たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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 ネタバレ配慮の結果サブタイで「?」を使う日が来たことに驚いてます。


??の島①

 

 大海賊時代である現代では、船の往来が多い。元より他国との交流は船でしか行えないわけだが、それ以外の船が圧倒的に増えたということだ。

 それは言わずもがな、海賊船の増加。そしてそれに伴って海軍の軍艦もひっきりなしに東奔西走する。

 乗組員がたった2名のこの船もまた、新世界の海を行く。

 

「島はもう完全に見えなくなった。追手の気配もなしと」

 

 双眼鏡で周囲を確認していたヤマトは、安全が確認できたことでひと息入れた。

 ベルナートの指示に従い、船に乗り込んでからは真っ先に鏡を破壊。全て破壊したことを確認してから、急いで船を出した。

 途中まではバギーズデリバリーの社員の船と共にしたが、彼らは本社へと進路を傾け、ヤマトはビブルカードに従って船を進める。慌てての出航となったため、レベッカたちとはまともな別れを言えてない。その事は心残りだ。

 

「それにしても、このMって誰のことなんだろ?」

 

 舵の側には、風除けとしてドーム状の透明板が設置されている台がある。その真ん中にはログポースが埋め込まれているが、今はその上にビブルカードがある。

 それを指針として活用し、一路目指しているわけだが目的地は不明。その相手が誰なのかも不明だ。

 Mと聞くと、マスターことシーザー・クラウンのことが頭に過るがそれはないと断定できる。ベルナートが嫌っている男だ。その男のビブルカードを持つわけがない。

 

「ルフィでもサボでもないし……ウタは心当たりある?」

 

 階段に腰掛け、海をただ眺めているウタに声をかけてみた。聞こえているのかいないのか。ウタの反応は特になかった。  

 気分が沈んでいるのだろう。髪もぺしゃりと重く下がっている。

 ライブ終了後、ヤマトはウタを連れて出た。もちろんのことながら猛反発され、説得は無理だと断言できた。それでもベルナートに任されたからには、断腸の思いで島を出るしかない。ヤマトは耳栓してウタを船に担ぎ込んだ。

 

「……怒ってるよね」

 

 ヤマトはまだベルナートと言葉を交わせた。会話とは言い難いレベルだったが、本人と話せたのは事実。

 しかしウタは、何が何だかわからないまま連れ出されたのだ。何も説明がないまま、勝手に決められ、相棒(パートナー)を置き去りにする形で。

 指示したのはそのベルナート。実行したのはヤマト。だからヤマトは、ウタに反感を買われることもわかっていた。これまでの関係に亀裂が入っても仕方ないと。

 

「……ヤマトには怒ってないよ」

 

 だからウタのその言葉にはハッと顔を上げた。許されたかったわけじゃないが、許されるとも思っていなかった。

 ウタは変わらず海を見ているままだが、その声は決して怒ってはいない。ヤマトにかけている声は、普段のウタの声色と同じものだ。

 

「そうするしかなかったんでしょ?」

 

「……うん」

 

「ヤマトのことだから、加勢に行こうともしたんだよね。でもベルナートに止められた」

 

「天竜人もいるからって」

 

「そっか。……角生えてる人って珍しいし、そういう意味ではヤマトが駆けつけたら狙われてたかもね」

 

 そういう会話はベルナートとしていなかったが、そこも配慮されていた可能性はある。ベルナートはそういう男だ。

 

「Mが誰なのかは、私にもわからないよ。ベルナートの知り合い全員を知ってるわけじゃないから」

 

「それもそうだよね。ルフィたちは今頃ゾウかな」

 

「たぶん。ベルナートが言うには、ゾウってログポースじゃたどり着けない場所なんだって」

 

「そんな島もあるんだ」

 

 パンクハザードもそういう島だったことを、2人は気づいていない。

 

「島じゃなくて、ゾウは象なんだって。移動し続ける象の上に国があるみたい」

 

「象!? ゾウってそういう事だったの!? しかも国があるんだ!?」

 

「ミンク族が住んでるらしいよ。いつか会ってみたいんだけどね」

 

「ミンク族か……」

 

 光月おでんの航海日誌の中にも記されていた種族。彼に使えた赤鞘たちの中にも、ミンク族はいた。

 ヤマトとしても会ってみたい種族なのだが、いずれ決行される討ち入りのことを考えれば、会うのも時間の問題だ。今すぐ急く必要もない。

 

「ヤマトの夢って何?」

 

「え? 僕の夢?」

 

「うん。思えば聞いたことなかったから。光月おでんって人に憧れてるのは知ってるけど、それは憧れ。ワノ国にいるカイドウを倒すって話も、それは目先の目標。そうじゃなくて、もっと先のこと」

 

「ウタで言うところの新時代を作りたいって感じで?」

 

「そんな感じで」

 

「夢か……」

 

 ヤマトが考えていたのは、父カイドウを倒してワノ国を解放し、自由に冒険に出ること。エースは死んでしまったから、ルフィの船に乗るつもりでいた。

 それはベルナートによって良い意味で狂わされている。カイドウを倒すのは後回しになり、手錠を外してもらったことで自由になれた。ウタのライブツアーに付き添うことで、冒険もできている。

 ある意味すでに叶っているようなものだ。だからこそウタは聞いたのだろう。ヤマトの言っていた目標で残っているのは、討ち入りだけになっていたから。

 その先をどうするのだと。

 

「まぁでも、あんま変わらないかな」

 

「へ?」

 

「この1年くらいでたしかにいろんな島に行ったけど、まだ世界を見れたわけじゃない。光月おでんが見知ったものを、僕はまだ知らない。彼みたいに、心躍る冒険がしたいんだ」

 

「……そっか。なるほどね~。それならたしかに、ルフィの船に乗るほうがいいね」

 

「え?」

 

「え?」

 

 何やら引っかかったヤマトにウタは首を傾げた。

 話の流れからしても、これまでのヤマトの言動からしても、麦わらの一味への加入が最もヤマトの夢に繋がる道だ。

 そのはずなのに、なぜかヤマトは驚いている。ヤマト自身も、どうやら自分がその反応をしたことが、腑に落ちていないようだが。

 

「えーっと……ルフィは海賊王目指してるんだし、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を探すわけだし、ヤマトの目的と一致するんじゃないの?」

 

「そのはずなんだけどね~」

 

「ま、いいや。私ご飯作ってくるね。食材あるよね?」

 

「あるよ。バギ次郎のとこの人たちが積み込んでくれてた。ウタが作るの?」

 

「うん。何かしてた方が落ち着けそうだから」

 

 ヤマトが料理をするつもりだったが、ヤマトが思っていた以上にウタはこの状況を受け止められていたらしい。ライブツアーの日々が、ウタの精神を強くしたようだ。

 ベルナートはそれをわかっていたのだろうか。「ウタをよろしく」としか言わなかった。

 案外、落ち着けないのはヤマトの方かもしれない。

 

「ヤ~マト」

 

「ん?」

 

 身長差もあって、ウタが指を突き上げてヤマトの頬をついた。見下ろすと、いたずらを成功させた子どものように笑うウタが見える。

 

「ベルナートは後で合流できるんでしょ? なら、私たちはベルナートを信じて目的地に行くだけだよ。ベルナートのビブルカードもあるんだし、無事なのはわかるんだから」

 

「そうだね。まさかウタに励まされる日が来るとは思ってなかった」

 

「ちょっ! それどういう意味!?」

 

「気にしない気にしない」

 

 軽快に笑われるも、嫌な気分にはならない。ウタもくすりと笑い、今度こそキッチンへと歩いていく。

 その背中を見送ったヤマトは、水平線に目を向けて舵を握る手に力を込めた。

 

 

 キッチンへと移動したウタは、扉を閉めてそこに背を預けた。

 新世界に用意しておいた予備の船。それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ベルナートは造船技術を持っている。ガレーラカンパニーに入れるほどの腕がある。船が大破させられない限り、修復は可能なのだ。

 それなのに船を先に購入しておいたのは、完全にプライベート用である。いつも使っていた船は、実像はともかくウタのライブ用の船として世間に認知されている。ウタのマークを旗に描いているのだから、そうなるのも当然だ。

 その船でどこへなりとも行けるわけだが、どこへ行っても「ライブしに来た」と認識されるわけだ。もちろんウタは音楽を愛していて、ライブのために世界を回っている。

 けれども、単に旅行がしたい時だってある。だから、ベルナートと2人で話し合って、ウォーターセブンで船を購入した。

 新世界に置いていたのは、管理をバギーに頼んだからだ。エレジアに置いていたら「ウタのプライベート船」として先に認知され、話題になってしまうから。

 

「……はぁぁ」

 

 だから、逃亡用ではないのだ。今回のような使い方をしたかったわけじゃない。

 脚の力が抜けていき、ずるずると背中を引きずりながらウタはその場に座り込む。

 大事に持っていたベルナートのビブルカード。それはたしかにベルナートの生存を確認できる代物だが、()()()()()()()()()()()()()。ウタの手のひらに乗っているそれは、本来の大きさの3分の1以下にまでなっていた。

 ヤマトもそれは把握しているだろう。

 

「べるなーとの……ばか……っ!」

 

 ぽたり、ぽたりと大粒の涙が零れ落ちていく。

 ウタはカードを両手で握り締めながら肩を震わせ、小さな嗚咽を漏らしていった。

 

 

 

 

 

 

 四皇の一角。ビッグマム海賊団は、業界1の情報力を持つとされている。それはそのまま、全海賊団の中で最も情報を集められるということ。

 ウタの情報もまた、ビッグマムの元にはすぐに届いていた。ワールドツアーは新聞にも乗り、世界中で話題になったのだからそれは当然のこと。その能力のことも無論把握していた。

 それでもここ約1年半。ビッグマムがウタを捕らえに行かなかったのは、ウタが新世界での滞在を短くしていたからだ。ツアー中、多くても3つの島まで。

 そしてログポースに従った航路でもなく、目的地も告げないゲリラライブ。いつどこでライブをするのか。その情報がそもそも出回らない。

 だから動くことができなかっただけ。

 しかし、今回のウタの新世界入りはそれまでと大きく異なる。パンクハザードでの公開実験。ビッグマムの部下がそれを視聴し、ウタの存在も把握。共に行動していた麦わらの一味が、ドレスローザに向かうことも読めていた。

 オーブンとクラッカーは一度上陸して潜伏していたものの、きな臭くなったためブリュレの能力で一旦鏡の中へ。大将藤虎にガープ、事件後にはセンゴクとお鶴までいたのだから、そのまま様子見。

 彼らの出航後、ライブのことを知ってタイミングをその日にした。

 

「──で、ウタを逃したのかい。クラッカー、オーブン」

 

「ブリュレの能力を天喰いに知られて、船の鏡を割られて出航されちまった。申し訳ねぇ」

 

「ブリュレから先に軽く聞いてはいるよ。シリュウとアバロ・ピサロもいたみたいだね。天竜人も。聞くがお前ら、まさか大将の存在に怯んだわけじゃぁねぇよな?」

 

「勿論だママ。ただ、()()()()()()()()()()

 

「説明してみな」

 

「妹の結婚式が目前に迫ってる。めでたい日だ。それがあるのに海軍大将を呼び寄せるようなことはできない」

 

「ハッハッハッハ! 妹思いのいい兄貴たちじゃねぇか。いいだろう。その気遣いに免じてやる。天喰いの方はどうしたんだい? 天竜人にでも引き渡したのかい?」

 

 目標のウタを奪うことはできなかった。立ち塞がったベルナートのことも、倒して連行してきたわけじゃない。天竜人の目的がベルナートだったのだから、順当に考えればそこに行き当たる。

 しかし答えはそうではなかった。

 ベルナートの身柄は天竜人でも、ましてや黒ひげ海賊団にも渡っていない。

 

「それが……」

 

「なんだい。はっきり言いな」

 

 顔を見合わせたオーブンとクラッカーは、頬をぽりぽりと掻きながら同時に言った。

 

「「妙な海獣に食われた」」

 

「……は?」

 

 

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