この世に名を残す殺人鬼は多数いる。古きは旧約聖書のカインから、現在ワイドショーを騒がせている強盗殺人犯まで、古今東西老若男女問わず人を殺す鬼は存在するのだ。彼らの数と、彼らに殺された人々の数を数えきることは不可能である。そんな殺人鬼の中でも特に名を馳せるのは、多数の命を奪った者や残虐な手口を好む者達だ。
「
男は訝しげに手にもった年代物の和装本を見る。
「
男の風貌は典型的な遊び人というやつだ。態度だけを見ていると、明朗快活、そしてくだけた雰囲気で女性受けのいい青年にしか見えない。――鉄くさい臭気が立ち込める凄惨な部屋でこのような態度をしていなければの話だが。
サイドボードには、壮年の男女の頭部が飾られている。頭を失った彼らの身体は、キッチンに投げ捨てられていた。ダイニングテーブルには壮年の男女が載せられており、そして彼が座るソファの隣、サイドボードの向かい側では両手両脚を縛られて猿轡をかまされた少年が転がっていた。
どこにでもいる幸せな一般家庭を舞台にした惨劇を演出する男の名は雨生龍之介。世間を賑わせている冬木市の連続猟奇殺人の犯人であり、日本中で何件もの殺人を犯してきた大量殺人鬼に分類される犯罪者である。
彼が殺人をする理由は、死を知ることでその裏の関係にある生を知りたいがためだ。
龍之介は薄暗い部屋の中で光源となっているテレビに視線を移す。その番組ではちょうど龍之介が数日前に殺した3人家族について報道していた。
『犯罪心理学に詳しい城南大学の内田教授によると、このような猟奇的な犯行を重ねる犯人の人物像は……』
どこかのお偉い教授とやらが、全く見当違いのプロファイリングを堂々と報道番組で披露している様子を見た龍之介はほくそ笑む。
「このお姉さんもバカだよね~おとなしいとか、性的能力に問題ありだとか……男ってところと、隣にいても殺人鬼だってわからないってところしか当たってないじゃん。プロファイリングっても大したことないみたいだね」
これまでに逮捕された猟奇的連続殺人鬼の殆どは、幼少期に問題のある家庭に育っていたり、性的な能力に問題があってコンプレックスを抱えていたりする人物が該当している。だが、それらを元に推測する限り、この教授が龍之介の人物像に辿りつくことはきっと永遠に不可能だろう。
彼の生い立ちは極々普通で、父親がアルコール中毒だとか、母親が育児放棄していたとか、家庭内暴力の被害者だったとか、女性への特殊な性癖を持つとか、そのような過去の大量殺人鬼にありがちなエピソードは皆無だったのだから。
「ぜ~んぜん分かってないよなぁ、この人。何も分かってないのに分かったようなふりするだけでテレビに出させてもらえるってのも阿漕な商売だよ。坊やもそう思わないかい?」
龍之介に問いかけられた少年はただ涙を零し、震えることしかできないでいた。少年のくぐもった悲痛な叫びが龍之介の耳を打つが、生憎にも龍之介にとってそれは良心の呵責を抱かせるようなものではなく、これから少年の身に降りかかる惨劇に彩りを添え、興奮を誘う
「ま、俺があのお姉さんの言う通りの人間だったとしても、君がどうなるかは変わらないんだけどさ」
龍之介は少年の首根っこを掴み、少年の両親の血で描かれた魔法陣の前に移動させる。床に投げ出された少年は、その拍子に近くに投げ出されていた自身の姉の亡骸を目の当たりにして恐怖に震える。少年は身じろぎして必死に抵抗しようとするが、龍之介は膝をうつ伏せになった少年の背に乗せて動きを封じた。
「坊や、悪魔っていると思うかい?」
龍之介は少年にわくわくした様子で語り始める。
「週刊誌や俗っぽいワイドショーじゃ俺のことが悪魔だって言われてるけどさ、それは本物の悪魔さんに失礼だと思うんだよね。だって、俺はまだ42人しか殺してないんだぜ?戦争とかなら、何百人単位で人殺している人なんて腐るほどいるのにさぁ、たった42人……あ~、坊やと坊やのお父さんたちを入れて46人か。そんな幼稚園児が数えられる数で俺は大量殺人をした悪魔だぁ~ってのも何かしょぼいじゃん?」
膝に重圧をかけながら跪き、龍之介は手にしていた和装本を少年の顔の前に置いた。
「それ、こないだ土倉を整理していたときに見つけたうちのご先祖様の本でさ。ど~も、うちのご先祖様は悪魔を呼び出す研究をしてたらしいんだよね。そんな面白いもの、確かめずにはいられないじゃん。でもねぇ……万が一本物の悪魔さんが出てきてくれたならさぁ、何の準備もなくて茶飲み話だけってのももったいないし、間抜けな話だと思わない?だからねぇ、坊や。もしも悪魔さんがお出まししたらさぁ」
そして龍之介はまるで消しゴムでも貸してもらうかのような気軽さで少年に頼んだ。
「一つ、殺されてみてくれない?お茶請けとしてさ」
その言葉を聞いた少年は猿轡を噛まされた口で必死の叫びをあげた。そのあどけない顔は恐怖に支配されて歯の根が合わないほどに顫え、瞳からは大粒の涙が止め処もなく流れ落ちる。
「ア~ハッハッハ!!悪魔ってどうやって人を殺すんだろうね!!きっとすっげぇワクワクするような殺し方かもね!!貴重な体験っつ!?」
その時、龍之介は自身の右手の甲に熱した鉄を押し付けられたような痛みを感じた。自身の手を見ると、そこには見覚えのない奇妙な文様が浮かび上がっていた。突如自身の手に浮かび上がった謎の紋章に龍之介は一瞬戸惑う。
「何だ?これ……まさか、本当に?」
この不可思議な現象は自身が行っている悪魔降臨の儀式と何らかの因果関係がある――その発想にいたることは自然なことだ。悪魔の召喚が現実味を帯びてきたと感じた龍之介は、こころから湧き上がる興奮に耐え切れず、床から拾い上げた古文書を拾い上げて詠唱を再開した。
「やっべぇ……ワクワクしてきた。本当に来るのかなぁ!!え~っと、告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に……聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよっと」
龍之介の紡ぐ呪文に反応し、魔方陣は輝きを放つ。目の前で起こりつつある奇跡の予感に駆られ、龍之介は古文書の項を捲った。
「誓いを此処にっと。我は常世総ての善と成る者、でもって我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の……こ……言霊を纏う七天?抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」
龍之介は自身の身体からごっそりと力が抜かれて少年の上に倒れこむ。まるでフルマラソンを完走したかのような疲労感を感じながらも、龍之介は魔方陣をからは一瞬たりとも目を離そうとはしなかった。
魔方陣からは風が吹き出し、龍之介と少年の肌を打つ。そよ風と言ってもいいほどに弱く、ぬるい風でありながら、その風を受けた少年の全身に鳥肌が立つ。幼い彼には暗く、おそろしい誰かがそこにいることしか理解できない。
魔方陣の輝きは消え、光の中に人間のシルエットが浮かび上がった。光が収まるにつれ、その風貌もはっきりしてくる。
身の丈は2mほどであろうか、濁った黒のローブを着た男だ。そして男は龍之介の方に振り向くと、爬虫類を思わせるようなインスマウス顔を寄せてきた。
「――問おう。我を呼び、我を求め、
奇妙な顔をした男の問いに、龍之介は少し改まって答える。身体に力が入らず、立ち上がることができなくとも、招いたものとして最低限の礼儀を尽くすべきだと考えたのだ。目の前の男が本物の悪魔だとしたら尚更である。
「え~と……雨竜龍之介っす。職業フリーター、趣味は人殺し全般、子供とか、若い女とかが好きです」
「よろしい……契約は成立しました。貴殿の求める甘美で官能的な宴は私もまた悲願とするところ……必ずや、快楽と愉悦の日々は我らの手にするところとなりましょう」
男の言葉の意味はさっぱり分からない。ご先祖様の魔道書にもしかしたら書いてあったのかもしれないが、召喚に関係ないところは読み飛ばしていたのでわからない。
「……よくわかんないけど、まぁ、折角来てもらったんだし、ご一献傾けませ……うわぁ!?」
男は少年の上に倒れこんでいる龍之介を乱暴に払いのけ、少年の前にしゃがんだ。自身に近寄る男に怯え、少年は激しく身をよじる。
「怖がらなくて、いいんだよ。坊や……私が助けてあげよう」
自身にやさしく語りかける男の姿に、少年は戸惑う。そして男は少年の自由を奪っていた手足のテープを一つ一つ丁寧に外し、涙でぬれた猿轡をやさしく外した。
「立てるかい?」
「うん……」
少年の目からは先程までの恐怖と怯えは消えていた。目の前の男に向けられているのは少年の愛らしい笑顔だ。少年には、この男が自身を助けに来てくれたヒーローに映っているに違いない。
「さぁ、坊や。私はあの悪い男を倒してあげよう。君はあそこの扉から部屋の外に出られる……一人でいけるかい?」
少年は涙を目に溜めながら頷き、出口に向けて小走りする。
「なぁ、あんた。悪魔だろ!?なのに……」
出口に向かう少年を止めようにも疲労で立ち上がることもできない龍之介は、床に這い蹲りながら抗議する。だが、男は龍之介に手の平を向けて静止する。それを黙っていろという意味に受け取った龍之介は抗議を止め、口を噤んだ。どのみちこの状態ではこの男を止められないのは明白だからだ。
そして少年は扉を開け、街灯の光が差し込んでうっすらと明るくなった玄関にたどり着く。全てを奪う恐ろしい闇の中に束縛されていた少年は外の淡い光りを見て涙を零し、笑顔を浮かべた。
「坊や」
自身を助けてくれた『ヒーロー』の声が聞こえ、その瞳に涙を溜めたまま少年は振り向く。
同時に、少年の首に当てられた鋸のような形状の独特なナイフが少年の首を抉り、動脈から鮮血が噴出する。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ァ!?」
少年は目を見開き信じられないとでも言わんばかりの表情を浮かべながら絶叫する。目の前にいるのは先程自分を助けてくれたやさしい『ヒーロー』のはずだ。その『ヒーロー』が今手にナイフを持って自身の首を抉ったという事実を少年は信じることができなかった。
悲劇はまだ終わらない。再度首に当てられたナイフがゆっくりと前後に動かされ、切り傷を抉るように広げていく。
「フォー!!フハ、ハハハハ!!アーッハハハハ!」
男は奇声を上げながらナイフを動かす。少年の首から噴出した血を浴びながら狂ったような笑いを浮かべるその姿はまさに『怪物』――『ヒーロー』の対極にある醜悪な姿だった。その姿に少年は怯え、彼に抱いていた信頼の分、更に大きな絶望を抱く。
やがて喉まで切り裂かれ、声を出すこともままならなくなり、少年は呻き声に似た何かを発しながら息絶える。
だが、まだ男は止まらない。男はそのローブを脱いで『本番』を始めた。
その『本番』が終わった時、雨生龍之介は立ち尽くすしかなかった。男が少年にした行為も、息絶えた少年とした行為も、その惨状も全てがかつてないほどに刺激的だった。まさに悪魔の所業というに相応しい人間の醜悪な部分の一つの究極の容と言えよう。
しかし――違うのだ。これは龍之介が捜し求めた答えではない。ベクトルが違うのである。
龍之介が殺人に求めるものは死というものの本質だ。その人間の人生、性格、感情、未練、その全てを内包する末期を知ることで、人間の死を、そして生を知ることが龍之介の原動力である。一人の人間の全てを凝縮した死の間際の景色は人によって異なった色合いと味わい、風味を持つ。そこに彼は惹かれた。死の味を知り、堪能することで彼の探究心は満たされ、彼は悦を感じることができるのだ。
一方、この男が殺人に求めるものは龍之介のそれとは異なるものだ。そこにあるのは単なる生理的な欲求――性欲だ。何が原因かは分からないが、歪んだそれは嗜虐主義と合わさってあのような性癖を生み出したのだろう。
悪魔であれば、自身の抱える
――しばらくいっしょに行動することも悪くないかもなぁ。
龍之介はそう思っていた。ベクトルは違えど、彼は一つのベクトルを極めたものと言えるだろう。彼と行動を共にすることで、今まで見えなかったものが別の視点から発見できるかもしれないと龍之介は考えたのだ。
「では、次の舞台に向かいましょう。まだまだ物足りません」
「ちょ……ま、待ってくれよあんた」
男に担ぎ上げられた龍之介は抗議の声を上げる。
「貴方も物足りないと?駄目ですよ。あれは私の獲物です。貴方にはあげません」
会話が通じていない――うっすらと感じていたが、やはりこの男とコミュニケーションは取れないと龍之介は判断した。だが、言葉は通じることは事実だ。簡単なことならば答えが返ってくるかもしれない。
「あんたの名前をまだ聞いてないんだ。あんたの名前は?」
その言葉を聞いた男は、龍之介の言葉を正しく『理解』し、悦の余韻に浸った笑顔を浮かべながら『返答』した。
「私はジル・ド・レェ。レェ男爵と呼びなさい」
倒錯した男たちは夜の街へと歩き出す。この晩、冬木市は殺人鬼が跳梁跋扈する死の都市へと変貌する。
クラス:バーサーカー
マスター:雨生龍之介
真名:ジル・ド・レェ
性別:男性
身長:196cm/体重:70kg
属性:混沌・悪
パラメーター
筋力:B
耐久:C
敏捷:C
魔力:E
幸運:E-
宝具:A
クラス別能力
狂化:EX
パラメーターをランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。狂化を受けてもジル・ド・レェは会話を行うことができるが、彼の思考は快楽を得ることのみに固定されているため、実質的な意思の疎通は不可能。自己紹介ができたことが奇跡的である。
保有スキル
?????:A
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精神汚染:A
精神が錯乱しているため、精神干渉系魔術が通用しない。また、同ランクの精神汚染を持つ人物でなければ意思疎通は不可能。
拷問技術:C
拷問を目的とした攻撃に対して、痛覚増加補正がかかる。
宝具
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ランク:A
種別:対陣宝具
レンジ:90
最大捕捉:1000人
旦那が本編以上に狂って分けわかんなくなっているのは狂化の影響です。芸術審美が失われたので、龍之介と馬が合いません。
旦那のお楽しみシーンの『本番』はR18なのであえて書きませんでした。旦那がどのように楽しんだのかは、気分が悪くなることを覚悟のうえで史実を調べてください。
自分は気分悪いですし、『本番』を詳しく描写するつもりはありません。需要もどうせないでしょうし。