EXIT COLD WATER   作:海砂

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『オレと彼女とスカートと』

 目が覚めると、都子ちゃんと一緒に千早にくるまっていた。外の大雨はとっくにやんだようで、既に地面も乾いている。ていうか、それがわかるくらい、既に夜もあけていた。どんだけ寝てたんだオレ。

 二人を起こさないようにそっと立ち上がったつもりが、千早は薄く目を開ける。口元に人差し指を当ててシーってしたら、また目を閉じてクークーと寝てしまった。やっぱコイツ、オレの言葉理解してるよなぁ。

 

 火が消えそうだったので、そのへんの小枝を拾ってきて火に投げ入れた。湿気ってたらしく、もくもくと煙が上がる。やばい、都子ちゃんが起き……。

 

「一酸化炭素中毒で殺す気?」

 

 すでに起きてらっしゃる。あわてて火のついている一番太い枝を持って、オレ達は洞窟を出た。全員が若干涙目。ごめんなさい、悪気はなかったんです。

 

「さて……また川沿いに延々と歩き続けるお仕事に戻るわけなんだけど……」

 都子ちゃんが言い終わる前に、千早がオレのシャツの裾をグイグイと引っ張ってきた。

 

「どした千早?」

 

 オレの反応が鈍いので呆れたのか、今度は都子ちゃんのスカートの裾をくわえようとしている。ちょっとくらい、めくってくれてもいいのよ?

 

「千早?」

 

 どうも、とある方向にオレ達を連れて行きたいようだ。でも、そっちへ行ってしまうと川からは離れることになる。

 

「都子ちゃん、どうする?」

 

 オレ達が顔を見合わせているあいだにも千早はグイグイとスカートを引っ張っている。よし、もう少し力を入れて引っ張るんだ! オレが許す! さあ早くやれ!

 

「このまま川沿いに歩いても何かが見つかるって保証もないしねぇ……千早の言うとおりにしてみよっか」

 

 あっ、都子ちゃん、さりげなく千早のノドをカシカシしてくわえていたスカートを離させた! あと少しだったのに。

 

 

 千早について森を歩く。千早について森を歩く。

 千早は先導するように時々振り返ってはオレ達をどこかへ導いている、ように見える。

 千早について森を歩く。ただひたすらに森を歩く。

 都子ちゃんもオレも無言で歩き続ける。

 千早について森を歩く。だんだんと日が暮れてきた。都子ちゃんが千早に声をかけた。

 

「千早、もう暗くなるから一旦このあたりで休もうか」

 

 千早は振り返ってぐるにゃんと鳴いた。やっぱ頭良いなコイツ。ならば何故都子ちゃんのスカートを(以下自粛)

 

 

----------

 

 

 今日一日で随分と歩いたような気がする。千早はずっと先導してくれていたので、今日は私も一緒に歩いていた。口には出さないけどいい加減足が痛い。太ももとふくらはぎの筋肉が強っているのがわかる。ああ……温泉にゆっくりと入りたい。

 温泉温泉……と、美貴が不思議そうな顔でこちらを見ている。どうやら口に出してしまっていたようだ。

 

「都子ちゃん、温泉に入りたいの?」

 

 なんだか恥ずかしくなってしまったので、美貴の問い掛けは全力無視する。あ、凹んだ。

 

「温泉とか、あったらいいのにねって思っただけー」

 

 あ、くるりと笑顔になった。美貴はいちいち反応が面白いなあ。

 

「千早千早、温泉の場所知ってたら教えてよ!」

 

 美貴は、千早にヒトの言葉が通じると思い込んでいるようだ。もう何の違和感もなく千早に話しかけている。日本語で。千早は美貴に向かってふんふんと鼻を鳴らし返す。……もしかして、本当に通じてたりして。

 すると千早、突然ヒゲを前方に向けて鼻を膨らませると、勢いよく走り出した!

 

「千早!?」

 

 くるりと振り返った千早は、改めて前方を見る。私たちが追いついた頃合を見計らってまた走り出す。それを三回ほど繰り返し、日が暮れる間際に、もうもうと湯気の上がる池へと到着した。こ、これは!!

 

「……温泉……だね」

 

「千早! すごい! よくやった!!」

 

 ドヤ顔の千早の頭をぐしゃぐしゃに撫でている美貴。千早もまんざらでもなさそうだ。うわ、本当に日本語が通じたのか、何者なんだこの子。

 とりあえず私は湯温を調べてみる。煮えたぎってもないし、直接指を突っ込んでみるとちょうどよい湯加減。ちょっと白みがかった透明のお湯が、もう溢れんばかりに湧き出している。深さも入るのにちょうどよさそうだ。

 

「都子ちゃん、入る? 入る? 一緒に入る!?」

 

「私が入る間誰も覗かないように見張っててくれるかな、千早。もちろんコイツもね」

 

 千早は暴れる美貴の襟首をくわえてどこかへと行ってしまいました。うん、確実に日本語通じてるね。とはいえ念の為に下着は付けたままで……ふぉおおおおおおおおおおおおお気ン持ちいいいいー!!

 

 遠慮なく温泉を謳歌していた私は、湯気だらけの目の前、同じ温泉の中に誰かいるなんて知るよしもなかったのである……日も暮れて視界真っ暗だったし。

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