たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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 ぼちぼちのそのそと更新を再開しようと思います。ペースはそんな期待しないでね。


ワノ国②

 

 ベルナートはかつてエースが率いたスペード海賊団と共にワノ国に上陸した。そこでヤマトとも出会ったわけだが、エースはワノ国に上陸して早々に鬼ヶ島に殴り込んだわけじゃない。本島にもその足で踏み込んでいる。

 そしてそこでも知り合った者がいるのだ。かつてエースと約束を交した者の1人。まだ幼い少女である。その名をお玉と言う。

 

「久しぶりでやんすベルナート!」

 

「久しぶりだなお玉。元気そうだな」

 

「それはもう! ルフィの兄貴たちが来てから元気でやんす!」

 

「そうかそうか。巻き込まれたりはしなかったか?」

 

「むしろおらが巻きこんじゃったような」

 

「ベルナート、この子のこと紹介してよ」

 

「お玉」

 

「お玉でやんす」

 

「まじめに」

 

「はい」

 

「ベルナートが尻に敷かれてるでやんす」

 

 ベルナートが無言でお玉の頭を強めに撫でると、楽しそうに静止の声が上がってくる。お玉にとってベルナートは、エースとの思い出を共有できる数少ない人間だ。その頃のように接せられると嬉しさがこみ上げてくる。

 

「エースとこの島に来た時に知り合った子だよ。ウタも仲良くしてやってくれ」

 

「それはもちろん」

 

「ウタって言うでやんすか?」

 

「そうだよ。ベルナートの相棒(パートナー)

 

 ウタがしゃがんでお玉に視線を合わせて微笑む。お玉はそんなウタを見て目を丸め、ベルナートとウタを交互に見た。

 お玉からすれば驚く話だった。ワノ国にエースと共に来たとはいえ、ベルナートはエースの仲間ではなかった。友人ではあっても同じ枠組みには属さない。単独で行動していたベルナートに相棒(パートナー)ができているのだ。しかも綺麗な女性である。

 実際はモネとシュガーとも行動を共にしていた時期もあるのだが、お玉はその事を知らない。

 ウタという存在は、お玉に興味を抱かせる。

 

「パートナーというのはどういう意味でやんすか?」

 

「へ? どういう意味って?」

 

「仲間でやんすか? それとも恋仲でやんすか?」

 

「こ、こいっ!?」

 

 ぼんっと音を幻聴させるほどに、ウタは顔を真っ赤に染め上げた。狼狽えるウタはぎこちなく横を向くも、しれっとベルナートがいなくなっている。お玉の爆弾投下を回避していた。

 近くにいたヤマトがウタの様子で察し、苦笑いしながら指を差している。その方向にベルナートはいるらしい。

 

「どうなんでやんすか?」

 

「こ、この話はやめよっか……」

 

「ええー。気になるでやんす! おらこういう話初めてするんでやんすよ!」

 

「そう言われても……。べ、ベルナートは……ぁぅ……」

 

「はいはい。お玉もそこまで。ウタを困らせちゃ駄目よ」

 

「おナミちゃん」

 

「そういう話が気になる年頃なのはわかるけど、相手を困らせるのはやり過ぎよ」

 

「……わかったでやんす。ごめんなさいでやんすウタちゃん」

 

「あ、ううん。私もこういうの耐性無くて」

 

 2人の様子を見かねたナミによる仲介が入り、お玉の追撃が止まる。ウタも深呼吸を繰り返して落ち着きを取り戻していった。

 

「でも驚いたわ。一緒に魚人島に行った時は違ったものね」

 

「違ったというか……あの時はルフィとも再会できて嬉しかったし。……自覚がなかっただけというか」

 

「ふふっ。そうだったのね。いいじゃない。ベルナートはまともな部類だけど、セーブ役がいないとルフィみたいに突っ走っちゃうところもあるみたいだし」

 

「うん。全然違う2人だけど、ちょっとだけ似てるところもあるかな」

 

「ウタちゃんはルフィのアニキと知り合いでやんすか?」

 

「幼馴染なんだ~。ルフィの故郷のフーシャ村で会ったんだよ」

 

「アニキの故郷でやんすか!」

 

「お玉。せっかくだからウタから昔のルフィの話でも聞いちゃいましょ。あいつ自分からは全然話さないし」

 

「聞きたいでやんす! ウタちゃんいいでやんすか?」

 

 先程のようにズカズカ入り込んだりはしない。ちゃんと選択権をウタに与えた上で、お玉は目を輝かせてウタを見つめている。

 ルフィ本人への断りが一切ないが、ルフィは気にするようなタイプでもない。問題ないとウタもナミも判断していた。

 

「いいよ。どこか座れる場所に行こっか」

 

「それならそっちにゾロに切り倒させた木があるから、そこに腰掛けましょ」

 

 億超えの賞金首にして一味の両翼を担う剣士。「他人に従うとは思えない」とさえ言われる男を当然のように顎で使えるのは、世界広しと言えどナミぐらいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 そんなゾロは現在、新しく手に入れた名刀閻魔を振るっていた。かつてこの刀を使えたのは、大海賊白ひげとロジャーに惚れ込まれた侍のおでんのみ。現四皇であるカイドウに消えない傷を残した男。

 なぜおでんのみが使えたのか。彼の家臣であった赤鞘たちが持とうとしないのか。それは「仕えた主君の刀を使うのは恐れ多い」という思いだけでなく、使用者の命に危険が及ぶほどに覇気を吸い取るからだ。

 

「先は長そうだな」

 

「あァ? 何のようだ」

 

 その閻魔を振るうゾロの下にベルナートは訪れていた。ワノ国本島に近づいた時から、閻魔の気配は感じ取っていた。それはベルナートもまた、刀を振るう剣士だからこそ気づいたことだろう。

 

「弟弟子の様子を見るのはおかしなことでもないだろ?」

 

「そういう柄じゃねぇんだよおれは」

 

「だろうな。決戦までに間に合うのか?」

 

「間に合わせる」

 

「……覇気を取られ過ぎないように制御すればいいと思ってるか?」

 

「んなわけねぇだろ。そこは最低条件だ。刀に振り回される気はねェよ」

 

「分かってるならいい。じゃあ、やるか」

 

「……だと思ったぜ」

 

 刀に手をかけるベルナートを見て、ゾロもやれやれと刀を握る。やるなら実戦形式。これは覇気の習得後にミホークと行っていたものと変わらない。どちらもミホークによって鍛えられた剣士同士。兄弟子であるベルナートがこのやり方を示すのも当然と言える。

 実戦形式とはいえあくまで稽古の範疇。しかも今はカイドウやオロチにバレないように潜伏している最中だ。あまり派手にやるとバレてしまう。

 

「まずは挨拶代わりだ。雪月花」

 

「一刀流馬鬼!」

 

 放たれた斬撃をゾロが難なく弾く。閻魔による吸い取りも問題なく耐えている。さらには無駄な破壊も起きていない。攻撃の範囲、威力ともに制御下に置いてある。閻魔の使用者として、第一段階は超えているようだ。

 

「本気でやり合うと潜伏の意味もないから、まぁ程々にやるか」

 

「ったく雑な野郎だな」

 

 程々にとは言ったが、完全な手抜きでは稽古にもならない。加減はその場での判断となる。条件としては、地形を変えないことと相手を負傷させないことか。

 ゾロも他の2本の刀を抜き、三刀流になる。ベルナートは刀1本だが問題にもならない。CPとの戦闘で見た六式なら使える。嵐脚もだ。つまり実質的にベルナートも三刀流ではある。

 

 抑えめで戦おう。

 

 そう決めた2人ではあるが、それが20分保たれただけでも上出来だろう。クライガナ島ではすぐにヒートアップしていき、大技を遠慮なく使ってはミホークの制裁で2人揃って斬り伏せられていた。畑に被害が及んでいたからである。

 ベルナートが珍しく斬り合いに意欲を見せたのは、弟弟子という存在が新鮮だったからに他ならない。

 それは今でも変わらず、段々と互いに枷が外れ始め、戦闘の余波が生じ始めたところで止まった。

 今回それに一役買ったのがモモの助である。光月おでんの息子であるモモの助は、ワノ国の侍たちの総大将にして希望。彼に傷を負わせるわけにはいかない。

 

「ベルナートも強いのだな」

 

「それなりにな」

 

「ゾロとどちらが強いのだ?」

 

「そりゃまだオレだな。単純な力勝負なら負けるが」

 

「そうなのか!?」

 

 モモの助は錦えもんからゾロの活躍を耳にしている。ドレスローザで巨人族よりも大きな石像となったピーカを両断したこと。傷1つなくドンキホーテファミリーの最高幹部を斬ったこと。その強さは計り知れないと。

 しかも父おでんの刀であった閻魔を受け継いでいる。ワノ国が誇る赤鞘の侍ですら遠慮する刀を使っている。

 光月おでんの活躍を目にしていないモモの助の知る中では、ゾロが最も強い剣士なのだ。そのゾロよりも強いとベルナートは断言し、ゾロ自身も否定していない。開いた口が塞がらない思いだった。

 

「拙者に剣術を教えてくれぬか」

 

「オレがか?」

 

「拙者、強くなりとうござる! 皆を守れるほどの侍に!」

 

 その理由はかつてのベルナート自身と重なる部分があった。強くならねば誰も守れない。そう考え、シャンクスとミホークに修行をつけてもらった。

 モモの助の境遇も近いものがある。ベルナートと違うのは、頼りになる家臣と同盟相手がいること。取り戻せる機会があるということ。

 共通点と相違点。それらを踏まえてベルナートは首を横に振る。

 

「その意気は買うが、教えられないな」

 

「な、なぜだ。拙者がまだ子どもだからでござるか?」

 

「年じゃない。……お前が目指す大将ってどんなだ? 目標は光月おでんじゃないのか?」

 

「うむ。子どもの拙者でも父は偉大だったと思っておる。かく在りたいと。それが駄目なのか? 拙者は父を尊敬しておる! 誇りに思っておる!」

 

「はぁ。勿体ぶらずに言ってやれよ」

 

「短絡過ぎても納得しないものだろ。モモの助。光月おでんを目指すのなら、それこそおでんの家臣から学べ。錦えもんを始め、赤鞘たちは生きてるんだ。おでんと共に苦楽を共にし、鍛えた侍たちがいる。おでんの技をその目にしてるんだ。忠臣だからこそ記憶に焼き付いてる。そこから学べ」

 

「錦えもんたちから父の技を……」

 

 ベルナートの剣術はたしかに世界トップクラスだ。なにせ世界最強の剣士から直に叩き込まれている。しかしそれではモモの助の目標からズレる。

 加えて言えば、ベルナートがワノ国に留まる理由がない。ヤマトとの約束でこの場にいるだけであり、本来ならウタのライブの護衛が主な役回り。世界を股にかけて活動する歌姫を、何年も同じ場所に留めさせることもできない。

 

「ま、ここにまた来ることもあるだろうが、オレが教えるならその時だな。そういうことだから、こそこそ見てないでモモの助の鍛錬を見てやれ」

 

「「ぎくっ!」」

 

 木の陰から出てきたのは、こっそりと見守っていた錦えもんとお菊だ。錦えもんは討ち入り計画の全体を描くこと、各方面に支持を出すことが役目。準備期間も最終局面で忙しく走り回っているが、モモの助の様子を見に寄ったらしい。

 

「錦えもん。拙者に剣術を教えてはくれぬか。忙しいのは重々承知しているが……、拙者も強くなりたい!」

 

「モモの助様……。承知いたしました。ではお菊を指南役としましょう」

 

「私で良いのなら喜んで」

 

「うむ。よろしく頼む!」

 

 お菊がモモの助を連れてこの場を去り、ベルナートとゾロと錦えもんが残される。錦えもんもすぐにまた動かないといけないが、今のやり取りに一言申したいようだ。

 

「ベルナート殿。貴殿ほどの剣士から指導されればと思ったのだが」

 

「オレに押し付けるな。……カイドウとの戦争なら死を覚悟しないといけないのは理解している。だがな錦えもん。他の侍たちにも言いたいことだが、必死と決死は違うぞ」

 

「……」

 

「ワノ国の未来のために必要な戦いだ。死者も出る。それでも命を簡単に捨てるな。生き残れ。お前ら赤鞘たちが全員死んだとして、誰がその後の光月を支えるんだ? 誰がモモの助を育て上げる」

 

「っ! そ、それは……モモの助様はまだ子どもではあるが、日和様は20年の時を過ごされ」

 

「政を学べた20年か?」

 

「!!」

 

「ワノ国をどうしたいというビジョンは、誰よりも鮮明に描けてるだろうな。その過程の苦労は? ノウハウを身に着けてるのか? 経験を積んでいるお前たちが消えてどうする。言っとくけどな、大人の消えた国は崩壊するぞ」

 

「……ベルナート殿。そうでござったな。肝に銘じておこう」

 

 ベルナートだって理解している。全員生きて帰れる戦いにはならない。死者は必ず出る。それでも死者は減らしたい。特に()()()ワノ国を支える赤鞘たちには生き残ってほしい。

 だからこそ、意識の切り替えをさせるしかない。必死に戦って目的を達した後に、今度は生き延びるための戦いを必死にするのだと。

 元より覚悟を決めていた侍たちを、言葉だけで一転させるのは難しい。部外者がせいぜいできることは、力添えをすることと決死の戦いに一石投じることのみ。これで波紋でも生じれば御の字だ。

 

「お前も同じだからなヤマト」

 

「うわっ、ベルナートはなんでもお見通しだね」

 

「うわって言うな、うわって」

 

 錦えもんが出発し、ゾロも鍛錬を再開。ベルナートもその場を離れ、最後まで隠れていたヤマトに声をかけた。

 

「ワノ国のために戦うのはいいけども。死ぬのだけは許さないからな」

 

「あはは。君にそう言われる日が来るとはね」

 

「互いに、親友を失うのはコリゴリだろ」

 

「そうだね」

 

 そこの考えはどちらも持っている。

 今のヤマトにとって、優先すべきことは2つ。この戦いで必ずワノ国をカイドウの手から解放させること。そしてベルナートとウタを死なせないこと。

 ベルナートにとってはそこが違う。ベルナートの目的は死なせない戦いをすることだ。麦わらの一味は信頼して放置するが、ヤマトと赤鞘たちを優先的に援護する。失いたくない友とこの国の未来のために。

 

「ねぇベルナート」

 

「ん?」

 

 振り返るベルナートと視線が重なると、ヤマトは小さく笑って首を横に振った。

 

「やっぱりなんでもない」

 

「なんだそりゃ」

 

「いいんだよ。僕の中ではっきりしたから」

 

 怪訝そうにするベルナートの背を、気にするなとヤマトはばしばし叩くのだった。

 

 

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