私兵団と共に!   作:YJSN

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第2話 一歩目の交渉

 

「てーとくー!準備できました!

選抜した6名の下士官を選びましたよ〜!」

 

「そうか・・・部隊の方はどうなっている。」

 

陽が若干傾いた頃、西日が眩しく入り始める前にガリバルディはそれぞれ彼から始まり風・火・風・風・風・火・風の魔法に適性を持った下士官が私の前に揃った。

 

(ほとんど風使いじゃないか・・・自分が風魔法の使い手だからって贔屓しすぎだろ・・・。)

 

「はいでありんす!無事、部隊は上級貴族邸区画付近に影魔法を用いて姿を隠させました!」

 

彼の後方を見れば,既にあと数百名居た部隊は存在せず,先程トボトボと徒歩で移動して行ったのを見たのみであった。

 

周囲の住民の奇異の目も、大所帯で無くなったこと、またかれこれ数十分もこの美しいローマ人の建てたような噴水に滞在しているため、単純に見飽きたのだろう。

 

「良くやった。それでは早速我々は衛兵の詰所に行く・・・先程も言ったが、ガリバルディは特にんむぐッ・・・。」

 

そこまで言った途端、彼は私の口に彼の綺麗な、されど既に数々の血に汚れてきたであろう華奢な手で塞がれ,「シーっ。」という合図をする。

 

「・・・てーとく、ちゃんと聞いてたよ。『くれぐれも無礼や粗相の無いように』ですよね。

お任せください、てーとくの命とあらば、私は永遠に従いますよ。」

 

私をまるで安心させるかの如く、蕩けた、されど優しい優しい笑顔と共に私の眼を射抜きながら私に抱きつき囁きかける彼は、普段の口調から一転して私に本心を告げてきた。

 

 

 

・・・あの()()の時とは随分と変わったな。

 

 

 

あの時の罵り合いといえば、それはもう皇帝陛下にお聞かせになる事さえ憚れるような、汚く反吐が出る会話と戦闘であったことだけは覚えている。

 

だが、それを乗り越え、彼に騎士道を学ばせ,己の居場所を与えたからこそ、今のガリバルディがある。

 

そんな()()ガリバルディ侯爵を、私は貶そうとも、見下そうとも,異常者だと罵ろうとも思わない。

 

ただあるのは、彼への信頼のみだ。

 

 

 

昔話を頭から切り離し,ガリバルディを引き離してから、努めて冷静に語りかける。

 

「・・・貴公の気持ちはよくわかっている。

この私が貴公を疑ったり等するものか・・・あの血の誓いの時から、私達は永遠に、主と臣下だ。」

 

私が諭すように言った途端,彼は下を向き,肩を震わせていた。

 

恐らく,『血の誓い』の儀を思い出していたのだろう。

 

私も彼との出会いから今日に至るまで、あの儀を忘れた事など一度もなかった。

 

そして十数秒が経った後に彼は目尻を少しばかりの涙で潤わせて、私の字名を叫んだ。

 

「・・・提督・・・・・・!!」

 

唐突にガバッと起き上がるかと思えば,私の上に覆い被さってきたガリバルディ。

 

「お、おいッ、公衆の面前だぞ!おい!!」

 

ポカポカと、再度目に涙を溜めながら私の頭を弱くグーで叩いてくるこの子は本当にまだ16才の子供にしか見えなかった。

 

「あー・・・よしよしいい子いい子。」

 

このままでは埒があかないと思った私は,しばらくこの場で彼をあやす事にした。

 

彼の後ろの下士官や周囲の住民は、どこかホッコリした笑顔で私達二人を見ていた。

 

はぁ・・・こんな所を見られては帝国の恥だな・・・。

 

私はこの羞恥プレイをいつまで続けさせられるのだろうかと、心の内で酷く項垂れていた。

 

・・・確かに、気持ちはわかる。

 

彼とて人の身だ。

 

突然,未開の地へと飛ばされた挙句、メシ一つも無く自分達の帰るべき場所も当分の間無くしてしまったのだ。

 

感情が沸き立つのは仕方のない事なのだろう・・・巫山戯あう事や、私への忠誠に縋ろうとする事は何ら問題ではない。むしろそれは彼が他人を頼ろうとしている良い兆候である。

 

だがここで立ち止まれば、目の前にある機会を逃すだけであり、早急な対処には極めて冷淡となることが求められる。

 

クルシュ・カルステン・・・あの公爵に会う機会を逃せば,我々はまたあの旧市街に戻り、美しい花畑と共に野営し野宿するしかない。

 

そうなれば部隊の士気は落ち、食事すら満足に出ないとなれば、我々は果たして野盗にでもなるしかないだろう。

 

故に、私は心を鬼にしなくてはならない。

 

帝国から爵位を授かり、帝国軍を預かる以上、部隊(コンキスタドール)の規律を正し,信仰を正し,帝国の利益のため()の果てまで死力を尽くさなくてはならない。

 

重い腰を上げ、周囲の視線を一切無視した後に名残惜しくとも、未だに抱きついていたガリバルディに少し力を込めて突き放す。

 

「・・・っ、提督まだ一緒に・・・!」

 

「ガリバルディ・・・ひと時の情に流されてはならない。我々にはやるべき事があるはずだ。帝国の利益(征服)という、私達の存在理由が。」

 

・・・だがこのままではお前の言う良い糧食や暖かいベッドは愚か、部隊が餓死してしまう。

 

今もなお帝国のため軍務に服し励んでいるヘッケルにも合わせる顔がない。

 

お前も帝国から爵位を授かり、その王冠に忠誠を誓った将兵ならば、私と、私達の部隊のために尽くすんだ・・・わかったか。」

 

 

すべては、帝国の利益のために・・・

 

 

その言葉を聞いた侯爵は、目の潤いを右手左手と拭い去り、いつもより若干堅い表情になり、腰の帯剣に右手をつきながら、軍靴をカツンッと鳴らした後にこう言い放った。

 

 

 

「・・・はい、提督。このガリバルディ、心に刻みました・・・!」

 

 

       『 Viva España(帝国万歳) 』     

 

 

 

    『『『 Viva España(帝国万歳)!!! 』』』

 

 

 

それを見た下士官達も、それに呼応する様に、偉大なる祖国、世界に冠たる大帝国に自らの忠誠を示してくれた。

 

(士気は上々、侯爵も立ち直った・・・丁度いい頃合いだな。)

 

私は彼らの気概を十二分に堪能した後、クルリと踵を返し,この大衆の場を後にすべくこう告げる。

 

「・・・供を頼もう、侯爵。」

 

「「「「了解」」」ですにゃ!」

 

「・・・。」

 

いつもの本調子に戻った侯爵を供につけ、私達は衛兵所へと急ぎ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・それで、あなた方は何者ですか。」

 

早速、人混みの中を避けつつも詰所へと張り切って来たはいいものの、やはり()()()()()()()()奇抜な格好も相まって完全に怪しまれながらの応待となってしまった。

 

詰所の受付の騎士も大層眉を顰めながらこちらを伺っている・・・特にガリバルディ侯爵の方を。

 

「あー・・・私達はとある商隊で、遥々遠方から来た者なのだが、」

 

「商隊名は。」

 

「・・・ヴァレンシュタイン取引商会と言う。物珍しい魔道具や武器、それからお菓子など小物を扱っている。」

 

「・・・要件は。」

 

なんとも向こうの見る目が胡散臭いが、聞き慣れない言語に悪戦苦闘しながらも自然に対応しているこっちの身にもなってほしいと心の内で悲鳴をあげる。

 

横にいるガリバルディが、この受付の騎士の態度が気に入らないのか拳に力が入っており今にも風魔法で斬りつけてしまいそうなのを右手で制する。

 

(交渉を破綻させる気か、お前は。)

 

(だっ、だってコイツがてーとくの事を・・・。)

 

(我慢しろ,美味い飯までもう少しの辛抱だ。)

 

(・・・うぅぅ、ぐぬぬ・・・。)

 

漸く手の力を抑えたガリバルディ侯爵を放置して,話を進めていく。

 

「実は、今現在我々には財源が無く・・・この国の貨幣を持ち合わせていないのだ。

我が国の金貨は使えないとの事だったので、大変困っている・・・。」

 

「ふむ・・・。」

 

木製の机の上で立ちながら書類に必要事項をどんどん記入していく受付の騎士は、続けて,と言わんばかりにペンをこちらに回して指示する。

 

私は冷静に、されど威厳ある声でこう一言申す。

 

「この窮地を脱するためには、何者かの支援が必須であると考えた結果、私は決めた。」

 

 

 

「ここルグニカ王国1の大貴族、クルシュ・カルステン大公に面会を求めたい。」

 

 

 

「ふむふむ・・・・・・は?」

 

 

 

書き込んでいた騎士の手が止まった。

 

ポトンッ、とペンが机上に落ちる音が、静まり返った詰所内に響く。

 

数秒間,この詰所の中にいる騎士達は誰も動かない状態であったが、ある一人の人物だけがその静寂を覆した。

 

 

 

「失礼、突然ながら貴殿のお名前は?」

 

 

 

名を聞いてきたのは、紫色の髪に整った容姿・・・更に甲冑を着ず、白い騎士服を纏った青年だった。

 

恐らく、私と同年代くらいであろう。

 

 

 

「ん、私か?

・・・申し遅れた。

私はこのヴァレンシュタイン取引商会にてしがない商隊長をさせて頂いてる、ヴェッテと言う。貴殿は?」

 

 

 

この男・・・今までの応待していた騎士達とは風格、そして佇まいが明らかに常人の比ではない。

 

整えられた一歩一歩の歩き方に、礼儀作法も知っている立ち振る舞い。

 

間違いない,報告書に記載されていたこのルグニカ王国における唯一無二の軍事組織『近衛騎士団』の中でも上位に入る指折りの騎士だ。

 

 

 

「私も,申し遅れました。私の名はユリウス・ユークリウスと申します。

私も貴殿同様、王国騎士団所属のしがない騎士を勤めております。

・・・ここは私が受け持ちましょう、あなたはもう下がっていなさい。」

 

「は、はッ、ユリウス様・・・。」

 

応接口で先ほどまで応待していた騎士は敬礼をした後,詰所の奥の方へと去って行った。

 

すると、右手にいる妙に焦った表情のガリバルディ侯爵から袖の裾を引っ張られる。

 

(・・・てーとく、コイツヤバい・・・恐らく、単純な力勝負で言えば私と互角に戦えるくらい。)

 

(・・・ここで引くわけにはいかない。各員、くれぐれも敵対行動は慎め,良いな。)

 

少々後ろを向いて,口パクのみで彼らに厳命すると、私は再度前方へ向き直った。

 

「・・・そちらもお話は済みましたか?」

 

「あぁ、おかげさまでな。

それで、貴殿、騎士ユークリウス殿が応待してくれるというのであれば、話も些か通じそうで何よりだ。よろしく頼む。」

 

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします、ヴェッテ殿・・・。」

 

先程の口パクは、ラテン・スペイン語で話したために恐らく彼は内容を把握できていないのだろう。

 

こちらをジッと見つめながら、見透かすかのように後ろの護衛の侯爵の方をチラリと横目に見る。

 

「・・・では、あちらの別室において詳しくお話を伺いたいと思います。よろしいでしょうか?」

 

「・・・良いだろう。」

 

 

 

それを聞いた我ら一行は、おとなしく詰所の奥の応接間へと入って行き,暫くの間彼に私達の()()身の上話を打ち明けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なるほど、王都ではあなた方の祖国である『()()()()』帝国の金貨・貨幣が使えず,商隊は二日間も飲まず食わずで窮地に瀕している、と・・・。」

 

「そうだ。」

 

あれから私達は王国における『王不在』といった不安定な政情の認識の確認や、ある程度の事情を聞かれ、ひと段落ついた所であった。

 

私は目の前に出された少しだけ上品そうな紅茶を手に取り,口につける。

 

すると、左右と後方に護衛、という形で下士官と侯爵が直立しているが、ユークリウス騎士を鋭い目付きで睨んでいる右手のガリバルディがまたも私の腕を突いてくる。

 

(毒かもしれません、やめてください てーとく!)

 

(・・・お前も飲むか?)

 

(いいえ要りません!・・・全くもう、てーとくは不用心過ぎます!)

 

ふんだ、とばかり視線をこちらから外し再度ユリウス騎士を睨み付ける彼に多少困らされつつも、交渉を再開する。

 

「・・・合点が行きました。それで王国でも随一の大公爵、クルシュ・カルステン家を頼りになられようとしているのですね?」

 

「あぁ、その通りだ。かの王国中に名の通った大公でなければ信頼に欠ける上、我々を当分養えるとも思えない。」

 

「なるほど・・・。」

 

それを聞いたユークリウス騎士は、顎に手をやり視点を俯かせ深く考える仕草をする。

 

そうして時計の針の長針が数刻過ぎてからまた会話は始まる。

 

「・・・それでヴェッテ殿は一体何を対価に、カルステン家の庇護を受けるおつもりですか?」

 

「それは・・・」

 

クィッ

 

私が口を開いた瞬間,またもや袖の裾を引っ張られた。

 

(・・・ガリバルディ、頼むから邪魔しないでくれ。)

 

(・・・てーとく、今の状況でコイツに私達の手の内を見せるのは悪手だよ。ウチらの味方かどうかも分からない状況で・・・)

 

(・・・ほんの一部分だけだ。気にすることではない。)

 

すっ、と私はガリバルディ侯に引っ張られた裾を今度こそ振り払い,再度ユークリウス騎士に向き直る。

 

横から(ちょっ、てーとく!)と小声が聞こえてくるが無視だ無視。

 

「・・・そちらのお嬢さんは随分と私にご執着なようですが、何かこちらが御無礼を致しましたでしょうか。」

 

先程より侯爵の目付きが更に鋭くなったのを少し苦笑で返すユークリウス騎士は、こちらを異邦の人間ながらも随分と丁重に扱ってくれようとしている。

 

我々の祖国における礼儀作法と合わない部分があったかどうかを気にかけてくれているのだ。

 

「・・・いや、気にしないでくれ。彼は私と親しく話す貴殿が相当気に入らないらしい。それだけだ。」

 

その言葉を聞いたガリバルディは「んなッ・・・!!」と声を張り詰めさせるが、もう口から出たものは二度と戻りはしない。

 

「彼・・・?

・・・あぁ、なるほど。

そういう事ですか・・・それは困った物ですね。」

 

はは、とユークリウス騎士は疑問(侯爵は男である)が半分解消されたとばかりに苦笑で返してくれた。

 

「それで・・・先程の質問にお答えしていただきたいのですが。」

 

「ん・・・あぁ、そうだったな。

我々がカルステン公爵との交渉の場で取引材料にするのは・・・

 

 

         ()()()()だ。     」

 

 

 

それを聞いたユークリウスは、驚きこそしなかったものの目を少し見開いた後に、こう言った。

 

「それは・・・自分達を戦力として揶揄なされているのですか?」

 

「その通りだ。私達は盗賊など容易く撃退できる()()()実力を持ち合わせている。」

 

500名を越す大規模な商隊と聞かされていたユークリウスも、それくらいは予想していたのかまた顎に手を当てて考える。

 

ガリバルディが右手で、

(あちゃー、言っちまったよ このてーとく・・・。)

という顔を投げかけてきているがこれも無視だ。

 

今は我々の実力を見抜ける且つ、それを必要としている者達に手当たり次第当たっていく必要がある。全ては明かさないが、我々の欠片でも見せれば十分であろう。

 

私がそのような策略を思考する数瞬の後、彼は意を決したかの如くこう言った。

 

「それでは、ひとつお願いがあるのですが・・・聞き入れていただけますか。」

 

その一言には、その真剣な目には、明らかに謀の一計が含まれていた。おおよその予測は出来るが・・・。

 

「・・・できる範囲でなら、お約束しよう。」

 

「ふむ・・・では、あなた方の商隊の実力を披露していただけますか?

・・・例えば、今も私の方を痛々しいほど見つめていらっしゃるそこのお付きの御方に。」

 

「・・・ガリバルディか?いいぞ、別に。」

 

それを聞いた当の本人は,まさか自分が指名されるとは思っていなかったようで途端に「げぇッ!」と忌避感と共に声を上げた。

 

下士官達にも一瞬、動揺が走ったものの、侯爵程ではなく私を信頼し、実力を披露しても良いという裁量に一任してくれるようで助かる。

 

部下の態度に少し安堵した私は侯爵に喝を入れる為、今度はこちらの方から狼狽えてどうすれば良いかわからないガリバルディに耳打ちする。

 

(ほらガリバルディ、随分と舐められてる私達の真の力(暴力)を魅せる時が来たぞ。

お前のお得意の()()を見せてやれ。)

 

(い、いいぃ嫌ですよ!こんな奴に見せたくありません!キザで傲慢で,てーとくに楯突くような輩には今すぐ鉄槌を・・・)

 

そこまで言ったところで、私は強く彼の耳を引っ張り,こちら側に手繰り寄せる。

 

いきなり引っ張られた形となった侯爵は「いだッ・・・」と呻きながら私の口元に近づく。

 

(ガリバルディ・・・これは命令だ。

もし軍規に叛くというのであれば・・・最悪ここでお前を斬る、わかったか。)

 

(!)

 

それを聞いた彼は,少しばかりショックだったのか、視線を落とし俯いて、時計の針の長針がまた、数刻ばかり過ぎた後に私に顔を上げて向き直った。

 

(・・・わかりました、わかりましたよ てーとく・・・もうどうなっても知りませんから!)

 

ヤケクソ気味になったガリバルディ侯爵は、目の前でジッと私達の方を見つめるユークリウス騎士を目の前にして、こう言い放つ。

 

「・・・ッ、隊長がこう仰せの事だ。ひとつお前に知恵を与えてやろう、騎士ユリウス。」

 

「・・・と言いますと?」

 

優雅に向こうも紅茶を一口つけながら、ガリバルディの動きを一挙一動余裕を持って観察する彼の態度に、侯爵は癪に触ったのか。

 

(・・・舐めてんじゃねぇぞ、青二歳の餓鬼が。)

 

彼の口パクには今エゲツない言葉が含まれていたかもしれないが、見なかったことにして私も紅茶を手に取り,飲み干す。

 

どうせラテン・スペイン語を彼には理解できないし、現にできていないようだったから問題にはならない・・・はずだ。もしバレてたら知らん。決闘でもさせよう。

 

そうしてその数秒後に、ガリバルディが右手を、この応接間の小さな窓の方に向け、バッ!!と振り翳す。

 

手には魔力が十二分に宿り,最早この状態のガリバルディは風の使い魔・・・彼と共に息をする者は、生命を握られたも同然だった。

 

そしてその刹那の事。

 

 

 

・・・シャァァーーーーッッッ!!!

 

 

 

耳をつんざくような、聞くに耐えない甲高い音が窓の近辺からこの応接間だけでなく、恐らく外の詰所全体にまで響き渡ったであろう。

 

音の原因を見てみれば,窓を覆うようにしてかけられていた質素なカーテンが、1平方ミリメートルにも満たない大量の小さな、されど綺麗な星形の布屑に変えられていた。

 

それを見たユークリウスは目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。

 

「こッ、これは・・・・・・なるほど、あなた方のその自信が何処から来るのか、今ようやく答えが分かりました。」

 

その一瞬の慌てた反応を楽しんでいるのか、件のガリバルディ侯爵はしてやったりとばかりに鼻を鳴らし、(次はお前だ!!)などと口パクしていた。

 

私はそれを静かに制した後に、彼にこう伝える。

 

「・・・今のは我々の実力のほんの一部分に過ぎない・・・まだまだガリバルディには、秘匿すべき特技があるのです。」

 

「ほう・・・。」

 

それを聞いた目の前の騎士は、話に熱中するあまりに冷め切った紅茶を一度机にコトン、と音を立てて置いた。

 

「なるほど、どうやら私はあなた方を少しだけ見くびっていたようだ・・・この場にて再度謝罪申し上げる。

・・・それにしてもガリバルディ殿、其方は一体どうやって()()()使()()()()あの芸当をこなせて見せたのだ?」

 

それを聞いた我々は,聞き慣れない言葉に愕然となり、一瞬固まってしまった。

 

・・・えッ、()()!?

 

なにそれ報告書にも載ってなかったけど!?

 

イヤイヤイヤ、待て私ッ、冷静になれ大公!

 

ここで慌てふためくのは、私達がこの世界の基礎的な知識さえ知らない、という致命的な弱みを握られるも同然だ・・・。

 

最悪情報の優位性を相手に利用されかねない・・・ここはさりげなく情報を引き出そう。

 

隣にいる本人ガリバルディは、私含め周囲の下士官達の反応よりだいぶ薄く白けたもので、怪訝な表情で目を薄く細める程度であった。

 

(まなぁ?何言ってんだコイツ・・・()()のことか?)

 

侯爵が小声で目の前のユークリウス騎士に疑問を漏らしているが,私は早急に会話を進める。

 

「・・・ま、()()か・・・そうだな、魔法の発動には()()が必要だろう、そうだろう!確か・・・」

 

そこまで言うと,もはや誘導尋問のようではあるがユークリウス騎士は口詰まった私の代わりに雄弁に説明してくれる。案外人が良いのだと感じた。

 

「大気中のマナを自らの体内の()()()を通して,それぞれの個人の持つ属性・・・例えば先程の魔法で言えば風属性の魔法として放つ事ができるのです。

ですが、ガリバルディ殿。貴殿の魔法にはそのマナの流れが()()感じられなかった。

・・・ヴェッテ殿、貴殿の国ではそういったマナに頼らない魔法が主流なのですか?」

 

誘導成功っ!と喜んでいる暇も与えず、私に質問を振りかけてくる騎士ユークリウスはやはり会話の隙がなく、休憩時間も与えてはくれまいのだな。

 

大気中のマナ、か・・・こちらの言葉(世界)で言えば体内で生産される魔力量の事を指すのだろうか。

 

ゲート、とかいう概念にも注意だ。そのゲートとやらがマナを通すとすれば、ゲートの性能次第では使用できる魔法も自ずと決まってくるという事・・・。

 

もっとも、我々には我々の魔法と()()心がある・・・今更異教徒(異世界)の魔法になど頼る必要はないが・・・ゲートやマナといったものが私達にも流れている、存在しているならば研究する価値はあるだろう。

 

頭の片隅にメモを残しておき、引き続き騎士との会話を再開する。

 

「あ、あぁ、そうだ・・・こちらではあまり見かけないので、やはり珍しいモノなのだな。」

 

私は苦笑いをしながら、何とかその場の会話を全て理解している体でやり過ごした。

 

ユークリウスも「ふむ・・・。」と再度右手に顎に乗っけて、私の迫真の演技を見抜いているのかいないのか、よく分からない表情で数刻の間思案に耽り始めた。

 

 

 

そうしてかれこれ会話と紅茶を堪能している事一時間が過ぎ、窓の外から強い西日が私たちに降り注ぐ。

 

私たちも目の前の会話と思案に入り浸る騎士ユークリウスには多少の焦りと不安を抱き始め,ガリバルディなど今すぐウマイメシと暖かいベッドをヨコセ!!と心の中で猛獣の如く息巻いている。

 

そして我々一同が、このまま情報交換だけが長引く事に焦りと徒労感を感じつつあったその時になって漸く、ユークリウスは口を開いた。

 

「・・・ヴェッテ殿、不躾で失礼ですが、良ければで構わないので,私の提案をお聞きして頂けませんか。」

 

その言葉を聞いて,我々の未来に一途の希望が垣間見えた気がした。ここに来て漸く活路を見出せそうなのだ。

 

「・・・何でも言ってみてくれ。」

 

私の快い承諾を聞いた彼も、少し姿勢や佇まいを整えた後に,またも優雅に、されど真剣な声色で話し始める。

 

 

 

「宜しければ、当家であなた方御一行を食客としてお迎えしたいと思うのですが・・・いかがでしょうか。」

 

 

 

なるほど、そう来たか。

 

この国での、私達の実力が計り知れなかったが,今漸く掴めた気がする。

 

まず第一に、この王国内でも確実に上位に位置するであろう騎士ユークリウスが、我々の戦力を手中に置きたい、とまで申してきた。

 

一介の兵士が敬意を持って接するような騎士にその実力を評価されているのだ。決して誤った評価ではないだろう。

 

しかも、あの何でもない風魔法でカーテンを切り裂き、形を整えた布屑にしてやっただけなのにも関わらずだ。

 

ガリバルディの本気はあんな生優しいものではない。

 

彼が真剣に()()を目的とすれば,恐らく一般の人間であれば原型を留めない肉塊に1秒足らずで変えてしまうだろう。

 

我々の実力の、たった一端を見せただけであの驚愕ぶり・・・という事は、我々はこの世界でも遥か上位の実力を持つ,という事が推測されうる。

 

・・・もちろん、傲慢は決して許されない。

 

()()()()()()()()上に、()()()()()()()()

 

我々より格上の存在に生命を脅かされた時、己の才に溺れ何の対策も取っていなかったでは済まされない。

 

イングランド兵に信仰(異端)の擁護者がいた時、皇帝ヴラドに複数の槍を顕現させる権能を使われた時、フランス人に背後から1突きを受けた時、我々は果たして笑っていられるだろうか?

 

否、断じて否である。

 

真の常勝軍とは、常に想定以上の想定を繰り返し、起こりうる現実に目を背けてはならない存在でなくてはならない。

 

努力を怠れば、見聞を狭めては、正当な評価を下さなければ、それは()()()()の二つの大罪が我が身を滅ぼす事を意味する。

 

しかし、今回の一件はいい判断材料となってくれた。我々に新たな物差し(基準)を与えてくれたのだ。つまり、彼らにとっての5センチとは、我々にとっての1ミリにも満たんということを・・・。

 

改めてユークリウス殿には礼を言わねばならないな、と心の中で申しながら,私は彼の提案に返答を述べる。

 

 

 

「・・・大変ありがたい申し出だが、断る。

我々は既に決めたのだ。

一度頼みとしたカルステン公爵を隅に押しやり,ユークリウス家の傘下に入るは不義・不忠の極みだ。

・・・騎士である其方ならこの気持ち、理解してくれると期待している。」

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間,ユークリウス騎士は己の罪を意識したかの如く,ハッとなりすぐさま頭を下げ、謝意を表明する。

 

「・・・申し訳ない。貴殿が既にカルステン家を頼りにするとお決めになった以上、身勝手で傲慢な提案は余りにも不躾で無礼でありました。

この場においてこの騎士ユリウス・ユークリウス 再度謝罪させて頂きます。」

 

・・・実に誠実だな。そんな感想を抱いた。

 

恐らく騎士道に反してでも我々の力を欲するまでの壮絶な理由(王選)があるのだろう。彼の性格から言えば、それはかなり酷なことであろうが。

 

私の感想は簡素なモノだったが、中世ヨーロッパのお伽話に出てくるような正に誠実すぎる程に誠実で、忠実な騎士だとその目で実感した。

 

(・・・はッ、最初からそうして首を垂れて置けばいいものを。)

 

だが横にいるガリバルディだけは、この男の全てをライバル視しているようだった。

 

その精神を侮辱するのと同義な思考は、我々をさえ穢す。

 

これは後で騎士道を再度,説く必要がありそうだと、仕事が増えた事に不満を少し募らせながら彼と会話を続ける。

 

「・・・頭を上げて欲しい,ユークリウス殿。」

 

その言葉に合わせて,彼もゆっくりとその顔を上げ、こちらをまっすぐ見据える。

 

一寸の曇りもない、汚れを知らない眼を見つめながら私は彼に融和的に話しかける。

 

「別に大した事ではないさ。君にはそれなりのワケがあるのだろう?

・・・それどころか、私は礼を申さねばならない。この王国内で我々の実力が如何程のモノか、ある程度確かめることができたのだから。

なるほど、貴殿が喉から手を出して欲するわけだ、はは!」

 

私は彼の罪を笑い飛ばして許した。

 

《最大の贖罪とは、罪の自意識にある。》

 

教皇庁の教えも馬鹿にできないと、今更思い知った私は、空になったティーカップを机上でクルクルと回し始める。

 

それを見た彼も、苦笑気味に「左様ですか。」とだけ言い,互いに張り詰めた空気も和らいだ所で、彼の方から漸く事を起こしてくれる様子となった。

 

「・・・そういう事でしたら、カルステン家の従者を直ぐにお呼びします。幸いにも面識がありますから。長らくお待たせしてすみませんが、もう暫くお待ちください。」

 

「あぁ、それで構わない。」

 

その一言を終えた後、漸く長い長い応接から一転して事が運び始めた。

 

ユークリウスは扉を開け,礼をした後静かに応接間を出て行った。

 

それを確認した後、私達は下士官、侯爵そして提督一同,深くため息をついてこう述べた。

 

『・・・Finalmente(やっとか)。』

 

全員の緊張感と不安は、今ここで解消されたのだった。

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