たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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アラバスタ王国①

 

 ウタのワールドツアー。その次なる舞台は世界でも有数の大国にして、長い歴史を誇る砂漠の国。

 そこに行くと決めたのは、他ならぬウタ本人である。

 この旅はツアーのため。それは揺らぐことのない核なのだが、小さな目的がさらに追加されたのである。

 "麦わら"と呼ばれる海賊の情報を得る。ゴードンも近年の世界の状況に疎くなっているためいいのだが、知っているはずのベルナートもウタに教えていない。だからウタは、ドルトンの助言を聞き入れてアラバスタに向かうと決めたのだ。

 

(聞かれてないから教えてないだけなんだが)

 

 理由を聞いたときにベルナートはそう思ったとか。

 アラバスタへはベルナートの持つエターナルログが使える。これで今回の航海も安定したものになる。

 

「ベルナートは麦わらの海賊について何か知ってる?」

 

 サクラ王国を出て数日。気候の安定からアラバスタ王国も近くなってきたと分析していると、部屋から出てきたウタがそう訪ねた。いつもなら目を合わせようとするのに、今回は進路に目を向けている。ウタにとってデリケートな話だからか。

 

「答える前に聞くけど、ウタは麦わらと何か関係あるのか?」

 

「……大切な帽子だって、あいつは言ってた」

 

「あいつって?」

 

「……っ! シャンクス……!」

 

 重々しく、吐き捨てるようにその名を呼んだ。ウタの口からその名が出たのは初めてであり、違う意味でもベルナートは驚かされる。

 

「そっち!?」

 

「……え? そっちって何? だってシャンクスは麦わら帽子かぶってるでしょ!?」

 

「そういう時期もあったみたいだけどな。通称は赤髪のシャンクスだぞ。麦わらって言うと今は別の海賊のことを指すな」

 

「だれ?」

 

「最悪の世代の1人。頂上戦争後の1件以来音沙汰ないけど、世間を騒がせまくった海賊。麦わらのルフィ」

 

「ルフィ!? なんでルフィが! え、待って。どういうこと!?」

 

「オレは会ったことないからどうもこうも説明できないんだけどな……。東の海(イーストブルー)から出てきた超新星。今は懸賞金が4億の立派な大物海賊だ。っと」

 

 情報が予想外過ぎたのか。ウタが足元をふらつかせて、それをベルナートが支える。

 ベルナート自身、麦わらのルフィのことは新聞のことでしか知らない。司法の島エニエス・ロビーの1件後にウォーターセブンを訪れているが、世界政府から仕事を受ける職人たちの島だ。恩こそ感じていても表では口にしない。船に関するノウハウを叩き込まれていたベルナートすら、ついぞその話を聞かなかった。

 モンキー・D・ルフィが海賊になっている。それだけでこの反応だ。彼がやらかした事件については、教えないほうがいいだろう。そう判断する傍らで、ベルナートは2人の関係に思案する。聞いてもいいのだろうかと。

 それを知ってか知らずか。ウタは支えられながらもぽつぽつと語りだす。

 

「ルフィはね、私の幼馴染なんだ」

 

「とんでもない情報が出たな」

 

「昔船に乗ってた時期があるっていうのは話したでしょ? それでフーシャ村に寄って、その時に知り合ったの。生意気でバカで、私に183連敗するくらい弱くて。でも、楽しかった」

 

「いい関係だな」

 

「船に乗りたがってたし、自由に生きたがってるのも知ってた。いつもその話してたから。でも……まさか海賊になってたなんて……。なんで……よりによって()()()()()……!」

 

「……さぁな。それを知るのも兼ねてアラバスタに行くんだ。教えてもらおうぜ。麦わらのルフィをよく知るって人から」

 

「……うん」

 

 アラバスタに到着し、船を停めたあとは国王のいる首都アルバーナに向かう。ドルトンが書いてくれた手紙を、ビビ王女に届けるという目的もあるが、それを口実に国王コブラとの謁見も狙えるだろう。本来なら時間がかかることも、この手紙のおかげでそこも省略できそうだ。ドルトンはそこも考慮したのかもしれない。

 その順序を聞いたウタは理解した。アラバスタでの最初のライブは、首都アルバーナになることを。そのライブが、アラバスタ内最大規模になることも。

 

「最初のライブが、いつも大事になるね」

 

「最初の掴みが肝心ってのは何においても共通みたいだな」

 

「ベルナート」

 

「うん?」

 

「アラバスタって広いんだよね」

 

「そう聞いてる」

 

「そっか」

 

「? 何か気になるのか?」

 

「ううん。冒険できるかな」

 

「ばーか。航海も上陸も冒険に入るんだよ。ウタは今、ツアーと冒険を両立中だ」

 

「……ふふっ、そっか。そうだよね」

 

 

 アラバスタの玄関口とも言える港町ナノハナは、大国アラバスタの中でも大きな町として知られている。交易船も多く、町全体で活気がある場所だ。

 誘導に従って船を停泊させ、ゴードンに手続きを任せてウタとベルナートは一足先に探索へ。と言ってもこの停泊所周辺だけだ。

 

「ベルナートあれは?」

 

「漁船じゃないか?」

 

「その2個横のは?」

 

「あれは交易船だろ。奥にも続いて並んでるし、あの一帯のは交易船が停まる場所なんだろうな」

 

「それじゃあ反対側のあっちは?」

 

「海賊船だな」

 

「やっぱりそうだよね。普通に堂々と停まってるね」

 

「害が無ければオッケーってことなのかな。王の器が大きいな」

 

 髑髏を掲げる海賊船が停まっていてもパニックになっていない。日常として完全に溶け込んでいる証で、国民も王の方針に文句がないというわけらしい。

 すごい国だなと2人で感心していると、船の持ち主らしき海賊たちが遠くで走り回っている。大きな荷物を抱え、ゲラゲラと大声で笑いながら船の方へ。

 

「食料かな」

 

「いい買い物でもできたのかな? 名物が買えたとか」

 

 少し離れたところから見ていると、海賊たちは急ぐように錨を上げ、帆を張った。

 船が進みだしたところで、建物の奥から武装した兵士たちが駆け抜ける。その緊迫した状況から、どうやら平和な状態ではなかったのだと2人も察する。だが海賊はすでに船の上。しかも大砲を構えている。

 

「ウタはここで少し待ってろ」

 

「え、まって!」

 

 ウタの静止は聞かずにベルナートは駆け出し、海賊が放った大砲が町に着弾する前に斬る。軍と海賊たちがぽかんと口を開けている間に、海賊船の後方へと周り込んだ。

 

「ちゃんと捕まってもらうぞ」

 

 船が出ていようと関係ない。まだ相手の顔もはっきりと見える距離は、射程圏内だ。

 ベルナートは刀を十字に振り抜き、その軌跡に従うように海賊船は十字に切り裂かれた。

 斬られた側も、それを見ていた者たちも驚愕の声を上げる。前者はその驚きのままに海へと落下し、それを受けて軍は意識を切り替えて海賊の拿捕へと向かう。

 

「能力者じゃないのにどうやって斬ったの?」

 

「斬撃の飛ばし方も教わったことがあってな。おかげでとても便利だ」

 

「……私の能力でもよかったんじゃ……」

 

「ウタの能力は海賊相手には使わないほうがいい。というか極力使わないでほしい」

 

「なんで?」

 

「その能力は稀有な力だから。珍しい上に能力自体が強い。知られれば知られるほど、能力目当てでウタを狙う人も出てくる。大物相手だとオレ1人じゃ守りきれない」

 

「わかった。ファンに追いかけられるのは嬉しいけど、そういうのは困るもんね」

 

「……そういうこと!」

 

 イマイチ危機感がないなと思ったがそれはそれ。追いかけられる立場はしんどいものだとウタなりに分かったのなら、今はそれでいい。

 遅かれ早かれウタの能力はその歌声とともに知れ渡っていく。それを狙う小物ならベルナートがなんとかするが、大物では手に負えなくなる。特に、能力者狩りと呼ばれる行為を始めている黒ひげとか。

 

「ま、ま~~。力添え痛み入る旅の方々」

 

「すんげぇロールケーキ」

 

「いや髪でしょ」

 

「入国時は人当たりがよく、害意も感じられなかったため油断してしまった。危うく取り逃がすところを助けてもらってすまない」

 

「あ、海賊たちが奪い取ったやつも海に沈みましたけど」

 

「あれくらいなら大丈夫だ。頂上戦争以降海賊の数も増えてね。警備も増やしているのだが……」

 

「この国は大事件がありましたからね。腕に自信のついた海賊が来るんでしょう。王女も王女ですし」

 

「実際それ狙いの海賊もいるようだ。まったく許し難い。っとすまない。自己紹介がまだだった。私はイガラム。この国の護衛隊隊長を務めている」

 

「護衛隊? 親衛隊的な?」

 

「この国は軍隊という呼び方をしない。他国を侵さず、国を護るための部隊。故に護衛隊と我々は名乗っている」

 

「……つまりあなたは、他国で言うところの軍隊のトップと。なぜそのような方がこの町まで?」

 

「視察だよ。報告だけでは正確に把握するのは難しい。無論、兵士たちの言葉を信じてはいるのだがね」

 

「なるほど。でもこれはラッキーだなウタ」

 

 ウタも頷き、イガラムは首を傾げた。ラッキーとはどういうことなのか、見当がつかないからだ。

 そんなイガラムにウタは手紙を見せる。

 

「これはサクラ王国のドルトン王が書いてくれた手紙。この国の王女……ビビ王女だっけ? その人に読んでもらえって」

 

「一応中身を確認させてもらおう」

 

「どうぞどうぞ」

 

 手紙を受け取ったイガラムは、丁寧に封筒を開けてその中身にサッと目を通した。ドルトンの筆跡を知るわけではないが、これが偽装ではないことはそれで判断できる。手紙の質自体が信憑性も高めている。

 書かれている内容は、ウタたちの保証とビビが麦わらの一味とドラム島に訪れたときのこと。別の紙にはコブラ王に宛てた内容も書かれている。

 詳しく読むわけにもいかず、イガラムはすぐに手紙を封筒に入れ直す。

 

「たしかに。一足先に戻ってこれをビビ様に届けたいところだが、私は視察の途中でね。電伝虫でビビ様に伝えさせてもらおう」

 

 それはこの上ない最速での伝達手段だった。アラバスタが砂漠の国である以上、陸路では確実に時間がかかる。まずは首都に向かうという、想定していた手段より断然早い。

 

「それはそうと君たち、首都に向かうとなれば砂漠を越えるのは必至。上着を買うことを勧める」

 

「そういうものなの?」

 

「うむ。日中は暑く、夜になると冷える。気温差は20度以上だ。それに風が吹けば砂が舞う。砂塵対策としても上着は買っておくべきだな」

 

「だってさベルナート」

 

「ゴードンさんと合流してから買いに行こう」

 

「では1時間後にまたこの場所でいいかね? 少しはこの町でゆっくりしていくといい」

 

「ありがとうございます。上着は適当に買うとして、飯も済ませるか」

 

「かわいいのがあるといいなー」

 

「ねぇだろ」

 

「ある!」

 

 険悪になることなく言い合いながら去って行く2人を見送り、イガラムは兵士に電伝虫を用意させた。

 電話をかけるとビビはすぐにそれに出た。間が良かったようだ。

 

「ビビ様。旅の者がドルトン王から貴方への手紙を持ってきたと言っていました」

 

『ドルトンさんから? 懐かしい~。でもどうして急に? それにその旅の者って?』

 

「手紙は彼らの保証とビビ様に彼らと会ってほしいというものでした。国王への手紙もありましたが、それは完全に別件かと」

 

『なら案内してあげて。ドルトンさんが保証してるなら信じられる。その人たちの名前は?』

 

「男性の名前はベルナート。女性の方はウタ。それともう1人の計3人です」

 

『ウタ……最近話題の歌手ね。私も彼女の歌声は好きよ。ふふっ、まさか会えるだなんて思ってなかった』

 

「1時間後に彼らと再会し、そこからアルバーナに向けて護送する手配です」

 

『わかったわ。それなら着くのは4時辺りかしら。着いたら私のとこまで通すように手配しておくわね』

 

 王宮まで入るのであれば、先に国王への謁見をするべきところ。それを省かせるのは、ビビの客人という扱いにするからだ。国王と対面するのはビビと話した後。ビビが国王に紹介するという流れになる。

 その話はそれで纏まり、今度はつい先程起きた海賊騒ぎへ。逃しかけた海賊たちをベルナートのおかげで捕まえられた件だ。

 今海軍への連絡も済ませ、引き渡しの軍艦が来るのを待っている。

 

「助けてもらったことへのお礼を、何かできないものかと」

 

『そうね。それはお父様とも話してみるわ』

 

「でしたらもう1つ国王への言伝をお願いしたいのですが、よろしいですか?」

 

『もちろんそれぐらい構わないわよ。それで何を伝えたらいいの?』

 

「では、とある人物の目撃情報を」

 

 

 

 

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