メスガキ合法ロリ甘え上手サキュバス(年上)と感情重めダウナー系怠惰ヴァンパイア(年下)の気ままな旅   作:羽付きのリンクス

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アカトーの街・夜

 

 夜。

 

 闇に生きる者にとってはこの時間帯こそが本領である。

 

 それはヴァンパイアやサキュバスだけでなく、ほぼすべての魔族にあてはまる。故にこの魔族街は昼に比べて圧倒的に賑わっていた。

 

 昼間とは打って変わって、街灯や店先から漏れ出る光できらびやかな大通りを行き交う者たちは、ほとんどが魔族。皆一様に異形の姿の者たちばかり。

 角の生えた者や翼の生えている者、鱗に覆われた者や肌が青白いもの、下半身が獣の者までいる。

 

「わあ~!見てみて、いろんなヒトがいるよ!」

 

 ミーティアは楽しげに、辺りを見回していた。

 一方ヒルデガルトはというと、ヒトと目を合わせないよう俯いている。彼女はヒトと話すのは好きだが、こういう人混みは嫌いなのだ。

 

「……はしゃぎすぎ。みっともないよ」

「えぇ~?いいじゃん。ミィ楽しいもん」

「あっそ。ならいいけど」

 

 ヒルデガルトの冷たい態度にむくれるミーティアだったが、それも長くは続かなかった。

 

「あのー、そこのお嬢さん達。観光かい?もし良かったら、この街を案内しようか?」

 

 ふと背後からかけられた声に振り向くと、そこには人の良さそうな笑みを浮かべた人間種の青年がいた。

 

 ナンパか。ヒルデガルトはため息ひとつ付くと、不機嫌さを隠そうともせず告げる。

 

「結構です。というかこの娘サキュバスですよ。それでもいいのならどうぞご自由に」

 

 そう言って、ミーティアへと視線を向けさせる。対するミーティアは、ペロリと舌なめずりしながら妖艶な微笑みを見せた。

 

「えへ♪ミィで良ければ、付き合ってあげるよ?」

「あー……ごめん、用事を思い出した。じゃ!」

 

 一目散に走り去る青年の背中を見ながら、ヒルデガルトは小さく鼻を鳴らした。反対にミーティアは残念そうな顔をしている。

 

「な~んだ、つまんないの」

「まったく。確かにあたしら、ぱっと見人間種っぽいけどさ。尻尾とか髪色で分かんないものかな」

 

 好色家にとって、淫魔はある意味で天敵と言えるだろう。

 ナンパした女性が実はサキュバスで『返り討ち』にあった上、朝になる頃に干からびて発見された……なんて話は枚挙に暇がない。

 

「……というかあいつ、もしかしてミーティアのこと人間の子どもだと思って声かけたの?やっぱ今から捕まえて衛兵に突き出すべき?」

「えぇ?多分、ヒルデお姉ちゃんのこと狙ってたんだと思うよ?」

「はぁ!?な、なんであたしなのよ!?」

「だって、ヒルデお姉ちゃん美人だもん。そういうことしたいって思うのは、普通のことだよね!」

「い、いやいや絶対違うと思うけど……」

 

 ヒルデガルトに自覚は無いが、彼女の体型はまさに理想的と言っていい。1.7ノーム*1に届く高身長にモデルのようにスラっと伸びた手足。細く引き締まった腰回り、大きすぎず小さすぎない胸と尻。

 目つきこそ鋭いものの人形の如く整った顔だちに、白磁のような肌。

 

 そんな美しい少女が街を闊歩しているのだから、大抵の男ならば手を出したくなるものだ。

 

「ま、なんでもいいや。お姉ちゃんの魅力はミィだけが知ってればいいもんね!早く行こう、ヒルデお姉ちゃん!」

「ん~……なんか釈然としないけど……分かったよ」

「にしし♪やった」

 

 嬉しそうに笑うミーティアを見て、少しだけ気分が良くなったらしい。

 表情を和らげ、手を差し出すヒルデガルトであった。

 

 ◆

 

 この世界では様々な種族が共存している。そのため、人間種の街には必ずと言っていいほど亜人種*2向けのギルドが設置されている。

 

 基本的には人間種の冒険者ギルドと大差は無い。

 ただそれに加えて、その種族にとって生活必需品だが人間種の市場に出回らない物(ヴァンパイア用の血液など)を手配して貰ったり、種族ごとに適正のある仕事を斡旋して貰ったりと、人里に関わるなら色々と世話になることが多い。

 

 ということで、二人は旅の資金を稼ぐべくクエストボードの前に居るのだが。

 

「これは?『ワイバーン退治』」

「ワイバーンとかデカイし火吹くし最悪じゃん。却下」

 

「ん~……あっ、これなんかどう?『収穫した作物の荷運び』。」

「力仕事は疲れるからヤダ。」

 

「『倉庫整理』、『草むしり』……」

「汚れるのはもっとイヤ」

 

「……じゃあ、『害虫駆除』」

「虫嫌い」

 

「もー!ヒルデお姉ちゃんわがままばっかりぃ!!」

 

 ボードの前で言い争う淫魔と吸血鬼。

 二人のいつものやり取りである。ヒルデガルトがあれは嫌これは嫌と言い出して、それをミーティアが嗜めるというものだ。

 

 逆にミーティアは何に対しても刺激的であれば楽しめるため、危険な討伐系クエストなんかも笑顔で請けようとする。

 そうすると今度はヒルデガルトの方が必死で宥めることになるという、ある意味でバランスの取れたコンビであった。

 

「ヒルデお姉ちゃん、いい加減にしないとミィ怒っちゃうよ?」

 

 その台詞に、ヒルデガルトは宿での『脅し』のことを思い出したのだろう。ぐぅと小さくうめくと、やがて一枚の依頼書を手に取る。

 

「……じゃあこの『夜間警備』にする。多分これが一番楽でしょ」

「やったぁ♪」

「はぁ、めんどくさ。」

 

 夜間警備とは文字通り、夜間に街の周辺を見回る仕事だ。夜目の効く二人にとっては適任とも言えるだろう。何より肉体を酷使しなくていいというのがヒルデガルトの琴線に触れた。

 

「えへへぇ、夜のお散歩デートだよ♪」

「はいはいそーだね。」

「つめたぁ~い」

 

 相方を軽くあしらいながらもヒルデガルトは少し肩が軽くなるような心地だった。これならあまり疲れずに済みそうだし、来たばかりの街を色々探索できそうでもある。

 ただ見て回るだけなら退屈しそうだが、最悪サボって観光しててもバレにくいだろう。

 

 そんなことを平気で考えるくらいには、彼女は魔族だった。

 

「さ、とっとと行こっか。」

「うんっ」

 

 ヒルデガルト達は早速受付へと向かい手続きを済ませた。同じクエストを請けた街の住民から詳しい説明があるとのことなので、集合場所の噴水広場へと二人は歩いていく。

 

 だがしかし、この退屈で楽なはずのクエストがまさかあんなことになるなんて、この時の二人はまだ知る由もなかったのだった。

 

 ◆

 

「やっほー!キミたち夜警のクエスト請けて来たヒト?ウチはツィア、バンシィだよっ!よろしく~☆」

 

 その第一声を受けたヒルデガルトは、早くもこのクエストを請けたことを後悔し始めていた。

 

 目の前にいるのは、恐らく自分よりも年下であろう少女。

 瞳は赤く、灰色の髪は頭の左右で縛られており、まるでリスを連想させる可愛らしい顔をしている。

 服装はなんとも露出が多く、臍どころか胸元まで大胆に晒している。ちなみにかなり大きい。

 

 スカートは短めで、太股はハイソックスで覆われているもののやはり際どい。

 だがまあ、魔族基準ならまだ一般的な服装である。

 

 問題は彼女の態度。

 

「ねぇねぇおねーさん、名前は?種族は?お目々がウチと同じで真っ赤っかだねっ!美人さんだあ~♪」

「……。」

 

 ヒルデガルトは直感した。この娘は、あたし(陰キャ)が一番苦手なタイプのヒト(陽キャ)だと。

 

「ちょっとぉ、無視しないでよぅ」

「うわ、ちょ」

 

 無視してるんじゃなくて戸惑ってるだけなんて返す暇もなく、ツィアと名乗ったバンシィの少女は突然抱きついて、そのまま胸に顔を埋めてくる。

 

 ヒルデガルトのお腹の辺りにふにゅう、と柔らかい感触が広がる。

 

「ひ、ヒルデガルト……ヴァンパイア、だけど。」

 

 取り敢えず、名乗られたからには名乗り返さなければ。混乱した頭のまま、なんとかそれだけを口にする。

 

「ヴァンパイア!もしかして純血!?すごーい、初めて会ったよ!」

「そ、それはどうも……」

 

 すごいと言われても反応に困るのだが。

 そもそもヒルデガルトとしては別に凄くないと思うし、正直どうでもいいという気持ちもある。

 

「ねえねえ、ヴァンパイアに吸血されるのってめっちゃ気持ちいいってホント!?ちょっとさぁ、ウチのコト吸ってみてくんなぃ?」

 

「な……っ!?」

 

 思わず絶句してしまうヒルデガルト。

 

 先にも言った通り、現代のヴァンパイアの価値観では吸血とはかなりディープなコミニュケーションの一つとなっている。

 故に初対面の相手に対してこんなことを言い出す者は、ヒルデガルトに言わせれば相当に『ユルい』女であった。

 

 恐らく、この娘は単なる興味からこんなことを言ってだけで他意はないのだろうが。

 

「いや、えと、その……遠慮します」

「えぇ~なんでぇ?あ、もしかして照れてるぅ?かぁわいいっ」

「……はぁ」

 

 この娘、話が通じそうにない。

 

 こうなったらもう、力ずくで引き剥がしてしまおうか。そう思って手を伸ばしかけた時だった。

 

「隙ありっ♪」

「ひゃわぁ!?」

 

 ツィアの背後から忍び寄ったミーティアが、後ろから彼女を抱き締めた。

 

「ミィもいるよ!」

「キャハハ、何この子ちっちゃーい!」

「にしし、よく言われる~!」

 

 ミーティアはツィアの肩ほどの背丈しかないので、当然抱きつくというよりは飛び付く形になる。

 

「ミィの名前はミーティアだよ!半分はリリパット(小人)で……もう半分はサ・キュ・バ・ス♡ツィアちゃんのことも食べちゃうぞ~?」

「きゃはははっ、やめてぇ」

「はぁ……」

 

 結果的に助太刀、ということになるのだろうか。絡まれなくなった代わりに今度は自分の腕の中でじゃれ合う二人を見て、ヒルデガルトはため息をつく。

 

 そして半ば現実逃避気味に、少し離れたところでぼーっと遠くを眺めている最後のひとりを見た。

 

「で、あんたも夜警のクエスト請けて来たヒト?今の聴こえてたと思うけど、あたしはヒルデガルト。よろしく」

「…………ヤクブ。アラクネとデビル。」

 

 その少女は、悪魔種特有の青い肌をピクリとも動かさず淡々と自己紹介をした。肩まである紫の髪をパッツンと綺麗に揃えている。

 

 それ以上に目を引くのが、オリーブ色の前垂れ一枚という幾らなんでも攻めすぎなファッションに、そこから飛び出すクモの八本足。

 

「へえ、アラクネ……デビルとアラクネのハーフなんて珍しいね」

「……。」

 

 沈黙。

 

 ヒルデガルトが話しかけるも、彼女は何も答えなかった。

 

「……あー、ごめん。あまり触れて欲しくない事だった?」

「別に。」

 

 素っ気なく短い返事を済ませると、ヤクブは再びぼうっとし始めた。

 

「……。」

「……。」

 

 そして、再びの沈黙。

 

 こっちはこっちで随分と癖の強い娘だなと思いながら、ヒルデガルトは未だに腕の中で暴れる感触に目をやると。

 

「ちょ、どこ触ってんのぉ!?」

「にしし、やっぱり柔らかいね~。マシュマロみた~い♡」

 

 そこには、身を捩って悶える泣き精(バンシィ)と妖艶に笑う小悪魔、いや淫魔の姿。

 そして、淫魔の掌上で暴れ狂う二つの双丘があった。

 

「んあっ!?そんなとこ、ダメだってばぁ!」

「あは、顔真っ赤にしてかわいぃ。ミィがもっと可愛がってあげるよ?ほら、こことかぁ……」

「み、ミーティア何やってんの!?」

 

 慌てて止めに入るヒルデガルト。ミーティアの首根っこを掴んで引き剥がす。

 

「ぐえっ。うぅ~、せっかくいいところだったのにぃ」

「ヒトの腕の中で何してるのさミーティア……」

「ん~?なーいしょ♪」

 

 そう言って、ミーティアはヒルデガルトの手から脱出すると、背中に潜り込んで来た。

 

「ちょっと、離れてよ」

「にしし、やだっ」

 

 そのままヒルデガルトの腰の辺りにしがみつき、顔をぐりぐりと押し付けてくる。

 

「ふふん、これでヒルデお姉ちゃんはミィのものなのだ」

「なにそれ」

「はぁ……はぁ……。」

「ねー?分かったらヒトの物にちょっかいかけたらダメだよ、ツィアちゃん?」

 

 ミーティアは、未だヒルデガルトにしがみついて、肩で息をしているツィアにそう言い聞かせるとようやく離れていった。

 

「はぁ……全く。大丈夫?ツィアさん。なんかミーティアに変なことされなかった?」

 

 ヒルデガルトが見た時点でだいぶ変なことになっていた気がするが。

 

「うん、平気……」

「そっか。ならよかった」

 

 ゆっくりとヒルデガルトの腕から離れていくツィア。心なしか、最初の時よりしおらしくなった気がする。

 

「あ、あのさーヒルデちゃん。もしかしてなんだけどさー……」

 

 モジモジと、何かを言いたそうな表情を見せるツィア。

 

 ナチュラルにヒルデちゃん呼びされていることに若干違和感を覚えつつも、ヒルデガルトは彼女からの次の言葉を待った。

 

「ミーティアちゃんってもしかして、ヒルデちゃんのコレ?」

 

 小指を立てて見せるツィア。

 意味を理解したヒルデガルトは、思わず頭を抱えそうになった。

 

「……ミーティアに何言われたの?」

「へ?あ、いや~……ウチがヒルデちゃんに抱きついてたらさ『ミィの物に手出しする悪いコには、お仕置きしなきゃねぇ?』とか言われてぇ……」

 

 じとっ、とした目線をミーティアに向けてみれば、彼女は悪びれもなくペロリと舌を出した。

 

 要は助けてくれたというより、自分の所有物にちょっかいかけられたから報復しただけということだろう。

 セクハラにセクハラで返すところがミーティアらしいというか。

 

「でも安心して!そうと分かればウチは邪魔しないから!むしろ応援したげる!!」

「あー……いや、うん。」

 

 正直、ヒルデガルトとミーティアの関係性は一言では説明しにくいところがある。

 お互いただのパートナーとは言えない仲ではあるが、それ以上に色々と複雑なのだ。

 

 ので、ヒルデガルトは生返事を返すだけだった。

 

「ツィア。」

 

 遠巻きに突っ立っているだけだったヤクブが、唐突に口を開いた。全員の視線がそちらに集中する。

 

「……クエスト。」

 

 その言葉にツィアはハッとした表情になる。ついでに言うなら、ヒルデガルトとミーティアも同じ顔になる。

 

「そうだった!夜警のクエストあったじゃん!ウチ忘れかけてたよ!」

 

 そう、ここへは乳繰り合うために来たわけではない。仕事のために来たのだ。

 

「……とゆー訳で、改めてよろしくね、お二人!ウチ何回かこのクエストやってるから、質問とかあったらジャンジャンしてくれちゃっていいからねっ」

 

 ふんす、と鼻を鳴らして胸を張るツィア。たぷんと揺れる胸に、ヒルデガルトもミーティアも思わず目が吸い寄せられてしまう。

 

「…………あ。じゃあ取り敢えず。夜警って何したらいいのか教えてくれる?」

 

 先に正気に戻ったヒルデガルトが、少し恥ずかしそうにしながら聞く。

 

「そりゃもちろん、怪しい奴がいないかどうか見張るんだよ。」

「それだけ?」

 

「うん。基本的にはただ見回りをするだけだよ~。不審者がいないかどうか確かめたり、困っている人を助けてあげたり、変なのが居たらぶん殴って縛り上げたり」

「ふーん。じゃああたし達は、適当にぶらついてればいいわけかな」

 

 最後の文言が少しだけ物騒な気がするが、要するに夜警クエスト中はある程度の執行権が委ねられているということだろう。

 

「んーまぁそうなるかんじ。ウチらは慣れてるけど、二人は初めてだから気を付けてね」

「はーい!だいじょーぶ、ミィたち強いから!悪い人なんてボッコボコにしちゃうよぉ」

「おお~頼もし~!ヒューヒュー!」

 

 ハイテンションな二人を横目に、ヒルデガルトはヤクブに手を差し出す。

 

「えっと……よろしく、ヤクブ。あんまりこういうの得意じゃないから、色々迷惑かけるかもだけど……」

「……よろしく。」

 

 握手を求めると、ヤクブは案外素直にそれに応じた。無愛想だが根は良い人そうだ。

 

「よしっ、それじゃ出発だ~!!レッツゴー!!」

「おー!」「お、おー。」「……(ぐっ)。」

 

 ツィアの号令で、四人は夜の街へと繰り出していった。

 

 

*1
1ノーム≒1メートル

*2
人間種以外のヒト全てをひっくるめてそう区分する





ツィア:バンシィ(泣き精とも呼ばれる、人の死を予言すると言われている魔族)の少女。典型的な『若々しい』魔族。因みにデカイのは種族共通。

ヤクブ:デビルとアラクネの混血の女性。この世界だと別種同士の混血は珍しくない。脚のせいでおしゃれしにくいのが悩み。

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