ガンゲイル・ノット・ファウンド 作:UMP40
「前回より多いな……二人増えてる」
「問題ねえだろこっちには狙撃の女神がいるしなウン」
遠方からモブ狩りを終え帰路を歩く一団の様子を遠方の物陰から伺っている集団がいた。ダイン率いるプレイヤー狩りのチームである
「馬鹿なこと言ってる場合か? おっかなり珍しい、最近見つかったらしいパワーアシストの外骨格装備してるな、運び屋って所か? 目下脅威になるのはその前にいるミニミ持ちだな。第一目標はソイツだシノン」
「了解。狙撃後は不確定要素のあの二人を第二目標に」
ダイン達が仲間を率いて接触予定地点に移動していく間シノンは観察を続けた。フードを被ってフェイスマスクを付けていることと逆光の影になっていることが重なって顔は窺い知れない。
『配置についた。いつでも撃ってくれ』
「了解」
トリガーに指をかければ照準スコープ内に
シノンの持つ対物ライフルPGMヘカートIIの薬室に装填された.50BMGに撃鉄が叩きつけられ、音速を悠に上回る速度まで加速。大きな発砲音を置き去りに狙い過たずミニミを持ったプレイヤーの頭を吹き飛ばした。
シノンはすぐさまボルトを引き薬莢を排出し次弾を装填、落ちた薬莢はポリゴンになって砕け、同時にシノンは第二目標である二人組に照準を向け、思わず心臓が跳ね上がった。
フードを取った二人組が自分と同じ女性プレイヤーだったからか、いいや違う。まだシノンはトリガーに指をかけていない、
「……第一目標クリア、第二目標はフェイル」
『シノンはその場で待機、よし、行くぞ! ゴーゴーゴー!』
突撃を開始するダイン達と先程の笑みを見せた女性プレイヤーをスコープ越しに観察する。相手はフード付きのジャケットの前ファスナーを呑気に開け、そこにはUMPと呼ばれる短機関銃が隠されていた。
「アレは……0?」
さらにUMP二人組が取り出した黄色い腕章には四角に数字の0のようなマークがデザインされていた。もう一人、左目に傷跡のあるサイドテールの女性プレイヤーがバックから何か取り出し投擲────咄嗟にグレネードと判断し空中で撃ち抜く。しかしグレネードはグレネードでも、スモークグレネードだ。弾着の衝撃で撒き散らされたスモークが俯瞰視点のシノンから視界を奪う。その隙間から銃撃をしていたギンロウに突っ込むツインテールの笑みがシノンの視界に焼き付いた。
だれしも『存在しない小隊』そう聞けばロマンを感じる事だろう。ガンズゲイル・オンライン、血と硝煙、銃が全てを支配する世紀末的な雰囲気を漂わせるVRMMOも人がプレイするゲーム故にそのロマンに惹かれ、そういう名前のスコードロンを立ち上げたモノが多い。スコードロンの名称被りはできない為色々な文字を付け加えたり大文字小文字を入れ換えて被りを突破し多くの『存在しない小隊』が存在している。
検索で『存在しない小隊』が引っかかるのが矛盾を感じるかもしれないが多くはロールプレイの一環であることが多いためツッコミを入れるのは野暮というモノである。SBCグロッケンのロビーエリアで"404N"で検索をかけたある依頼をしにきたプレイヤーは大量に引っかかる検索一覧の中から目的のスコードロンをようやく見つけた。
"404 NOT F0UND" 全部大文字のように見えるが実はFOUNDのOが数字の0になっている名前被り突破ネームで、四角形に404を崩して0として一つにまとめ、その両端にTHOSE WHO DON'T EXIST と文字の刻まれたエンブレムは検索した人物画求めていた物である。見つかった事に安堵した依頼者はスコードロンに向け仕事依頼のメッセージを飛ばすと、偶然ログイン中だったのかグロッケン内のプライベートルームの招待コードが送られてきた。ソレに従ってグロッケン内のエレベーター移動(という体のテレポート)で部屋を訪れると、なんともまあソレっぽい雰囲気を醸し出す部屋であった。中央に大きめの四角いテーブルが置かれ、その上には書類やら雑誌やらが雑多に置かれている。椅子はパイプ椅子が複数個、隅には大型のオーディオ装置、毛布が置かれた病院で使うストレッチャーを利用した簡易的な寝床、天井まで届く金属の無骨な棚に書類が入った大量の段ボールが詰めこまれている。壁や天井に複数の傷があったりコンソール系のアイテム周りに配線が垂れていたりなどこだわり満点の部屋に思わず依頼者は感嘆した。パイプ椅子に座ってアイテム製作をしていた女性プレイヤーと積まれたダンボールに座って足を揺らしていた女性プレイヤーが依頼者の方を見た。
「あ、こんにちは〜」
「ここに来たと言うことは、何か用かしら?」
茶髪のツインテールの子が段ボールから降りて寄ってくると、GGOでよくある厳ついアバターをしている依頼者は怪訝そうな顔をする。
「あ〜お嬢さん達、すまないが、404小隊の人たちを呼んできてくれないか?」
そう答えると二人がニコニコと笑みを浮かべた。先に口を開いたのはサイドテールの子である。
「ロールプレイありがとう。まあこんな部屋だけど座って」
「あ、どうも、マイナウです」
「よろしくマイナウ、私はリヴァ、こっちはナイン」
返信メールで最初にロールプレイしてほしいと書かれていたので起きた事だった。それはそれとして依頼者は404が女性プレイヤーと知らなかったので本当に驚いていた。
パイプ椅子に座った依頼者は今回二人に依頼したい事の詳細を事細かに話す。最近モブ狩り後の帰り道で同じパーティーに襲われて困っているとの事だ。本気で困っているわけではない。本気で嫌なら狩りの後一旦ログアウトして早朝とかにグロッケンに帰ったり進路を変えて大きく迂回すればいい。流石に狩られても習得アイテムを全部落とすわけではないし総合収支で言えば襲撃を含めても黒字だ。だからこそGGOらしく反撃をしたいと思い、それなら自衛火器を買ってさらに用心棒を雇おう! とパーティ内で決まったらしい。という訳で初め集団戦最強と名高いベヒモスに依頼をしてみたのだが次の狩りの日程とベヒモスのスケジュールが噛み合わず断念、残念に思っていると『THOSE WHO DON"T EXIST』の合言葉と404の奴らというキーワードを貰ったとのことだった。
ソレを聞いていた二人は満面の笑みである。ロールプレイを活かした粋なベヒモスの紹介に思わずニコニコしてしまう。
「その依頼、受けるわよ。知ってる限り相手のパーティの武器構成と、購入予定の銃をメールでいいから教えてくれない? 作戦考えとくから」
「ありがとうございます送っておきます」
「リヴァ姉なら必ず勝てるから狩りの日楽しみにしててね!」
「アンタも働くのよナイン」
そしてメールを受けて狩り当日、行きはパーティから借りた光学銃でモブ狩りを手伝いつつ、作戦を伝える。まずミニミ持ちの人は囮である。実弾は対人装備として有名だからこそ初撃で排除しにかかる為ミニミの人はミニミ以外のアイテムを全部他のメンバーに預け狙撃手の未発見によるラインなしボーナスを使わせる。一度ラインが見えるようになってしまえば遠距離狙撃は怖くないと言うのがリヴァの考えだった。あとはナインとリヴァが撹乱し相手パーティを倒す。シンプルな作戦である。モブ狩りを終えて自分のストレージアイテムを全部他人に渡したミニミ持ちのスナッチ君にパーティーメンバーとナインとリヴァ全員が手を合わせた。合掌。
一人分のドロップ品を他に分配したせいで二人ほど荷重オーバーになった為予定外にグロッケンへの帰路が遅くなった為襲撃者が居なくなってしまった可能性もあったが、モブ狩りパーティーの期待に応えて襲撃パーティーはしっかりとスタンバイしてくれていた。
警戒しながら進んでいると予定通りに、ミニミ持ちのスナッチの頭部が爆散したのだ。
「あっリヴァ姉〜あそこから撃ったね」
ナインが目立たないように被っていたフードを外しフェイスマスクをずり下げつつ、ツインテールを服の外に出して遠くを見つめる。
「よく見つけたわね。じゃあ次の狙いはナインよ」
「あっ本当だ」
弾道予測戦が見事自分の頭ど真ん中に来ていたので頭をずらして躱す。
「予測線の消え方からして1000m以上だと思うけど誰かな〜」
「さあ? 有名人だとマスケティア位だけどアレだって1000m超えてると一発即死は無理よ。それよりほら戦闘準備。イレブン? 援護お願いね」
フード付きのジャケットを開けると隠されていたUMPが姿を表す。どちらも
「まずは前衛を崩すわよ。スモーク」
リヴァがピンを抜いて投げたスモークグレネードに弾道予測線が重なり爆散する。幸い煙を撒き散らすグレネードの為撃ち抜かれても煙が拡散したので問題なかった。前衛として突撃し大型レーザー持ちのヒカリッチを撃ち殺した襲撃パーティーのギンロウ付近を煙が覆う。
「おっ? なんだ逃げる気か? 逃さねえぜ〜!」
「あっUMP使ってるんだ! 私たちUMP家族だ!」
「は? 速っAGI型ッ」
煙の中から突如飛び出してきたナインに銃口を向けようとするが左手で横払いされあらぬ方向を撃ってしまう。そのままギンロウの顔面にパンチがめり込んだ。
「でもごめんねお仕事だから」
「ひえっ」
普通のパンチより明らかに体勢を崩す性能が高かった一撃でギンロウは転倒。そのままUMP9のパスパスパスと小さく乾いた音で頭をダメージエフェクトまみれにされ体力を全損、ポリゴンのかけらになって爆散した。
「おいギンロウ何が起きた!?」
「死んじゃったよ〜」
「マジかよクソッタレ!」
おっとっと、と言わんばかりにナインはスモーク越しで見えない故に乱射で不規則に発生する予測線を避けてそのままモブ狩りパーティーが遮蔽にしている方へ戻っていく。
「一人やったよ!」
「「「いえーい!」」」
「イレブン? 援護は?」
『…………』
「あっイレブンちゃん寝落ちてるね。昨日も深夜まで仕事だったって言ってたし」
「……416にお願いした方がよかったかしらね?」
「荷重オーバーで遅れるのリヴァ姉だって考えてなかったし仕方ないよ〜」
「ハイハイそうね。で、向こうが一人やられたくらいで引くのも想定外なんだけれど」
「よーし追撃戦で皆殺しだ〜!」
もっと撹乱させられると思ったのに、と言いたげなリヴァと元気いっぱいなナインが追撃を敢行する。
どんどんと下がっていく襲撃パーティーも後がないと思ったのか応戦を始めパーティのメイン武器であるブラスターも距離があると防護フィールドで防がれる為拮抗状態が生まれていた。
「なんか来たぞ!?」
背中に大きな銃を背負ってMP7を乱射しながらシノンがダイン達に合流するタイミングで無理に攻撃しようとしたブラスター使いでリーダーのマイナウがシノンの銃撃をモロに浴びてしまい死んだ。
到着して早々戦意喪失状態のダインを叱責する。
「クソッタレ、用心棒雇ってやがった。もうおしまいだ」
「あの二人組相手に何恐れてるのよ! 人数的有利はこっちにある!」
「あの二人組は"存在しない小隊"なんだよ! 依頼があればどんな任務も完遂する誰も正体を知らない、調べても大量に存在する404 NOT FOUNDの類似チーム名からじゃ見つけ出せない、AGI型の前衛と絡め手の後衛の二人組だとか四人小隊だとか情報も錯綜してる! でもあそこにいるのは前者に当てはまってんだろ! 都市伝説だと思ってたのに!」
「憶測に負けるな! 存在しない奴なんて私が殺してやる! だから戦え!!」
「ッッッ………わかった」
シノンがダインを締め上げるとダインも腹を括ったようで目が据わる。
「動きが変わったわね仕掛けてくる。人数有利を利用して挟み撃ちにする気かしら」
「こっちはもう四人だからね」
「正確には五人だけど一人寝落ちよ。ナインは左を、私達は右を対応する二人はついてきて」
「はーい」
「「了解」」
ナインが駆けつけると早速銃撃がお出迎えである。
「相手はAGI型だ当てれば倒せるぞ!」
「倒せるかな~?」
ナインがAGI型特有の体勢の低いフォームを取り加速する。第二回BOB二位の闇風のようなトップスピードはないが遮蔽を巧みに使い二人の射線を掻い潜る。
「ぐわっ!」
「ジン!」
「大丈夫だボディアーマーがある!」
「頭には無いよね?」
「ひっ」
最近出回っている高性能ボディアーマーはナインの使うUMPの使用弾薬9x19mmパラベラム弾のダメージを大幅に減衰させる。先日公式放送でAGI万能論をあざ笑い、現在のGGOで主流になりつつあるSTR-VIT型の流行を後押しするゼクシード演説の根拠である。だがそれはゼクシードのような最上位プレイヤーだから言える事だ。現実問題ボディアーマーへの着弾はダメージの代わりに衝撃という形で被弾者を襲う。現にジンはダメージこそ少ないものの強力なボディブローを受けたようにのけぞり転倒、アーマーのない頭部に掃射を受けて体力を全損させ、ミソも正面から立ち向かい体力を失う。とどめを刺す瞬間ナインの胴体に向け別方向からバレットラインが突き刺さった。頭を狙う必要はない。シノンが引き金を引くより早く笑みを浮かべ体をひねる。ツインテールの片側に着弾し髪がちぎれ飛ぶが髪にダメージ判定はない。ミソの体力も全損しポリゴンとして消滅するのを背景に、ヘカートⅡの銃口を向けられてもまるで談笑でもしようとしているような笑みを崩さないナインにシノンは己の内でその笑みとなる強さは何処から来るのか問いかけた。
再加速をかけるよりも早くこちらが発砲できると確信しボルトを起こし薬莢の排出、弾倉からの装填を最速でこなし姿勢を低くしながら片腕で目を覆うナインの姿を中央に捉え、シノンの眼前に落ちてきた手榴弾に気付いた。形状はプラズマグレネードのような殺傷用ではない。
「しまっ────」
閃光と爆音で視界が完全に潰れる。何処からくるか、もはや勘でしかないヤケクソの一撃を放つ。外れていればそのままUMPのフルオート射撃で蜂の巣になるはず、つまり勘が当たったという事ねと思っていると視界と聴覚が戻ってくる。
「もしもーし聞こえる?」
「ッ!」
構えていたシノンの真後ろから声が聞こえて咄嗟に振り返ろうとするが、後頭部にゴツンとUMPの銃口を突きつけられ、手を挙げる。
「流石にそのでっかい銃ランダムドロップしちゃうのは可哀想だからストレージにしまっていいよ」
「は?」
何を言われたのかシノンは最初理解できず、そうして理解すると共に腹の中から怒りが湧き上がってきた。
「ふざけないで! そんな情けかけられるくらいならさっさと殺されてる方がマシよ!」
「だってもうすぐ第三回BOBだから。あなた強いし万全なあなたと戦いたいなって。それにホラ勝ったの私だから生殺与奪は私の手にって事でこのワガママは通ると思う!」
「……ハァ。アンタ達名前言うの? BOBで絶対撃ち抜いてやるから」
「私達は存在しない。強いて言うなら私はナイン」
「……この屈辱忘れないから」
シノンがヘカートⅡをストレージにしまうとナインはシノンに向けて銃の引き金を引いた。首につけていたマフラーがランダムドロップとして残される。
「ナインそっちは?」
「こっちは終わったよリヴァ姉」
「敵も気合があったね。こっちも大損害だけど良かった?」
「あ、ハイ。我々あまり対人戦しないんですが今回とても楽しかったですね。ハマりそうです。あと依頼としては私たちの護衛よりも襲ってきたパーティーの全滅の方が主体だったので依頼料はしっかり払わせてもらいます」
「やったー!」
「ランダムドロップしたアイテムも全部詰めてグロッケンに帰還としましょう。それと私達の事を聞かれたらロールプレイの一環と、ストーカー類の防止も含めて他言無用でお願いするわね」
「わかりました」
「じゃ、私はこの人をグロッケンに最後まで護衛するからナインは寝坊助の様子を見てきておいて。自動ログアウトになってたら別にそのままでいいから」
「ハーイ! 行ってきますリヴァ姉!」
ガンゲイルオンライン。弾丸と硝煙で満たされた銃の世界。そこには確かに"存在しない小隊"が存在していた。