たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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ワノ国③

 

「ワノ国の生活を見てみたい」

 

「そう言うと思って天狗の人から地図借りといたぞ」

 

「ほんと!? やった! ありがとうベルナート! ヤマトはどうする?」

 

 髪をぴょこんと跳ねさせて喜び、機嫌の良さをそのままにウタはヤマトにも声をかけた。これまで一緒に行動してきたのだ。今更声をかけない選択肢はない。

 せっかくの誘いだ。ヤマトがワノ国本島の街に行くのは、意外にも久しぶりとなる。爆弾付きの手錠をつけられて鬼ヶ島で生きてきたからだ。

 正直に言えば行きたいが、ヤマトは本心を抑えて首を横に振った。

 

「僕は遠慮しとくよ。百獣海賊団なら誰であれ僕のことに気づくだろうから」

 

「そういえばヤマトはお姫様だったね」

 

「あはは。そう呼ばれてたってだけ。今はみんな僕のこと坊っちゃんって呼ぶし」

 

「へ~。百獣海賊団の奴ら、そういうとこ理解があるんだな」

 

「へ?」

 

 意外そうに言ったベルナートに、ヤマトはきょとんと目を丸めた。考えてもいなかったことだ。

 

「船長の子の意見だからってのもあるんだろうけど、ヤマトがそう望んで部下たちもそれに合わせてる。受け入れられてたんだろ」

 

「……そう、だね。父のやってることは打ち壊したいけど、あいつらは……いや、やめとこう。今は」

 

「そうだな。悪い」

 

「ううん。いいんだ。それよりも国を見に行くんだろう? ウタとのデートを楽しんできなよ」

 

「デっ……! そ、そういうのじゃないんだから!」

 

「おっ、ウタとベル男出かけんのか? 暴れてくんなよー」

 

「お前が言うな」

 

「あんたもでしょうが!」

 

 見送りをするルフィにツッコんだゾロがナミにツッコミを入れられる。ルフィが船長という立場にいるが、完全な上下関係ではないことは既にベルナートたちも知っている。そうした和気藹々としたやり取りもまた、麦わらの一味の良さの1つだろう。

 ルフィとゾロが何をしでかしたのかは、ベルナートもウタも聞いていない。ヤマトはこの後で聞いてみようと好奇心で決めた。

 

 ワノ国は他の国の島と違って、いくつかの小さな島が集まった国だ。それぞれの島が独自に季節を持ち、橋で渡るだけで冬になったりする。

 ルフィたちが潜伏しているのは、九里の編笠村。村と言っても元だ。来訪者であるルフィたちを除けば、天狗の面をしている飛徹とお玉のみ。だからこそ潜伏しやすい。

 編笠村を出て向かうのは東。ワノ国のほぼ中央に花の都があり、唯一栄えている町えびす町がそこにある。

 四皇という強大なバックがいることで幅を利かせている将軍オロチ。その者が治める町を、決戦が起きる前にウタは見ておきたかった。シャンクスたちとは違う、力を是とする海賊による支配を。

 

「ベルナートあれ!」

 

「うん。見えてる。……いっか」

 

()()()()()()

 

 ウタが指差した方向では、大量の煙が上がっていた。焚き火によるものではない。その煙の規模からして、何が燃えているのかウタは理解した。

 ライブツアーは何も安全な島だけで行っているわけではない。海軍の手が届かぬ島でも行っている。それ故にこれまで何度も目にしてきた。町や村が燃やされているところを。

 

「掴まっててくれ」

 

「うん」

 

 見逃せない。見なかったことになどできない。たとえ事が済んだ後であろうとも、そこにまだ助けられる者がいると信じて。

 ベルナートがウタを抱きかかえる。急ぐ時に何度もしてきたことだ。ウタも慣れたように身を任せている。

 

「残さずすべて燃やせ! この者たちは全員反逆者だ!」

 

「ホールデムさん、都に連行しやすか?」

 

「いいや。全員捕らえたら町と共に燃やせ」

 

「お鶴さんあんただけでも」

 

「おっと。誰も逃げるなよ。1人でも逃げれば残った者たちの死は酷くなるぞ」

 

「……これが百獣海賊団のやり方なんだね。あ、百獣海賊団で合ってる? オロチって人の部下?」

 

「誰があんな男の部下だ! おれたちはカイドウさんの部下だ! というか誰だおま……え……?」

 

「へー。オロチってカイドウの部下にも嫌われてるんだ」

 

 ホールデムをはじめ、百獣海賊団の船員たちが固まる。しれっとこの村に入ってきていたのがウタだからであり、その隣りにベルナートがいるからでもある。

 ワノ国が鎖国国家であろうと、百獣海賊団は海賊だ。ここを拠点としていようとも遠征で他の島々にも渡る。新聞だって当然読んでいる。外の情報は手に入れているのだ。

 そのため歌姫となっているウタのことも知っているし、ドレスローザの一件で懸賞金が跳ね上がったベルナートのことも知っている。

 逆立ちしても勝てない相手であることも。

 

「あ、逃げるなよ百獣海賊団。安心しろ。オレは人殺しが好きじゃないから殺したりはしない。町を燃やした報いを、痛い目にあうことで受けてもらうだけだ」

 

 ベルナートが1歩前に出るだけで、百獣海賊団は重圧を受けるかの如く身をすくめる。足が地面に張り付いて動けない。真打ちであるホールデムも同様だった。

 ベルナートがやろうとしていることは、奇しくもホールデムたちがやろうとしたこと。文言が違うだけで内容は変わらない。

 

「お、お手柔らかに……」

 

「峰打ちにはしてやるよ」

 

「みんな怪我はない? 怪我した人いたら手当するけど」

 

 一方的な制裁が加えられているのを無視して、ウタは町人たちへと声をかけた。

 幸いにも死人は出ていない。ホールデムたちは焼くことを優先し、町人たちへの仕打ちは後回しにしたようだ。というのもここはあくまで将軍オロチの国。カイドウは手を結んでいるだけで統治には関与していない。

 命を奪うほどの事態は、一応オロチ側の決定によって行われる。顔を立てるためでもある。

 

「へへへへ、これぐらいの傷なら大したことないよ。おかげ様で助かった」

 

「そう? それならいいけど。でも町は燃やされちゃったよね……これからどうするの?」

 

「あはははは。元から明日の生活にも悩んで生きてるからね。お嬢ちゃんが気にすることでもないよ」

 

「そうそう。明日は火祭りがあるから都にも行く。なんとかするさ。ハハハハ!」

 

「笑えることじゃないような……」

 

「はっはっはっは! 笑わなきゃ損ってね!」

 

「うーん。でもまぁ、前向きなのはたしかにいいことだもんね!」

 

「そういうこと。ところでお嬢さん。彼は異国の侍なのかい?」

 

「そんなところ」

 

 お鶴と名乗った女性とベルナートの方を見やると、すでに相手を全員気絶させていた。その強さに町人たちは驚愕し、また笑っている。ウタはまだ気づいていないが、この町の者たちがよく笑うのは人造悪魔の実SMILEのせいだ。

 SMILEを食べて力を得た者たちはギフターズと呼ばれ、得られなかった者たちがプレジャーズ。まだ食べていない者たちはウェイターズ。

 百獣海賊団の大まかな構成はこれだ。

 そしてギフターズと呼ばれる者たちは、お玉の能力で従えることが可能でもある。ベルナートは一度編笠村まで跳び、お玉にこの事を伝えるとすぐに帰還。どうするかはお玉に委ねた。

 

「縄を取ってきたから、能力者たちは一応これで拘束しとこう」

 

「結構力が強そうだけど、縄で大丈夫?」

 

「大丈夫。そもそも半日は目覚めない」

 

「そ、そうなんだ。他の人たちは?」

 

「ここに残すわけにもいかないし、かと言って連れて歩くわけにもいかないからな。兎丼に飛ばしてそっちに任せる」

 

「あー。ルフィがいたっていう」

 

 そこは今、拘束されていた侍たちが占拠している場所でもある。監獄にもなっているのだから、逆利用するにもうってつけだ。

 ベルナートは早速その方向へと敵を飛ばす。気絶してる相手を飛ばすのだから、本人は受け身が取れない。死なせないようにと注意も払っておいた。

 

「2人はこれからどうするんだい?」

 

「ちょっと都の方まで。どんななのか見ておきたくて」

 

「そうかい。あそこはオロチの膝下。栄えているのは間違いないけど、その分監視の目も厳しい。十分気をつけなさいな」

 

「うん。ありがとうお鶴さん!」

 

「礼を言うなら私たちの方だよ。服も貸せてあげたらよかったんだけどね」

 

「そこはなんとかするから心配しないで。それじゃあみんな元気で!」

 

 本当なら1曲でも歌って寄り添ってあげたいところだが、下手な同情は薬にもならない。時間に限りがあるのも理由に、ウタはベルナートと共にすぐにおこぼれ町を後にした。

 

 ある程度町から離れると、移動時間を短縮するためにベルナートがウタを抱える。

 おこぼれ町と都の間にある島、希美に入ったところで無言になっていたウタが口を開いた。

 

「さっきの町って、この国で一番苦しい環境だったのかな」

 

「そうなんだろうな。笑いが多かったのはSMILEを食べたせいだろうし」

 

「あ、ドレスローザで作られてたっていう」

 

「そう。……たとえそれが曰く付きだろうと、食べないと飢えをしのげない生活だったんだろ」

 

「っ! ……そう、なんだ」

 

 圧倒的力を持った者と悪性を敷く者。その者たちによる支配が齎した悪夢。それを目の当たりにしたウタは唇を噛み、ベルナートの服をぎゅっと握った。

 海賊に襲撃された町などは何度も見たが、何年も支配されて虐げられてきた国を見るのは初めてだ。ウタにはその衝撃が大きかったのだろう。

 シャンクスと同じ四皇だろうと、人が違えばここまで違う。

 

「あれを無くすための決戦でもあるのが、錦えもんたちが備えてきた討ち入りだ」

 

「うん……。錦えもんとかモモの助たちが背負ってるモノは大きいね」

 

「そうだな」

 

「……私も力になりたいけど……迷惑だよね」

 

「ウタ……」

 

 ウタに戦闘能力はない。ウタウタの実で相手を眠らせて操ることはできるが、耳栓などで対策されては通じない。何より相手が本気でウタを狙えば、歌いだすより先に攻撃されて負ける。

 いつも待ってばかりだ。赤髪海賊団にいた時も、戦闘中は船の中で留守番をするだけ。今だって「危ないから」と遠ざけられる。

 大人になってそれが当然だと理解できていても、直接は力になれない悔しさもある。そう簡単には割り切れない。

 

「待つだけって、結構しんどいんだ」

 

「ごめんなウタ。いつも離れてて」

 

「ううん。ベルナートはいつも考えてくれてるって分かってる。……私こそごめんね。こんな時に」

 

「いや。ウタの正直な気持ちを知れてよかった」

 

 

 

 

 ワノ国で最も栄えている場所。将軍オロチの住まう都。それが花の都の栄町。

 この町は飲み食いに困ることはなく、いつも新鮮な食事を楽しめる。表向きには楽園のような場所だ。

 

「ドレスローザに似てるね」

 

「というと?」

 

「綺麗なのを表面に出して、見たくないものを遠ざけるところ。あの国は地下に隠してたけど、ワノ国は九里とかに遠ざけてる」

 

「そうだな。そうしたがるのは他の国でも見受けられることだ」

 

「……そうなんだ」

 

 ウタも訪れたことがあるフーシャ村。そこはゴア王国が統治する島の田舎にある村だ。

 ゴア王国もまたドレスローザやワノ国と似通った政策を取っている。貧困層を城壁の外に追いやり、スラム街と化したゴミ捨て場を見て見ぬふり。天竜人が訪れる際には、そのゴミ捨て場を一夜にして一斉に焼き捨てたという事例もある。

 ウタやシャンクスたちがフーシャ村を去って以降の話だ。ルフィ、エースはその場にいた当事者。サボも事件を知っており、ドラゴンたち革命軍もそれを目の当たりにした1件。

 貧困を減らすのではなく切り捨てる政策。それを是とする統治者は世界のどこにでも現れるらしい。

 

「あ、この服かわいい」

 

「ならそれにするか?」

 

「うーん、こっちも捨てがたい……。ベルナートはどっちが好き?」

 

 町に入った2人がまず入ったのは呉服屋。ワノ国の衣装を新調するためだ。

 店主もこの2人が異国の来訪者であることは承知済。オロチに知らせるべきところだが、先日にはゾロ十郎やお蕎麦マスクが百獣海賊団とオロチの配下相手に大暴れ。その再来となっては店が壊れてしまう。

 そんなわけで店主は報告することをやめた。火祭も近いのだ。トラブルは遠慮して祭りを楽しみにしていたい。

 

「こっちかな」

 

 ベルナートが指を差したのは、白い近いピンクの生地。薄い桃色をベースに花をあしらったデザイン。もう片方は赤ベース。そちらも似合いそうだが目立ちそうでもあったので選ばなかった。

 

「それならこっちのはお祭りに着ようかな。取っといてもらうことってできる?」

 

「構いませんよ。前払いしてもらえばご予約という形にできます」

 

「じゃあこの赤いのはそうするとして、こっちのはすぐに着たいかな」

 

「お買上げありがとうございます。それではそちらの部屋にて、うちの嫁に着付けさせますんで」

 

「手伝ってもらえるんだ? 助かる~。あ、ベルナートのはこれで」

 

「決められてんのかよ」

 

「この色好きでしょ?」

 

「……」

 

 言い当てられて言葉も出なかった。

 衣装を渡されたベルナートは、笑顔で着付けに行くウタを見送り、肘でついてくる店主を軽く蹴った。

 

「へへへ。若くていいじゃないの。着方は教えてやるから、野郎は自分で着るんだな」

 

「オレも手伝ってほしいとは思わねーよ」

 

 ウタの分の代金も払い、ベルナートはウタを待つ間に着替えを済ませた。

 

 着付けを終えたウタは髪型も変えていた。いつもなら後ろに2つの輪を作っているところを、今は解いて後ろで纏められている。普段は隠れているうなじが顕となり、纏められている髪には衣装に合わせたかんざしが付けられていた。

 

「どう?」

 

 初めて着る服。初めての髪型。

 頬を薄く染めて聞くウタに、今度は違う意味でベルナートは言葉を失っていた。

 

「……ぃ、いい」

 

 なんとか絞り出せたのはそれだけ。褒め言葉としては最低だ。もはや褒め言葉ですらない。怒られたって文句は言えない。

 そんな発言でもウタには十分伝わっており、にやける顔を隠そうと俯いて、ぽすんと頭をベルナートの胸に預ける。

 

「ありがと」

 

 見ないままに手を取り合い、繋げば店を静かに出ていく。

 しばらくは無言が続き、そこからぎこちなく会話が始まる。続けていく内にどちらも調子を戻すことに成功した。

 

「いろんなお店があるね」

 

「カテゴリで言えば他の国と大差ないけど、独自の文化が確立してるから新鮮だな」

 

「だよね。あの見た目が派手な所も気になる」

 

「あーあれか。近くまで行ってみるか?」

 

「うん!」

 

 ウタが気になると言った建物は、他の店に比べて外装が豪華になっている。そこに掲げられている看板の文字は「湯屋」だ。

 

「湯屋? お湯を売ってるの?」

 

「ある意味そうだけど、公衆浴場だよ。代金払えば風呂に入れるところ」

 

「へ~いいね! あとで入ろうかな」

 

「やめとけ」

 

「なんで?」

 

「混浴だから」

 

「こんよく」

 

「男女で別けられてるわけじゃないってこと」

 

「い、意味は分かってるよ」

 

 恥ずかしそうにぱたぱたと手で顔を扇ぐウタは、その場から離れようとベルナートの手を引く。数歩進んだところでふと気づいたことがあり、ぴたりと止まるとベルナートの顔をじっと見上げた。

 

「どうした?」

 

「なんで混浴ってこと知ってるの? もしかして入ったことある?」

 

「え」

 

 ウタの責めるような視線を逃れようと顔を逸らした。

 

「すけべ」

 

「心外だ! オレもエースも知らずに入ったんだよ。混浴ってのは後から知ったことだし、そもそも混浴だろうと入ってるのは男だけだったし。この町は栄えてるから女は自分の家の風呂に入るらしいし」

 

「早口だね」

 

「変なレッテル貼られたくないだけだ」

 

 ウタは一度だけ頬を引っ張って、それで許してあげることにした。何かの過ちがあったわけでもない。ウタもベルナートに教えてもらわなければ、何も知らずに湯屋に入って悲鳴をあげていたことだろう。

 大通りへと進めば活気さがさらに増していく。明日は火祭り。その準備も相まってワノ国の活気さは最高潮に迫ろうとしている。

 客を呼び込む声が右からも左からも聞こえ、ウタの顔も右へ左へと忙しそうに動いた。

 

「何か食べるか」

 

「ベルナートは前に来た時に何食べたの?」

 

「天ぷらに寿司に蕎麦。この国の菓子も食べたな」

 

「あ、お寿司! ヤマトが何回か作ってくれてたよね。本職ほどじゃないって本人が言い張ってたし、せっかくだから食べてみようよ」

 

 そうして寿司屋に入り、席に案内されてはおまかせで注文。10貫ワンセットを2つ。何が食べられるかは、大将が仕入れ具合から判断する。料理人のプライドがあるからこそ、最高品質が約束された注文の仕方だ。

 

「ん~! おいし~~!」

 

「だな。久しぶりに食べたけど、やっぱ本職のがいいな」

 

 寿司はシンプルな見た目だ。米と魚の身のみ。しかし、そのシンプルさが奥深さを物語っている。素人が真似ても味がまったく違う。ヤマトが作る寿司も悪くはないのだが、やはり本職ほどの域には達していない。

 

「ベルナートもこれ食べてみる?」

 

「いや同じのを注文してるだろ」

 

「あ、えへへ。そうだった。でもあーん」

 

「……ん。これも美味いな」

 

 ウタに差し出されたサーモンを素直に食べる。楽しそうに、そして嬉しそうに笑うウタの姿に目を細め、ベルナートも自分の寿司を一貫ウタに食べさせる。

 

「あ~んっ。ん~! これもいい! これなんて言ってたっけ?」

 

「カツオのたたきだな」

 

「なんでたたきって言うんだろ? 叩いたのかな?」

 

「さぁ~」

 

 2人揃って首を傾げ、美味しければいいかと謎を謎のままにして他の寿司へと手を伸ばした。

 食べ終わったら今度はワノ国のお菓子を食べるのだとウタが張り切り、苦笑しながらベルナートもそれに付き合うのだった。

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、ウタとのデートは楽しめたみたいだね」

 

「デートって言うなデートって」

 

「でも意識してないわけじゃないんだろう?」

 

「……まぁ」

 

 編笠村に戻ると、ヤマトがサンジと共に作ったという夕食に舌鼓をうった。一流シェフがついて作られた夕食だ。ヤマトが作りたがっていた料理を、ヤマトの想像以上の出来で完成させられた。これにはベルナートもウタも大絶賛。ルフィたちも美味しそうに食べていた。

 明日の夜には火祭り。つまりはこの国の運命をかけた決戦"討ち入り"が行われる日だ。

 それに備えるかのように、賑やかな夕食もそこそこに終わりを告げている。そこそこと言っても1時間は優に超えていたが、ナミ曰くそこそこらしい。

 

「ベルナート。僕は君に感謝してる」

 

「なんかしたっけ?」

 

「僕を連れ出してくれたことだよ。君が来てくれなかったら、僕は今でも鬼ヶ島の中にいた。君とウタとゴードン。4人での冒険は僕に多くの刺激と経験をくれた。だからこそ、自由を奪う父のやり方により異を唱えられる」

 

「……オレの都合で連れ出しただけだよ」

 

「ま、君はそう言うよね」

 

 ベルナートの右肩に寄りかかってすやすやとよく寝ているウタに目を向けた。ベルナートもベルナートで、ウタが倒れないように腕を回して支えている。2人の信頼関係と関係性がよく出ていた。

 ベルナートの言う都合が誰のことなのかも、それは当然理解してある。説明もされてヤマトだって納得していたことなのだから。

 とはいえだ。ベルナートがヤマトの錠を壊したのは事実。ワノ国へと縛る鎖を壊したのがベルナートなのだ。決戦前夜となった今、それを感慨深く感じるのも無理はないだろう。

 

「君が僕とエースの親友でよかったよ」

 

「らしくないな」

 

「言える時に言っとかないとね。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ばーか」

 

 ヤマトへとデコピンする。いい音が鳴ってヤマトはそこを手で抑えた。

 

「オレがお前を死なせるわけないだろ。エースの時とは違うんだ」

 

「……そうだね。ごめん、ベルナート」

 

 その言葉を合図にしたかのように、ベルナートの視界がぐらりとぶれた。何かが頭に重くのしかかるような感覚が続き、意識が朦朧とし始める。

 

「やまと……?」

 

「楽しかったよベルナート」

 

 何かが頬に触れた感触を最後に、ベルナートの意識は完全に落ちた。

 完全に寝ていることを確認したヤマトは、静かにその場を後にする。麦わらの一味がいる場所へと向かうためだ。

 それを待っていたかのように、木に背を預けていたサンジが声をかけた。チョッパーもサンジの足元にいる。

 

「よかったのかい? ヤマトちゃん」

 

「いいんだよ。2人とも手を貸してくれてありがとう」

 

「ベル男強いのに戦わせないんだな」

 

「戦力は下がるけど、ベルナートがいないと勝てないようじゃ、元からこの討ち入りは失敗も同然だよ」

 

「まぁそうだな。狙うはカイドウとオロチの首。それが叶うだけの必要戦力も策もある。十分だ」

 

「でもよ」

 

「チョッパー。それ以上は野暮ってもんだ」

 

「……わかった」

 

 チョッパーの持つ医学と薬学の知識。それを用いて長時間眠らせる薬を作ってもらい、サンジの協力も取り付けてウタとベルナートの夕食に忍ばせた。

 サンジもチョッパーも初めは渋っていたが、ヤマトの押しの強さと気持ちに根負けしている。

 戦いに巻き込みたくない相手がいる。その気持ちは2人にも理解できることだったからだ。

 

「ベルナートはウタの側にいないと駄目だからね」

 

「ヤマトちゃん。君は立派な(レディ)だよ」

 

「あはは、ありがとう。さ、行こうか」

 

 

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