【速報】一般人俺、起きたらなぜか王道ファンタジーな学園に入学が決まる。無事、死去した模様。 作:やゆゆゆゆ
見渡せば視界には一面の青空が広がっていて、雲海が下の方にどこまでも広がっていた。結構な速度でとんでいるはずなのに、風はあまり感じず、俺たち二人はこの誰もいない遥かな絶景を楽しんでいた。
「そういえばさ、このドラゴンものすごい速さで飛んでる訳じゃんか。」
「そうだね、凄い速さで飛んでるね」
「だとしたらさ、なんで俺たちって落っこちてないわけよ?普通だったら、落っこちて死んじゃいそうなもんなんだけど」
「あぁ、それはね。あれ、見てごらんよ」
さとちゃんはドラゴンの首元あたりを指さす。あれは、宝石か。いくつもの赤い宝石みたいなものが首全体を覆うように巻き付いているのだ。
「宝石、みたいなのがついてるな」
「うん、あのいくつもの宝石で魔法を形成してるんだよ。いわゆる宝石魔法っていうやつだね」
なんだ、その魔法。ブルジョワジーにしか出来ない高貴な魔法っていうやつか。金がどんだけあっても足りなそうだ。うちの家じゃ一回使うだけで破産である。
「太郎も聞いたことあるでしょ?カプリコーンの加護を受けた一族だけが使える神聖な魔法。」
「いや、一切聞いたことない」
「うそでしょ!『ゴート家の赤い指輪』とか、子供ならだれでも聞いたことあるはずでしょ」
そんなもの一切聞いたことはない。桃太郎とか浦島太郎とかそういう類の有名な話なんだろうか。
「し、知らないものは知らないんだから仕方ないだろ!そんなことよりもさ、これから行く学校の話だよ。俺、全くその学校のこと調べてないんだよな」
「『調べてないんだよな』ってそんな堂々と言われても...」
呆れたような顔。言外に「太郎ってなにも知らないよね」と言われてるみたいでちょっと気まずい。しょうがないじゃねぇか、俺は魔法なんてここ15年で聞いたことなんてなかったんだ。
「で、太郎は何が聞きたいのさ」
「何がっていうと、そうだな..」
何が知りたいというよりも、まずは全体像だけでも把握しておきたいのだ。
「そうだな、正直何もかも教えてもらいたいんだが...まずは、言葉のことだな。俺らってさ、これからその、ノルウェーに向かうわけじゃんか。」
「そうだね、僕らはこれからノルウェーに向かうことになってるね」
「あぁ、だとしたらさ。その、言葉の部分は大丈夫なのか?俺、ドラゴンに乗る前にも言ったみたいにノルウェー語なんて話せないぞ...」
さとちゃんは頭がいいからノルウェー語だって余裕綽々でこなせるのかもしれないけど、俺にとっては一個の言葉を話せるようになるってのは一大事だ。
もう、ほんとに何も知らないんだね、とため息をついたさとちゃんは、ごそごそと近くに置いてあったカバンをいじり始める。カエルの顔が大きく描かれた可愛らしいカバンだ。しばらく、あれじゃない、これじゃない、とカバンの中から取り出して戻してを繰り返した後、小さなブレスレットみたいなものを見せてきた。家に置いてあった家具と同じようによくわからない文様みたいなものが書いてある。
「なんだ、それ。よく分かんないマークが書いてあるけど」
「よく分かんないマークって、さとちゃんはほんとに無知だよね...」
「無知とはなんだ。少々、人よりも常識に疎いだけだろ!」
「それを無知っていうんだよ。はぁ、よくそんなのでアクエリアスに選ばれたもんだよ...」
「アクエリアス?」
アクエリアスといえばあれか、スポーツした時に飲むやつか。喉からからの時に一気に飲むと無茶苦茶うまいんだよな、あれ。
「まぁ、それは今は置いておこう。話を戻すと、とにかくね、これがあれば言語に困ることはないんだよ」
さとちゃんはゆらゆらとブレスレットを揺らす。
「言語に困ることはないってどういうことだよ。自動翻訳アプリみたいなのがついてるってことなのか?」
「アプリってのが何かは分からないけど、そうだね、自動翻訳っていうのは近いかな」
「つまり、どういうことだ?」
早く答えを言うように急かす。クイズとか複雑な説明とかは苦手なのだ。出来るだけ簡潔なのが好みである。
「えっとね、そうだな。太郎はバベルの塔っていう話知ってるでしょ?」
「あぁ、それなら聞いたことあるぞ。確か、すっごく栄えた文明が天にも届く塔を作った。それで神様が高く作りすぎだって怒って、人間の言葉をバラバラにしてそんな塔作れないようにしたっていう...」
「まぁ、その説明だとちょっと端折りすぎだけどね。大筋を言えばそんな感じだよ」
「で、それがそのブレスレットとどう関係してるんだよ」
「あの話ね、太郎はよくある作り話かと思ってるかもしれないけどね。実は本当にあった事実なんだよ」
さとちゃんは話を続ける。
「簡単に言えばあの話には続きがあるのさ。あんまり知られてないことだけどね」
「続き?」
「うん、実はね、あの話に出てくる神様っていうのは、一人の魔法使いであったことが分かってるんだ。」
「え!あの神様ってただの人間だったのか!」
ただの人間が、一人の人間が種族全体の言葉をあべこべにするだなんて、そんなことが出来るのだろうか。そんな、たいそれたことが出来てしまうのだろうか。
「まぁ、ただの人間っていうにはあまりにやってることが可笑しいけどね。それでも、一人の人間であったことは確かなんだ。それでね、その魔法使いは怒ってそんなことをしてしまった訳なんだけど、その後、言葉を分かれた人間と魔法使いは和解するのさ」
「和解?もう完全に決別っていう流れじゃなかったのか」
「まぁ、ほんとの所、その魔法使いにも罪悪感みたいなものがあったみたいでね...結局、死ぬ間際にかけた魔法の解除方法を教えたってことなんだよ...」
「なんじゃそれ...」
罪悪感っていう割にはちょっとやったことが大きすぎる気もするんだが...
「その頃にはもう簡単には解除できないくらいに魔法が人々の中に定着しちゃってて、結局、このブレスレットを使ってでしか解除できなかったんだけどね...」
さとちゃんに渡されたブレスレットを見てみれば、その中心に小さく男の顔が描かれている。もしかして、このちょっと小太りのおっさんが例の魔法使いなのだろうか...
「まぁ、そんな訳でこのブレスレットがあれば言語の違いは乗り越えられるってわけだよ」
「で、そのブレスレットを作ったやつは何て名前のやつなんだよ。」
「え!えっとね、何ていう名前だったかな...」
「そんなでけぇことやらかした奴なら名前くらい残ってるんだろ?」
そういうと、さとちゃんは急に顔を青くして少し震えだした。えっとね、えっとねと悩む姿は割合珍しい姿である。
「き、菊之介。菊之助っていうんだ。」
「へぇ!そいつ日本人だったのか!それすげぇ、ってバベルの話ってもっとヨーロッパとかの逸話だろ。なんでそんなところに日本人がいたんだよ」
「こう、ふらっとバベルの塔に立ち寄ったときにあまりにそこに住む人が傲慢だったから、ついかっとなってやっちゃったんだって...」
「はぁ...そりゃすげぇな。ついふらっとって、そんな規模の話じゃないだろうに。で、その昔にいた日本人っていうのはなんて苗字だったんだよ」
もしかして俺らの祖先かもな、何て言って笑っているとさとちゃんが前よりもさらに青い顔をして震えだす。
「な、なぁ、さとちゃん...」
「な、何かな!」
さとちゃんの目がきょろきょろと宙を泳ぐ。これは何かごまかしたいときにやる癖だ。俺は尋問のように続ける。
「もしかして、その菊之助さんの苗字って、『里中』っだりしねぇか?」
ぎくぅっという音が聞こえるほどにさとちゃんの体が揺れる。何とか顔をそらそうとするさとちゃんの肩をつかむと、しばらくして堪忍したように大きくため息をついた。
「そうだよ、太郎。バベルの塔の元凶、人間の言語を怒ってバラバラにした犯人、里中菊之助は僕のご先祖様なんだ...」
次回、ついにノルウェー到着!!
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