東方帽子屋   作:納豆チーズV

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紅霧異変編では視点切り替えが激しいです。ご了承ください。


七.生放送でのお送り

 □ □ □ Standpunkt verändert sich zu Rumia □ □ □

 

 

 

 

 

「"月符『ムーンライトレイ』"」

「いきなりか!」

 

 挨拶代わりに数発の弾を撃ち合った後、即座に私はスペルカードの宣言をした。

 小手調べだ。これくらいは避けてもらわないと困る。

 適当に作った弾幕を周囲にばら撒きながら、両手から一本ずつレーザーを出して魔法使いを左右から追い詰めにかかった。

 

「甘いぜ!」

 

 大して数もない弾幕に二本しかないレーザーを楽々と避けて、反撃として魔力弾がいくつも飛んでくる。

 両手を交差させてなんとか受け止めて、見た目と違い結構な威力が込められていることに若干驚いた。さすがに吸血鬼であるレーチェルほどの力ではなかったが。

 

「"闇符『ディマーケイション』"」

 

 連続でスペルを発動、周囲にほんの小さな尖った弾幕を作り出した。弾を交差させ、その動きで相手を惑わせる。

 ちょっとおかしな動きをしても数が少ないから大したことがない――と相手が思っただろう辺りで、右腕に溜め込んでいた妖力を無数の弾にして魔法使いに狙って放った。左腕に集めていたぶんも投げて、その間に右腕に再び溜めて連続で撃ち放つ。

 

「だから甘いって言ってるだろ?」

「ふぅん」

 

 魔法使いは、一つ一つを見極めて避けるのではなく大きく旋回して楽々と避けていた。

 周囲に飛び散った弾の数が多ければ飛び回って回避するなんてことはできない。弾を交差させるという小細工に意識を向けすぎて、数の生成をサボった結果がこれだ。

 

「"闇符『ダークサイドオブザムーン』"」

 

 作り出した闇の中に自分の体を隠し、適度に弾幕を張りながら移動する。

 集中して溜めておいたぶんを闇と一緒に解放、黄色い巨大妖力弾を撃ち出した。闇から出て来た瞬間を狙って魔法使いが攻撃してくるが、そのパターンはレーチェルの時に経験済みだ。即座に闇に潜って狙いを甘くして、ギリギリでなんとか避けてみせる。

 ここからは同じことをするだけだ。弾幕を張りながら移動、闇と共に妖力を解放。狙われてもギリギリで回避する。

 数回ほどループして、魔法使いがしびれを切らしたようにスペルカードを取り出した。

 

「いい加減ここからは私のターンだ! "魔符『スターダストレヴァリエ』"!」

 

 一瞬にして魔力が膨れ上がり、彼女を中心に巨大な星型の弾幕が放たれた。その威力は凄まじく、私の生み出していた弾幕がすべて飲み込まれてしまう。

 なんとか私自身は逃れられたが、闇が解けてしまっていたので「そこか!」と一気に集中砲火を受けた。

 

「ぐぅ!」

 

 なんて火力だ。あと一……いや、二回でも受けたらまともに戦えなくなる。今は弱小とは言え仮にも妖怪である私に数発でこのダメージだ。

 もうちょっと遊ぶつもりだったけど、ここは早々に決めるべきか。

 

「"夜符『ミッドナイトバード』"!」

「む」

 

 このスペルカードは小細工なんて存在しない。ただ力のままに両腕に妖力を集めて、限界まで数を振り絞って腕と一緒に振り散らすだけだ。

 右腕を振るう。左腕を振るう。また右腕を振るう。それだけで素早く強固で無数の弾幕が生まれた。こればかりは魔法使いも少しは慌ててくれたようだ。

 何度も腕を振るい、そのたびに大量の妖力弾が襲いかかる。単純だからこそ強力なスペルカードだ。そもそもとして私は頭脳派の妖怪ではないのだから、こうして適当に撃ちまくる方が性に合っている。

 このまま仕留め切れればいいのに――とは言え、やはりそううまくはいかないようで。

 

「こういう全開で撃ちまくるって戦法は嫌いじゃないぜ! 弾幕はパワーだ! だから、私も同じように全力で答えないとな!」

 

 ――"恋符『マスタースパーク』"。

 私の攻撃が一瞬止んだ隙を見計らって、魔法使いが手にもっていた変な形の鉄の塊をこちらに向けてきた。

 中心に空いた小さな穴に眩い光が灯っているのが見える。

 

「マスター……」

 

 なにが来ようと数で押し切るだけだ。とにかく両腕を交互に振り回し、体内の妖力を乱射しまくる。

 しかし、それが届く直前で魔法使いが持っていた鉄の塊の光が最高潮に達した。

 

「スパァアアアアアアアアク!」

 

 放たれたのは、私の体を飲み込んでなお余りがあろうほどの極太レーザーだった。

 すべての弾幕が打ち消される。あまりの規模と威力を前になにも為せずに消えていく。

 二発は耐えれるとさっきは思ったけれど、さすがにこんなのは一発も耐えられない。

 膨大な魔力光が迫るのを目にしながら、私は「また光にやられるのか」とレーチェルとの勝負のことを思い出していた。

 

「――悪いな。霊夢に先を越させるわけにはいかん。そろそろ通らせてもらうぜ」

 

 そんな言葉を最後に耳にして私の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 □ □ □ Ein Standpunkt wird wiederhergestellt □ □ □

 

 

 

 

 

「あ、ご苦労さまです」

「ええ、まぁ。ところでどうして私はこんなパシリみたいなことやらされてるのかしら」

「どうせだから巫女たちの進撃を観察していようって言ったのはゆかりんじゃないですか。空間移動も覗き見もゆかりんの能力だと簡単にできるんですから、ある意味当然です」

 

 場所は変わらず俺の部屋だ。違うのはコタツから二メートルほど離れた位置にブラウン管テレビがあることと、紫がたった今気絶したルーミアをスキマを使って連れてきたこと。

 テレビ画面にはルーミアをくだした黒白の魔法使いが、巫女が行った方向へと急いで飛んでいく光景が映し出されている。

 意外に早く勝負が決まってしまった。やはりパワーアンドスピード特化である黒白魔法使いを相手にするのは地力で劣るルーミアには厳しいか。

 

「……この子、力を封印されているみたいね。頭のお札で」

「そうですねぇ。でも本人はあんまり気にしてないみたいですし、封印の元であるリボンは可愛いですし、そのままでいいんじゃないですか?」

「変な基準ねぇ。ま、元々解く気なんてないわ」

 

 ニュッとルーミアをスキマに落としたかと思うと、ドサッと普段俺が寝ているベッドでなにかが倒れる音がした。

 ルーミアはどういうわけか、本来ならば東方紅魔郷では出てこないスペルカードを一部使用していた。おそらくなんらかの形で俺の存在が影響を及ぼしていたと思われるが、とりあえず彼女が起きたら正史よりも頑張ったということで功労賞の食事でも進呈しようと思う。

 回収という一仕事を終えた紫が俺の対面に腰を下ろし、「お疲れ様です」と緑茶を入れ直した湯のみを差し出した。

 

「巫女の方も一段落したみたいね」

 

 画面がが切り替わり、霧の湖にて水の上で気絶している妖精を紅白の巫女が見下ろしている光景が映し出された。

 このブラウン管テレビはマジックアイテムなどではない。数か月前に俺が森で拾い、そのまま倉庫魔法で保管されていたところをちょうどいいから取り出しただけだ。今は紫の能力により遠くの景色を映し出す触媒となっている。

 

「氷の妖精と戦ってたんですよね。妖精なのに多少なりとも博麗の巫女に対抗できるなんて結構すごいことですよね」

「普通じゃ考えられないくらいのことよ。今はまだギリギリ妖精の枠に当てはまっているようだけど、そのうちそれも越えちゃうんじゃないかしら」

 

 妖精とは数ある自然現象そのものであり、逆に言えば自然現象を超越するほどの力は持ち得ない。一人や二人程度なら人間でも簡単にどうにかできるほどなのだ。

 それを画面に映る氷の妖精は、博麗の巫女という強大な存在を相手になんとか渡り合っていた。ルーミアと黒白魔法使いとの勝負よりも短く、一分程度だけど。

 

「……妖精を超えるということは、自然現象を超えるということですよね。それってつまり」

「妖精は本質が自然だからこそいくら死んでも再生することができる。でもその枠を超えてしまえば再生は適わない。なぜならそれは自然ではないからよ」

「そうですよねぇ。そうなると強くなることが正しいのか間違っているのか……それも本人の裁量次第ですか」

 

 とは言っても自らの種族を超えるなんて容易にできることではない。そこまでの心配をしなくても大丈夫だろう。

 それはさておき。

 この調子だと黒白魔法使いが追いつくのは紅白巫女が美鈴との勝負の最中か、勝負が終わった後かな。

 戦いが終わったら勝敗と関係なしに紫に頼んで美鈴を回収してもらおう。レミリアが霧を出し始めてからは残業を多くしてもらっているし、外に放り出したままにしているというのは後味が悪い。

 

「美鈴、がんばってくださいね」

 

 とりあえずは、俺はここで紫と一緒にテレビを眺めながら応援でもしていよう。

 

 

 

 

 

 □ □ □ Standpunkt verändert sich zu Hhong Mei Ling □ □ □

 

 

 

 

 

「それにしても、ここは本当に居心地のいい場所だなぁ……」

 

 まず第一に空気がおいしい。胸いっぱいに吸い込めば清々しさが体中を……うん。そういえばレミリアお嬢さまが妖霧を出してるんだった。なんか変な味する。

 あいかわらず思いつきでとんでもないことをするお(かた)だ。そしてなかなかに意地悪で、暇潰しと称して私のことをいじめてきたりもする。反してレーツェルお嬢さまはとても親切で私のことをよく気遣ってくれる。

 だからと言って二人への感情に優劣があるわけでもなく、両方とも私が仕えるべき最高の主人だと思っている。

 約三〇〇年前にレミリアお嬢さまと決闘を行い、善戦はしたとは思う。けれど結果だけを見れば私は彼女にまともなダメージを何一つ与えられなかったのだ。

 妖怪とは理不尽な存在が多い。特に悪魔はそうだ。もう私も終わりかなぁ、と思ったところでどういうわけか見初められて門番として雇われた。

 最初はとにかくこき使われまくるのかなと思ったものだけれど、本当にしっかりと食事を提供してくれるし望めば休みもくれる。望まなくても休日が少なかったら強引に休みを取らされる。なんだかんだ言ってお嬢さまがた二人は私のことを信用し、大切にしてくれる。

 今は私よりも頼りになりそうなパチュリーさまと咲夜さんもいるし、たくさんの妖精メイドたちもいてとても賑やかだ。

 かつては世界を放浪していただけの小妖怪だった私が、なんの因果かこうして幼く心優しい吸血鬼たちのもとで門番として働いている。ここが私の居場所だ。今はなんの迷いもなくそう言える。

 

「この湖にこんな建物経ってたかしら」

 

 感慨に浸っていると、上の方からそんな言葉が聞こえてきた。いけないいけない、思考に沈み過ぎて仕事の方を疎かにしていた。これじゃまた咲夜さんに怒られてしまう。

 トン、と妖力を使って空を飛んで声の主の前に躍り出た。

 

「ここには別になにもなくてよ?」

「いや、あんたの後ろにあるじゃない。見えてるから」

 

 そこにいたのはかなり変わった服装をした、しかし一目で巫女だとわかる紅白の少女だった。肩と腋を露出した、胴体と腕の部分で巫女服。黒髪の後ろでは頭ほどのサイズがあるとても大きなリボンを結んでいた。

 

「ちなみに、あなた、何者?」

「えー、普通の人よ」

「嘘ね。こんなにも怪しい館に普通の人なんているはずがないわ」

「それは偏見よ。館が怪しくても私は普通なの。むしろこんな怪しい館にやってくるあんたが普通以外なのよ」

「私は巫女をしている普通の人よ」

 

 そんな会話をしながらも、普通を自称する巫女はどうやって紅魔館に入ろうかと視線を巡らせて考えているようだった。

 私は門番だから侵入者は迎撃するのが仕事である。全身に気を張り巡らせて、戦闘態勢を整える。

 妖精メイドたちを抜かせば私は一番弱い。逆に言えば、私くらい倒せなければお嬢様に挑む権利なんて得られない。この人間はいったいどれくらいまで戦える? 何百年と人間の武術を嗜んできた私にどこまで対抗できる?

 あぁ、楽しみだ。

 

「それはよかった。確か、巫女は食べてもいい人類だって言い伝えが……」

「言い伝えるな!」

 

 私が弾幕を作り出すと同時、巫女は持っていたお札を投げつけてきた。

 

 

 

 

 

 □ □ □ Ein Standpunkt wird wiederhergestellt □ □ □


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