たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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??の島⑤

 

 白ひげ海賊団の1番隊隊長マルコ。

 かつて世界に名を馳せた海賊王と比肩していた大海賊白ひげ。そんな彼を支え続けた男の1人。

 その男がいる島が、白ひげの故郷であることを当然ながらベルナートは知らない。予想すらしていなかった。縁ある島にいるかもとは思っていただろうが、まさかの故郷は予想外。

 そしてそれ故に、その島に2人の男の墓があることもベルナートは知らなかった。

 

「エース……」

 

 白ひげ海賊団船長。世界最強の男。怪物と呼ばれた白ひげ、エドワード・ニューゲート。

 そして若くして2番隊隊長を務めた男、火拳のエース。

 彼らの遺体は赤髪海賊団が預かり、白ひげ海賊団の残党と共にこの島に来訪。ここに墓を立てていた。

 

「やっぱりここにいた。この島に来てからはいつもここに来るね、ヤマト」

 

「話したいことが尽きないからね」

 

 そこに墓参りに来ているのは、エースの親友であるヤマト。そして軽食を籠に入れて持ってきたウタだ。

 ウタももう何度もここに足を運んでいるが、ここで話をするのは初めてだったりする。なにせウタは白ひげのこともエースのことも知らない。下手に触れないようにとこれまでは遠慮していたのだ。

 今日になってそこを変えたのは、そろそろヤマトも落ち着いたかなと判断したからだ。というのも、ヤマトは初めてここに来た時に自然と涙を溢していた。そこに篭められた思いも、その胸中も、推して測れるものじゃない。

 

「ね、話を聞いてもいい?」

 

「そうだね。今なら話せるよ」

 

 ウタがレジャーシートを敷き、2人でその上に座る。墓のすぐ近くで食事を取るのもどうかと思ったが、マルコ曰く「そんなのを気にするほど2人は小さい男じゃねぇよい」とのこと。「むしろ喜ぶかもしれない」ともウタは聞いている。

 

「エースさんとヤマトとベルナートは親友で、ワノ国で出会ったんだよね?」

 

「うん。エースはその時白ひげ海賊団じゃなかったんだけどね。ベルナートとは先に知り合ってて、ワノ国に興味があるからって話でエースと一緒に来たんだよ」

 

「へ~。初めから白ひげ海賊団だったわけじゃないんだ」

 

「そうだね。白ひげ海賊団は新世界にいて、エースはルフィと同じで東の海(イーストブルー)の海賊。フーシャ村にいたみたいだよ」

 

「うそ!? 私フーシャ村にいたことあったけど見かけたことないよ!?」

 

「山賊に育てられたらしいからね。村に行ったことはないって」

 

「そうだったんだ」

 

「今思うと、だからこそエースはワノ国に来れたんだって思う」

 

「?」

 

「白ひげ海賊団に加入した後だと、大海賊同士の戦争に発展するからね」

 

 ただの新進気鋭な一海賊がカイドウに挑みに来た。それなら話はそれ以上に広まることがない。

 しかしこれが白ひげ海賊団加入後の場合、カイドウの本拠地に乗り込むことは宣戦布告として受け取られる。話が発展していけば、互いに傘下を呼び寄せての戦争となるだろう。

 

「エースは父の首を狙って上陸。ベルナートはワノ国の探索が主目的。幸いと言うべきか、その時は父たちが遠征に出ててエースの目的が空振り」

 

「ヤマトは国に残ってたから2人に会えたんだね」

 

「そういうこと。エースと勝負して、途中からは飲み明かして語らいあったよ」

 

「男の子だね~」

 

「まあね! ……エースから聞いた外の情報も僕にとっては新鮮だった。冒険の話とかいろいろとね。光月おでんの日誌だけが、僕の知る外のことだったから」

 

「わかるな~。私もベルナートから話を聞いた時、新鮮で楽しかった」

 

 村で食材を分けてもらい作ったサンドイッチは、ヤマトの好きな味に寄せられている。何も言わずに気を使ってくれるウタにヤマトはお礼を言い、ウタはバレたことに気恥ずかしそうにはにかむ。

 

「エースとはいずれ再会するはずだったけど……ようやくそれができた」

 

「……ヤマト……」

 

「文句も出ないのにね。何か言ってやりたいとも思うんだ」

 

「難しいよね。そういう時は何も考えなくてもいいと思う。本当に何か言いたいなら、自制しなかったら勝手に言葉が出てくるものだし」

 

「そうだね。ま、文句ならエースじゃなくてベルナートにつけるよ」

 

「それは絶対にね!」

 

 勢い良く食いつき、サンドイッチを食べるペースも早まる。ベルナートの無事はわかっているのだから、あとは合流するだけ。ウタの心境としては、早く来てほしいものである。

 

「そういえばシャンクスって海賊王の船に乗ってたんだよね。ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)が何か知ってるのかな」

 

「知らないはずだよ。日誌によると、高熱を出したバギ次郎の看病をしてたみたい」

 

「そうなんだ。私シャンクスのこともあんまり知らないや」

 

「自分の過去を話したがる人じゃなさそうだもんね」

 

「そこが良いんだけどね~」

 

「会いに行かなくていいのかい? あれ以降だから、1年くらいは会ってないよね」

 

「ベルナートなら連れて行ってくれるだろうけどねー。シャンクスの方からライブに来てくれなきゃ。結局今のところ、私が呼んだあの一回しか来てないんだから」

 

「ゲリラでのライブだから、情報掴むのが難しいってのはあると思うけど……」

 

「エレジアでやる時は事前に告知してるじゃん」

 

「それはたしかに」

 

 四皇ともなると動くだけでその動向を海軍や政府に注視される。星の数ほどいる海賊たちの頂点に君臨する海賊の1人だ。それも仕方のないこと。ウタもそれを理解はしている。それでも会いに来てほしい気持ちも確かにあった。

 ハンカチで口を拭うと、ウタは遠くの空を見つめだした。ヤマトもそちらを見るも、そこには何も見えない。鳥が飛んでいるわけでもなく、雲もない晴天の空だ。

 

「ウタ?」

 

「ベルナートが近くまで来てるみたい」

 

 文句を言ってやらなきゃと言い張っているものの、その口元は緩んでいる。数日ぶりとはいえ、再会できることの喜びが大きい。

 

「いつも思うけど、なんでわかるの?」

 

「? なんとなく」

 

 そこに理屈などなかった。

 村を囲う山の奥から、見慣れぬ影が姿を現す。それは巨人のように大きく、そして人型であっても人ではない。

 その姿は非常に人目につくものであり、村の中でも気づいた者たちが次々にそれを口にする。

 常識を覆されるような物量の塊。男心をくすぐるロマン。

 巨大ロボことベガフォースである。なおベルナートに一度壊されたものを、リリス主導で素早く修復したものである。

 その存在感は男たちを魅了するが、女からは白けた目で見つめられる。しかも未知のものだ。大人の女性たちは特に不安をかられた。

 

「村の方に急ごっか」

 

「なら僕に掴まってて」

 

 ウタを抱えてヤマトが駆け出す。ベルナート程ではないにしても、ヤマトもまた常人より走る速度が速い。その速さにより感じる圧にウタは目を細めた。

 

(ベルナートはどうやってこれを防いでたんだろ)

 

 ベルナートに抱えられている時、ウタは平然としていた。それはベルナートがウタにかかる負担を軽減していたからだ。そのやり方がヤマトにはわからない。

 すぐに解決できることでもなく、結局はウタに耐えてもらうしかない。

 2人の墓から村へと向かっている間に、山を超えたベガフォースが麓に着地。ゆっくりとそのまま歩を進めていた。

 この島の中で誰よりも警戒心が高いのはマルコだ。ベガフォースへと向かって飛んでいっている。途中でマルコも着地し、その場所へとヤマトは急行。ベガフォースも一定の距離を保って歩みを止めている。警戒を解くためだ。

 

「マルコ!」

 

「お前ら来ちまったのか」

 

「うん。誤解を解くためにね」

 

「誤解?」

 

「あれは敵じゃないよ。ベルナートが来たんだ」

 

「……すっかり大きくなっちまって。とうとう人間辞めちまったのかよい」

 

「そうじゃなくてね!?」

 

 予想外の方向に話が転がり、ウタがマルコにしっかりと説明を施す。

 それが行われている間にベガフォースのコックピットが開き、中からベルナートとリリスが出てきて地に足を下ろした。

 

「着いた着いた。ありがとなリリス。おつかれ!」

 

「ここまでベガフォースを進ませる意味なかったじゃろ! 無駄に大衆の目に晒してしまったではないかバカ!」

 

「何言ってんだお前……ロマンの塊は共有するものだろ!? バカなのか!?」

 

「バカはお前じゃ! 燃料も無駄に使ったわ!」

 

「泳がせて低燃費でここまで来ただろ……。途中で海王類に引かせたり」

 

「帰りも同じことやれと!?」

 

「そもそも帰りの分の燃料確保のために低燃費でここまで来たんだから帰れるだろ。お前が寄り道しなければ!」

 

「山越えさせてよく言えたな!」

 

「元気そうだねベルナート?」

 

「!」

 

 ピシッと固まったベルナートが、ぎこちなく首を動かす。ウタの姿をその目に捉えると、マルコも見逃す程の早業で正座した。

 リリスは「いい気味じゃ」と笑いながら距離を取っている。本能で危険を察知したようだ。

 

「ごめんなさい」

 

 深々と頭を下げるベルナートを、ウタはじっと見つめて細く息を吐く。

 

「何に対しての謝罪かな?」

 

「……ロマンの塊ではしゃいで楽しんでたこと」

 

「本気で言ってる?」

 

 目を泳がせていたベルナートだったが、呼吸を整えると顔を上げてウタを見上げた。

 いつの間にかウタはベルナートの目の前まで来て、しゃがみこんでいた。

 

「心配かけてごめん。あのやり方で出航させてごめん」

 

「わかってるじゃん」

 

 すぐにそれを言わなかったのは、恥ずかしかったからだ。

 心配してくれる人がいるということ。その当人を目の前にして、自分から当てるという形でそれを言うこと。

 ベルナートにとってこれは慣れていない行為だ。最初に口にできなかったのもそのせい。だとしても、自覚しているのなら最初に言うべきことではある。

 

「本当に心配した」

 

「……」

 

「もしもって考えたら怖かった」

 

 目を伏せて話すウタの姿が、ベルナートの胸にグサリと刺さる。そんな顔をしてほしくないのにと。

 

「私の安全を考えてくれるのは嬉しいよ。でも、今回はヤマトがいたけど……ひとりになるのは嫌だから。もう、勝手にそういうことしないで。いなくならないで」

 

「ウタ……」

 

「次こんなことされたら、シャンクスとミホークさんに言いつけるからね!」

 

 いたずらっぽく笑っているも、それが本気だということは伝わっていた。

 ベルナートは2人の対応を予想し、頬を引きつらせた。ミホークはともかく、シャンクスの親ばかぶりはすでに知っている。

 冷や汗すらかいているベルナートの髪に触れる。青みがかった黒い髪を撫で、そのまま手を滑らせて後ろに回し、強く抱き寄せた。

 

「ベルナートのばーか」

 

「はい。ばかです」

 

「……くすぐったい」

 

「……」

 

「おかえり」

 

 ただいま、と返したかったがまた「くすぐったい」と言われるのは目に見えている。ベルナートは心の中で呟き、代わりとしてウタの背中にそっと腕を回した。

 

 

 

 

 

 

「いや~。エースの炎より熱いもん見させてもらったよい」

 

「見世物じゃないですよ」

 

「おいおい、おれたちは見せつけられた側だぞ」

 

 マルコは軽快に笑い、ウタが顔を真っ赤にして逃走を開始。危険はないはずだが、念の為にとヤマトがその後を追う。その行為がさらにウタの逃走理由になることを、ヤマトは分かっていなかった。

 

「はっはっは! 世界の歌姫も形無しだな」

 

「いきなり駆け込んですみません。この島は」

 

「あぁ、親父の故郷だよい。2人の墓もある。来たんなら行ってこいよ」

 

「そうします」

 

「白ひげと火拳の墓じゃと!?」

 

「お前はついてくるな」

 

「なんでじゃ!」

 

「墓荒しとかやりかねない」

 

「そんなことはせんわい! 第一2年も経っとるんじゃ! 血統因子も取れん! 骨で試す手もあるが」

 

「その時はおれが相手をするよい」

 

 マルコの好戦的な発言にリリスはだろうなと頷いた。研究者であって戦闘員ではない。戦闘能力もない。リリスに事を構えるつもりはなかった。

 

「墓参りくらいいいじゃろ。時代の区切りとなった2人じゃ」

 

「ならいいぞ」

 

「ところでこの女誰だよい」

 

「ベガパンクを名乗る残念な女」

 

「誰が残念な女じゃ! (サテライト)の1人じゃと! 何度も言わせるな!」

 

 後ろから飛びついたリリスがベルナートの首を絞める。か弱い腕力では大した威力もないが、ベルナートはお決まりの反応としてその細い腕を何度もタップした。

 

「お前ら仲いいな」

 

「「どこが!!」」

 

「息ぴったりじゃねぇか」

 

 何か言い返そうかと悩むも、流せばいいかと判断してリリスを引きずりながらベルナートは歩いていく。そうされるとリリスも手を離すしかなくなり、鼻を鳴らしてその後ろをついていった。

 

 

 

「ヤマトから光月おでんの話は聞いてますけど、マルコさんはワノ国に行くんですか?」

 

「その話の前に、こいつベガパンクの関係者なんだよな?」

 

「大丈夫ですよ。ベガパンクが政府に情報を流すメリットがないです。遠くない内に消されるらしいんで」

 

「は?」

 

「知ってはいけない世界の真相の研究をしたとか。オハラの学者と同じ理由です」

 

「なるほどな。じゃあいいか。近い内に開戦となるのは聞いた。間に合うかはともかく必ず行くさ」

 

 白ひげ海賊団の初代2番隊隊長は光月おでんである。古参のマルコにとっても旧知の仲。白ひげからも兄弟分として気に入られていた漢。彼の家臣であるイヌアラシとネコマムシとも元仲間だ。

 そのおでんが背負っていたもの。元仲間たちが今尚背負っているもの。それを詳しくは知らなくとも、参戦しない理由はなかった。

 16番隊隊長であるイゾウはワノ国出身。ワノ国での約束を作っていたエースとは、白ひげの許可が降りたら共に戦おうと誓い合っていた。

 

「お前らも行くんだろ? ヤマトはカイドウの息子らしいが、戦う気満々だったな」

 

「光月おでんに憧れてますから」

 

「ああ。あの人の最期も聞かせてもらったよ。おでんさんらしい、豪快な最期だ」

 

「オレとしては、戦いは嫌いなんですけどね。エースに挨拶済ませたらすぐにここは出ます」

 

「少しはゆっくりしたらどうだ」

 

「これ以上迷惑はかけられませんから。それに、ヤマトは早く行きたがってるようだったので」

 

「そうだったか?」

 

 マルコの目にはそう映っていなかった。それを見抜けたのは、親友として付き合いのあるベルナートだけだろう。

 

「わしは一休みしてから出ていくぞ。操縦に疲れたわ」

 

「ま、ここのことをリークしなけりゃいいさ」

 

「じゃあなリリス。気が向けば助けに行ってやってもいいぞ」

 

「お前の助けなどいらんわ!」

 

 再度言い争っている間に白ひげとエースの墓の前にたどり着き、ここまで来るとさすがのリリスも口を閉じた。これでもマナーくらいは守るのだ。

 ベルナートは白ひげ本人とは面識がない。新聞や戦争の映像を見ていたくらいだ。先にそちらに黙祷すると、エースの墓にそっと触れた。

 思い返されるのはエースと出会った日のこと。そこから共にワノ国へと入り、ヤマトと出会ったこと。

 そして出航後に交わした言葉。

 

 

──もしおれにできなかったら、ベルナート。お前がヤマトを連れ出してくれ。

 

──ヤマトの望んでる冒険はオレのとは少し違うだろ。お前が約束通り連れ出せよエース。それに、オレに任せてもなぁ。

 

──いいやお前ならやってくれるね。

 

──保険かけんなよ。酒が残ってるんじゃないのか?

 

──次から次へと勧めてきたのお前だろ!

 

 

(成り行きとはいえ、約束は果たしといたぞ。それとも、そこまで織り込み済みだったか?)

 

 その可能性を考え、それはないかと笑いをこぼす。だってエースだ。それはない。

 

「エース。あと1つだ。行ってくる」

 

 

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