ベルナートとコブラの話し合いはそう長くはかからなかった。コブラがいくつか問いたいことがあり、ベルナートがそれに素直に答えたからだ。
退出し、ライブ等の話をゴードンに任せたベルナートは、ウタのいるビビの部屋へと案内してもらう。赤い髪と空色の髪ってある意味対象的だなとか思いながら入室すると、目の前に大型のカルガモが。
「クエ」
「……ビビ王女もなかなかの変人に育ちましたな」
「いえベルナート様。そちらはビビ様のペットのカルーです」
「え、こっちが本当の王女様? コブラ王の娘ってすごいな」
「ですからこちらは超カルガモのカルーであって、ビビ様は人間です!」
「けどカルガモしか見えないんだけど」
「カルーもそこをどかないか! ビビ様はどうした!」
「クエェ!」
「うおっ! なんだ!? どうしたんだカルー!?」
カルーをどかせようとした兵士にカルーチョップ。中に入るなと翼をはためかせて威嚇してくる。
中に2人いることは把握し、一旦時間でも潰そうかとベルナートが悩んでいると、ビビが奥からカルーに声をかけた。中に入れていいのだと指示が出て、カルーはようやく道を開けた。ベルナートが中に入り、兵士は自分の本来の持ち場へ。
「人の言葉を理解できてるなんて、カルーって賢いんだね」
「そうなの。頼りになるのよ」
「クエッ!」
「2人とも仲良さげ……良さげ? なんでそんな微妙な空気に?」
言葉だけは仲良さそうに聞こえてくるのに、ウタもビビも向かい合っては座っていない。椅子の位置は対面なのに、本人たちが横を向いている。
ベルナートは首を傾げ、めんどうな空気を感じたのでカルーを連れて外へ。
「何逃げようとしてんのベルナート」
「超カルガモって最速らしいぞウタ。ちょっと乗せてもらって走ってくる」
「カルーは勝手にそんなことしないわよね~?」
「クェェ……」
「はぁぁぁ、なんでそうなったんだよ……」
露骨なまでに「めんどくさい」と態度で出したベルナートに、ウタとビビは説明しようとして……、いざ説明するとなると別に大した問題でもないのではと両者ともに気づいた。
2人は目を合わせ、どちらともなくくすっと吹き出し、次第に声を上げて笑いだした。ベルナートとカルーはドン引きである。
「はぁ~、何してたんだろうねほんとに」
「ええ。いがみ合う理由なんて何もないはずなのに」
「女ってわからんな」
「クエ」
空いている席へとビビがベルナートを招き、それに従って座る。カルーはビビの側に移動してそこでくつろぎだした。
「初めましてビビ王女。一応冒険家のベルナートです。今はウタのツアーに協力してます」
「畏まらなくて大丈夫よ。ここにいるのはただのウタさんのファンだもの」
「……ならお言葉に甘えて」
「この国でもライブをするのよね?」
「もちろん。この国は広いみたいだから、町を周ってそれぞれで公演したらまた次の島に行くつもり」
「さっき軽く話してきたけど、コブラ王も乗り気だった。ライブの日程はゴードンさんとこれから調整に入るはずだ」
「これだけ広いと、町も多そうだね」
「密なスケジュールにはしないでね。町から町へと渡るとなると毎回砂漠を通らないといけない。それだけで体力も使っちゃうわ」
「そこも込みでゴードンが考えてくれる。ねえ、この国の町のことを教えてくれない? 港町と
「港町、ナノハナのことね。あそこは香水でも有名だから、出航前に是非そういうお店も周ってみて」
「香水! そういうのもどんどん買っちゃおうっと」
「ふふっ。そこから近い町カトレアは、かつて反乱軍の本拠地になっていた場所ね。今は綺麗な町に戻ってるわ。この国の真ん中には巨大な川があって、ここから西にずっと進んで行ったところにレインベースという大きな町があるわ」
「レインベース……。そこってたしか」
「そう。クロコダイルが拠点にしていた町ね。彼が作ったカジノもそこにあるわ。今はオーナーを変えて経営を再開させてる」
「カジノか~。私やったことないから行ってみたいな~」
「ギャンブルはほどほどにね」
やりたいのなら止めはしない。ベルナートもそのつもりだが、さすがに資金すべてを費やさせるわけにもいかない。本当に行くとなったら、使える金額を予め設定しておくべきだ。
「西側にある交通の要所のオアシス。ユバという名前なのだけど、ここには最後に行ってほしいの」
「最後に? なんで?」
「最近他の島との地下トンネルが開通して、そのユバから温泉に行けるのよ。この国でのツアー終わりに、そこで疲れを癒やすのが最適だと思うわ」
「温泉があるの!?」
「他の島と繋がる地下トンネルってのも驚きだな。よく掘ったなそんな距離」
「実はそこは偶然だったのよ」
オアシス・ユバを任されているのは、トトという男性だ。この男は反乱軍のリーダーの父親なのだが、彼は「反乱など馬鹿げている」と一蹴。国王に任されたユバを守るために、クロコダイルによって引き起こされた幾度もの砂嵐を乗り越え、水が出るまで地面を掘り続けた。
そんな彼の弟が、他の島で温泉を掘り当てようと掘削の日々。空から降ってきた男も協力し、土の中にいた巨大モグラを発見。それを従わせて掘りすすめると見事に源泉を発見。
そこからさらに掘り進んでいたら、いつの間にかユバまでそれが続いて、地下トンネルが開通したという話だ。
「そんなこと起こるんだ……」
「ふふっ、何かの絵本に載ってそうな話でしょ? でもこれが現実。この海では信じられないような出来事が、当たり前のように起きてる。常識はあってないようなものだわ」
「さすが冒険の経験があるビビは違うね」
「うん? ウタはもう話を聞いたのか?」
「ううん。触りだけ」
「話?」
何のことだろうと一瞬だけ考え、そういえばドルトンの手紙でも触れられていたなと思い出す。ドルトンはウタたちのことを信用しており、ビビも今話していて大丈夫だと感じた。
そもそもウタはルフィの幼馴染だと先程言っていた。ベルナートも来た今、改めて話せばいいだろう。
「私は海賊嫌いで、ルフィが今海賊してるってのは知らなかったんだ。それでドルトンさんに聞こうと思ったら、ルフィたちのことをもっと知ってる人に聞くといいって言われて」
「それでこのアラバスタに来たんだ。……多くの海賊は、海賊という言葉からイメージできるものと遜色はないと思う。程度の差はあっても略奪は多いし、国が襲われる事件も新聞で見かける」
それはベルナートも同意見だ。1人で旅をしている時も、そういう現場に居合わせたことが何度かある。
「でもね、ルフィさんたちは違う。彼は自由に冒険するのが好きで、力で支配しようなんて考えを持たない。新聞では報じられてないけど、クロコダイルを倒したのもその部下たちを倒したのも、ルフィさんたちなの」
「ルフィが?」
「反乱を止めようとする私に力と勇気を貸してくれて、私のことを仲間だと言ってくれた。真実を知ってる人は少ないけど、私たちは彼らに救われた。ルフィさんは言ってたわ。海賊は自由なんだって」
その自由という言葉の中には、支配や略奪などの暴力が含まれていない。それはウタとベルナートにも理解できた。
「ルフィさんのことが載ってる新聞、いくつかあるけど読んでみる? 新聞の印象だと極悪人っぽいんだけど」
困ったようにビビは微笑み、その気持ちがわかるカルーも鳴いた。
ウタはそれを読むのを一回躊躇ったが、今のルフィを知ろうと決意してお願いする。それを受けてビビは本棚に保管してある新聞を持ち出した。アラバスタで別れて以降の彼らの動向が分かる新聞だ。
「これはエニエス・ロビーの一件。世界政府の旗を撃ち抜いたり、島を火の海にしたって書かれてる」
「何してんのルフィ!?」
「政府の旗を撃ち抜いたってことは、これ世界政府への宣戦布告だと受け止められる」
「なんで……ルフィがそんなこと……」
1発目からとんでもない事件が出てきて目眩を起こすウタをベルナートがまた支えた。ウタの記憶の中のルフィは、そんなことをする人物ではない。そのギャップが理解を苦しませる。
「えっと……大丈夫かしら……」
「大丈夫じゃないと思うが、麦わらの一味の手配書あるか?」
「え、うん。ちょっと待ってて」
再度離席して、今度は机の引き出しから手配書を取り出す。麦わらの一味の手配書だけは保管されているらしい。
ベルナートはそれを受け取り、その中から1枚選んでそれを一番上に置いた。
「……どうしたのベルナート? 君の好みの人?」
「違うわ! ニコ・ロビンが麦わらの一味なら、この1件の裏が予想できる」
「裏?」
「まずウタに覚えといてほしいのは、新聞ってのは政府の都合の良いように書かれるってことだ。アラバスタの件も、麦わらの一味じゃなくて海軍が対処したってことになってる。隠蔽は多い」
「……」
「真実も書かれるけどな、全部を鵜呑みにはするな。それでこの司法の島での事件。ニコ・ロビンが絡んでるなら根が深い」
「なんで?」
「20年前、
「うん」
「その研究が進んだ結果、
「なにそれ?」
「どんな攻撃にも耐えられる頑丈な石に刻まれた文書だ。それが世界の歴史を解く鍵とされていて、政府はその解読を禁じている」
つまりそれの研究は犯罪行為にあたり、それを読める人物ともなると世界政府にとって不都合な凶悪の存在となる。
「ニコ・ロビンはそこの唯一の生き残りだ。司法の島なんて海賊が自ら行くところじゃない。なら考えられるのは」
「仲間の救出……。たしかにルフィさんたちならそうする。仲間のために命を張れちゃう人たちだもの」
「でも火の海になったって……これはやり過ぎだよ。こんなの……」
ウタは自身の知っている過去の事件を思い起こして表情を曇らせた。あの夜も、国は、島は大火に包まれていた。
それを否定したのは、他ならぬビビだ。彼らと冒険をし、彼らの仲間であるビビはそれを否定できる。ありえないと。
「ルフィさんは、倒さないといけない相手と戦うだけ。クロコダイルとの時だって、彼は上陸前からクロコダイルをぶっ飛ばすことだけを考えてた。島を燃やすなんて
「じゃあこの写真はなに!? 島は実際に燃やされたんでしょ!?」
「……言ったろ。政府は
「っ!?」
「真相は当人に聞くしかないけどな」
そう言ってからベルナートはふと思い出した。ベルナートがウォーターセブンを訪れたのは、この事件の後だ。そこで気になることを聞いたことがあった。曰く、麦わらの一味以外にも協力者がいたと。
酔っ払いの妄想話だと聞き流していたものだが、ルフィの人柄を知る人物が新聞の内容を真っ向否定している。真相を確かめるとなると、そこに寄ってみて調査するのも有りだ。
だが目的はあくまでワールドツアー。麦わらの一味の足跡を追いかけることじゃない。ベルナートはその事を頭の片隅にしまった。
「私はルフィさんのことを信じてる。ウタさんは?」
「私は…………っ、信じたいよ。……でも……海賊のことは信じられない……!」
「ウタさん……」
「同じ海にいるんだ。いずれ会う日も来るだろ。その時に当人に詰めてみたらいい」
「一応この後の新聞でもルフィさんのことが載ってるのだけど、……どうする?」
「……見る」
それが頭に入るとも思えなかったが、ここでやめるのも何か違う気がした。この町にも2、3日は滞在するだろう。整理ができてから、またビビに記事を読ませてもらうこともできる。
「これはシャボンディ諸島でルフィさんが天竜人を殴った事件ね」
「載る事件がどれもぶっとんでるな……」
「私はこれも理由があってのことだと思ってる。無闇に人を傷つけるようなことはしないし、それを許せない人でもあるから。……たぶん、これもそういうことね」
「そういうことか」
「ベルナート。天竜人を殴ったらなんで事件なの?」
「ああそっか。その辺まだ教えてなかったな」
天竜人は世界政府を作った偉人たちの子孫だ。その存在は今も尊きものとされ、神と同一視すらされている。その天竜人を傷つけるようなことをすれば、海軍本部の大将が対処しに現場にやってくる。
ちなみに天竜人にとって、天竜人以外のモノすべては権利がないに等しい。「こいつ欲しい」となれば買われ、「お前死刑」と言えばその者を殺しても罪にならない。その事もあって、天竜人は恐れられている。
「何その最低な人たち」
「そういう発言も本人の前ではするなよ。あいつらはそれだけで人を殺そうとする。自分たち以外は、自分たちを愉しませるためだけに存在すると思ってる。……いや、思いすらしないか。そうであって当然だと認識してるからな」
「……もしかしてベルナート。天竜人嫌いなの? 珍しく語気強くなってるよ」
「バレた? 天竜人は嫌いな存在の代表格だ。オレは理不尽が大ッキライだからな。海賊もそういう海賊が嫌いってわけだ」
そうじゃない海賊は嫌わない。ベルナートにとってその代表例が赤髪海賊団となる。
「それより、天竜人殴った後のを見ていくか。大将から逃げれたってそれだけで偉業レベルなのに、この後さらにとんでもないことしてるからな」
「ルフィって大事件起こしてばっかなの?」
「そうしたくてしてるわけじゃないはずだけど……」
インペルダウンでの前人未到の大犯罪。さらには直後に海軍本部での頂上戦争への乱入。そこで深手を負いながらも、その数日後には再度海軍本部に現れ16点鐘。
この騒ぎ以降、麦わらのルフィのことはどの新聞にも記されていない。しかも一味誰一人もがだ。これだけ船長が騒ぎを起こした一味ならば、仮にその誰かが捕まっただけでも記事には載るはず。それが一切ないのは、不可解なものだ。
「憶測にはなるのだけど、今こうしてるんじゃないかなって予想は1つだけあるの」
最後の記事。戦争後に海軍本部に現れ、その姿を写真に撮られているルフィをビビは2人に見せる。
「ウタさんがルフィさんの幼馴染だから話すけど、これがその答え。私の予想が正しければ、彼らはまた動き出す」
次回の更新は来週のどこかで。