たった1つの笑顔   作:粗茶Returnees

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ワノ国⑤

 

 この世界において重要なものは何か。生活においては金銭だろう。無ければ今日を生きるだけでも難しい。国は国民を救うのか。それは治める者のさじ加減による。あてになるわけではない。

 国を守る軍隊は重要だろう。海賊王ゴール・D・ロジャーの処刑により幕を開けた大海賊時代。世界最強の男白ひげエドワード・ニューゲートの死により加速したこの時代。溢れる海賊たちから人々を守るには力が必要だ。

 ではその戦闘においては何が重要なのか。武器か? 数か? 

 世界最強の生物と言われる四皇カイドウが持つその答えはどれでもない。

 

「もっとお前の覇気を見せてみろ!」

 

 そう覇気だ。

 先程から武器が触れ合わない戦闘が続いている。覇王色の覇気を纏った者同士の戦闘は、直接的な触れ合いが発生しないのだ。

 ベルナートの戦闘力はカイドウも一目を置いている。単純な戦いならキングに勝てると見込んでいるほどに。本人が得意だと自負している見聞色は言わずもがな。武装色の使い方も洗練されている。

 では覇王色はどうか。他2つに比べたらまだ成長の余地がある。ルフィよりは使えているが、四皇程ではない。そういった具合だ。

 

「こんのッ馬鹿力が!」

 

 カイドウもビッグマムも生まれながらにして怪物だ。生物として強過ぎる。速度を得意とするベルナートにとって、カイドウの膂力は洒落にならない。何度も正面から受け止めていては体力が一方的に削られる。

 カイドウの戦い方は横綱相撲。相手の攻撃を受けた上で、堂々と正面からねじ伏せる。

 それに付き合う必要などない。ベルナートはベルナートの土俵で戦えばいい。

 

「桜嵐」

 

「ハッ!」

 

 3次元的に移動を繰り返しながら、螺旋の斬撃をカイドウへと飛ばす。そのどれもをカイドウは金棒で弾き返した。

 その間にベルナートはカイドウへと急接近して技を叩き込んでいく。

 

「居合・秋桜の太刀」

 

「オォッ……!」

 

 瞬時に8発の斬撃を叩き込む。ベルナートの攻撃はカイドウに確実に通るものだ。斬った場所から血は流れており、カイドウはそれを認めて口角を上げた。

 振り下ろされる金棒を防ぎつつベルナートは後退。カイドウの硬さとタフさに思わず舌打ちが出る。

 

「フッ。まだまだ楽しめそうだな。覇王色の纏い方も急激によくなってやがる」

 

「目の前に良い例がいるもんでな」

 

「ウォロロロロロ! 俺から盗むか。未だに能力を使わねぇのを見るに、能力者ではないようだな」

 

「悪魔の実は食べてないからな。泳ぐの好きなんだよ」

 

「結構じゃねェか。どんな実を食おうと実はその域を出ねェ。覇気がすべてを凌駕する! ロジャーが無能力者だったようにな!」

 

「凌駕する、か」

 

 カイドウの口から放たれる破壊の一撃たる熱息(ボロブレス)。それを予知したベルナートは自分の刀の緋桜を一瞥し、迫るその炎を両断した。錦えもんの技を学んだわけではない。ゾロのように見て盗んだわけでもない。

 カイドウの発言から着想を得て実践しただけだ。

 

「武装色は自然(ロギア)相手に必須の力。覇気がすべてを凌駕するって言うなら、こういうのを斬れるのも道理か」

 

「そういうことだ」

 

 瞬時に距離を詰めたカイドウが金棒をすくい上げるように振るう。それに対応し、刀で迎え撃ちながらベルナートも前へ踏み出した。刀を金棒に沿ってスライドさせ、金棒を手放したカイドウの手刀を横腹に喰らった。

 

「ベルナート!」

 

 体を横に飛ばされながらも空中で姿勢を整え、刀を地面に突き立てて減速させる。

 

「げほっげほ! 一筋縄にはいかないよな」

 

 息を整えつつヤマトに大丈夫だと手を振った。土壇場での回避は間に合わず、刀で防ぐのも間に合わないと踏んだベルナートは、ダメージを軽減させるために武装色を防御に回していた。

 それでもカイドウの攻撃は体の内側に響いてきたが、これでもダメージは最小限なのだ。

 刀を地面から引き抜き、堂々と正面から歩いてくるカイドウに仕掛ける。

 

「月花龍」

 

 本来なら下段からの斬り上げの技だが、それを防ぐ者たち相手だと、敵を上空に打ち上げるものへと退化する。巨躯なカイドウ相手だと浮かせるのも難しく、それを織り込み済のベルナートはさらに追撃を加えようとする。

 それより先にカイドウが動きを見せ、ダメージを完全に無視して攻撃に回る。

 

「降三世引奈落(ラグならく)!」

 

「ッ、この……!」

 

 刀で受け止めるも先に悲鳴を上げたのは足場だ。カイドウの一撃の衝撃は、ベルナートの足元に亀裂を生じさせた。仮にこの威力で連撃されれば、間違いなく足場が崩壊したことだろう。

 その衝撃はベルナートの内側にも響くが、カイドウの手は止まらない。もう一度叩き込もうと金棒が振り上げられ、そこをベルナートの連撃が襲う。

 決して防戦一方にはならない。ベルナートはカイドウとの戦闘を通して、かつてミホークに半殺し以上に追い込まれた厳しい稽古を思い出していた。攻勢に回らなければ打破できないこともあるのだと、その身を持って叩き込まれたのだ。

 

軍荼利(ぐんだり)龍盛軍(りゅうせいぐん)!」

 

「月時雨!」

 

 カイドウの乱打を乱撃で捌いていく。体格の差からリーチ差は生まれ、ベルナートは防戦へと回らされた。互いに近距離が得意だとしても、得意な距離の差が戦闘に直接影響を及ぼしている。

 数十秒にも及ぶ応酬の末、踏み込んだベルナートの一刀がカイドウに通った。

 その直後にベルナートは距離を取り直し、目に入りそうになった血を拭う。一刀こそ通せたものの、小さな傷も含め負傷の数はベルナートの方が多い。続けていたらそのまま押し切られていただろう。

 

「フゥー。龍にはならないんだな」

 

「その手には乗らねェな」

 

 龍のデメリットは速度の低下と的の増加だ。それに対してベルナートの強みは、見聞色による未来視とその速度。カイドウの硬さをものともしない覇気もあり、龍状態では相性が悪い相手である。

 

「残念。……さてと、長引いても負けか」

 

 鬼ヶ島が浮いているのは、何も討ち入りに来た侍たちを逃さないためじゃない。この鬼ヶ島自体を1つの兵器と見立てているのだ。

 この規模の島に加えて最下層にある大量の爆薬。仮にそれを花の都へと落下させて爆薬したら、被害は大規模なものとなる。惨劇という他ないだろう。支配者が変わるというメッセージを込めたパフォーマンスとしても、これ以上の最悪はない。

 カイドウが万全の状態ならそうならずに着陸するものの、戦いの果てにどうなるかは不明だ。

 つまりこの決戦で不可欠な勝利条件は、オロチとカイドウの首だけではない。この場に居合わせているカイドウの同盟相手である四皇ビッグマムの打倒と、そしてこの鬼ヶ島を花の都に落とさせないこと。

 最低限でもこの4つだ。

 

「真面目で厄介な相手だよ」

 

「そのまま言葉を返すぞ天喰い。たかがヤマト1人のために俺の首を狙ってるんだからな」

 

「ヤマト1人のためじゃない」

 

「ん?」

 

「ヤマトはオレの大切な親友だ。エースもそうだ。あいつが果たせなかった約束を果たすために手を貸してる。それに、オレは理不尽が大嫌いだ。お前のやろうとしてることは看過できないんだよカイドウ」

 

「ウォロロロロ。真面目過ぎるのも考えものだな。この世界が理不尽じゃない時なんてねェぞ。格差、差別は必ず生まれる。それが人間だ!」

 

「だからこそ理想を求めるんだ。オレも、ウタも」

 

 タイムリミットはすぐそこだ。彼の"声"が聞こえてきている。

 ベルナートは刀へと覇気を収束させ、カイドウも合わせて金棒を構える。

 

「年を取ろうとも四皇は四皇だな。勝ち切れなかった」

 

「ウォロロロロ! 気に病むな。すぐに再戦になる」

 

「包雷八卦!」

 

「無穹・赤零(せきれい)!」

 

 動いたのは同時だった。

 先に届くのはカイドウの金棒だ。リーチは完全にカイドウが上。先程の攻防ならベルナートはそこに刀をぶつけ、結果としてその衝撃に天が割れていた。

 それを今回ベルナートは行わない。そのつもりがない。防御を完全に捨て、カイドウを袈裟斬りにする。元よりベルナートは斬撃を飛ばすことができる。そこに武装色と覇王色を纏わせれば、威力を十分に保つことが可能だ。

 

「ッ!」

 

「ベルナート……!」

 

「グッ……。ウォロロロ。勝ち切れなかった、か。届かせやがって」

 

 ベルナートが未来を見れるように、カイドウもまた未来を見ることが可能だ。攻撃を繰り出すのと同時に、武装色をベルナートの攻撃への備えとしても使用していた。

 それでも完全に防げたわけでもなく、カイドウはその場で膝を付きながら笑って前を向いた。その視線の先にはカイドウに殴り飛ばされたベルナートがおり、ヤマトが駆けつけている。

 

「ベルナート、ベルナート!」

 

「大丈夫……。生きてる」

 

「なんであんな無茶なことを……」

 

 カイドウに攻撃を叩き込んだ代償はでかかった。飛びそうになっていた意識をなんとか保たせ、重い体で起き上がるとベルナートもまた笑みを浮かべた。それは好戦的なカイドウとはまた違った意味での笑みである。

 

「ヤマトを傷つけられたからな」

 

「……バカ。それで君の方が傷ついてたら本末転倒だよ」

 

「ま、時間切れだったから仕方ない」

 

 ベルナートが横を見ると、ちょうどそのタイミングで桃色の龍が空へと昇っていた。その頭の上には復活して戻ってきたルフィがおり、カイドウもそれに合わせて龍へと姿を変える。

 ベルナートとの戦闘では不利になると言っていた姿になったのは、ベルナートが攻撃を仕掛けるつもりがないからだ。

 いくつか言葉を交わした後、ルフィとカイドウとの戦闘が始まる。ベルナートに負傷させられたとはいえ、カイドウの動きにはキレがある。タフさだけではない。自身の負傷具合を認め、ノーガードでの殴り合いからシフトチェンジしている。

 

「モモの助乗せてもらうぞ」

 

「う、うむ。お主その傷」

 

「気にすんな。動ける」

 

 そう言ってベルナートはヤマトと共に、龍になったモモの助の頭の上に乗った。カイドウの能力をよく知るヤマトがモモの助をサポートし、カイドウが島を浮かせるために出している焔雲を掴ませた。

 

「ベルナートこのままでは鬼ヶ島が花の都に着いてしまう。拙者はどうれば……!」

 

「麦わらがカイドウに勝てばこの島は落下する。この雲はカイドウが出したものだしな」

 

「そ、それでは」

 

「その被害をどうにかできるのはモモの助、お前だけだ。お前だけがワノ国の人々を救える」

 

「なっ!? 拙者がでござるか!? 無理でござる! 拙者にはそのようなこと!」

 

「いいやできる。できなきゃワノ国の人々が死ぬ」

 

「……っ!」

 

「ベルナートそんな言い方しなくても」

 

 モモの助に圧をかけるように、国を背負わせるベルナートの言葉をヤマトが止めようとする。言っていることはヤマトも同意なのだが、伝え方があるだろうと。普段直接的な言動をするのはヤマトなのだが、今はそれが入れ替わっていた。

 

「モモの助。できないと思ったことは誰もができない。誰であれだ」

 

 否定的な言葉は自身の可能性を閉ざすだけ。モモの助の癖となっているその思考はこの場において最も不要なもの。それを変えさせないといけない。

 

「カイドウはなぜ強いと思う? 麦わらはなぜカイドウに挑めると思う?」

 

「それは……強いからでござる。強いから挑めるのでござる」

 

「それは違うな。負けようとも麦わらが再度挑めるのは、カイドウに勝てると自分を信じて疑わないからだ。カイドウが強いのも、誰よりも強いとカイドウ自身が自分を信じているからだ」

 

 精神論になるが、それは馬鹿にできないものだ。「できる」と信じ切って行動するものの芯は強い。決して折れない。しかもその精神の強さは覇気にも影響を及ぼす。弱気になった時に覇気もまた弱くなるからだ。

 この討ち入りに飛び込んできた侍たちは、なぜ戦闘に参加できたのか。死に場所を求めていたから? それもあるだろうが、命を賭してでもカイドウを討つのだと誓っているからだ。劣勢だと分かっていようとも行動できる。それを可能とするのが精神力。心の持ちようということ。

 

「お前の父、光月おでんは弱気な男だったか? 無理だと言って逃げ回ってカイドウに頭を下げて生きていた男か? 違うだろ。人の強さっていうのは戦う力じゃない。一番大事なのは心だ」

 

「父上のような心……」

 

「お前には頼りになる家臣がいる。共に戦ってくれる仲間がいる。大将のお前が無理だと言って泣き逃げしてどうする! 切った張っただけが戦いじゃない! 大将のお前にとって、みんなが心置きなく戦えるようにするのが戦いなんだ!」

 

「し、しかし」

 

「うるせー」

 

「ぐおっ、あ、頭に響くでござる」

 

 ただ足で踏んづけても、おでん譲りの体にはびくともしない。ベルナートは武装色で内側まで軽く振動を送った。

 

「できると信じろ。一度や二度の失敗で諦めるな。麦わらはカイドウに3回目の挑戦してんだろ。できるまでやれ」

 

「無茶苦茶でござる……」

 

「お前はどう足掻いても光月家の人間だ。この国の将軍だ。家族に恥じないお前の戦いを最後までやってみせろ」

 

(っ! ……父上……母上!)

 

 あの日。燃え盛るおでん城にてモモの助は母親と死別した。おでんが示した20年後の未来。すなわちこの日この時のために、錦えもんたちと未来へやってきた。

 母親と別れたくないと泣きながらも、しかしその時に自分で決心して選んだのだ。モモの助はその日のことを思い出し、決意を固めていく。

 

「そうでござった。妹の日和も6歳の時から20年耐え忍んできたのだ。それは20年に及ぶ日和の戦い。拙者の戦いも今でござる!」

 

「ああ、救ってみせろ。英雄になってみせろ将軍!」

 

 かつて何もできずに国を失った男にとって、国を救える可能性を放棄するなど見過ごせない事態なのだ。

 ベルナートなりに発破をかけ、モモの助のやる気を引き出させる。それを見届けたヤマトは柔和な笑みを浮かべ、ベルナートの頬を指でつついた。

 

「なんだよ」

 

「ふふっ、いや~やっぱ男の子っていいなって」

 

「お前も男だろ」

 

「うん。そうだね。さてと、ぼくはぼくでやることやらないとね」

 

「最下層に爆薬があるんだっけ? ヤマトの能力で凍らせといてくれ」

 

「もちろんそのつもりだよ」

 

 行動を読まれたことに嬉しそうに笑い、ベルナートの首へと腕を回す。

 モモの助にはこの場での大仕事があるし、ベルナートは空中での移動が可能だ。本人も鬼ヶ島の中に用があり、ヤマトを送るつもりでもいた。

 お互いに考えを読み合って、どちらからともかくくすっと笑う。

 

「ベルナート。お主は何をするつもりなのだ?」

 

「島の中に覚えのある気配が混ざってる。放置すると厄介そうな不穏因子だから、それはオレが対処しとく」

 

「1人で大丈夫なの? 爆薬を氷らせたらぼくもそっちに行くよ?」

 

「大丈夫。それにカイドウとビッグマムを倒せても百獣海賊団の数は厄介だ。ヤマトにはその時のまとめ役をやってほしい」

 

「まぁぼくの言うことを聞かせられるけど……」

 

「ウタが待ってるんだから、死ぬようなことはしないって」

 

「信用できないなー」

 

 つい先程カイドウの攻撃をわざと防がなかった男だ。信じろという方が無理がある。

 とはいえ、ベルナートにも死ねない理由はできている。無謀なことをするつもりもない。

 ヤマトも信用できないとは言ったものの、ベルナートがウタのことに触れてるのだ。これ以上の保険もない。

 

「ベルナート。ヤマト。武運を祈るでござる」

 

「モモの助くんもしっかりね」

 

「島のことは任せたぞ」

 

 ヤマトを抱きかかえると、ベルナートはモモの助の上から跳躍した。

 この決戦が終わった後に、すべてをひっくり返しかねない存在を対処するために。

 

 

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