結論から言うと、少なくともここは日本ではない。いや、最初っからなんとなくそんな気はしてたけど。
オレ達二人ともが見たこともないような生物が、ここにはウジャウジャいるのだ。
危険そうな生物はいなかった。というわけでもないのだが、千早をはじめとしてガチで危険そうな猛獣はみな人懐っこいのだ。虫とかも普通に寄ってくる。
とりあえず何故かオレだけに擦り寄ってくるゲジゲジみたいなのはマジでどうにかして欲しい。キモがっているオレを見て都子ちゃんが笑っていた。ひどいよね。
これまでの所、人には出会わなかった。でも、とりあえず食えそうな木の実とか食べているし水もあるので、今は問題ない。俺が毒見をして、一時間以上くらい経っても平気なら都子ちゃんにも食べてもらうって感じで。
あと、千早がウサギみたいな動物を取ってきてくれたりもした。都子ちゃんはさすがに眉をしかめていたので、オレがシメて毛をむしってから、あぶり焼きにして一緒に食べる。結構おいしかった。
そんな感じで多分一週間くらい過ぎたと思う。いちいち日数確認してないけど、多分そのくらい。
「あのさ……さすがにそろそろ、ヤバイかなーとか思うんだけど」
都子ちゃんがそんなことを言い出した。食べ物には困らないにしても、確かに人と出会えないのはかなり絶望的だ。
オレだって、都子ちゃんがいなかったら、とっくの昔に発狂してたかもしれない。会話って大事です。
どうでもいいことですが、とある晩に都子ちゃんでハァハァしようとしてたらグーで殴られました。襲いかかるより健全だと思うのですが。都子ちゃん、とってもつおい子ですね。
「マジで無人島なのかな、ここ」
ブサメンだらけの島なら許す。美女ばかりの島でも当然許す。だがイケメン、テメーらは駄目だ!
オレがそんなアホウなことを考えているなどとは露知らず(知られたらきっと鉄拳制裁)都子ちゃんはうんうんと悩んでいる。うーん、そんな表情もかわいいなぁ。
「狭い島ではなさそうだけどね、あの川の広さとか見ても」
「海沿いか川沿いににひたすら歩いてみたらどうだろう。無人じゃなけりゃ港とかあるかもしれない」
「うーん……ていうか今ふっと思ったんだけどさ、人型がいない可能性だってあると思わない?」
へ? 意味がわからん。
「つまり、地球ですらないっていう可能性。だって、サーベルタイガーだって地球では絶滅してるはずなんだよ」
へー、そうなのか。脳みそ筋肉でできているオレと違って、彼女は頭も良いのです。畜生、オレが都子ちゃんに勝ってるのって運動だけじゃなかろうか。
「じゃあ、宇宙人がいたりとか?」
言葉が通じなかったらどうしようとか、そのくらいしか考えて無かった。宇宙人かー。タコとかはやだなぁ。せめてヒトガタであってほしい。
「まぁ、そんなこと、見ればわかると思うけど。うん、歩けるだけ歩いてみよっか。やっぱり今のままだと色々心配だし。知的生命体に出会えたらそれだけでも何かの足しには……まてよ、問答無用で殺される可能性もあるよね……でもこのままここにいたって結局野垂れ死にするのは目に見えてるし……いくら千早が助けてくれるったって限度はあるしね……」
都子ちゃんの脳みそがフル回転しています。とりあえず、超巨大ロボとかじゃなければ千早が何とかしてくれると思うよ。
そもそも、この島に着てから色んな動物を見てきたけど、みーんな友好的。千早ほどじゃないにしても、襲われたりなんてことは一度もなかった。
きっとこの星の生き物はみんな優しいんだよ! と力説したら楽天家だと笑われた。くそう。
千早の取ってきてくれたウサギで作った保存食……つっても炙って干しただけ……を持って、オレ達はヒトを探す旅に出た。
オレは歩く。都子ちゃんは千早の背中に乗っている。その辺に生えていたツタを使って手綱のようなモノを作って千早のゴツい牙にひっかけてるんだけど案外使えるみたいだ。元々都子ちゃんも運動神経が悪いわけではないからなぁ。
も、もしかして、オレが都子ちゃんに勝ってるのって、運動のなかでもさらにサッカーだけとかいうオチじゃなかろか、カンベンしてください。
オレは歩く。都子ちゃんは千早に乗っている。特に目新しいものは何も見えない。
右手に川。左手に森。ただそれが延々と続いている。太陽の傾きっぷりを見るに、多分半日以上歩き続けたと思うんだけど……。
「都子ちゃん、さすがにオレも疲れたよ」
「美貴はともかく、千早もそろそろ疲れたかな?」
千早はぐるにゃンとお返事をしている。……オレより千早の方が使える子? もしかしてオレってばいらない子?
「じゃあこの辺で休もうか。雲行きが怪しくなってるからどっか雨も避けられる場所を探さないとね……」
「はいはいはいっ! オレが探してきます!」
いらない子になるのはゴメンだ! オレは千早よりも使える奴になるんだ! そして都子ちゃんに「ありがとう、美貴(はぁと)」とか言ってもらうんだ!!
ほら穴かなんかを探して必死で走り回るオレを見つめながら、都子ちゃんが不思議そうな顔をしていた。くっ、オレの原動力、都子ちゃんにはわかるまい。
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美貴が小さな洞穴を見つけてきたのは、日も暮れてからだった。
かなり苦労をした様子で、全身泥だらけになって息もかなり切れている。
身長差があるので必然的に上目遣いで『ごめんね、ありがとうね』って言ったんだけど、何故かそれだけで満足げな顔をされた。やっぱり美貴のことはよくわからない。
でも感謝しているのは本当。ほら穴にたどり着いてしばらくすると、これはもうスコールかというくらいの激しい雨が地面に叩きつけられている。1m先もよく見えないほどの、激しい奴。
美貴は疲れ果てたのか、そのまま転がって眠ってしまった。風邪は引かないだろうと思うけど、念のために千早を彼のそばに寄せておく。ヒトハダは心地よい。ヒトじゃないけど。
そして私は火をおこし始めた。
……ライターのガスは限りある資源。種火を常に携帯していた方がいいかもしれないな、そんなことを考えながら火をつける。火が無くなってしまったら、いよいよ本当に死んでしまうかもしれない。
その前に、誰かヒトに出会えたらいいんだけど……。
そういえば、千早は最初から火を嫌がるそぶりすら見せなかった。自然の獣は多分火を怖がると思うので、やっぱりどこかで人間に飼われていたか、少なくとも人間のそばに住んでいたに違いない。
「千早、私たち以外の人間の居場所、知らないかな……?」
千早は私をじっと見つめる。自分が何かを言われているのは理解したようで、少し首をかしげたあとに「アン」と短く鳴いた。じっと私を見つめていたガラス玉のような目はふと私の手元に視線を移す。ようやく火が付いたようだった。