PUNK-02こと
このように
その中でも
「なんだ。大人しくまだ外にいたのか。お前なら自分の判断で研究所内に戻りそうなところを」
「ふん! お前なんぞの言葉に従っているのではないわい! あの男が気に食わんだけじゃ!」
エッグヘッドの上層はラボフェーズと呼ばれ、ベガパンクの研究所がある。そこには空島の島雲が再現されており、リリスはその島雲の上で膝を抱えて前方を眺めていた。
その視線の先にあるのは、ヒートアップの末に大破させられたベガフォース……だけでなく、リリスの発案で生み出した兵器の数々である。完全に鉄くずの山と化していた。ベルナートの容赦の無さに、さすがのシャカもため息が出た。
「何なんじゃあの男! バカのくせして野菜みたくわしのコレクションを切り裂いていきおって! しまいには腹減ったから金を貸せなどと要求してきたぞ! 被害総額を請求したいのはこっちじゃ!」
「まさか貸したのか?」
「……敗者は従うものじゃろ。気に食わんがな。気に食わんかったがな!!」
シャカが聞きたかったのは、そういう事ではない。あのリリスが貸したのかという、その事実に驚いているのだ。
それは夏島に勝手に雪が降るようなもの。滝が急に空へと水を打ち上げるのと同じ。つまりあり得ない。そう言いたくなるほどの衝撃だった。
なにせ
「あぁ忌々しい! この島にいる間に、絶対にセラフィムの実験に巻き込んでやる!」
「やめておけ」
「なぜじゃ! データも取れて一石二鳥ではないか!」
「破壊されてはデータ収集どころではない。その次に大きな遅れを出すことになる。あの男なら、破壊目的で承諾をしてくるぞ」
「ルナーリア族の特性をも再現したんじゃぞ?」
「仕組みを見抜いてくるだろう。他の機会で試すべきだ」
「ではあの男をどうするというのじゃ。ただで帰すなどわしの気がすまん!」
「気を晴らしたいのなら、お前が取れる責任の範囲でやることだ」
□
ベルナートはロマンを感じるものが好きだ。遺跡なども好きだし、深海だって好き。空島もまた好きだ。
そういった文化的なもの以外でも、科学的なものだって心惹かれる。フランキーの姿に、チョッパーと共に興奮し過ぎて死にかけたくらいである。あれは相乗効果もあったが。
そんなベルナートがこの未来島に足を踏み入れたとなれば、それは宝島に上陸したのと同義である。
見たこともない機械、技術の数々。それは図面でも口頭による夢物語でもない。現実としてベルナートの目の前に広がっているのだ。右へ左へと動き回って未来の技術を楽しむのも無理のないこと。
「だからって騒ぎを起こされると面倒だから、気をつけるんだぞー」
「わかってる。リリスから金貰ったから無銭飲食とかはやらねーよ」
「リリスが?」
「オレが勝ったからな」
そういう問題じゃないようなと、ベルナートを発見してすぐに案内を買って出た
「レストランとかあるか?」
「そこの機械で食べたいものを選べば出てくる」
「未来すげぇなぁ!!」
アトラスに案内されたのは自動調理器。食べ物の写真があり、それを押すと機械の中で調理が始まり、完成品が提供されるという便利な代物だ。アトラス曰く、余った食材を使って調理を行う「お任せモード」もあるらしい。
「未来の技術で作られたハンバーガー! 未来バーガーってとこか!」
「単純だが理解しやすいネーミングだな。だがここは観光地ではないからいちいち名前はつけないぞ」
「そりゃあ政府の島を観光地にはしないよな。勿体ない」
「わらわらと人が来ても研究の邪魔だ。しかもここは政府の科学の最先端。機密事項も多い。一般公開など現実的じゃない」
「それもそうだな。お、ちゃんと美味いな」
「当然! 設計もおれ! 手を抜いて作るなんてあり得ない!」
「その情熱はいいけど、これが普及したら世界の料理人たちから反感を買いそうだな」
「それは知ったことじゃないな。それにこれは普及できない! 技術者の数も資金も足りない!」
そう言ってアトラスはホログラムの宇宙怪獣を殴りつけた。ハンバーガーをむしゃむしゃと食べながら、ベルナートはその様子に目を見開く。
それは生物じゃない。命ある存在じゃない。それをわかっていたからこそ、すり抜けずに殴り飛ばせているアトラスに驚かされた。
「ん? あぁ、この光圧グローブは光を鑑賞物に留めない。そこにいるかいないか、そういうのはおれにとって旧時代の概念だ」
「視覚に惑わされるなって話か。急にそれを目の当たりにしても、頭が追いつかないな」
「大筋は理解してるくせに。まぁいい。おれはおれの仕事に戻る」
「案内してくれてありがとう」
互いに手を上げて爽やかに別れる。アトラスは暴れることが仕事だ。他のホログラムたちを殴り向かっている。
妙な仕事があるもんだなとそれを見届けながら、ベルナートは追加注文を機械に入力。それを待っている間に、ウタとヤマトのビブルカードをポケットから取り出した。
2枚とも同じ方向に進んでいる。2人とも同じ場所にいると期待しても良さそうだ。
「ここの船ってどれも政府の旗を掲げてるのか?」
あっても外せばいいだけ。それが無難な手段ではある。逆にわざと掲げたままでいるのも、面倒事を避けられるだろう。基本的に海賊は政府とは事を構えない。それをやるのは行動予測が不可能な麦わらの一味くらいだ。
「意外と有りな気がしてきたな。元々懸賞金かけられてるし」
世間一般的にはベルナートも高額な犯罪者の1人。しかし新聞を賑わせる最悪の世代や頂点に君臨する四皇たちほど、その額に見合った知名度があるわけではない。
政府が枷を外すと判断したドレスローザの1件にしても、主犯はルフィとローの同盟だとして大々的に一面に載せられていた。
そんなわけでベルナートは「高額だけど何を起こしたのか鮮明ではない謎の男」と認知されている。それをどう受け止めるかは人それぞれだ。
「ベガパンクに話をつけるか」
奪っていってもいいが、ここにはベガパンクに尊敬して働いている研究者が多い。彼らには迷惑をかけたくないところだ。
そうなると、見境なく船を取って行くのも忍びない。どの船ならいいのか。その話もつけたいものだ。
追加注文で食べていたピザを平らげると、食後の一休みを挟んでから再度研究所へと足を向ける。
戻りたいかどうかで言うと、戻りたくはない場所だ。それでも向かうのは話をするため。そしてリリスに抜き取られた血の解析結果を聞くためだ。ベガパンクなら必ず解析するし、技術の最先端であるここならその作業もすぐに終わることだろう。
「これを
ドラム島はサクラ王国。そこにいた魔女曰くベルナートのそれは病気だ。血を抜き取ることもなく見抜いてきたのは、驚きを超えてもはや恐怖の域だった。
ベルナートは自分のその体質のことを、便利なもの程度にしか考えていない。調べることもなく、見てわかるものは結果だけだ。それ以上のことをベルナートは知らないし、修行をつけたミホークも詳細は知らない。
「──病気と呼ぶのなら病気。呼ばないのなら体質。私の口からはそうとしか言えんな」
ベルナートの予想よりも早く解析を終えたベガパンクは、椅子に深く座りながらそう言った。意外にも歯切れの悪い答えに、ベルナートは眉をひそめる。
話を繋げたのはシャカだ。
「君から採取した血の解析結果から言うと、君の体は常人を遥かに超えた回復力を持っている」
「それは知ってる」
「通常、生命は生存本能に従って傷ついた細胞を癒やす。回復力、治癒力は言わば生存力だ。君の力はひときわそれが目立つが、これはある種未来の先取りだ」
「先取り?」
「そう。平和に生きるのであれば大した問題にもならん。これまで通り便利な体と思っておいていい。その回復力が必要となる場面もそう多くはないだろうからな」
オウム返しでの聞き方に、ベガパンクが引き継いで話し始める。その顔から見て取れるのは、悩んでいるということ。
その悩みとはもちろん、この結果を踏まえてどうするかだ。
「だが、もし仮に今後、多くの戦いに身を投じることになるのなら、その回復力が仇となる」
「……あ~、寿命を縮めるってわけか」
「そういうことだ。幸いにもベルナートの活動歴から考えてみるに、現時点では大して寿命は縮まっていないと見ていい。逆に今後抗争に巻き込まれるのなら、そこまで保証はできない」
「なら無問題だな。親友との約束があるからワノ国には行くけど、その後はウタのツアーに付き合うだけ。革命軍の方は……1度くらいは手伝うか」
「そうであればいいがな。その懸賞金は烏合の者たちを牽制するが、挑戦者を招く灯りにもなる。そうでなくとも、政府が戦力を割くこともある。今は世界が大きく荒れているから後回しにされているに過ぎない」
「
その答えに予想はついていた。もしどうにもならないのなら、弄れないものであれば、ベガパンクがもう少し肩を落としていたはずだからだ。
そうならずに悩んでいるということは、500年先を行くベガパンクの理論であれば誰だってベルナートのようになれるということ。即ち、ベガパンクが言っていたように「誰も後遺症が残らない体になれる」ということだ。
これが普及すれば世界は変わるだろう。そして大きく荒れる可能性もある。戦争はより苛烈なものへと転ずる。なにせ相手を負傷させても、一晩経てばまた前線に出てくるのだ。ならば確実に息の根を止めるしかない。そういう戦争に変わる。
この回復力は、なにも平和的な試みにのみ使えるわけじゃない。
「……はぁ。もしオレの血を兵器に利用するのなら、オレはお前を斬るために探し出すからな」
「利用しない……とは言っても信用はないか」
「ないな。事情もあるんだろうが、くまって前例がある。セラフィムってのも、パシフィスタの延長線上なんだろ? 個人的には賛同できないな」
ベガパンクは政府に雇われた身だ。しかし見方を変えれば、政府の管理下に身柄を置かされているとも言える。生まれ故郷である冬島の皆のために、暖房システムを作ることができない。それに涙したという伝え話は今もバルジモアの者の心を温める。
そう、彼だってその頭脳を文明方面に活かすための研究を行ってきたのだ。それでもその頭脳を兵器に使っているのは、政府からの要望という名の指令だとも考えられる。
黄猿のビームの再現は、もしかしたら1人の男として憧れてノリノリでやった可能性もあるが。
とはいえ、ベガパンクは言い訳をしない。「万物は望まれて生まれる」と豪語する彼は、だからこそ生みの親としての考えも持ち合わせている。責任を感じないわけでもない。事実を正面から受け止めている。
「話は変わるがベルナート。私が知った範囲でのお前の故郷の話があるが聞くか?」
「……ドレスローザの話で予想はついてる」
「そうか。ならばそれで正解だとだけ言っておこう」
「正直、故郷を取り戻そうという気持ちはない。天竜人の手から離れたとしても、そこにはもう家族も、取り戻すべき国民もいないからな」
その島にいる者たちはほぼ全員が天竜人の奴隷。天竜人を愉しませるためだけにそこにいる。そして、元住人たちはそこにはいない。生き残りはマリージョアで今も奴隷生活を送っている。
ベルナートは後者を知らないが、前者ならその目で確認している。赤髪海賊団での修行時代に訪れているからだ。
だからベルナートはその島に固執することがない。なにも残っていないから。
そして目的は変わっている。
その小さな背中で世界を背負ってしまえるたった一人の
それを守りとおすことだ。
「ベルナート。私たちの接触がバレるのは非常にまずい。なにせ私はいずれ消される身でもあるからな」
「研究バカめ」
「そんなわけでだ。船を貸し出すわけにもいかんので、1つ策に乗ってくれ。うまくいけばそれで穏便に解決する」