Dr.ベガパンクとは、世界政府に雇われた1人の天才科学者の名前である。500年先の未来をいくとされるその頭脳は、天才たちの頂点とも言っても過言ではない。
この世のあらゆることを解き明かすベガパンクの功績は、そのまま世界政府や海軍の科学力の発展を意味する。
海軍は
悪魔の実の伝達条件を解明し、物に悪魔の実を食わせることに成功。
海軍の戦力を大幅に増強させたパシフィスタも、ベガパンクの手によるもの。
挙げていけば切りがないほど、ベガパンクはその頭脳で多くのことを解明し、発明してきた。その活動歴からして、現在は高齢である。そして男でもある。
「じゃから言ってるじゃろ! わしはPUNK-
「何が嬉しくてそんな設定を考えるまでに至ったんだ……。病院に行こうぜ。な? 今度ドラムに連れてってやるから」
「やかましいわ!? 頭の悪い奴じゃのう! 聞いてた話と全然違うぞ!」
「にしても巨大ロボの中に乗れるとはな~。このボタンなんだ?」
「勝手に触ろうとするな!? なんで
コックピット内で目を輝かせているベルナートにリリスはグーパンを入れ、ベガパンク本人の考えに疑問を抱いた。
とはいえ、理由を聞いていないわけではないのだ。なぜわざわざドレスローザまで行って、ベルナートを捕えたのか。ベガパンクの考えをリリスは知っている。
知っていても、実際にベルナートに会ってみると後悔しかない。考え直せとベガパンクにとても訴えたい。頭のキレる男だと聞いていたのに、蓋を開けてみればバカなのだ。ガッカリもいいところだ。
「なぁなぁ自称ベガパンク」
「誰が自称じゃ!
「わかったわかった。とりあえずリリスって呼ぶさ」
「絶対理解してないな。納得していないな!」
「オレ行くとこあるからこのまま送ってくれないか?」
「足代わりにしようとするな! このままエッグヘッドに帰投じゃ!」
「はぁ!? なんでオレが頭パンクのとこに行かないといけないんだよ!」
「さては
個人の感情で言えば、リリスの言う通りベルナートはベガパンクのことをあまり好いていない。
なにせ大嫌いな世界政府に協力している男である。ベガパンクの手で生まれた悲劇もあるだろう。好きにはなれない。
しかしベガパンクの能力を考えれば、それも仕方ないと納得できる部分はあるのだ。500年も先を行く未来の頭脳。それを十全に活かせる環境と莫大な資金。それらを賄えるのは、世界政府をおいて他にいない。
兵器を生む罪はあるかもしれない。しかし、どう利用するかは使い手次第だ。例えば戦争で活躍したパシフィスタも、戦争目的に使えば殺戮兵器。平和目的に使えば心強い警護兵器。
そこはベルナートも理解している。それでも好きか嫌いかで言えば嫌いだ。
「わしがお前を助けてやったのは事実。おとなしくエッグヘッドについてこい」
「頼んだ覚えはない。恩着せがましく言うな」
「このッ……! いいから黙ってついくるんじゃ! わしだって好きでこんな場所まで来てるわけじゃない!」
「あーもーうるさいなー。わかったから行くだけ行ってやるよ」
「話がわかればそれでいいんじゃ」
「ガキめ」
「あァ!?」
2人の口論は、エッグヘッドに到着するまで巨大ロボことベガフォースの中で続けられた。
□
ベガパンクの出生地はバルジモア。彼が生まれたことから、未来国と称されている国である。その地には、彼が島を出ていくその日まで行われた研究の名残や理論書が数多く残されている。
1つ失うだけでも大損失とされるその価値は計り知れないもので、2つあった研究所の内1つが大爆発で吹き飛んだことはまだ人々の記憶に色濃く残っている。その事件のことを「バルジモアの悪夢」と呼び、首謀者はフランキーである。
さて、ベガパンクの研究施設は、後にパンクハザードにて作られたわけだが、そこはシーザー・クラウンの引き起こした大爆発で封鎖。その後エッグヘッドへと場所を移している。
通称を未来島。ベガパンクがいればそこはもう未来というわけだ。
「
「
「了解」
シャカと呼ばれた者は、彼らの中でリーダー格となっている存在だ。司令塔とも言い変えられる。
その指示に従って、リリスの帰投とベルナートの到着はすかさずベガパンクの耳に入った。ベガパンクもまた自身で別の研究を行っている最中だったが、待ち望んでいたものの到着だ。切り上げて自ら出迎えに行く。
未来島と言えど、ベガフォースは物理的に大きい存在だ。騒ぎになることは当然ないものの、目立つものは目立つ。
ベガパンクはベガフォースの下へと素早く移動し、コックピットが開くのを待った。
「上陸しろと言ってるんじゃ! 寄ってすぐに出るなど叶うわけがないだろ!」
「うん? リリス。何を揉めておる」
「この恩知らずが行く場所があると言って聞かんのじゃ!」
「ベルナートや。それはウタの居場所に違いないな?」
「……ベガパンク」
DOMシューズの機能で飛び、ベガフォースの開かれた腹の上へ。コックピットでリリスと揉めているベルナートへと声をかけた。
2人はこれでも初対面である。これまでに一度たりとも会ったことはない。それでも互いに素性くらいは知っていた。ベガパンクのことは、その有名さから。ベルナートのことは、ベガパンクの立場から知ろうと思えば情報を集められた。
当然最新の情報まで掴んでいる。一緒にいないことを加味すれば、どこかで合流するつもりなのも容易に予測できる。
「急ぐ気持ちも察せられるが、まずは話でも聞かんか? 時間を奪うという行為を超えるリターンを約束する」
「オレにメリットはないと思うが?」
「トット・ムジカ。その楽譜を革命軍が入手したのはお前さんの手引じゃな?」
その発言にピクリとベルナートが反応した。それは的を得ているとは言い難いものだが、関与しているのは事実だからだ。
「オレは島にあるネズキノコの完全な伐採を依頼しただけだ。回収は向こうが勝手にやっただけ」
「そうなることを見越したはずだ。世界政府を嫌うお前は、政府に委ねることを選べなかった。本命は言った通りネズキノコだったのだろう。だが、革命軍ならあの魔王のことを必ず調べる」
「わかってるなら聞く必要ないんじゃないか? 革命軍なら
「お前の性格はドラゴンに通じるものがあるからな。戦争を嫌うがために、世界を変えるべく革命軍を作り上げたあの男のように、お前さんは争いを嫌う」
「お前のことも嫌いだ」
「やっぱり
すぐ近くで騒がれたベルナートは、リリスの口を手で塞いだ。反抗的に手を払おうとされるも、今のベルナートは不機嫌だ。非力なリリスの反抗ではビクともしない。
船でも拝借してすぐさま出航しようかと考えるも、ここで一旦冷静になって脳内を整理する。
なぜベガパンクがベルナートをエッグヘッドに連れて来させたのか。それに思い当たる節はあるが、そこはどうでもいい。
それよりも引っかかるのは、
そこに思い至るのを待っていたかのように、ベガパンクは改めてベルナートに上陸を促す。ベガパンクの言うリターンとは、ウタにも関係する話らしい。
「そう睨むな。危害を加えるつもりはない。まずは研究所で話をしようじゃないか」
「ぶはっ! その前に
「相性悪いなぁお前たち……」
「だってこやつわしの口に触れたんじゃぞ!! 頭を叩き割ってやりたい!」
「「……」」
体いっぱい怒るリリスを受け、ベガパンクとベルナートは揃って肩を竦めた。別にそれ重要じゃないだろうと。
数刻前と同じようにベルナートがぽんぽんとリリスの肩を叩き、力強いサムズアップを見せる。
「どんまい」
「お前が言うな!!」
ボディブローを叩き込まれたベルナートの体が浮き上がり、そのまま地面へと落下していく。
目の前で見ていたベガパンク曰く「想定以上のパワーが出ていた」とかなんとか。
□
ベガパンクは自身の知識を無限に蓄えることができる。決して忘れることはない。そういう能力者だ。その能力の仕様上、頭の大きさはどんどんと大きくなるため、文字通り世界最大の頭脳を持つ男である。
「大きくなったのでな。切った」
「ノリ軽いな」
それに伴い、猫の手も借りたいほど多忙なベガパンクは、自分の分身を6人用意した。それが
それぞれにはそれぞれの役割があり、6人で本体1人分の頭脳である。
「……お前まじでベガパンクだったのか」
「ずっとそう言っていたじゃろ!! 何だと思ってたんだ!!」
「自分をベガパンクだと思い込んでるかわいそうな人」
「よぉーしよく言った! 今すぐセラフィムの餌食にしてやる!!」
「落ち着いてくださいリリス」
「離せ
「ピタゴラス。リリスを外に出せ。ステラの話の妨げになる」
「何を偉そうにシャカァ! お前あのバカの相手をしてないからそう言えるだけじゃろ! お前が連行してきたら立場逆転してるわ!」
「それはあり得ない。早く連れ出せ。
「おおおぉ! 閃いた! 閃いてしまったぁー!」
「わしで閃くな
最後までガミガミと噛み付いていたリリスは、ピタゴラスに連行されて研究所の外へ。
リリスがあそこまでヒートアップしたのも、ベルナートがその様子を楽しそうに眺めていたせいだろう。半分無自覚で火にドバドバと油を注いでいた。
「んで、ベガパンクの目的は?」
「お前さんの体を調べさせてくれ」
「断る。バーソロミュー・くまみたいにやられても困るしな」
「ぬぅ……それはだな……」
「事情かなんかもあるんだろうが、オレはお前を信用できない。血の流れるパシフィスタが量産されたことも考えれば、血の提供もごめんだな」
「私が知りたいのは、その回復力の理由だ。それが判明すれば、あるいは後遺症の残るような怪我もこの世から消せるかもしれない」
例えばヤマトをワノ国から連れ出した日。あの日ベルナートはヤマトの本気の一撃をノーガードで受け、肋骨をしっかりとへし折られていた。
それなのに翌日には完全回復。ベッドでヤマトに押しつぶされても平気だった。
そのメカニズムを解明し、それが他の人にも施術できるものであれば、世界は怪我を恐れる必要もなくなる。痛いのは痛いし、致死レベルなら死ぬが。
「その実験に誰を使う気だ? 何人犠牲にする? 人以外の動物実験ならオレの許容範囲とも思ってないよな?」
世界政府からすれば、インペルダウンに収監されるような悪人たちをいくら使ってもいいと考えるだろう。悪行と犯罪を重ねた者たちが、人類のための実験の礎になる。それを美徳に思うかもしれない。
だがそれはベルナートの許容できる話ではない。たとえ罪人であろうとも、理不尽を虐げた者たちだろうとも、やられていいわけじゃない。
「本気で欲しいんなら、リリスの言ってたセラフィムとやらでも使って奪ってみろ」
「ふむ……。こちらの話を終えてから、対価として貰えるか判断を委ねるとしよう」
その話とは、ベルナートが無視できないもの。
ウタにも関係していく話である。
「悪魔の実の能力について、ある仮説を立ててみた」
Dr.ベガパンクとは、天才科学者ではあるが際限ない知的好奇心を持つ学者でもある。その好奇心は他分野にも渡っており、その1つが歴史。さらに古い歴史までいけばそれを人は考古学とも呼ぶ。
SMILEの発明の土台となった血統因子も、ベガパンクが見つけたもの。これもまた違う分野。
執刀もできることから、医学にも精通していることが窺える。
そうやって多くの分野に精通したベガパンクだからこそ、立てることができた仮説。その1つが悪魔の実に関するもの。
「遥か昔に実在したとされる解放の戦士、またの名を太陽神ニカ。その在り方は
「聞いたことない名前だな」
「歴史から消された名前だからな。だが、人々の望みがある限りその存在が消えることはない」
「……ん? 歴史から消されたって、それ知ってるなら政府に消されるぞお前。というか余計な情報流すなよ!? 巻き込むなリンゴ頭!」
「私はそこからこの仮説に至ったのだ。悪魔の実もまた、ニカや万物と同様に望まれて現れるのだと」
あればいいな。こうなりたいな。
そういった多岐に渡る未来の可能性。次元を超えた願いの形であり、人類の進化の1つ。
「それが悪魔の実だ。能力者とはそれを体現する者たち。その不自然は自然の母である海に嫌われ、共通の罰を受ける。どうだ、面白かろうこの世界!!」
「…………壮大な話は興味も惹かれる。ロマンも感じる。このまま高説を聞いていたくもなるが、ウタがどう関係する?」
「トット・ムジカの起動条件。ウタウタの実の能力者のみが可能だが、そこで疑問を持て。
「ッ!? ……トット・ムジカは、ウタウタの実の能力者の成れの果てとでも言いたいのか!」
「あくまで低い可能性の話だがな。しかし万物には必ず生まれた理由がある。魔王とて例外ではないはずだ。CP0が持ち帰った資料から読み取るに、歌を愛する人々の負の感情の集合体のようだ。念の為、気に留めておいて損はないだろう」
思い当たるものが無いわけではない。ウタが考えたことがあると言っていた新時代の在り方。ネズキノコを食べてライブを行い、皆をウタワールドに連れて行くという考え。
ウタワールドでは言わば精神体。肉体は仮の姿。そこでもし、人々の負の感情が渦巻き合い、溶け合ってしまったら。
「はぁーー。オレとしてはそれを否定したいところだ」
「仮に正しかったとして、ウタがそうなることはないだろ」
「間違えてろ。オレはウタを幸せにするって決めてるんだ」
「結構。さてさて、お前さんの血の件だが」
「気が向いたらな」
「ガードが硬いな……」
席を立ち、研究所から出ていこうとするベルナートをベガパンクたちは止めなかった。嫌われているという自覚があるのと、仮に強硬手段に出たとして反撃されては研究所が壊れかねない。リスクとリターンの問題だ。
ベガパンクの話をベルナートは否定したい。あまりにも荒唐無稽に聞こえる。だがこの世にベガパンクより知力のある存在はいないのだ。あの説を否定するにしても、その材料がない。論拠がない。
あの仮説だって、仮説に仮説を重ねた末のもの。前提が崩れれば瓦解する。
そもそもな話、ウタにそうさせなければいいだけのこと。
「早く合流しに行くか」
研究所を出たところで、ベルナートは横から巨大な拳で殴り飛ばされた。その際に体がチクっとしたのも感じ取っている。まるで注射針を刺されたような感覚だ。
「よーし! 血を手に入れたぞ! これでお前の体の秘密を暴いてやる!」
「……正直、解明程度で済ませるならいいかなーとか思ってもいたんだが」
「なんじゃ。さすがに頑丈な体じゃな。ガードもされとったか」
「おいたが過ぎるんじゃないか? リリス」
「ひっ!」