。止める以外の選択肢がない。

 

「ウタ様も勧誘するのはやめてくだされ! 姫様なのれすぞ!」

 

「私も姫って呼ばれてるよ」

 

「そうなのれすか? いえしかし駄目れす!」

 

「冒険したことがある王女も世界にはいるし」

 

「世界は広いのれすね。レオと一緒なら」

 

「姫様!! 姫様を誘惑しないでほしいれす!」

 

「ウタ、その辺で」

 

「あはは。うん、そうだね。ツアーは駄目でも、今日のライブに出演するのはどう? もう隠れて生活するのはやめたんだし」

 

「むむっ、たしかにそれくらいれしたら……。王に聞かねばなりませんが」

 

「ライブなら出てもいいれす」

 

「いるんかい国王!!」

 

 王女のお出かけを見守っていたのは、何も側近のマウジイだけではなかったらしい。トンタッタ族長であるガンチョもしれっと姿を現していた。

 

「レオは? もしかしてレオもいるのかしら」

 

「ウソランドたちの像を磨きに行ってるれす」

 

「も~~~~!! でもウソランドたちのなら許してあげてもいいのれす」

 

「成長しましたな姫様」

 

「「成長したんだ……」」

 

 ベルナートとウタがハモり、2人は顔を合わせてくすりと笑う。

 マンシェリーがドレスローザから出ていくのは、さすがにガンチョも反対した。これにはおそらくレオも反対するだろう。レオの場合「わがままな姫を連れて行くのは嫌れす」とかそんな理由になりそうだが。

 しかしドレスローザでのライブへの出演に、ガンチョは反対しなかった。娘のそういう姿を見てみたい、という思いもあるのだろう。

 

「タイミングはライブの後半になってからかな。どんな歌を歌える?」

 

「トンタッタ国歌が一番得意れす」

 

「ごめんそれ私が知らない」

 

「うふふ、れすよね。えっと、他のれしたら──」

 

 ランチはそのままライブの打ち合わせへと変わり、それが終わると一度その場で解散。レベッカは食材を家へと運びに。マンシェリーはレベッカについていき、ガンチョとマウジイはグリーンビットへと戻った。マンシェリーの出演をトンタッタ族の皆に伝えるためだ。

 

 ベルナートとウタはというと、空いた時間を使って服屋に来ていた。ライブの時間も近づいているが、一緒に買いに行くという約束もしていた。それを果たすためだ。

 

「これもいいかな」

 

「ダサい服シリーズでのライブでも考えてる?」

 

「私真面目なんですけど? ベルナートも選んでよ」

 

「ウタの服をか」

 

「もちろん! 私に似合うやつを、ベルナートが選んで。ベルナートの好みの服でもいいよ?」

 

 言いながら浮つきそうになった心をなんとか耐えた。勢いで言ってしまったが、冷静になってみるとわりと攻めた発言ではなかろうか。

 

「……わかった。選んでみる」

 

「え!? 本当に!?」

 

「ウタが言ったんじゃん……」

 

「そうだけど。いいの?」

 

「横からとやかく言うだけってのもね。ウタの好みに合うかはわかんないけど」

 

「いいよ買うから」

 

「先に確定しちゃうのか」

 

「うん! だってベルナートに選んでもらえるんだもん。センス悪くてもいいよ。嬉しいから」

 

「一言余計だな」

 

 長い時間があるわけじゃない。ライブまでという限られた時間の中で、ベルナートは真剣にウタに似合う服を選ぶことに。

 「好きな服を選んでくれていい」と言われても、相手のことを考えずに選ぶわけがない。自分の好みも入れながらの折衷案になるのは明白だった。

 

(ライブに使っちゃおうかな。……いや、やめとこ)

 

 ライブは自己満足のために行う場じゃない。選んでもらった服を披露するとしたら、それは配信の時がいい。

 

「あっ、そうだ。ウタがこれ持っててくれ」

 

「え……これって」

 

 渡されたのは、小さなケースだった。それはベルナートが持つビブルカードを収納しているもので、ベルナートの大切なものだ。

 それを渡されたことに、ウタは困惑していた。

 

「なんで……」

 

「ウタが持ってくれてる方が助かるんだ。オレにとっての楔にもなるし」

 

「わかった」

 

 大切なものだから、大切な人に持っていてほしい。

 その理由にぼんやりとだけわかったウタは、微かに頬を染めながらそれを大切に抱え込んだ。

 ベルナートはすぐに服選びに戻り、ウタは真剣に選んでくれているその横顔を静かに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 ドレスローザの東にある港は、あの事件の一番最後に戦いが起きた場所だ。逃亡する海賊たちを、大将藤虎が追跡。この地で、ルフィと1戦交えた後に国民たちの乱入で鉾を収めた。

 その場所は復興が後回しにされており、その戦闘があった時のままになっている。開けた土地があり、そこに足を下ろす大男が2人。

 彼らの視線の先には、進路を塞ぐように立つ1人の人物がいた。

 

「インペルダウン元看守長のシリュウに、レベル6脱走者の1人悪政王アバロ・ピサロ。()()()()()()()()()()()

 

「フン。やはり気づいてはいたか」

 

 この2人は現在黒ひげ海賊団に所属している。

 バージェスの回収にシリュウはラフィットと一度ドレスローザに訪れるも、バージェスは革命軍の船に潜入。ドレスローザにいないとわかったことで島を出た。

 それなのにまた戻ってきたのは、別の目的のためだろう。今この国に在るものを考えれば、自ずと答えは出てくる。

 

「ウタは利用価値がある。貰っていくニャア」

 

「今すぐハチノスに帰るなら見逃してやる」

 

「おれはウタに興味がねぇ。戻ってきたのはお前と斬り合うためだ。懸賞金20億8100万ベリー。天喰いゼルセナス・リチャード」

 

「対マンならまだ付き合ってやれたけど、()()()()()()無理だな」

 

「ん?」

 

 ベルナートの視線に気づいたシリュウが、残っている崩れかけの民家の一画を両断。

 そこから現れたのは第三陣営。ビッグマム海賊団のクラッカーとオーブン。

 

「潰し合ってくれるならありがたいと思っていたが、そうはならなかったか」

 

「ブリュレ。お前は離れていろ」

 

 2人の陰にいた女性が姿を消す。その瞬間をベルナートは見逃さず、厄介な能力者がいることを頭に入れる。

 

「一応聞こう。お前たちの目的はなんだビッグマム海賊団」

 

「お前の邪魔ではないぞ雨のシリュウ。おれ達の目的はウタだ。ママが興味を示してな」

 

「母親離れができてないなんて、乳臭い奴らだニャア」

 

「どうでもいいけど、ウタが狙いなら黙ってられないなァ」

 

「……いい覇気だニャア」

 

 1人ずつなら勝てる。だが4人が相手だと厄介だ。2つの陣営が協力しないのはありがたい点だが。

 覇王色で圧をかけながら、ライブ会場のことにも思考を割く。幸いにもあちらには鏡がない。もしあるのなら、ビッグマム海賊団がこの場には現れない。

 会場にはヤマトもキュロスもいて、最悪そうなっていても駆けつけるだけの時間は稼げてはいたか。

 

「帰らないのなら、強制だな」

 

 

 

 

 

 戦闘は拮抗はしなかった。ビッグマム海賊団と黒ひげ海賊団。四皇同士の陣営が、隙あらば諸共潰してやろうと牽制しあっていたからだ。

 そうなって一番美味しいのはベルナートであり、ベルナートはそうなるように立ち回っていた。完全にその場を支配していた。

 その戦況を変えたのは、アバロ・ピサロである。

 

「共闘と行こう。ビッグマム海賊団。まず目障りな天喰いを排除して、それから潰し合う。どうかニャア」

 

「お前たちのことは気に食わないが、今はその提案に乗ってやろう」

 

「お前ら全員おれの邪魔しかしねぇな」

 

「そう言うなシリュウ。目的を果たしてこいつの回復を待ってから、お前は存分にやりあえばいいニャア」

 

「……フン」

 

 4人とも手傷を負わされている状態になっていた。戦場の主導権を握られていたのだから、それも当然の結果だろう。

 しかし、誰1人として重傷を負っていないのは、それぞれのレベルの高さがあってこそ。今だからこそ共同戦線という提案が可能であり、それが通る。

 その駆け引きの巧さを、アバロ・ピサロは持っていた。

 

「面倒になったな。いろいろと」

 

 ベルナートの発言の真意を、4人とも直後に理解した。

 背後に現れた巨大な船。そこに掲げられているマーク。

 天駆ける竜の蹄。それ即ち天竜人の船。

 

「とうとうこの日が来たえ~~! 憎っくき男、父上の仇を取る日が! この()()()()で殺してやるえ~~!」

 

 その船から飛び降りてきたのは、天才科学者Dr.ベガパンクによってパシフィスタにされた暴君。元革命軍の幹部にして現王下七武海の1人。

 バーソロミュー・くまである。

 

 

 

 

 

 

 

 ヤマトはいつも通り、舞台袖からウタのライブを見届けていた。ただいつもと違うことがあるとすれば、途中でライブ会場を後にしてしまったベルナートのことだ。今も頭の片隅で気がかりとなっている。

 そんなヤマトの側で、電伝虫が鳴り始めた。数秒考えてからそれを取ると、電話の相手はそのベルナート。

 ヤマトは一気に嫌な汗をかいた。

 

「ベルナート大丈夫なの!? それどこ!? 僕もそっちに行く!」

 

『大丈夫。そんな心配すんなよ。別に死にそうってわけじゃない』

 

 ほっと胸を撫で下ろすも、すぐにそれが気休めだと気づいた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 本当に大丈夫なら、その必要がそもそもない。電伝虫越しに聞こえる戦闘音が、余計にヤマトに焦燥感を抱かせる。

 

『ライブが終わったらウタを連れてすぐに島を出ろ』

 

 その予感が、的中した。

 

『船はある。ウタにビブルカードは渡してあるから、その中でMって書かれてるカードを頼れ。あと船の鏡は割っとけ。鏡で移動する能力者がビッグマム海賊団にはいるみたいだ』

 

「今何人と戦ってるの!? 僕も加勢するから、3人で出航しようよ! そうだ、キュロスさんも」

 

『駄目だ。天竜人もいる。誰も来させるな。この国が滅ぶぞ』

 

「っ!! ……でも……! ……僕は嫌だよベルナート……。もう、僕には君しかいないのに……!」

 

『……ばーか。オレが死ぬわけないだろ。あとで合流するから、少しの間ウタをよろしく。その後、お前との約束を果たしに行こう』

 

「ベルナート!」

 

 電伝虫の通信は切られ、ヤマトはその場で打ちひしがれた。

 ライブの盛り上がりとは裏腹に、気持ちが沈んでいく。

 また親友を失うかもしれないという恐怖。それに押しつぶされそうになるも、ヤマトは自分で頬を叩いて踏み止まった。

 

「ベルナートには考えがあるんだ。なら、僕は僕のやることをやろう」

 

 まずは、絶対に猛反発するであろうウタを担いででもこの島を出るところから。

 

 

 

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