アラバスタ王国の歴史は長い。なにせ世界政府が誕生する前から存在しているのだ。
今でこそ世界の国の1つとして存在しているが、本来なら天竜人になっていた一族である。世界政府誕生時に、先祖たちはその権利を拒否。世界政府加盟国の一員となり、それが今日まで続いている。
そして近年では、国家存亡の危機に陥った過去がある。当時の王下七武海の1人、クロコダイルの策略により反乱の火種が巻かれ、やがてそれは大きな爆発を引き起こした。
その大事件はクロコダイルの敗北により終息。その危機を乗り越えたアラバスタ王国は、より強固な絆を育み、他国が目を見張るほどの再興を遂げている。
「王下七武海って、たしか政府公認の海賊だったよね」
「そうだな。未開の地や海賊への海賊行為、略奪とかが許される代わりに、何割かの収穫の支払いがある。政府側につくわけだから、それを利用して出し抜こうって考えもできるわけだ」
アラバスタでのクロコダイル然り、インペルダウンで囚人を連れ出した黒ひげ然り。前者は未遂だが、後者は他の要因も相まって成功されている。
「なんで海賊を公認しちゃうかな……」
「海賊が海賊を潰してくれたら、政府や海軍としては手間が省けて楽だろ。実際その仕事をちゃんとやる奴も、中にはいたようだからな」
「そうなんだ」
「計画の最終段階まではクロコダイルがこの国に来る海賊を討ってたし、海賊女帝も定期的に遠征してるって話を聞いたことがある。…………他は特にいないな」
「駄目じゃん!? 七武海なのに今2人しか出てこなかったよ!? あと5人は!?」
「えーっと、今だとバギーのとこがその仕事を結構やってんだっけな」
インペルダウンからの脱獄。その後の頂上戦争での1件。それによりバギーは王下七武海へと任命され、連れ出した囚人たちを派遣して戦わせる傭兵会社を設立。電話一本で曲者たちをどんどん派遣するのだ。海賊が増えた今の時代、需要は高いのだろう。
それ以外の七武海は怪しい。そもそも馬鹿正直にそれに従わないような曲者たちが、七武海に任命されるような実力者たちだ。就任による恩赦とその立場。それだけを目的にする者の方が多い。
「政府側って言っても、海賊は海賊か」
「そういうこと」
情報も知識もどちらも生きていく上で欠かせないものだ。何も知らずにグランドラインに入れば、たちまち常識外れの海によって難破する。
国の情報を知るのも、世界の大きな勢力を知るのも、同様に重要なことである。ただし、新聞に載る情報すべてが正しいかどうかは別なのだが。
「皆様お疲れ様です。首都アルバーナに到着しました」
「あ、もうそこまで来てたんだ」
「首都の中に入るには階段を上がっていただく必要がありますので、馬車での移動はここまでになります」
「わかった。ありがとう!」
お礼を言って馬車から降りた3人は、アラバスタの偉大なる首都を見上げて無言になる。壮大だとか歴史を感じるとか、そういう感想ではない。3人の胸中に抱いている思いは1つだけ。
「「階段長過ぎ!!」」
「……ここを行き来する人たちは逞しいな」
文句を言ってもどうにもならない。早く中へ入ろうとゴードンが階段を登り始め、ウタとベルナートもそれに続く。
黙って登るのもしんどいからと途中でゲームを交えてはゴードンに注意され、そうやって登り続けること数分。3人はようやく階段を登りきった。
視界に飛び込むのは、港町にも負けず劣らず賑わいを見せる首都の大通り。活気が溢れ、行き交う人々には笑顔が溢れていた。そうなっているのは逞しき国民性と、その地盤を築き上げた王家の力によるもの。コブラ王の統治が国民に受け入れられている証だ。
「おっきい……! これがアラバスタの首都、アルバーナ……!」
「町中を散策するのはあとのお楽しみにするとして、王宮に向かうとするか」
「奥に見えるあの建物が王宮だな。中に入れるように手配されているらしい」
「……あれもしかしてまた階段ある?」
「あるだろうなーあれは」
まだ王宮は遠いのに、また階段かとウタが項垂れていると、前方からラクダが闊歩してきた。その横には兵士もついている。
「イガラム隊長から話は聞いております。ここからは我々が王宮に案内させていただきます」
「お願いします。ところでこのラクダは?」
「王宮までウタ様に乗っていただこうと、ビビ様のご厚意です。このマツゲが男を乗せたがらないので、女性限定になるのです……」
「欲に忠実なラクダだな」
「マツゲってこの子の名前?」
「乗るの早いなウタ!」
「はい。ビビ様のご友人がそう名付けたのだとか」
「変な名前」
「ウタならどうつける?」
「うーん…………ラクダ」
「変わってねぇよ!?」
兵士に案内されて一直線に王宮へとたどり着き、ウタはマツゲに乗ったまま階段を上がる。これはこれで不安定になるのだが、その小さな恐怖もスリリングとして楽しんでいる。ベルナートは落ちた時に備えてマツゲの背後に回り、ゴードンは自分のペースでなんとか登りきった。
しばらくの休憩を挟んだ後、一行はいよいよ中に入る。マツゲとは玄関口で別れ、ここからはウタも徒歩再開だ。
「ここだけ壁にスペースあるけど、何かあったの?」
「そちらは一時期ビビ様の衣装が展示されてました。国外で出会った仲間と冒険していた時に着用されていた踊り子の衣装なんだとか」
「ビビ王女ってそういうことするんだ……」
「いえ買ったのはその仲間の方で、展示したのは国王様です」
「何やってんだ国王!?」
「これにはビビ様もお怒りになられて、親子喧嘩になっていましたね」
「今はないってことは、それも解決したんだね」
「はい。『二度とお父様と話さない』とビビ様が仰って、国王様が泣いて謝っていました」
「それは国王の"こ"の字もない姿だな……」
「親子喧嘩ですから。立場から離れての喧嘩ですよ」
「なるほど」
そういう話すら一兵士が喋っていられる。そういう環境とはつまり、時代が移り行こうとしている時期でも尚、この国は平和を維持できているという証拠だ。しかも王族が変わらず支持も得られている。
このアラバスタという国は、ちょっとやそっとでは揺らぐことはないだろう。その底力まで感じ取ったベルナートは静かに笑い、それに気づいたウタに頬を突かれる。
「なにニヤついてるのよ」
「いい国だなって思っただけだよ」
「それは私も思った。みんな笑顔だもんね」
「貴方方にそう言っていただけると、我々末端の人間も喜ばしい限りです」
内情を深くは知らない者がそう感じている。国民たちが、そうであれと願い歩む日々が実っているのだ。兵士の1人であっても、そのことに喜びを感じずにはいられなかった。
国王のいる謁見の間の近くまで来ると、そこには1人の女性が佇んでいた。聞けばその人物はビビの世話役の1人らしく、ビビの部屋までの案内は彼女が行うらしい。
「ビビ王女ってどんな人なんだろうね」
「オレたちよりは年下らしいけど、失礼なことはするなよ」
「む。私は無作法な人間じゃありませんー!」
「わかったわかった」
「ベルナート様、ゴードン様。お二方は先に国王にお会いしていただきます。ビビ様の下にはお先にウタ様お一人で、ご希望でしたら合流はその後に」
「そうなんだ。じゃあベルナート、ゴードン。また後で」
ビビはウタたちより年下だが、そう大きく離れているわけでもない。年の近い同性と会うのは、何度であっても楽しみだ。サクラ王国ではあまりそういう相手と話す時間がなかったため、じっくり話せるとなると随分久しぶりなことになる。
足取りを軽やかにして歩いていくウタを見送り、ベルナートとゴードンはコブラ王の下へ。
その部屋にはカーペットが敷かれ、その両脇には兵士たちが並ぶ。正面の奥にある玉座に座る者こそこのアラバスタ王国の現国王コブラ。その両脇を固めるのはアラバスタの守護神たるペルとチャカだ。
「話を聞いた時はまさかと思ったが、久しいなゴードン王」
「王はよしてくれ。今は王の身ではない。だが、また会える日が来るとは私も思っていなかった。壮健で何よりだコブラ王」
「あー、お二人は
「エレジアはこの国ほど頻繁に出席していたわけではないが、良い交流をさせてもらっていた」
「事件を知った時は私も目の前が暗くなったことを覚えている。……今更だが、悔やみ申し上げる」
「痛み入るコブラ王よ。互いにつもり話はあるが、それはまた後にするとしよう。ベルナートくんを呼んだ理由は、何かあるのか」
「無論、海賊の捕縛に協力してくれたことへのお礼だ。何か望みがあれば可能な限り応えたいと思っている。聞けば町への被害も防いでくれたようだからな」
「ではウタのライブの許可を」
即答だった。
1秒も悩むことなく、ベルナートはそれがいいのだと希望を言った。あまりにも早く答えたものだから、兵士たちも唖然とし、コブラも一度言葉を詰まらせた。
「それで良いのか? 元よりライブの許可は出すつもりだったぞ。何を隠そうネフェルタリ家はウタのファンだ」
「まさかのグッズ自作!?」
「はっはっは。相変わらずの行動力だなコブラ王」
UTAと書かれた団扇にペンライト。それをどこからともなく取り出したコブラだったが、驚いたチャカとペルがすぐさま没収。「王の威厳の欠片もないですよ」と説教も入れた。
「友を前に威厳などあるものか」
「威張らないでください……!」
「してベルナートくん。他に望みはないのかね? なければこちらで検討させてもらうが」
「……あ、でしたらエターナルポースをください。この国以外の物があれば嬉しいです」
「よかろう。いくつかの国の予備が何個かあったはずだ。それらを持って行くといい」
「破格の待遇感謝致します」
「良い。彼女のツアーの力になれるのなら、これぐらい安い出費だ。なんならグッズ販売も」
「「国王!」」
「それも可能な限り早く手を付けたいところですが、一応あてはありますから。お気持ちだけ頂戴します」
「そうか。私考案のグッズも売りたかったが……」
「でしたらそれはいずれ商品のラインナップに加えさせてください。収益も分配という形で、割合はゴードンさんと詰めてください」
「そういう分担をしているのか」
「なかなか悪くないものだぞ」
「そうか。隠居後は一枚噛ませてもらうとしよう」
自分が呼ばれた理由はそれぐらいかなと判断したベルナートは、コブラに一言入れてから部屋の扉へと向かう。するとコブラがベルナートを呼び止め、ゴードンと兵士たち、そして守護神の2人まで退出するように告げた。
ベルナートと、2人で話したいことがあるらしい。
「ゴードンもそうだったが、まさか君にまた会える日が来るとは思っていなかったよ」
「人生はわからないものですね。隠居のことを話してましたけど、後継者いるんですか? 新聞を読んでいる限りだとビビ王女の相手はまだ決まってないですよね」
「見合いの手紙すらビビが読まんのだ。まだ16歳と考えると、私の気が早いのやもしれん」
「20までには決まるとコブラ王も安心ですね。もしくは、実は心に決めた人がいるとか」
「そんな馬鹿な! ……いや、否定しきれんか……」
「心当たりでも?」
「なくはないが……ビビは一時期国外にいたのでな。その間に想い人ができたとしても……よし! 聞きに行くとしよう!」
玉座から飛び上がり本当に行こうとするコブラをベルナートが止める。尊敬できる人だが、これには苦労も多そうだなとイガラムたちに少し同情もした。
「本題に入りましょうよ。ゴードンさんたちを長く待たせるのも悪いですから」
その言葉にコブラも動きを止め、玉座へは戻らずにベルナートと視線を合わせた。
本題ともなれば、少々真面目な話になる。
一方でウタはというと、予定通りビビの部屋へと招き入れられていた。ドルトンから貰っていた手紙をビビに渡し、彼女はそれを一読。目を細めて当時のことを懐かしんでいた。
ビビ王女はこの国の宝だと、国民は言い張るほど彼女のことを好いている。澄んだ青空よりも美しい空色の髪は長く、綺麗な瞳はそれでいて彼女の芯の強さを篭めている。お見合いの手紙が数多く来るほどスタイルも良いのだが、ビビが国民に好かれる最大の理由は、彼女がこのアラバスタ王国を愛していると誰もが知っているからだ。
国の危機を知り、打開するためにと海へ飛び出し、闇の組織に潜入すらした。その行動力の高さと、冒険の日々で培った経験は何にも変えられない強み。
そんなビビとウタは、彼女たちを知る誰もが予想できないことを繰り広げていた。
「私はルフィさんたちと冒険した。彼らの仲間よ」
「私はルフィの幼馴染だけど?」
──マウントの取り合いである
後に彼女たちは口を揃えて言う。なんでそうなったのかは自分たちでもよく分からないと。
コブラはそこまで頭おかしな人じゃないけど、まぁいいかと思ってやりました。