ガンゲイル・ノット・ファウンド 作:UMP40
第三回バレット・オブ・バレッツは第二回優勝者のゼクシード、GGO日本サーバー最大スコードロンを率いていた薄塩たらこが不参加となり闇風一強か?という前評判となっていた。いかにAGI万能論が廃れたとはいえ単純に闇風がGGOトップクラスのプレイヤーに変わりはない故だ。
第二回BOBではナインは闇風とのAGI合戦になった。GGO歴なら互角でもAGI極振りの"ランガンの鬼"闇風と遮蔽の少ない平野部で遭遇してしまったのが悪かった。というより違いに速力が高すぎてスキャン関係なく偶発接触してしまったのである。互いにAGI型とはいえSTR-VITと三次元機動のハイブリッドタイプのナインと二次元高速機動特化タイプの闇風では得意分野が違う。常に背後に回られ遮光グラスを闇風が装備してるので閃光手榴弾も効果が薄いという詰みであった。
BOBの予選当日、プライベートルームで装備の準備をしてナインが背伸びをした。そこへリヴァが腹を抱えて笑いながら戻ってくる。
「? どうしたのリヴァ姉?」
「フフ、なんでもないわナイン。おバカさんの醜態が面白かっただけだから。それよりもBOB頑張って、ナイン」
そこまで笑っていたのにシオはハッとした顔をして、何か考え込むようにボソリと呟いた。
「今日と明日……パパもママも居ないわね」
「リヴァ姉?」
「ちょっと学校の課題があるから私はリアルであなたの活躍見てるわね。頑張ってナイン」
「うん頑張るよ!」
今のナインは先日の依頼の時ようにジャケットをしっかり閉めてフードを被り、フェイスマスクを付けて、そこに黄色い404小隊の腕章をつけている。先日の依頼の時と違うのは運び屋と見せかける為に隠していた装備群をしっかり装備している事だ。完全なAGI特化ではない事とUX外骨格を装備してるゆえにできる積載能力である。
「じゃまた後でねナイン」
「また今度ねリヴァ姉〜!」
リヴァと分かれるとナインはBOBの参加エリアに移動、開催時間になると自動転送で準備エリアにナインが送られる。フィールドと時刻、天候が表示され準備期間が設けられる。危なげなく勝ち進み予選決勝に駒を進めると最後のエリアは夕暮れ時の廃市街地、ナインに有利な地形である。
「さーて優勝するぞ〜!」
口では呑気に言っているが市街地の建物は黄昏時の薄い陽光で多くの暗闇を生み出して死角を多数作っている。一応暗視ゴーグルをフードの外に着けてきたが中途半端に明るい為使うと真っ白で何も見えなくなるだろう。
相手と互いが接近に気づいたのは足音だった。廃墟の中で反響して出どころはわからないものの、微かな足音がしたのである。こちらの足音も聞かれるたのか違いに走り出し尚のこと音が反響して位置把握ができない。ポーチから手榴弾を取り出しピンと艶消しワイヤーを使ってトラップを設置する。暗いが陽が壁の穴から差し込んでいるせいで暗所に置いたワイヤーはほぼ不可視である。
「ッ!」
置いてすぐに、足音が近く、カチャリと僅かな音でナインがUMPを連射する。消音器で小さくなったスパパパパパと壁に当てる。僅かな音が届いてしまう壁は消音用亜音速弾でも貫通する薄さで反対側から束のような極太の弾道予測線が出現しナインは咄嗟に横に飛んだ。壁がぶち抜かれて破片が吹き飛び、脆くなった壁が蹴り抜かれ空いた穴から白めの都市迷彩に身を包んだ男が飛び出した。
「消えちまえ!」
ナインのUMPによる速射を壁や柱を跳び上がり回避する。軽い装備で三次元機動をブーストした動きはサブマシンガンの得意距離でありながら脅威的な回避能力を発揮し、その手に持つショットガンから放たれる散弾はこの密閉空間でサブマシンガンを上回る面制圧能力を持つ。互いに一発被弾すれば死ぬような紙一重の状況である。並のプレイヤーなら反撃のショットガンで死んでいた筈だがナインも実力者、致命になる一撃を回避しすぐさま反撃に出る。このショットガン使い、ペイルライダーに比べればナインの三次元機動性は劣る。だが単純な敏捷性はナインの方がはるかに優位だ。ショットガン相手に距離を取るのは愚策。拡散範囲の狭まる至近距離に入り込もうとして目の前に銃口が迫った。ナインはそれを手で払い除けペイルライダーを撃とうとして逆にペイルライダーもナインのUMPを払い除け、払い除けあった互いの拳がそのまま相手の顔面に叩き込まれる。STRは同等だったようで互いに吹っ飛んで着地する。
後ろをチラリと見てバックステップでピン、と自分で張ったワイヤーを引き抜き柱影に置いてあった手榴弾をペイルライダーに向け蹴り飛ばす。ペイルライダーは上に逃げれば手榴弾の餌食になると柱の影に隠れた。爆発し破片が部屋全体に飛び散る。ペイルライダーは辛くも爆発を避けたが閉所の機動戦同士で受動に回ってしまった時点でペイルライダーは詰んでいた。
「柱の影なら爆発も安心安心〜ってね?」
自分の手榴弾の破片でダメージエフェクトを負ったナインがUMP9でペイルライダーの胴体にマガジンに残った全弾を叩き込む。一旦隠れた故に移動の一動作がペイルライダーの致命となり、このブロックの予選はナインの優勝、ペイルライダーの準優勝で幕を閉じた。
「次は本戦でやろうね! 次は本戦へ出発〜!」
deadを点灯させたペイルライダーの肩をポンポンと叩いて、決勝だったので待機エリアでなく一階のロビーに転送されてナインは装備をストレージにしまって背伸びをした。
翌日にBOBの本線があるので狩りに出かけたりして死んでアイテムロストなどしては面倒な為、さっさとナインはログアウトしてハンモックの上で目を覚ました。
「あらおはようレナ」
「ふえっ!?」
何故か部屋にシオが居てレナは驚いてバランスを崩しハンモックから落ちた。
「どうしたのシオ姉……」
「え? いやね、せっかくだからレナの寝顔を見ながらナインの活躍を見ようかと思ったのよ」
「なんだ〜言ってくれればいいのに!」
「無事予選は抜けられたみたいだし今日の夕飯はカツ丼にしましょうか。明日レナが勝てるようにね」
「わーい! シオ姉大好き!」
翌日もシオは課題があるとのことで今度はレナの部屋で観戦しながら課題をやるというので、レナはリンクスタート前にシオに手を振ってGGOにログインした。
GGO最大級のお祭りイベントという事もありグロッケン内は多くの人が歩き回っている。酒場では闇風が取材を受けているし、優勝者を当てるブックメーカーや予想情報などを販売して一儲けする者などアングラ的な雰囲気が人によってはたまらないだろう。
「やっほ〜、今日はがんばってねナイン」
「おはよう。リヴァの奴はどうしたの?」
銀髪二人組に声をかけられた。片方は寝落ちのイレブン。もう一人は416という女性プレイヤーである。彼女はコルト社絶対殺すウーマンとして有名で今回のBOBで初参加したのだがあえなく予選落ちしてしまったのだ。リヴァがGGO内で知り合った最初のフレンドで404のスコードロンに加入はしていないものの必要があればリヴァが呼んでくるくらい親しい間柄である。
「イレブンに416! リヴァ姉は課題があるからリアルで観戦するって、でも416が負けるなんて思ってなかった」
「訳わかんないのに負けたのよ。光剣で急に切られるわで散々よ本当に」
「ウワーなにそれ怖い」
そんな与太話をしながら酒場に入っていくと女性プレイヤー三人でやっぱり目立つ。それにナインは第一回BOBから参加しておりいずれも本戦に出場している。そこそこ賭けの期待値も高いのだ。
「覆面のナインちゃん! 掛けたから今日は勝ってくれよ!」
「やべーのがいるぞコルト製品隠せ!」
「あ、なんか父性を刺激されるあの子……」
そんな反応に手を振って返しつつ酒場の席に416とイレブンを残してナインは本戦前控え室にエレベーターで移動した。複数ある控室は男女で分かれておりさらに女性プレイヤーは人口が少ないのでナインの貸切みたいなものだった。が、伸びをしているとそこに数日前に銃撃戦をした仲のシノンが入ってきた。
フードをかぶってフェイスマスクをかぶっているナインに一瞬ギョッとするが装備された外骨格と左腕の腕章ですぐに敵意を出してきた。
「……アンタ。せいぜい私に打ち抜かれた時先日情けをかけた事を後悔しなさい」
「情けかけた訳じゃないよ〜。とりあえず優勝できるように頑張ろ〜!」
ナインが空気を和ませようと試みたがダメだった。そして沈黙の中BOB本線が始まる。
ナインが転送されたのは市街地エリアだ。得意エリアに転送されたのでナインは笑顔で市街地の暗いエリアに突っ込んで行った。暫くの間の撃ち合いで何人かのプレイヤーを撃破する。カメラが寄ってきたのでピースをしておく。
マップを確認すれば最寄りの敵は銃士X、次に森林エリアにいるシノンとそれに再接近しているキリトなるプレイヤーである。キリトなる人物は聞いたことがないので接近されてもシノンならどうにかするだろうし実際近くでダインというプレイヤーが死んでいる。森林にわざわざ突っ込むよりも得意の市街地で遮蔽を利用しながら銃士Xを倒そうと方針を決めたナインが移動を開始する。スタジアム端高所の狙撃ポイントに陣取っていると思われるので上から見えない建物内を進んでいく。流石に時間を取るのでAGI型として次の15分で突っ込めるであろう位置まで移動していく。パシャリ、とナインが踏んだ水たまりが音を立てるが安全を確保して再度マップを開く。
「?」
シノンとキリトが何故か再接近したまま都市部に来ている。何かあったのかと思いつつも目の前の銃士Xに集中する事にした。スタジアム端から動いていないもののナインが接近してきている以上警戒はしているだろう。ナインとしてはバグなのかスキャンが被って動いているシノンに漁夫の利される前に銃士Xを撃破、そのまま都市部でシノンを迎え撃ちたいと考えた。
「私は止まらないよ!」
スキャン終了と同時にナインは走り出す。真っ直ぐ走らず遮蔽を経由しながら高速で走る。銃士Xのいるスタジアムに直線で通じるメインストリートに出た為狙撃避けのために横の小道に入り進んでいると。正面から突如スパークを発生させる弾丸が飛来した。流石に予想だにしないどころか何もない位置から避ける場所の少ない無い小道で攻撃を受けてナインは転倒して速度のままに数度バウンドしながら停止した。てっきり体力を全損させられたと思ったのだが何故か体力がほとんど減っていない。目線を動かせば肩のところに機械系の大型ボス特攻を持つことが多い電磁スタン弾が突き刺さっていた。
するといつの間にか赤い目とボロマントを纏ったプレイヤーがそこにいた。スキャンでは銃士Xしかいないはずだったのに。
すると謎のプレイヤーはナインの目の前で十字を切り拳銃を構えた。拳銃でも至近距離から眼球部分に打ち込めば一撃で殺すことも出来る。そういうロールプレイをBOB中にやるのは凄いとナインは思わず見習った。
「やめろぉぉぉぉ!!」
離れたところから誰かが叫び声を上げているがボロマントは何故かナインの頭ではなく、心臓の辺りを撃った。心臓付近にもダメージボーナスはあるが頭に比べればボーナス量は明らかに少ない。事実ナインの体力は半分を切ったぐらいで全損には程遠かった。
スタンが収まり体が動くようになっても目の前のボロマントは特に動かない。他のプレイヤーも来ているので銃撃しつつ仕切り直しを狙うべきだとナインは閃光手榴弾をポーチ内でピンを抜きレバーを飛ばして起爆寸前で空中に放り投げ閃光で目潰しを行う。
「何……?」
その少し前にしわがれたボロマントの声が聞こえたが離脱に成功したナインは医療キットで体力を回復しつつ乱戦になりそうな都市部から田園地帯に離脱する。と、ロールプレイのミスで生き残ったナインに運の揺り戻しがあったのか闇風と遭遇してしまった。だがここは田園地帯。足を取られるAGI型にはやりにくい地形である。勝機があると挑んだナインだったが砂漠地帯でも高速で走ることができるランガンの鬼は田園地帯のぬかるみを走るのがとても早く逆にナインは不慣れなせいでAGI型としての速力を全く活かせず田んぼに沈んでdeadを点灯させる事になった。ナインはとりあえず死んだ死亡後待機部屋でごめんよリヴァ姉負けちゃったー!と叫んだ後大人しく中継を見ていようと思ったが突如切断され目を開けると視界が現実のものに切り替わる。そこには自分の寝ていたハンモックの上でレナのアミュスフィアを持った汗だくのシオが泣きそうな顔をしていた。
「……シオ姉何があったの? 無理やり切断はペナルティが」
「良かった!」
レナをシオが抱きしめてハンモックが一回転して二人して床に叩きつけられたがシオは構う様子なくレナを持ち上げてくるくる回っている。
そうして回転している時部屋の扉の方を良く見ると青い服を着た人、つまり警察官の人が来ていた。窓の方をよく見ればパパとママが使う車庫にパトカーが数台止まっている。
訳のわからない状況にくるくると振り回されながらレナはただ困惑するしかなかった。