EXIT COLD WATER   作:海砂

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『オレと彼女と無人島?』

 一ヶ月前、彼女が出来た。

 オレにも奇跡が起こった。玉砕覚悟で告ったらおkだったのだ。

 彼女の名前は神村都子(カミムラトコ)ちゃん。クールビューティーだけど……なんていうのかな、時々なんだか心細い。あれ? か弱そうって言うのかな? 強く見えるんだけど、多分この子本当は弱い子なんじゃないかな、みたいな。

 

 まぁ、それはともかく。

 OKをもらって以来、オレの脳内はお花畑。

 いやー、幸せってあるところにはあるもんですねハァハァ

 一緒に登下校とか、いいね。

 一緒にお弁当食べたりとか、いいね。

 手作りのバレンタインチョコとかね、もらえたならばもうオレ死んでもいいよ。

 リア充最高!

 

 で、今日もいつものごとく、お互いの部活が終わるのを待って、帰ろうとしていた。

 

「帰りコンビニ寄ってもいい?」

 

「またジャンプ? 毎週毎週大変だね」

 

「いや、面白いし!」

 

「知ってるし。ウチも弟が毎週買ってるから」

 

「マジで!? 読んでる!? どれが好き!!?」

 

「ワンピース」

 

 どうでもいいことを話しながら(それもまた幸せである)校門を出る。

 

 踏み出した一歩が地面に付かなかった。

 

 およ? と思った時には、オレは空中に投げ出されていた。

 

 

 繋いだ手は離さない。

 オレの幸せの源! マイハニー都子たん! 君だけは絶対に離さない!

 

 

 そしてオレ達は、何故か海に落ちたのだった。どぽーんとね。

 

 

----------

 

 

 一ヶ月前、彼氏ができた。

 同じクラスの大場美貴と書いてオオバヨシタカと読む。入学式の日に初めて名前を見たときは、女の子だと思った。単純だけど、まあ悪い奴ではない。

 サッカー部のエースストライカーだと自分で言っていたが、サッカーは知らないのでよくわからない。

 突然呼び出されて告白されて、別に嫌いじゃないのでとりあえずOKしてみた。

 割と趣味も合うし、無理やりキスとかしてくるわけでも無いし、友達より一歩踏み込んだ程度の今の関係は、それなりに気に入っていた。

 

 サッカー部は終わるのがほかの部活より少し遅い。

 だから私はいつも練習の様子を覗きにいくのが日課になっていた。

 美貴に見つかるとうるさいから、こっそりと見つからないように。

 汗だくになって動き回っている美貴は、嫌いじゃない。何をやっているのかはいまだによくわからないけど。

 

 そして待ち合わせは下駄箱を出たところ。美貴は私の部活が先に終わっているのを知らない。時々は、美貴より遅れた振りをして、お待たせ、とか言いながら一緒に帰る。今日もそうだった。何でそんなことをするのかは、自分でもよくわからなかった。

 

 そして今日はいつもと違っていた。

 校門から出た瞬間、めまいがした。

 けれどそれはめまいじゃなかった。校門の先にあるはずの道がなく、私は美貴とともに転落していたのだ。

 何故? とか思う暇もなく、着地……じゃなかった、着水した。

 塩辛い水、多分海。自慢じゃないが私は泳げない。美貴はスポーツ万能っぽいから多分、助けてくれるだろう、そう思って必死で顔を水面に上げると……

 

「おっ、オレっ! 泳げねー!!」

 

 ……最悪の事態が待っていた。溺死なんて嫌だ! がぼっ。

 

 

 

 

 

 目覚めると、まだ体が濡れていた。どうやら夢じゃないらしい。

 そして死ぬことも無かったらしい。

 がっちりと私の手を握っている美貴の顔を見た。呼吸はしているようだ。

 口の中にワカメが生えているようだが気にしないでおこう。

 

 そして……ここは、どこ?

 砂浜に打ち上げられた私達。目の前には森がある。遠くに山も見える。無人島? まさかね。

 人の気配は無い。美貴と私以外には。そしてしばらくすると美貴も目を覚ました。

 

「都子ちゃん! 無事!?」

 

 お前が無事か。

 

「……で、えーと……何があったんだ?」

 

 私が聞きたい。というか、とりあえず口からにょっきりと伸びているそのワカメを何とかしろ。

 

「校門から出たら落ちた。溺れた。気が付いたらここだった」

 

 美貴は、呆然としつつも口の中のワカメを引き抜いた。結構長いな、ワカメ。

 

「ありえない……」

 

 ありえないけど、どうやら現実だと思うよ。溺れている時に岩で引っかいた傷が痛いから。でも、実際には夢の中でも痛みって感じるよねぇ? それって私だけなのかな。

 

「いや、都子ちゃんなんでそんなに冷静なの!? 普通じゃないでしょこの状況! っていうかココハドコ!オレはヨシタカ!」

 

「少しうろついてみる?」

 

「いや、その前に……服を乾かしたいデス……」

 

 とりあえず私達は立ち上がった。確かに服や砂がまとわり付いて気色悪い。

 森に入って枯れ木を集める。私がポケットに入れていたライターで火をつけた。どうやら乾燥しているらしく、すぐに枝は燃え上がって小さな焚き火になった。

 

「都子ちゃん……なんでそんなもの持ってるの?」

 

「タバコ吸うからさ、私」

 

 一緒にポケットに入れていたタバコは湿気ってとても吸えそうに無い。握りつぶして焚き火の中に放り込んだ。

 ……美貴は絶句している。いや、あんた私が元ヤンだって知ってたはずだよね、一応?

 

「うん、いい機会だしタバコやめちゃおうよ!」

 

 どういう機会だ。突っ込もうとして美貴を見ると、上半身裸になっていた。

 

「服脱ぐ? 脱ぐ? て言うかオレはもう脱いでるけど!」

 

 脱ぎません。

 

「まぁ、脱がなくても風邪引く心配は無いかな? なんかここ暖かいし!」

 

 そうだ。何か変だと思ったら、ここは妙に暖かい。二月の日本とは思えない。まるで真夏だ。

 ……もう、考えるのが面倒になってきた。さっきも美貴が言ってたけど、どう考えても普通じゃない。

 

「でも塩でべたつくのは嫌かな……落ち着いたら川か何か水場を探しにいこう? 飲み水も確保したいし」

 

「都子ちゃん……こんな状況なのに、カッコイイ……」

 

 いたって普通の思考だと思うんだけど。パニックにならなかったって言うのは、私のもともとの性格、何に対しても基本冷めてるっていうのが関係してるかもしれないけど。

 

「ていうかここ、もしかして無人島! 無人島で都子ちゃんと二人っきり! こ、これはもしや何かのフラグ」

 

 美貴の顔がキモい。

 

「都子ちゃん! オレが絶対に守ってあげるからね!」

 

 期待はしないでおくよ。

 

 

 

 

 太陽がだいぶ傾いた。夜になる前に私達は行動を開始した。

 まずはさっきも言ったように、水辺の探索。海沿いに歩けば川が見つかるだろうという二人の浅はかな考えは意外と正しかったらしく、割とすぐに、大きな川辺に出た。そこから川を上っていく。塩気が抜けた水でないと意味がないから。

 

「それにしても綺麗な川だよね。メダカとか泳いでそう」

 

 メダカは小川じゃないのかな? どう考えても目の前にあるのは大河とまではいかないまでも、向こう岸まで1キロくらいはありそうな大きな大きな川。むしろバスとかの方がいそうだ。あれ? アレは沼だっけ? よく知らない。

 

「美貴、この辺でまた焚き火をおこそう。あんまり山の方に行っても危ないかもしれないし」

 

 それに、水浴びしたい。乾いてゴワゴワになった制服は着ていて気分が悪くなる。

 

「オレ、絶対覗かないからね!」

 

 こいつ絶対覗く。

 

「あっち見てるから! 火おこしてるから! 気にしないで浴びてきて!」

 

 少々心配ではあるけれど気にしていても仕方がないので、私は服を脱ぐことなくそのまま川に入ろうとした。

 

 

 どくん。

 

 

 ……ほんの足先だけが水に浸かっているだけの深さで、私の足が止まる。

 これ以上、先に進めない。……怖い。

 そういえば、さっき私は溺れたんだった。これ以上水の中に入るのを、体全体で拒否している感じだ。鳥肌が立ってくる。

 

「入らないの? てか脱がないの?」

 

 やっぱり見てやがったなこの野郎。

 

「……怖いんだけど」

 

「水が?」

 

 私は無言で頷いた。けれど塩の臭いはもうたくさんなので、手で水をすくって頭からかぶる。……あんまり意味はないけど。でも、顔を洗えただけでも少し心がすっとした。自分が大量の水の中に入るのでなければ、別に怖くはないらしい。

 

「オレも顔洗おうっと!」

 

 美貴が私の隣に来て、同じように水をすくう。そこで、ありえない変化が現れた。

 

「……都子ちゃん」

 

「なに?」

 

「これは……ナンデショウカ?」

 

「私に聞かないで」

 

 美貴のすくった水がじわじわと、意思を持ったかのように塊となって宙に浮いたのだ。私も美貴も目を丸くしてそれを見ていた。まるで風船みたいだ。

 

「……危険は、なさそうだけど」

 

 私は目の前にふよふよと浮いている水球をつついてみた。指はするりと水の中に入っていき、特に抵抗もない。

 今度は平手で叩いてみる。すると水ははじけ飛んで飛沫となり、飛び散ってしまった。

 

「……ただの水みたいね、多分」

 

「ただの水は宙に浮かばないとオモイマス……」

 

「もう一回すくってみて」

 

 私の言葉を聞いて、美貴はしぶしぶと再び水をすくい上げた。けれど今度は何の変化もなく、ぼたぼたと指の隙間から零れ落ちて川の中に還っていった。

 

「……なんだったんだろう」

 

「さぁ。とりあえず、見なかったことにしたいなぁ、オレとしては」

 

 多分、気のせいだったんだろう。二人まとめて幻覚を見るというのも変な話だけど、そもそもこの場所に来たこと自体かなり変な話だ。

 

「そうだね。見なかったことにして、火、おこそうか……」

 

 なんだか、疲れた。何も考えたくない。考えたところで、多分この現実は変わらないのだろうし。

 私は、美貴が一生懸命枯れ枝に火をつけているのを、座り込んでじっと眺めていた。

 

 

----------

 

 

 都子ちゃんは疲れ切った顔をしている。ここは男のオレがいいところを見せねば!

 て言うか夜だしね。夜だしね! あーんなことやこーんなことやそんなことだってうひひひひ。

 

 というヨコシマな気持ちが見事に空回りして、なかなか枯れ枝に火をつけることが出来ずに、煙に巻かれて涙目になっているオレちゃんなのでした。カッコ悪orz

 

「美貴ぁ、……無理、しなくてもイイヨ? 火がなくても凍死はしないだろうし」

 

 都子ちゃんがニラニラしながらオレを眺めている。何かもう色々ダイナシだ。

 

「いやいやいや! ほら、森の中には猛獣が住んでいるかもしれない……しぃぃぃい!」

 

 オレは見た。都子ちゃんの背後に、人間よりも大きな影がゆらりとうごめいたのを。

 

「……?」

 

「とっ、都子ちゃんこっちきて!!!」

 

 慌てて都子ちゃんを引っ張り自分の背後に隠して、オレは影の正体を確かめようとした。

 確かめたくない。足が震える。本当は全力で逃げ出したい。でもそんなのカッコ悪い!

 

 そして現れたのは……牙が異常に発達した虎。さ、サーベルタイガー!? うそん。

 

「……っ!」

 

 都子ちゃんが息を呑んだ。だ、大丈夫、オレがエサになってでも絶対に都子ちゃんだけは守るから!

 虎がじわじわとオレ達に近寄ってくる。目が合った。……何考えてるのかわからないぃい! あれか? おいしそうなエサ発見!! とか思ってるのか?

 

 お互いの息遣いがわかるくらいまでそばに来た。オレの足は震えるのをやめたけど、今度は凍りついたようにピクリとも動かない。多分、都子ちゃんも似たような感じなんだと思う。

 

 触れるくらいまで近くに来た。オレは突然グワァーっと食いつかれるんじゃないかと、ひたすらビクビクしている。

 虎はフンフンと鼻を鳴らして、オレの服の匂いをかいでいる。あああ、海に落ちたから塩味ウマーとか思ってるんだろうかアワワワワ。

 

 

 すりん。

 

 

 ……ん?

 

 

 すりすりすり。

 

 

 虎は、オレの胸におでこをごっつんこして、のどをゴロゴロ鳴らしている。

 

「……え? どういうこと?」

 

 都子ちゃんが目を白黒させている。オレもほぼ同じ状態だ。

 虎はにゃあんとひと鳴きすると、今度は体をオレに擦り付け始めた。

 

「ひ、人懐こい虎みたいだね……」

 

「誰かに飼われてるのかな……」

 

 とりあえず首輪はしていない。オレがじろじろと虎の観察をしている間に、今度は都子ちゃんのほうに歩み寄って、同じようにクンカクンカ、スリスリゴロゴロしている。

 耳の後ろをカシカシしてあげたら、虎ののどがさらに大きな音を立ててゴロゴロゴロ……ついにはおなか丸出しで地面に転がってしまった。

 

「どうする?」

 

「……とりあえず、私はもう寝るわ。危険なさそうだし」

 

 虎の横に、都子ちゃんも転がった。……やっぱり神経太いと思うよ、都子ちゃんって。

 

「名前付けてやろうかなぁ」

 

「好きにすれば?」

 

 サーベルタイガーの名前っつったらアレだよね。

 

「よし、お前の名前は千早!」

 

 言葉がわかるのか、にゃうんにゃうんと頷いて、千早は都子ちゃんに擦り寄った。

 

「あ、思ったよりゴワゴワだけどあったかい」

 

「何!? よーしオレも一緒にポカポカする!」

 

 うーん、当初の妄想からかなりかけ離れてしまったけど、都子ちゃんと千早にくっついて寝れるのはそれなりに幸せだ。

 今夜はとりあえずこのまま寝て、明日は食べ物を探しに行くかな。

 

 

 オヤスミナサイ……。

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