次のお話は欠片も書いてないです。
妄想ばかりの文だからなにか矛盾とかがあってもそういう世界線なんだと思ってください。
「(...そういえば、温室が綺麗だったとテレジアが言っていたな)」
日を跨いだ深夜1時、未だ建築途中の移動要塞【ロドス・アイランド】の薄暗く、少し埃っぽい廊下にて深くフードを被り、顔を仮面で隠した肌の露出が一切無く男か女かも分からない人物【ドクター】が靴音を響かせながら歩いていた。
ドクターは酷く長引いてしまった作業を終え、明日の為にもさっさと自室に帰って寝てしまおうと考えていたのだが、ふと今日の昼休憩の際共に食事を摂ったテレジアからそんな話を聞いた事を思い出した。
建設中の艦船は大まかな部屋の区切りや重要役割を持つ部屋、戦闘オペレーターやその他の研究員、職員などの自室を除き手付かずで無機質な場所ばかりだ、そんな中テレジアが伝えてきたのは豊かな植物と色に溢れた植物温室の存在だった。
「(温室へは1つ前の角を右に曲がり...)」
正直、現在のバベルにおいて温室とは綺麗に整えるための優先度は低い。
しかしながらテレジアに温室の話を聞くよりも以前にケルシーから伝えられた情報によると、元々優先度が低くとりあえずで積まれた土しか無かったのだが、ケルシーのツテで連れてこられた植物学者が温室に植える植物や木、道具などを全て当人のアーツを駆使して持ってきたことによって少しづつ形になりつつある。と、いうことだったのだが、こんな短期間でそんな共有するような出来栄えになっているのだろうかと少しばかり気になったドクターは、
「(この時間では1時間ほど寝るのが遅くなってもそう変わらないだろう)」
今日の早朝ミーティングのこともしっかりと覚えてはいるが、ここ最近はトラブルが重なったり、研究が上手くいかなかったりとストレスが溜まっていて、元々深くない眠りも浅くなる一方だった為少しばかり気分転換をしてみるのもいいのではないかと思っていた。
自分にとって良い気分転換にならなくともテレジアやあの子とする会話のレパートリーが増えるだろうとも思っていた。
「(重要な研究室やオフィスなどが多く存在する上層から中層ではなく、最下層にある植物温室は利便性と引替えに船内で1番の広さを持っている...と資料に書いてあったな。
階層3階分の高さを持ち横の広さで言ってしまえば船の半分以上ある。残りの部分は滅多に使わないだろう地面と直に接する搬入口と少数の空き部屋のみ...)」
植物温室は巨大なこの船の何層もある階層のうち、大雑把なエリア分けとして上層、中層、下層、最下層のうちの最下層に存在する。
未だ動くことは無い船ではあるが、移動都市が多く存在するテラでは他の船への出入りには移動都市との接続部のある中層に存在する出入口や搬入口を使用する。移動都市ではない町などに降りる際にも中層から伸びる階段を使用することになるだろうとクロージャから伝えられている。
最下層の搬入口は走っている状態の船から降りたり逆に入ったりする際にしか開くことは無いだろうと。
そんな最下層の搬入口に隣接するようにして同じ階のほとんどを持つのが中央温室だ。
将来的な構想では船内の移動設備が充実するにつれ中層から下層に点在する居住区からも行きやすくなり、船で生活する人々の憩いの場になるだろう...とはされているが現状としてはだいぶ遠い未来の話だろうとされていた。
「(この階段を降り切れば)...フゥ、はぁ、運動不足に響くな....」
運動不足の体に鞭をいれひたすらに下ってきた階段が終われば温室へ繋がるドアが見える。くもりガラスで出来たドアはほとんど照明がないこともありその奥の色を見通すことは出来ない。
「(まぁ、いくら綺麗とは言ってもせいぜい季節の花が置いてあったとかそのレベルだろう。テレジアが言うのだから綺麗ではあるのだろうが....)」
両開きのドアの右扉をゆっくりと開く...そこには
「....は?」
高い天井に枝を伸ばす立派な木々とその根元を埋める沢山の白い花をつけた低木達が存在した。
「これを...こんな短期間で作ったのか...?」
見掛け倒しでは無い、薄暗い照明しかないがしっかりと目立つはずの白い壁はどこにも見えない。
ケルシーが連れてきたという植物学者は1人でこちらに来たのもわずか1ヶ月半ほど前だったはずだ。
それなのに木々は生い茂り花は豊かに咲き誇り、人の通る道は綺麗にレンガを敷き詰め整えられて、道から外れないようにしっかりと低木によって道が可視化されている。
「すこし、気になるな。思ったよりも良い気分転換になりそうだ。....ここには誰もいないのか」
思わず呆気に取られたため視界の端に寄せていたが、ドアを開けた真っ直ぐ先に二階建ての円形の建物がある。温室の入口側にはガラス張りの大きな窓があり、おそらく案内所か何かなのだろう。
そこを分け目とするようレンガの道は左右に別れていた。
しかし、案内所を囲むようにもレンガは敷かれており、そのまま奥に進むこともできるようだった。
「真っ直ぐ行くこともできるようだが...これは....さすがに暗いな。右も真っ暗だ、となれば進むべきは左だな」
左の道には道のふちに等間隔でアンティーク調の美しいランタン達が置かれていた。全てに光が灯っており、その光を辿って進むには十分な視界を確保出来た。
ランタン前に屈み、眩しさで暗む視界でよく見てみればそれぞれ異なった模様が入っていて全て手作りであることがわかった。
光を辿りカーブを描く道を歩き入口を少し遠いと思う距離までやってきたが、まだまだ温室は広いだろうということは温室の面積的にも、視界の情報からもよくわかった。
今まで追ってきたランタンの光が道のさなかで途切れ好奇心によって忘れ去られた疲労感が襲いかかって来る。
ふと暗闇と光の境に2人がけ程の広さのベンチを見つけた。
「この先に進むのは危ないだろう。....さすがに疲れてしまったな、自室に戻るべきだろうが...また、、あの階段を登るのか。...少し、このベンチで休んでからにしよう...」
ベンチの背もたれに寄りかかる。
暗闇と、優しい花の匂い、温室特有の温かさに包まれ疲労に犯された体は段々と力を失っていく。
普段命を狙われるような立場であることもあり、無防備に体を晒す睡眠という行為に着く場所には気を配っていたはずだったが、人では逆らうことできない海の波のように、とても強い向かい風のように、それでいて穏やかに思考が飲み込まれていく。
そうして、ドクターは一時の休息についた。
『.....き.....おき.....て...』
「ん..んん....?」
『...さま....おきてくださいませ...ドクターさま...』
「ん...?....!?」
『おはようございます、ドクターさま』
「きみは....」
ようやくやっと、久方ぶりの夢も見ない深い眠りから覚めるとそこには美しい紫の毛並みをしたヴァルポの女性がドクターを見下ろしていた。
「...きみは、確かこの温室の...」
『はい。温室の管理を任されています、ジギタリスと申します。ドクター様、お疲れでしたら自室での睡眠をおすすめします。』
「あぁ...そうだな...すまない、とても...居心地がよくて...」
『嬉しいお言葉、誠にありがとうございます。しかしドクター様、昼間にここで昼寝するのは良いですが夜に1人っきりで寝落ちというのは危ないですから、ドクター様?また寝ようとしないでくださいませ、ドクター様、』
「んん...」
言葉が頭に入らない、文字通り右から左に抜けていくような感覚がする、ここまでの強烈で穏やかな眠気を感じるのはいつぶりだろうか、学生時代の休日の夜更かしをした後の2度寝のような...もっと穏やかな..不思議な感覚だ...
いくら安全なロドスの館内であろうと、こんな無防備なことが出来る立場ではないことは分かってはいるが、それでも眠気に抗えない。
管理人のジギタリスが正しい事を言っていて、心配して言ってくれていることはわかっている。今自分が本来すべき正しい行動は直ぐにベンチを立ってジギタリスに迷惑をかけた謝罪と、放置せず起こしてくれた感謝を伝えて自室に戻りベッドで休息を取ることだろう、と分かってはいる、分かってはいるが...
「ん...」
『ドクター様?ドクター様、まったく...はぁ、仕方がありませんね...』
ほとんど靄がかかった頭に僅かな声が聞こえる...
『えーと...ロッドを使わないと...どこにやったのでしたっけね...』
「先生、ロッドはグリーンの収納部の中ですよ、先生」
『そうでしたね...あぁ、ありました。では、ドクター様、少しお身体失礼します。』
ジギタリスはグリーンと呼ばれるロボットからシンプルなアーツロッドを取り出す。
ロッドの先端に付いた狐の目のような黄金色の結晶が控えめに光を放つとドクターの体はふわりと軽やかに空中に漂い始めた。
ジギタリスが目の前を漂うドクターの膝裏と背中に手を差し込むとドクターはその手に沿うように動きを止めた。
『浮かせるだけでは万が一アーツを解除してしまった時が危ないですからね。ドクター様、そのまま体をこちらに預けてくださいませ。』
「........」
『えぇ、そうです、そのように。首も、私の肩に預けて、力を抜いて構いません。...そう、上手ですね。』
「では先生、グリーンが先導しますね!足元が体で隠れてよく見えないと思いますから!」
グリーンと呼ばれるロボットのランプが控えめに点灯する。
道に沿って点灯していたランタンはいつの間にか全ての灯りが消えていた。
光源はジギタリスの腰に固定されたアーツロッドが放つ小さな光と、グリーンと呼ばれるロボットの上部に付けられた小さなランプしか無かった。
ほんの僅かな範囲しか照らされていない暗闇をジギタリスは足音1つ立てずに歩いている。
暗闇の中に流れるのは先頭を走るロボットのタイヤの音と僅かに聞こえる木々の隙間を通り抜ける風の音だけだ。
ドクターは、ドクターは遠の昔に眠りに落ちていた。
今はジギタリスの首元で仮面越しに微かな寝息を立てるだけの存在だった。
読んでくれてありがとうございます。
登場人物
・ドクター
ドクター。残業がやっと終わったから寝る前に気分転換しようと思ったらめたくそ階段歩かされてめっちゃ疲れて警戒心忘れて寝ちゃった。ジギタリスのことは資料でちょっとだけ見た。運動不足。
・ジギタリス
オリ主ちゃん。バベルのロドスアイランドの中のすっごくでかい温室(捏造)を管理してる人。丁寧な言葉遣いの紫の毛並みのヴァルポ女性らしい。ママみが高くてぐずるドクターをお姫様だっこして運んだ。
・グリーン
なんか明るいロボット。ジギタリスを先生と呼んでいる。急に出てきたけど初めからずっと居た。収納機能と小さいランプが付いてる。他にもいろいろ機能はある。