私兵団と共に!   作:YJSN

3 / 7
初めて一万文字行きました。
今回は長いです,どうぞ。





第3話 交渉成立

 

 

あれから暫くの間待った後、室内にトントンと軽いノック音が響いた。

 

「入ってくれ。」

 

その言葉を聞いた後、すぐに扉は開かれ,予想していた人物が一人と、していなかった人物が一人、こちらに歩み寄ってきた。

 

「待たせてしまって済まない、ヴェッテ殿。」

 

「いや、気にしてなどいない。それで貴公は・・・騎士、か・・・?」

 

私はユークリウス騎士の謝罪を受け流し,もう一人の方をじっと見つめる。

 

「・・・もぅ、態々ユリウスから呼び出されたと思ったら、なーんでジロジロと見られなきゃ行け()()()の。失礼な人だナー。」

 

どうやらじっくりと見つめすぎていたらしいが、それも仕方のない事だろう。

 

この目の前の猫耳の生えた、『語尾がガリバルディと似通った』、ユークリウス騎士と同じ騎士服を身に纏った可憐で華奢な体付きの・・・()()()()()()を見れば。

 

私は経験と勘を信じて性別を判断したが、後悔はしていない。いやしていないぞ。それに多分その推察は当たっている。

 

己の真の姿や本性を隠すためにああいった特殊な語尾や口調,身の振り方などをする輩はガリバルディと同じく,身分を偽ったり実力を隠すのに有利だ。

 

もちろん、侯爵本人は気に入ってるからああいう仕草をしているだけらしいが・・・要注意である事に変わりはない。

 

「・・・これは失敬、貴公の外見と性別の格差に驚いただけだ。私はヴェッテ・ヴァロワといい、このヴァレンシュタイン取引商会のしがない隊長を務めている。貴公は?」

 

私が手を差し出しながら名乗れば,彼も若干驚いた顔をしながらも律儀に握手をしてくれる。

 

「へぇー・・・初見で私の性別を見破っちゃうなんて、フェリちゃん意外〜・・・ちょっとだけ見直しちゃった。

 

改めまして、私の名前はフェリックス・アーガイル。フェリちゃんって呼んでね。

あとあなたの最初の疑問だけど、大正解だよー。フェリちゃんはこれでも王国騎士団所属だからね〜。」

 

にゃはっ、と笑顔で接してくれる彼はどことなくガリバルディに似通っているせいなのか、親しみやすさを感じてしまう。

 

もちろん,隣で聞いている本人はあまりいい顔をしておらず、新しいライバル登場に一層不満気だが。

 

「ユリウスから大体の話は聞いてるよー?何やら魔法の実力が凄くて、そんでもってお金もない、明日身を置く場所も無いって相当な不運だったねー。」

 

「まあ、な・・・。それで、貴公は・・・カルステン家の従者、なのか?」

 

「その通りだよー・・・ただ、単なる従者じゃなくて歴とした騎士だから、そこら辺間違えないようにフェリちゃん、お願いするかしら。」

 

「わかった・・・それでは騎士フェリス、これからの予定は考えてあるのか。それに、我々の処遇はどうするつもりか?」

 

長丁場となった応接室であったが、流石に日も暮れてきた頃であった。

 

窓を見やれば真っ暗な王都が街頭に照らされながら繁盛している様子が窺える。その夜景の美しさは、我々の欲望を刺激するには十分な程だった。

 

「まず場所を変えようと思うかなー、いつまでもこんな場所に居ても仕方ないし、とりあえず直接クルシュ様の元まで案内するね。

 

多分その方がクルシュ様も納得するだろうし、私があーだこーだ言ったって話はそう簡単じゃないだろうしで、結局それが一番なの。

 

後はそっちの要求が通るかどうかは、クルシュ様のご気分と今のあなた次第ってとこね。どう?ご不満?」

 

これからの事について詳しく説明をしてくれた騎士フェリスにありがたく思いながら返事をする。

 

「いや、それは大いに助かる・・・交渉の場に立てた事だけでもありがたい。・・・それでは早速移動か?」

 

「そうだよー、表に客人用の竜車を待たせてあるから,取り敢えずそれに乗ってほしいかなー。あ、乗り物酔いが激しい人は大丈夫だよ?ちゃんと車輪と車体の間にクッション魔法をかけてあるから。」

 

猫耳をフルフルさせながら彼、フェリス騎士はきちんと段取りを済ませていることを伝える。クッション魔法・・・我々の世界で言う衝撃緩和魔法まであるのだから、こちらの魔法技術の汎用性には驚かされるばかりだ。

 

それに・・・なるほど、ユークリウス騎士はだいぶ細かい部分まで道中話したようだ。

 

会って早々、見ず知らずの私達を案内してくれるという事は、彼からガリバルディの魔法の一部始終を耳に入れて一目程度は置いている証拠だ。

 

「んじゃ、後は任せてユリウスはお家に帰っといでよ。今日はもう勤務時間とっくに超えてるでしょ?」

 

フェリスがこちらを手招きして,私達と部屋から共に退出しようとした時、騎士ユークリウスにも声をかけた。

 

どうやら今日は大幅に勤務時間を超えてまで私達の応対をしていたようだった。何か、申し訳なさが感じられてくるが、彼の性格から見て問題なさそうだと切り上げる。

 

フェリスの心配とも取れる気遣いに気づいた彼も、「では頼んだ、フェリス。」とだけ言ってこちらに丁寧にお辞儀した後、詰所の奥に去って行った。

 

彼とはまたいつか会うだろう・・・それだけ私達は大きな組織であるという自負から、そうは思わずにはいられなかった。

 

「んじゃ、乗った乗ったー。後の護衛の人達はこっちは満杯になるから、後ろの竜車の方に乗ってねー。」

 

外に出ると、街頭に照らされた、昼間とは大違いの詰所前に置かれた車が見えた。

 

・・・なるほど、伝説上でしか聞いたことのなかった、刺々しい硬い鱗を持つ竜が引く、馬車のような乗り物・・・竜車か。

 

それを興味津々に私と護衛のガリバルディや下士官達はじっと見つめながら、フェリスによってそれぞれ前後二両の竜車に詰め込まれていく。

 

「ヴィル爺、出していいよー。」

 

「分かりました、フェリス殿。」

 

全員が中に乗り込んだことを確認すると,フェリスは竜車の前方に居た初老の・・・されど老いを感じさせない程の逞しい身体付きと、腰の輝く帯剣は単なる御者でない事を示す彼の名を読んで漸く出発となった。

 

彼もクルシュ大公の側近に値するような実力者なのであろうか。そんな疑問と共に、竜車は静かに動き始めた。

 

恐らく先程フェリスが言っていた衝撃緩衝魔法(クッション魔法)が機能しているのだろう、ガタンガタンと実際に車内が激しく揺れる事もなく、静かな空間の中で私達は騎士フェリスと暫しの間対面する。

 

そんな中、あまり居た堪れなく気まずい空気になりつつあるのを変えるために先に口を開いたのは,フェリス騎士の方であった。

 

「それでー、あなたの商隊・・・えーっと、ヴァレンティー・・・ヴァレー・・・」

 

「ヴァレンシュタイン取引商会、ですが何か。」

 

いまだに警戒心有り有りの鋭い目で彼をじっと見つめる、隣に座るガリバルディが即座に無表情で返答する。

 

名前を忘れられた事に多少立腹している様子だったので、私が少し目で合図し,あまり駆り立てるなと宥める。

 

ちなみにこの先頭の竜車に乗っているのは私とガリバルディ、風魔法に適性を強く持つ下士官が一人だけである。多分侯爵のお気に入りなのだろう、三角帽がよく似合っていた。

 

「そうそう、そのヴァレンシュタインって、何が由来になってるのかしらーって、フェリちゃんずっと気になってるんだけど、教えてくれたりしないのかにゃ?」

 

ここじゃあまり聞かない名前だし、あなた達の故郷の話も知りたいし!との一言二言の後、私は話しても良い内容かどうかと、少し考えた後こう述べる。

 

「・・・私の故郷に遥か昔居た傭兵の名から取っている。

その者は一介の傭兵から、爵位を授かり全軍を指揮されるにまで至った史上最も叡智に長けた兵士として有名だった・・・我々もそのような躍進を見せるべく、拝借しているというわけだ。」

 

彼の名を借りた理由はそれで間違いないが、商隊と偽るために慌てて口から出たでまかせとは言えなかった。

 

私の答えを聞いた彼は「なるほど。」と手をポンと叩いて興味津々にほぅほぅと頷いてみせた。

 

その後、また幾度となく無為に時間が過ぎるのも退屈な上に有意義に在れないので、今度はこちらから思い切って話を振る事にした。

 

「・・・聞きたいのだが、なぜ見ず知らずの我々を即座に受け入れたのだ?多少は怪しむものだが。」

 

私の探りのような質問に対して、フェリスは何でもないかの様な仕草で簡素に返事をした。

 

「さっきも言ったけど、ユリウスから多少話は聞いていたし、嘘を吐いているようには見えなかったからねー。

・・・何よりそこの隣にいる子(ガリバルディ)の使って見せた()()()使()()()()魔法に興味を惹かれたって感じなー。」

 

「なるほど・・・そんなに珍しい魔法なのか。」

 

私が改めてその話を聞いて自慢そうに腕組みをしている隣のガリバルディを指差してみれば、フェリス騎士は肯定の意を示し首を縦に振る。

 

「うん、そんな魔法フェリちゃんこれまで一度も聞いた事も見た事も無いから・・・それに、今クルシュ様が進めている()()()()に大いに役立つと思ったから。」

 

後半の話の部分でフェリス騎士は明らかにその眼を・・・意志に紅く燃えた眼をして固い決意を示していた。

 

恐らくその計画とやらは何かこう、一族の悲願とも言えるものなのだろうか。

 

フェリスの重々しい表情を見たガリバルディも彼に向ける表情を多少改め、フェリス騎士の発言に多少興味を抱いたようだった。

 

「・・・それで、その()()()()とは。」

 

簡単そうでなかなか聞き出せないであろうその疑問を発したのは、私よりも先にガリバルディの方であった。

 

だが、それに対してやはり悪戯っぽい表情を浮かべてフェリス騎士は返答する。

 

「それはフェリちゃんからは言えないから、クルシュ様本人に聞いて欲しいにゃ。」

 

「・・・チッ。」

 

「こらー、そこ舌打ちしないのー!言っておくけど、クルシュ様の前で無礼な態度を取ったら即放り出すから、そこら辺気をつけといてよねー。」

 

ぷんぷんと怒る様子も、ガリバルディにどことなく似ていて微笑ましいフェリス騎士だが、ガリバルディはお叱りを受けたことに不満なようで足を組んで竜車の窓の外を眺めることにしたらしい。

 

「・・・その点は留意させて貰うとして、どうなのだ。聞いてるとは思うが、カルステン公爵は我ら総勢574名の隊を養える程の力を持っているのか?」

 

「あったり前でしょー!クルシュ様は広大なカルステン家が代々受け継いできた領地をお持ちなの!十分な基盤があって、フェリちゃんやヴィル爺の様な優れた人材に恵まれていらっしゃる・・・これだけ素晴らしい()()クルシュ様にあなた達程度が養えなくてどうするんだーってこと。」

 

フェリス騎士は顔を赤らめながらも、自分の主人に対する絶対的な忠誠とその勢力を自慢げに次々と話してくれた。

 

なるほど・・・やはりヴィル爺,と呼ばれた先程の初老の御者は只者ではないわけだ。

 

次々と脳内メモに書き写してゆく私をよそに、フェリス騎士は次々と要らぬ話を申してくる。

 

フェリちゃんがクルシュ様とお会いした時、だのフェリちゃんがクルシュ様と日頃どのように過ごしてるか、など全くもって無意味な会話が続いて十数分、唐突にガタン、という衝撃音が伝わり,竜車が停止した。

 

「・・・そしてそして私はクルシュ様に生涯この身を捧げる事に・・・って、もう着いちゃったの?ちょっと早すぎないヴィル爺〜。」

 

「早く降りて下さい、フェリス殿、お客様方。」

 

「ちぇー・・・じゃ、着いたようだし早速行こっか。」

 

ヴィル爺、なる御者に冷淡に接され多少へこんだ彼は大人しくこの竜車を降りてクルシュ邸に行く事を勧める。

 

「あ、あぁ・・・。」

 

「・・・。」

 

私とガリバルディはどこか微妙な空気になりつつも、足を動かしフェリス騎士の後に続いて竜車を降りた。

 

すると、そこにあったのは正に豪邸と呼ぶにふさわしき邸宅だった。

 

整えられた植木が邸宅までの街路に沿って数々と等間隔で設置されており、中央の噴水は見事周囲に花を咲かせている救い主であるかのようであった。

 

その幻想的な景色を包み込むかのように隔たりの壁が堅牢に立ち並び,城門には番兵が休む事なく見張りに就いていた。

 

さらに邸宅内においても、いくつかの小隊が松明を片手に哨戒しているのが窺える。彼らは大公の私兵だろう・・・この規模を運営できるとは、期待した通りであった。

 

警備に関していえば()()()()()()()()()()万全だろう・・・だが、相手は普通ではないこのコンキスタドール(征服者)だ。

 

既に私たちの乗ってきた竜車の後を付けてきたヘッケル伯爵配下の斥候兵が、このクルシュ邸家の屋上からこちらをジッと見つめてきていたのだから。

 

その影魔法に巧妙に隠れた彼らに気づいているのは、私とガリバルディ程度だろう。さらに言えばこちらの世界で言うマナを使用しないため、彼らがその魔法の発動に気付ける可能性は極僅かだ。

 

フェリスやヴィル爺なる者達は愚か、下士官達でさえも気づいていないのだから、今の彼らは立派な暗殺者の資格を持っていると言えよう。

 

これは上々の出来だとばかりに顔を邪悪な笑顔に歪ませた後、このままあり得ないとは思うが、万が一(戦闘)に備えてこのまま監視について貰おうと思考する。

 

「どうどうー?はじめてのクルシュ様のお家は!立ち入れる人は滅多に居ないんだから!」

 

私たちが衝撃を受けていると勘違いしているのか、フェリス騎士はこちらに詰め寄ってきて己の主君とその権勢をまたも自慢し始める。

 

「・・・確かに、公爵という事だけはある。豪邸というに相応しい気高い邸宅だ。」

 

「それだけ〜?もっと言うことはないのかにゃー?」

 

こちらをニヤニヤとした表情で見つめながら更に近寄ってくる彼に少し我慢がならなかったのか,侯爵が横から手を出し私を庇う様に彼の前に立ち塞がった。

 

「それは良いですから,騎士アーガイルは早くカルステン公爵の元に案内しやが・・・してください。」

 

私がそれとなく彼の肩に手を置いて言葉遣いを改めさせると、騎士フェリスも少しおふざけが過ぎたと思ったようで、若干居た堪れないような表情で頭を掻いていた。

 

「・・・それではここからは私が先導させて頂きます、ヴィルヘルム・ヴァン・アストレアと申します。」

 

そんな気まずい雰囲気を打ち破ったのは,竜車をクルシュ邸の使用人に預けてからこちらに来た、同伴していた先程の初老の立派な騎士の風格を持ち合わせた御者であった。

 

「それは良い。私は既に聞いているだろうが、商隊長であるヴェッテだ。よろしく頼む、ヴィルヘルム殿。」

 

「分かりました。・・・フェリス殿、いつまでも呆けているわけにはいきませんぞ。」

 

「・・・っ、そんな事ヴィル爺に言われなくても分かってるっての全く・・・ほら、早く行った行った。」

 

先程と打って変わってポンポンと背中を押しながら私達を邸宅の方へと進ませてくるフェリス騎士を横目に見ながら、このヴィルヘルムと呼ばれた者だけは、豪邸であるクルシュ家の頂上に存在する屋根上を厳しい眼で見つめていた・・・。

 

奇しくも、そこには影魔法を巧妙に操る一人の兵士が居たのだが・・・ヴィルヘルムは先導を務めるため、この時の事を気のせいだと頭の片隅へと追いやり,御一行を案内し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルステン家に案内されて中を見て回ってきたが,目の前の扉はこれまでくぐってきた扉より数段上質な木材と装飾が見受けられ,当主クルシュ・カルステンの執務室であろうと推測できた。

 

「この先が我が主人、クルシュ様の執務室で御座います・・・お伺いして参りますので,皆様方は少々ここでお待ちください。」

 

「わかった。」

 

「ってなわけで、まっててねー。」

 

にゃはーっ、と笑顔で私達を見やった後,フェリス騎士はヴィルヘルム殿と共に豪華な扉を大きく開きながら一足先に大公の元へと入って行く。

 

それを見た後,私は隣で佇んでいる自慢の右腕に、少し心配気な顔をして話しかける。

 

「ガリバルディ、そして下士官もそうだが・・・再三言っておこう。失礼のない様にしてくれ。交渉が破綻したら我々には今日、他に行く当てがない。」

 

「・・・わかりました、提督。」

 

彼はそう言うと,スタッと佇まいを正した後後ろの下士官達に首を少し曲げてこう言う。

 

「提督の命令だ。各員,決して無礼や粗相のないよう留意しろ。・・・そこの二人はここに残って外側の扉を、お前達二人は入室後内側の扉に護衛につけ。一閃でも僅かに位置を変えたり,姿勢を崩せば処罰を下す、わかったな。」

 

「「「「はッ。」」」」

 

彼は必要に迫れれば真面目に指揮を下し、的確な命令を発せられることで、小規模な部隊編成においてはかなり有能だ。

 

指揮官として申し分なく周囲の下士官達に命を下すことができる・・・が、文字通り小規模な部隊でなければ、彼の視野は狭窄されてしまっており、目の前の敵の打破以外に考えるべき戦闘教義を一切無視しようとする欠点がある。

 

つまり、大規模な部隊は彼に任せられないと言う事だ。飽くまで彼には少数精鋭の部隊編成を保ってもらわなくてはならず、尚且つ自由攻撃部隊(所謂遊撃)として、敵を混乱させる任務が適している。

 

だからこそ、普段もう少し甘えるのを控えてくれれば,周囲の状況に目を光らせてくれれば、どれほど助かる事か・・・まあそれもヘッケル伯爵が補ってくれる、或いは私が補えば良いと言う話だ。

 

彼の評価に関して少し熟考していたその時、目の前の扉が開かれ、フェリス騎士が顔をひょこっとのぞかせた。・・・相変わらずその猫耳は会った時以来見慣れないが。

 

「クルシュ様のご用意が整ったから、もう入室して構わないよー。」

 

そうとだけ言うと、彼は再度扉を静かにしめて執務室の中へと戻って行ってしまった。

 

彼の伝言を聞いた私は迷う事なく、即座に部下達と共に扉を押し開き,中へと機械的な動作で律されつつも入って行く。

 

ガタン、という木製の扉から心地のよい音がした後、私の目には豪華なシャンデリアに照らされた、部屋の外に比べればあまり飾り気のない部屋が映り込んだ。

 

背中ではガリバルディの指示通り,部屋の扉の外側・内側に護衛の下士官が姿勢を正し,一挙一動間違う事なく佇んでいる。

 

私自身も姿勢を正し、目の前の大きな客人応接用のソファの右側に置いてある広く大きな執務机に備え付けられた椅子に座る、一人の()()()を見た。

 

深緑の長い髪を持ち,身は軍服に包まれた可憐な戦乙女・・・かのJuana de Arco(ジャンヌ・ダルク)に匹敵する勇猛さが、その佇まいのみからでさえ垣間見える実に雅やかな女性であった。

 

「・・・まさかカルステン家当主、クルシュ・カルステン公爵がかくも美しく、されど逞しい女性であったとは予想だにしなかった故に、失敬した。」

 

「・・・なるほど、貴公は私の事を知らなかった訳だ。ならば別に構わない。そこに座って欲しい。」

 

執務机の両隣には先程のフェリス騎士、ヴィルヘルム殿がそれぞれ構えており、カルステン公爵を守る三角の陣を成すかの如く立っていた。

 

公爵は私にソファへと着席を勧めた後、彼女達自身も対面側に置いてあるソファに腰掛けた。

 

私も、彼女達を先に座らせた後に静かに着席する。

 

それを見た公爵は少し驚いた顔でこちらを見る。

 

「・・・貴公がそこまで律儀な性格だとは、フェリスから聞いた話にはなかったが故に少々驚いた。それに後ろの貴公の護衛の華麗な佇まいも、私に衝撃を与えた・・・どうやら単なる商隊ではなさそうだな。」

 

「それはもちろん・・・()()()()()()()()()()()()()、無礼は許されない事ゆえに。」

 

ふっと含んだ表情で微笑みかければ、彼女もその言葉の意味を理解したのか目を鋭く細める。

 

隣にいたフェリス騎士は予想外の情報に対して目を点にしており、「えッ・・・そんにゃの聞いてない!」と慌てふためいているが、当然のことだ。

 

不用意に関係者以外に情報を漏らす事は軍の中では忌み事、死罪に直結する。

 

故にこれまで単なる商隊としか名乗ってこなかったが,爵位を授かる者という立場は、交渉において多少有利に物事を進められると思ったがためにここで初めて開示した情報だった。

 

私が発言したと同時に、私の顔の横を風が通り抜けて行く。

 

その風を見た瞬間に、ソファの後ろで着席せず警戒しているのかずっと立ちっぱなしのガリバルディ侯が目を細めた。

 

「ほぅ・・・嘘はついていないようだ。」

 

「・・・一体どういったカラクリでしょうか。窓は開いておらず、この堅牢に建てられた屋敷に隙間風は考え難い。それにその発言と来れば・・・なんらかの能力、か?」

 

「ご名答だ。これは私の持つ風見の加護・・・あらゆる風の動きを読み取れる。先程貴公が()()()()()()()かどうか風の動きを見て判断していたのだ。」

 

「なるほど・・・そんなモノがあったとは、驚きです。」

 

(精神干渉魔法か・・・?いや、それでも風魔法に分類され得る・・・ダメだ、こちらの世界の事を我々の知識では解釈しきれない、か・・・。)

 

公爵の特異なる能力・・・もっと言えば厄介極まりない能力に参ったとばかりに考察に耽ってしまったが、背後では彼女の能力のことを聞いて更に警戒心を強くしたガリバルディに対し、カルステン公の注目が移った。

 

「・・・後ろの護衛の者達はわかるのだが、そこの貴殿はどうして着席しないのだ?」

 

「私も、あくまで護衛の身分として同席させて頂いている身・・・公爵()と同席など、この場に相応しくないかと。」

 

カルステン公爵の不意な疑問に素っ気なく答えた彼は努めて冷静沈着を維持していた。流石にいつものお調子者ではなかったようで、一安心である。

 

「そうか・・・ならば良い。それではまず互いに名乗る事から始めるとするか。」

 

「ごもっとも・・・既に話で聞いているとは思うが、私はヴァレンシュタイン取引商会のしがない隊長を務めているヴェッテ・ヴァロワ()という。爵位は公爵だ。後ろにいるのは・・・」

 

そこまで言った所で、ガリバルディはタイミングを計らったかのように自ら進んで口を開き、名乗りを上げる。

 

「それには及びません、()()()()()(わたくし)は偉大なるヴァロワ卿に仕えし、ガリバルディ・ベリックと申します。爵位は侯爵です。」

 

それを聞いた公爵は、あらためて自らの佇まいをただした後に、こう名乗る。

 

「私はルグニカ王国より公爵の地位を授かるカルステン家現当主、クルシュ・カルステンだ。・・・それで卿等はどこから来たのだ?その物珍しい服装に、少々訛りのある言葉・・・フェリスの話では遥か遠方からとの事であったが。

・・・それに公爵ともあろう国の重鎮が他国に商隊一つ率いてやってくるなど,正気の沙汰ではないが。」

 

大公はここに来て一気に我々に対して抱えている矛盾点や疑念を質問責めに近い形で突き出してきた。

 

それもそうであろう、我々は大公の傘下に入り、その恩恵を求めようとする者であり、部外者である。そういった外様に対し、何の疑いもなくすんなりとその手を差し伸べる者はいない。

 

増して目の前の人物は、正しく()()()()()を持つ程の大公であり、疑われるのは至極真っ当なことで、むしろ疑われない方が私は心配をしてしまうであろう。

 

「当然の疑問だな・・・では公爵に聞こう。

Imperio Español(イスパニア帝国)』 聞いた事は?」

 

「ないな。」

 

「では『マグリブ諸国(Maghrib)』は?」

 

「それも聞いたことがない。」

 

「・・・ふむ。」

 

そこまで聞いた上で,私はこう思案する。

 

この国の公爵という立場に立つ人間が、一国も祖国の位置する欧州の国名を聞いた事がないとなれば、やはりここは・・・()()()なのだろう。

 

だがこの別世界(異世界)を、そのまま言葉にして相手に伝えても、彼らはまるっきり信用しないというのは目に見えている。

 

急にそんな事を言い出せば狂人の群れか何かかと勘違いされる事だろう。

 

目の前のカルステン公爵は()()()()()という能力があり、嘘を見破れるというが、狂人と判定されてしまえば、本心から信じて狂言を申していれば()()()()()()()()ため信用してもらう根拠にも欠ける。

 

故に,私はこう述べる。

 

「私達は・・・そうだな、やはり()()()()遥か遠方から来た商隊,としか申せない。祖国は先程言った偉大なる世界帝国『Imperio Español(イスパニア)』という。」

 

商隊という虚偽の申告を突き通そうとすると、またも私の顔の横を奇妙な風が通り過ぎる。

 

「・・・聞いた事もない国だが、()()()()()()()()()()嘘は言っていない様だ。ひとまず信じよう。」

 

「ありがたい。こちらの身の上は既にお聞きしているだろうが、もう一度申し上げる。

まず我々はこの王国に・・・そうだな、気づけば居た,と言えば良いのか。」

 

その言葉に、目の前のもう一方の公爵は眉を顰めると同時に,私の顔の前を風がどこからともなくやって来ては通り過ぎて行った。

 

「・・・嘘ではないようだが・・・どう言うことか、説明してもらおうか。このルグニカ王国は今、卿も知っての通り平時より少し落ち着かない現状にある故に、見過ごすわけにはいくまい。」

 

それを聞いた私も、この()()()()()()()()女を前にして下手な事は言えないため,ある推測を口にする。

 

「これは絶対というわけではないが・・・恐らく()()()()の類による敵の妨害工作かと。それがダメならば、もう()()()()としか言いようがないな。」

 

「・・・()()()()・・・。」

 

その言葉を復唱する公爵は暫し思案した後に、こう疑問を投げかけてくる。

 

「・・・卿の配下である、ガリバルディ・・・侯爵か。彼はフェリスから伝え聞いた話では見たこともない風魔法を使ったようだな。

貴公の国では、物体を転移させる魔法までも存在するというのか。」

 

私はその疑問に自らの頭の中にある知識を総動員して答えていく。

 

「あぁ・・・()()()()()()。転移魔法は古来より私の居た国や地域では何度も研究がなされてきた故に、ある程度の物であれば物体を転移させられるくらいには実用段階にまで登ってきている。

・・・だが今回転移させられたのは()()()()()()だ、規模が違いすぎる。これほどの転移魔法は、未だかつて聴いたことも見たこともない。

・・・もしかすれば,我が憎き敵国が秘密裏にその超大規模な転移魔法を完成させていた可能性があり、それを我々に向けて放ったという可能性もなきにしろ有らず。」

 

それを聞いた公爵は更に深く顔を伏せ、十二分に思案した後、我々の正体に関わる重要な質問をもう一つ投げかけてくる。そしてそれは恐らく先程私がした返事の内容に残された疑問とも重なる部分であった。

 

「・・・それで、貴公は先程商隊,と名乗ったが・・・()()()()()()()()()()のか?

商取引を主軸とする商隊は、国家間の争いには中立であるのがこちら側の常識なのだが・・・まさかそこまで貴公の居た場所では違うと言うのか?」

 

我々の核心に迫り得る大公の最後の質問に対して、これから恐らく長い間世話になるであろう公爵にならば、本当の事を()()()話して良いかと考える。そして、意を決してその澄んだ目を見つめながら答える。

 

「・・・では、改めて名乗るとする、か。」

 

その言葉を聞いた公爵は、漸くこちら側の正体(核心)を知れるとばかりにニヤリ、と不敵に笑みを溢す。

 

隣にいるフェリス騎士は最早聞いていた話とはまるでスケールが違うとばかりに、目を丸くしてじっくりとこちら側を、疑念と憤りが織り交ぜられた目で見つめていた。

 

「私は、偉大なる帝国軍傘下の精鋭部隊コンキスタドール(征服者)の総司令を務める ヴェッテ・ヴァロワ卿と言う。」

 

それを聞いた瞬間,後ろのガリバルディはいつも以上に誇らしく,自分達の格好を自慢するかの如く堂々としていた。

 

そして目の前のフェリス騎士や隣でじっと私達の事を観察していたヴィルヘルム殿は、明らかに目を鋭くしてこちらを警戒していたが,当の公爵だけは、一国の精鋭部隊の長を前にして、何か計略があるかのごとく、更にニヤリと口角を上げ、続きを促してくる。

 

その様子に私は少し、少しだけだが・・・不気味だとも思った。

 

この道は正解なのか?まだ戻れるのではないのか?

 

・・・そんな終わりのない問いが浮かんできそうで、怖かったのだ。

 

それでも、そこで止めるわけにはいかないし、もう止められない。私は大公の求める通りに事の詳細を持ち運ぶ。

 

「・・・帝国は、ある天敵(イングランド王国)と目下戦争中であり、実を申せば我々はその敵国の首都に行軍中だった。

その野営中に、気付けばこの地に居た・・・時間は本日の正午前,と言ったところか。どうだ、信じてくれるか?」

 

私の隣を風が通り過ぎてゆく。この風に対する頬感触はひどく不気味で、不慣れなものであった。

 

自分の情報の真偽が風一つでわかるなどという、出鱈目な力を前に、不快感が少し優ってくるのだった。しかし、それでも堂々と居続ける。

 

風による私の話の精査を見届けた後、ゆっくりとカルステン公爵は口を開く。

 

「・・・嘘はついていないようだな。」

 

「ク、クルシュ様!いけません!こいつ等は身分を偽って王国に侵入してきた不届き者ですよ!?

信じてはいけません!今すぐ衛兵に引き渡すべきです!!」

 

すると、今の今まで黙り込んでいたフェリス騎士が、態度を一変させて主君に忠言をする。

 

「フェリス、取り敢えず話を最後まで聞いてからだ。全ては私がその後に判断しよう・・・卿もそれで満足してくれるか。」

 

「勿論・・・まぁ、我々が万が一にでも衛兵に連行される可能性はゼロに近いがな。」

 

傲慢とも警告とも脅しとも取れる、その実力への自信から来る言葉に,当のフェリスは今にもこちらを襲ってくるほどの勢いで敵視してくるが、カルステン公爵は気に留めずこう話しかけてくる。

 

「・・・良いだろう、ヴァロワ卿よ。

其方が()()()()()()王国内に転移させられ、()()()()()()この国の事情を短時間である程度知っていた事はこの際、置いておこうではないか。

肝心なのは・・・それで、『貴公は私に何を求めるか』、という事にある。」

 

そこまで言うと、これからは本題に入る故どちらも少し緊張感あふれた雰囲気の中、互いが互いをじっと見つめる。

 

そして私は数刻時計の長針が動いた後に、カルステン公爵の質問に、こう答える。

 

「・・・カルステン公爵、率直に申そう。

 

 

 

我々が公爵に求める物はただ一つ・・・我らが帝国精鋭部隊コンキスタドール(征服者)を、どうか一定期間、匿ってもらえないだろうか。」

 

 

 

「・・・。」

 

それを聞いた公爵は無言で続きを促してくる。

 

「我々は現在,丸二日も補給を受けておらず,食事もままならない。

このままでは餓死する上に,そうなれば盗賊として略奪行為に走る兵も出てこよう。

そうなるよりかは,貴公を頼り命を繋ぎ止め、我が偉大なる祖国に帰投する道筋を僅かにでも見つけたいのだ。

 

・・・大公としても、手付かずの膨大な戦力を手に入れられるのだ。悪い話だとは言えないはずだが。」

 

その後、少々の静寂の後、両者の間に再び会話が起こる。

 

 

 

「それに際して、貴公は当家に()()()()()()つもりだ・・・ヴェッテ・ヴァロワ卿。」

 

 

 

そのなによりも重要な交渉の切り札は、我々がどうして有益たるかを求める当の彼女の()()()()あった。

 

数時間前のヘッケル伯爵からの定時連絡兼報告書の記載には、最近になり竜車の買い占めや武器・防具類等が大量に購入されているとあった。

 

それも王都中で、だ。

 

さらにはこのカルステン公爵邸に到着した時から目についていた、邸宅内における哨戒兵の装備の良さ、多くの竜車の出入りの形跡の残った地面に、最近建てられたばかりであろう複数の巨大な倉庫・・・。

 

ちょっと目を配らせてやれば判断材料はどこにでも散らばっていた。

 

これらから察するに、その買い占めを行なっている者はカルステン公爵にほぼ間違いはないだろう。

 

そしてそこから導き出せる答えは、今公爵家は異常な程の戦力を、少しでも集めようと血眼になっているという事だ。

 

そしてそれが、まだ彼女の口から語られていない()()()()とやらに直結しているのは明白だ。

 

故に私は、己の切れる最初で最後の交渉材料を胸に抱き、静かに口を開く。

 

 

 

『我ら征服者(コンキスタドール)()()を・・・敵を蹂躙し続けてきた、我が帝国の偉大なる恩恵を、そなたに授けたい。』

 

 

 

如何かな、と私は彼女の前で自信満々に、されど優雅に提案する。

 

それを聞いた公爵は、己の欲していたモノが目の前に見つかったとばかりの、不敵な笑みをこぼした表情で、こう述べてきた。

 

「・・・ならばまず、卿の戦闘能力は如何程のものか、ここで披露してもらおうか。総司令たる貴殿が何もできないでは、話の信憑性が確保できないのでな。」

 

やれるものならば、やってみろ。

 

それが大公が投げつけてきた我々へのお題であった。

 

それに対して、ガリバルディ侯は一変して焦った表情となり、私を制止しようと口を開こうとするが、それよりも前に私は素早く行動に移った。

 

 

 

「・・・そうですか、ならばこれで信じていただけますか?」

 

 

 

ギィィィィィィィーーーッッッ!!!

 

 

 

私は己の信仰に基づき、強力なこの禍々しい黒い生き物を使役し、一瞬にして身体を黒い霧へと変化させ、目の前の防御姿勢へと移って何とか一撃をその刄で受け止めるヴィルヘルム()()へと肉薄していた。

 

その強烈な一撃に対して、互いの刃が摩擦によって火花と形容し難い甲高い音を放ちながら交差する。

 

「・・・。」「なッ・・・いきなり何するの!!」

 

彼らからすれば、黒い靄のようなモノに包まれながら、私は彼の横へと一瞬にして現れこの剣撃を加えていたように見えていただろう。

 

フェリスは突然始まった戦闘に驚愕の表情を浮かべ、大公だけが一切動揺せず、我々の決闘を静かに見つめている。

 

私は目の前の額に大粒の汗をかきながらも、私の薙ぎ払いの勢いを何とか相殺するヴィルヘルム殿に余裕の表情で、疑問を口にする。

 

「それにしてもなぜ貴殿は私の攻撃に気づけた・・・?鞘から刀身を抜く所さえ見せていなかったのに。」

 

その余裕のある言葉に対して、彼は闘志を絶やす事なく私に対して、正に()のような形相で含み笑いをする。

 

「・・・その目です、お客人・・・ふんッッ!!」

 

ドゴォォッッ!!

 

彼は拮抗していた・・・いや、私が拮抗()()()()()剣の交わりを床下へといなし、私へと続けて肉薄しようと接近する。

 

私は彼が最早人類最速を謳えるほどの神の如き速度で、本気で(殺す気で)かかってきていることを理解した後に、彼の剣撃を済んでのところでかわす・・・事はなく、黒い靄(悪魔)のかかった左手をただ充てがう事で、正面から受け止めようとした。

 

常人ではタダでは済まないであろうその威力をして、余程余裕のないのか、ヴィルヘルムは瞬間、しまったと言わんばかりに後悔の表情を浮かべていたが、もう止められるような距離ではない事は明らかだ。

 

恐らく仮にも招かれた側である我々を殺傷する事は、余りにも不義に当たる。騎士道においては正に忌み事である。

 

増して相手方に手加減をされているのにも関わらず、己の力量を制御できずに殺害してしまったとなれば、臣下としても騎士としても恥である。

 

まあ、素手で受け止めるなどと言う常軌を逸した行動に出た私の責任でもあるが・・・。

 

「・・・な・・・。」

 

しかし予想とは反して、私の手は()()()()()・・・正確に言えば、触れた箇所から順に刀身を粉々に分解してしまった。

 

それは、この禍々しい黒色の生物が荒々しくも錬成された鉄分を食い散らかした様であったのだ。

 

あまりにも強烈な現象に、ヴィルヘルム自身も口を開けて唖然としてしまっていた。

 

スーーー・・・・・・カタンッ

 

私はこの辺りが幕引きだとばかりに、戦闘を見ていた先程よりもより誇らしげそうに満足していた後ろのガリバルディ侯爵を横目に見ながら、刀身を右腰にかけてある鞘に戻した。

 

「・・・これでご満足ですか、大公。」

 

その言葉を皮切りに、私はカルステン公に対して確認を取る。

 

「・・・あぁ、卿等の実力は今、漸く垣間見れた気がする。なるほど、それほどの実力があれば、衛兵など物ともしないというのには納得だな。」

 

「買い被りすぎです、大公。」

 

完全に2人だけの会話となってしまい、ヴィルヘルム殿やフェリス騎士も一旦、場の緊張が少しだけ低下したことを感じ取り主君の交渉に水を刺さぬよう、引き下がっている。

 

そしてもはや隠そうともしないその不敵な笑みを浮かべながら、大公は私に次のことを述べた。

 

「・・・良いだろう、卿らを当家の私兵として雇おうではないか。それだけの価値が貴殿らにはあるのだから。」

 

後ろのガリバルディ侯や下士官達はその言葉に安堵感を覚えるが、この大公がここですんなりと折れるはずがない事は目に見えている。

 

こんな単なる傭兵のような契約なら、彼女は腐る程してきたはずだと、私は即座に推察する。

 

ならば、彼女は我々に何を求めるか?

 

この膨大すぎる力を持った、一国を滅ぼす事さえし得る我々の力を、単なる金で雇うだろうか?

 

否、それは完全にあり得ない。

 

だからこそ、私は了承の意を決して口にせず、次に出る大公の言葉をじっと待つ。

 

すると予想通りに、大公は言葉を発した。

 

「・・・だが、貴殿らの戦力だけでは不十分なのだ。・・・私を満足させたいのであれば、傲慢を承知でもう一つだけ条件を付け足させてくれないか、ヴァロワ卿。」

 

「・・・何なりと。」

 

私は彼女の更なる要求を許可した。その様子に、ガリバルディ侯は不安が募ったのか、私にやめた方がいいと合図を送ってくるが、最早ここまできてやめられるものか。

 

私は信じているからだ。この者にならば、大公ならば、我々を十二分に活かすことができると・・・決して我々の力を持て余す事もなければ、腐らせる事もないのだと。

 

彼女の瞳、そしてその揺らぎなき信念を含んだ言葉は、私の中の何かに響いたのだ。

 

して私は彼女の口から出される言葉を紡ぎ、理解していく・・・2度目の臣従の礼を為さんがために。

 

 

 

貴公は、『 ()()()()() 』私のために戦うと約束してくれるか。

 

 

 

その言葉は、これまで聞いてきた中で,最も奥深くの本心から出された、カルステン公爵直々の言葉であった。

 

 

 

貴公は、忠誠を捧げられるか

 

 

 

その言葉を受け,この二人の、()()()()の交渉の場において、()()口角を釣り上げ、こう述べる。

 

「ああ、約束しよう。」

 

『私は ()()()()()、クルシュ・カルステンの為死をも厭わず、()()()()()()()()() 。』

 

それを聞いた公爵は、こう静かに答える・・・。

 

 

 

『本日より、ヴァロワ公率いる私兵部隊(コンキスタドール)は、我がクルシュ・カルステン当家の傘下に入る。

 

現時点を以てして、貴公らは私兵としての法的地位を獲得し、契約が有効である間、我々は1つの主従関係となることを、ここに宣言する。 』

 

 

 

「貴殿の提案を受け入れよう・・・ヴェッテ・ヴァロワ」

 

 

 

了承の意が放たれた瞬間,フェリス騎士が「えぇぇッ!!」と驚愕の表情を浮かべる最中,私達は互いに立ち上がり,硬く握手を交わした。

 

これが、彼女と私の、()()()()()であり、歴史を()()()一歩でもあった・・・。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。