ガンゲイル・ノット・ファウンド 作:UMP40
「ふう……」
GGOからログアウトしてアミュスフィアを頭から外すと体を起こし左目に眼帯をつけて一度大きく背伸びをした。時計を見ればもうすぐ夕暮れ時だ。
「よし、さんぽでも行きましょうか」
ペシペシと頬を叩いてベッドから起き上がり部屋から出ると隣にある妹の部屋をノックした。
「レナ〜アンディの散歩行くけど来る〜?」
「行くからちょっと待ってシオ姉〜!」
「先に下行ってるわよ」
一階に降りるとビーグル犬のアンディが尻尾を振ってシオに近寄ってきた。もうアンディも10歳、おじいちゃん犬であるがまだまだ元気である。
「アンディお待たせ、いつもよりちょっと遅くなってゴメンね」
手際よくハーネスとリードをつけていると紙袋とスコップのお散歩セットを持ったレナがやってきた。
「お待たせシオ姉」
「そうだおやつ持っていかないとね」
「ちょっと待ちなさいシオにレナ」
「ママ?」
アンディ用の棚でおやつを選んでいるとやってきた母親に制止される。
「アンディの定期検診に行ってきたけど、おやつ食べさせすぎって言われちゃったから持っていくおやつは一つだけよ」
「はーい、でも私たちそんないっぱいおやつあげてないよ?」
「主犯はパパよ」
「あぁ……」
一家のパパは愛妻家で娘二人を目に入れても平気で犬にも甘々だった。
そうして家を出て犬の散歩を始める。昔は走り回っていた散歩もアンディの歳と相まってのんびりとしたものであった。通りかかる近所の人に挨拶をしつつ交代でアンディのリードを持つ。
「そういえばレナはBOB出るの?」
「出る予定だよ。せっかくUMPのモデルガン一個貰ったんだからもう一回本戦出場してシオ姉の分も欲しいなって思って」
「ふふ、ありがとう。でも何処に飾ろうかしら?」
「枕元とか?」
自分のベッドの枕元にアミュスフィアと照明と黒々としたUMPのモデルガンが鎮座する様子を想像してシオは苦笑いをした。
「なんだかうなされそうな位置ね……まあ考えておくわよ」
「そういえば、シオ姉は学校どう?」
「どうって言われてもね〜。先生は熱意あるし二年で高校卒業資格も貰えてお得だし不便は無いんだけれど」
「けど?」
「隠れてるつもりでイチャイチャしてるおバカさんカップルが視界の端に映ってもうなんだかって感じね」
脳裏に浮かぶのは女顔のもやしっぽい男とグラマラスな美女のカップルである。シオは自分の体を見下ろして大きくため息を吐いた。12月の寒さに広がる白いため息の量がその深さを物語っている。
「青春って奴だねシオ姉」
「ええそうね。レナこそ学校はどうなの?」
「私は……そうだバトミントンでうちの学校のエースの先輩からワンセット取れたんだよ!」
「やるじゃない! そのまま次は勝っちゃいましょ」
「うん頑張る!」
グーとグーをコツンとぶつける。
「それにしても今日のバトルは良かったわね」
「うんうん! でもシオ姉が作戦考えたのにあんなに死んじゃうと思わなかった」
「イレブンのせい……とは言わないけど確かに私が甘かった気がするわね。狙撃手なんて言ってもせいぜい800くらいからと思ってたけど1500より離れた所から狙撃されるとは思ってなかったし」
「そういえばシオ姉、調べたけどあの狙撃手の子が持ってたの対物ライフルだって!」
アミュスフィアを外した後武器の形を思い出して検索をかけてみたらピッタリ一致する銃、ヘカートⅡにレナは行き着いていた。
「対物ライフル? だからあんなに大きい銃だったのね。というか対物ライフルがあるなんて初めて知ったんだけれど……私たちが使ってるUX外骨格もレアドロップだしサイレントで色々実装されてるのかもしれないわね」
パワーアシスト外骨格という珍しい装備アイテムが存在する事は第二回BOBの頃から知られている。主に認知されているの珍品は二つ。積載能力が上がる代わりDEXに著しいマイナス補正がある為使うのは専門の運び屋プレイをしているプレイヤーくらいと言われるT型外骨格。AGIにプラス補正があるがこれをわざわざ装備するならAGIにステ振っていい銃買った方が良いと言われるX型外骨格の二つだ。
姉妹がゲーム中で装備するUX外骨格はマイナス補正無しにT型外骨格に準ずる積載能力を付与してくれるガンゲイルオンライン攻略サイトでも認知されていない超レア装備である。ただこれはあくまでガンゲイルオンラインが銃のゲームであり外骨格より実銃を求めるからこそと言う面もある。
レナとしてはある事件以降ぎこちなくなっていた姉妹関係に良い風を吹かせてくれた恩人のように感じていた。
「シオ姉もBOB出ればいいのに」
「私はそういうのはいいの、それにロールプレイ的にも依頼でもないのに存在しない小隊が二人も出ちゃうって言うのはどうかと思うわよ」
「それは確かにそうだね」
「砂漠の正体不明キラー、人を撃ち殺す魔の銃、存在しない小隊、GGOに沢山ある噂話の夢を壊しちゃダメよ」
「ハーイ。あ、アンディおやつ食べたいの? ハイお手、おかわり、ビヨーン! ヨシヨシヨシヨシいい子いい子」
アンディがレナの言われた通りに動く。最後のビヨーンは二本足で立つ時の掛け声である。わしゃわしゃとアンディを撫でレナがおやつをあげる。シオもそれに続いてアンディの頭を撫でた。
「パパがおやつあげすぎになるのも当然の可愛さだよね」
「でもそれで獣医に怒られてちゃね、過ぎたるは及ばざるが如しそのまんまよ。ふう、アンディがこんなにおじいちゃんになるくらい寝てたら私の体型が薄いのも仕方ないわねぇ」
「え? シオ姉元から体型は薄イダダダダダダダダ!?」
レナが言い切る前にその頭をシオが両手で掴んだ。アイアンクローである。
「レーナー? 遠慮が無くなったのは私たちにとっていい事だけれど言っていいことと悪いことがあるのよ?」
「話振ったのシオ姉だよ!? そんなに怒らないで!?」
「嗚呼……そういえばレナも持つもの側だったわね……明日奈がハイスペック過ぎて忘れてたわ……」
「それは誰ぇ⁉︎ ほらせっかくの団欒なんだから! アンディが怯えてるからぁ!」
レナは初めてシオを体型でいじったのを後悔しつつ二度とそれをネタにいじらないと心に誓った。
「全く……私が寝てる間に背まで同じになっちゃって……」
アイアンクローをやめてレナの右目にある薄い傷跡を優しくシオは撫でると微笑んだ。
「シオ姉?」
「さ、そろそろ夕飯だから帰りましょう? アンディもだいぶお疲れよ」
「今日の夜はやる?」
「どうかしら? プライベートルームで課題やってるかもしれないわ」
そうして帰宅しアンディの足を拭いているとちょうど父も仕事を終えて帰ってきたので家族団欒の夕食を楽しみ、風呂にのんびりと浸かった後部屋で明日の学校よ用意を終えるとスポーツドリンクを一口飲んでアミュスフィアを被る。レナの部屋はベッドではなく自立式のハンモックである。そこに横になってゆったりと揺れながらレナはGGOの世界に飛び込んだ。入るといつもの404 NOT F0UNDのプライベートルームだ。先に入ってきていたリヴァは隅っこのコンソールで黙々と何か打ち込んでいる。課題だからか覗き見防止処理がされている為ナインからは何を打っているかわからない。だが見た目の雰囲気がとてもよくて思わずナインはニコニコした。
「こんばんは! 今日は申し訳ありませんでしたーー!!」
そこへ銀髪の癖毛の女性プレイヤーが入室するなりスライディング土下座をかました。
「"その件は"構わないわよ。重量ペナルティ考えてなかったせいで予定作戦時間から1時間以上遅延した私が悪いわ。そりゃあなたなら寝落ちするわよ。で・も・それはそれとして寝落ちじゃなくてしっかりとログアウトしなさい? 寝落ちてもアミュスフィアが強制ログアウトされないことなんて結構あるんだから。今日もあなたの寝落ちアバターが残ってないかナインに確認させに行ったんだからね、イレブン」
しょんぼりしょぼしょぼしているイレブンにナインがポンと手を置いた。
「あわわ……ごめんねナイン迷惑かけちゃって」
「大丈夫、私たち家族だもん助け合うのが当然だよ!」
「分隊は?」
「家族!」
「言うなれば?」
「運命共同体!」
「まってそれ裏切られる奴だよ二人とも」
「フフフ、それはさておき依頼も成功だったから大丈夫よ。今日はゆっくり寝てね」
リヴァがそういうとイレブンが立ち上がって銃器を実体化した。
「ううん、埋め合わせはしっかりするよ。今狩りに行くなら手伝うよ」
「あ、じゃあナインと手榴弾の材料集めに行って欲しいわね。ついでにBOB前のナインのレベリングも兼ねて」
「イエスマム!」
「テンション高いわね」
「寝落ちで疲労が抜けました」
そう言っているがアバターの顔は眠そうである。
「イレブン本当に大丈夫?」
「いけるいける。どこに行くの?」
「マドゥルーク・キャビンのあたりに行こうかと思ってるよ!」
「了解じゃあ行こうよ」
マドゥルーク・キャビンは破損した大型砲台が乱立するエリアだ。一部の大型砲台は電源が生きており注意しないととんでもない威力の攻撃が飛んでくる場所で、それゆえあまり人気がなくに待ち伏せのPKとかは発生しにくいのが特徴である。ただ大型砲台が乱立していることからもわかるように軍事施設であり手榴弾などに使うクラフトアイテムのドロップ効率が良いのが特徴である。
プライベートルームから出てそこへ向かう為グロッケンのメインストリートをのんびりと歩いていく。夜はPVPやモブ狩りの繁盛するタイミングだ。結構人も多い。ナインはプライベートで行動しているので404小隊の腕章は付けず特徴的なツインテールを隠すようにフードを被っていた。
「昼間に寝落ちしちゃうなんて大丈夫? リヴァ姉がお風呂で溺れないか心配してたよ?」
「私もそれは感じてて最近湯船じゃなくてシャワーだけで風呂は済ませてる」
「えぇー!? それじゃ疲れが取れなくて余計寝落ちしちゃうよ!」
「……転職考えようかな」
「ねえそこの君たち!」
「ん?」
ナインとイレブンが雑談をしながら歩いていると後ろから声をかけられて振り返る。同じく女性プレイヤーだが背が高い。ボディスーツタイプの戦闘服を見に纏ったポニーテールのプレイヤーだった。
「どうかしたの?」
「商売のお話がしたくて! ちょっとそこのカフェに入らない?」
「誰に聞いたの?」
「見ればわかるって! ささ、詳しい話はそっちで」
ナインとイレブンが顔を見合わせて付いていき、カフェの奥まったところに座る。配膳ロボが注文を聞いてくるのでナインはカフェオレ、イレブンはコーラを注文した。
「さて、単刀直入にビジネスの話をしようじゃない?」
「私たちの名前とか聞かないの?」
「こういう場で名前を聞くのは野暮だからね」
いい感じのロールプレイにナインが思わず笑顔になった。存在しない小隊に名前を聞くのは野暮。いい感じである。
「それもそうだね、じゃあ本題で、私たちは護衛から狩りから暗殺依頼までなんでもやるよ!」
「えっ」
「え?」
「いや〜、私はキミが足につけてるその外骨格売ってくれないかな〜なんて思って声を掛けたんだけれど。もしかして普段から依頼受けるタイプ?」
「うん……」
「そういう事もあるって、ほらそっちの話なら値段の提示とかしないと!」
ロールプレイじゃなくて、アンジ●ッシュだった。そうションボリしているナインを誤魔化すようにイレブンが話を切り替える。よくぞ聞いてくれました助け舟を出された相手はどんと胸を叩いた。
「攻略サイトでも見たことない超貴重な外骨格! 5メガクレジットで譲ってもらえないだろうか!」
「ごめんねこれ思い出のアイテムだからあげられないの」
「それは残念。よければ、情報くれるなら情報料払うわよ」
「それなら全然いいよ。でもかなりレアだから出なくても怒らないでよ」
口頭だと他に聞かれてしまうのでナインがコンソールを開いて目の前の女性アバターを選択してダイレクトメッセージを作成する。
「へぇニニネちゃんか。フードかぶってるしニンジャみたいな感じ?」
「それはNineにしようと思ったら名前が被っちゃってたからナインだよピトフイさん」
「依頼も受けるって聞いたけど本当になんでも?」
「なんでも受けるよ」
「それじゃ、勘違いさせたお詫びに何かあったら依頼するわね」
メッセージを受け取ったピトフイが確認して情報料をナインに振り込む。
「よし早速アイテム掘りに行くことにするわね!」
と言ってカフェを出て行ってしまった。イレブンはナイン並みに突風みたいな人だなと思った。
「変わった人も居るね~」
「人のこと言えない気がするケド……」
そしてナインの言葉に思わずツッコミを入れてしまった。
カフェを出て二人はマドゥルーク・キャビンでレベリングと素材集めをするのだった。
今日は珍しくイレブンは寝落ちせずにゲームを終えてナインも安心安心~と帰ってきたプライベートルームで喜ぶのだった。
ガンゲイルオンライン一大イベント、第三回バレット・オブ・バレッツがもうすぐ始まる。