私兵団と共に!   作:YJSN

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第4話 ナツキ・スバル

 

「・・・なるほど、白鯨、ですか・・・。」

 

あの交渉の後、私達はそれぞれ一時的ではあるものの、契約の名の下で、()()()()の内容の通達を受けていた。

 

窓の外はすっかり日が沈んで深い闇に呑まれており、街の魔鉱石を使用した街頭の灯のみが人々の活気溢れる王都を映し出している。

 

「聞いた事はあったのか、卿は。」

 

「いや・・・三大魔獣の件も含めて我々の元いた場所では、そのような生き物は全く耳にした覚えはない。」

 

「そうか・・・。」

 

先程、三大魔獣の説明を受けて初めて知ったその『白鯨』の存在に、私はいい心地がしなかった。

 

(・・・ひょっとしたら、話を聞く限りでは我々とクルシュ陣営を足しても、遥かに上回るかもしれないな・・・それに出現場所も時間も完全にバラバラとは・・・。)

 

多兎の事も合わさって、カルステン公から聞いたこの世界の大体の歴史の中に登場した四百年前に存在したという()()に軽く憎しみさえ湧いてきた。

 

(魔女・・・か。)

 

後ろのガリバルディは()()の単語に強く反応しており、眉をピクリと動かしていた。

 

そも魔女は悪魔崇拝と数々の呪いと災いをもたらす象徴として、キリスト教圏では忌み嫌われる何よりもの対象である。

 

かつて偉大なる我らが帝国が、まだ帝国となる前の連合王国であった頃に幾度となく魔女裁判が繰り返された事にもあるように、信仰深い者が聞けば即殺されてもおかしくない連中だ。

 

ましてやそんな奴達が、世界は違えど平然とのさばり、この世の半分を我が物顔で手にしたとなれば気が気でないのも頷ける。

 

「先程もいったが、その三大魔獣が筆頭である白鯨・・・その討伐が、わがカルステン家が現在極秘で進めている計画の全貌だ。」

 

「・・・既に契約を結んだ後とはいえ、そんな化け物を相手取る事になるとは思いもよらなかったです・・・やはり目先の事に囚われてしまっては指揮官として失格かもしれないな・・・。」

 

はは、とカルステン公に乾いた笑いを向けた私は後ろのガリバルディにも微笑みかける。

 

当の本人は私の交渉を見ている時から、お腹の辺りを摩ってはお腹空いたアピールをしているが。

 

「それでも、約束は守ってもらうぞ?ヴァロワ卿。」

 

だが、釘を刺すように目の前の公爵は私にニヤリ、と不敵な笑みをこぼしながら再三に先程の約束を押してくる。

 

「もちろん、約束は果たすとも・・・それに見合うだけの寝床と食事が提供されるなら働きがいがあるというもの・・・身分の方も、ね。」

 

「・・・ふふ、卿は抜かりないな。」

 

「お褒めの言葉、恐縮です、大公。」

 

互いに微笑みながら談笑混じりに話していると、緊張感が緩んだのを見計らって、先ほどからジーッと横からカルステン公を見つめていたフェリス騎士が突然口を挟んだ。

 

「・・・もぅ、クルシュ様もヴァロワも、勝手に話を進めすぎです!

だいたいヴァロワだって、最初の話と全然違うかったじゃん!」

 

「あー、それはだな・・・とりあえずここに案内してくれるよう最低限の情報だけ開示して早く到着したかったから・・・最初から全て話していれば、君は私をこうしてここに連れてきたか?」

 

「うっ・・・それは・・・でも・・・もう!訳わかんない!」

 

反論の余地はないため、まんまと利用された形となり怒り気味の猫耳を生やしたフェリス騎士の隣にいるヴィルヘルム殿も、これまでの一連の出来事を理解したようで、こちらに話を振ってくる。

 

「それでは改めて、これから同じ主を持つ者として、何卒宜しくお願いします、ヴァロワ殿・・・いえ、ヴァロワ()。」

 

「ヴァロワで構わないですよ、ヴィルヘルム殿。先程はお手合わせありがとうございました。」

 

「いえ、大した事ではありません、ヴァロワ殿。」

 

互いにその腕を称賛する目線を送りながらそうこうしていると、やはりというべきか後ろで立ちっぱなしだったガリバルディ侯爵が根を上げたように項垂れながらも食事を要求してくる。

 

「・・・ていとくぅ・・・僕、もうお腹ぺこぺこです・・・。」

 

グゥゥー、と彼のお腹の音が鳴ったところで私もそうだったと言わんばかりに手を叩いて、こちらを微笑ましく眺めている公爵に尋ねる。

 

「して公爵、この御屋敷の部屋数はいくつ空きがあるのでしょうか?」

 

「確か殆どの部屋が空き部屋だったはずだが・・・500名以上となると、流石に不足するであろう。詰めてもせいぜい90部屋程度だ。」

 

「なるほど・・・では上級将校には優先的に部屋を割り当て、残った下士官・兵士は敷地内で野営する、という事で良いでしょうか?」

 

「ふむ・・・私はそれで構わないが・・・先ほどから気になっていたのだが、卿等の兵達はどこにいるのだ?

そのような大所帯の者達は屋敷周辺では見かけなかったはずだが・・・。」

 

その疑問に、今度はガリバルディ侯爵がさっ、と前に出て自信満々に答える。

 

「それに関しては心配ご無用です!影魔法を用いて、この近くの貴族邸区画に部隊を5つに分けて隠しておいたのでありん、す・・・あっ。」

 

そこまで言って彼も気づいたようで、顔を若干青ざめさせながら頭に両手をやり制帽をぐちゃぐちゃにしてこう言う。

 

「わ、忘れてた・・・みんな腹ペコでずっと放置されてるんだったぁぁぁ!!」

 

「だから急いでるんだよ、バカ・・・。」

 

はぁ、とため息をつきながらあたふたとするガリバルディに向き直り、彼に的確に指示を出す。

 

彼の周囲への考慮が浅はかなのは相変わらずだった。

 

「後ろの下士官達を率いてそれぞれの部隊を迎えに行ってやれ・・・それと、遅れてすまないと私からの言葉も皆に伝えてやってくれ、頼むぞ。」

 

「はいはいのはいです!ほらぼさっと突っ立ってない!てぇとくの命令だよ行くよ!!」

 

「どわッ!」「こ、侯爵!」

 

すると、彼は後ろのピクリとも動かず見事に直立し続けていた下士官等を両手で引きずって部屋の外へと飛び出して行った。彼らもその腕力にはたまらず急いで速度を上げて彼について行く。

 

それを見たカルステン公爵も同様に苦笑いとため息を織り交ぜながら、隣で何となく居た堪れない表情でいたフェリス騎士に向けてこう言う。

 

「フェリス、あの方・・・ガリバルディ侯爵が夜道に迷うと大変だ。早く付いて行き案内してあげなさい。」

 

「げぇッ!ヴィル爺じゃなくて私!?

なんでにゃんですかクルシュ様ぁ!!」

 

すると彼はまるで何か悪いことをしでかした子猫のように縮こまって躊躇うが、私もカルステン公の意図を理解してこう助言する。

 

「・・・多分カルステン公は、フェリス殿に何処かに通った雰囲気を持つガリバルディと懇意の仲になって欲しいとの考えなんでしょう。

 

そうして両者共互いをよく知り合えば、自ずと互いの絆も深まるものと・・・ですよね、カルステン公?」

 

「・・・はぁ、全くその通りだ、ヴァロワ卿。

貴殿が生涯我が家に仕えてくれたらどれほど嬉しいことか・・・。」

 

「それはご勘弁を。」

 

またも談笑を交わし微笑み絶えない会話を独占していたのが気に入らなかったのか、フェリス騎士は頬をぷくーっと膨らませていた。

 

それに気づいたのか、カルステン公は追い討ちをかけるかの如く彼に向かい再三にガリバルディ侯に付随するよう命ずる。

 

「ほらフェリス、早く行かないと晩御飯抜きにしてしまうぞ。・・・それにヴァロワ卿はもう我々の仲間なのだ。いち早く信頼関係を築いておくべきだ。」

 

「・・・んあーッ、もう!!

分かりましたよ、行けば良いんでしょう!

 行 け ば !」

 

ヤケになった彼はそのまま先程のガリバルディと同じようにして部屋の外に飛び出して行った。

 

それを見やった後、既に両者共立ち上がっていた為カルステン公の隣にいたヴィルヘルム殿も

 

「それでは私も万が一がないよう、彼について参ります。」

 

と言った後にこの部屋を後にしようとした。

 

その前に、私は彼に声をかけて、謝意を表しておく。

 

「ヴィルヘルム殿、先程は済まなかった・・・その、あの剣はかなりの業物であったろうに。」

 

それを聞いた彼は、足を止めてから再度向き直り、私に少しだけ緩んだ雰囲気で返事をしてくれた。

 

「いえ、あれは己の未熟ゆえのこと・・・それに剣は幾本もの用意がありますので、困った事はありません。どうかお気になさらずに。」

 

「そうか・・・ありがとう。」

 

礼を言った後、彼は今度こそ「では。」と部屋を後にした。

 

そうして私達二人っきりになったこの静かな執務室で公爵に最後の質問兼頼み事をする。

 

「・・・カルステン公、それで」

 

「クルシュ・・・。」

 

「は・・・?」

 

とその時、彼女の口からボソリと呟かれた一言。

 

私はその唐突な言葉に意味を理解できず固まってしまったが、彼女は真っ直ぐと私の目を見て再度話しかけてくる。

 

「クルシュ・・・そう呼んで欲しい。

その・・・これから暫く長い間主従関係を結ぶ事なのだから、いつまでも家名で呼ばれては・・・なんだ、色々とやりにくいであろう?」

 

少し頬を赤らめさせながら公が述べる理由が思い当たらなかったが(鈍感なだけかもしれないが)、私は至って冷静に了承の旨を伝える。

 

「なるほど、了解致しました・・・それではクルシュ様、この後すぐに夕食の準備に取り掛かりたいのですが・・・この御屋敷の厨房は私達全員分の食事を提供できるのでしょうか?」

 

「無論、十分可能だ。当家の厨房には王都きっての料理人達を迎え入れている。」

 

「了解しました・・・それでは食事の用意はそちらにお任せしてもよろしいでしょうか?」

 

「それで構わない・・・期待していてくれ、当家の料理は一流の味だと。」

 

自信満々に答えてくれるからには、確かな味を持つ食事なのだろう。ひとまず食糧問題については安心できそうであった。

 

目の前のカルステン公に微笑みながら私も姿勢を正し、ひとまずの別れを告げる。

 

「お言葉に甘えて、期待して待っております・・・では、こちらも色々とやる事があるので一先ずは失礼します、クルシュ様。」

 

「ああ、構わない。また夕食の際に卿と会うとしよう。」

 

その言葉を聞いた後、私はクルシュ公に背中を見つめられながら急いでこの執務室から出て行く。

 

そして数々の扉の前を通り過ぎ、長い廊下の後に屋敷の外に出ると、クルシュ公の哨戒兵が周囲を見回っているのを横目に口笛を甲高く吹いた。

 

すると、遥か遠方の空の方から黒い靄のようなモノが立ち上り、高速で風に流されるかの如くこちらに近づいてくる。

 

もちろん夜空の為、月明かりはあれど誰にも気づかれはしていないようだった。

 

そして数十秒後、漸くこの堅牢な造りのクルシュ邸の入り口付近に立つ私の目の前にその黒霧は実体を取り戻していく。

 

背後に数名と、手前に一名のよく見知った人の姿が現れ、私の前に跪く形で言葉を発する。

 

「お呼びでしょうか、提督閣下。」

 

「伯爵、長い間偵察ご苦労だった。

ここに全部隊を一度撤収させて欲しい。

クルシュ・カルステン公とは無事交渉成立を果たせたので、これから夕食だ。」

 

「それは良かったです・・・了解致しました。

すぐに部隊を集結後、こちらに向かわせます。

・・・しかし、一件だけご報告しておきたい事が御座います。」

 

目の前に現れたヘッケル伯爵は、よく働いてくれたようで左脇に複数枚の報告書が丸められ、黄、緑のリボンで結ばれている。

 

それぞれ重要度を示すもので、赤が最重要であり、黄>緑の順に情報の価値に順位が付けられている。

 

ちなみに青は定時連絡用のリボンだ。

彼・・・伯爵のお気に入りでもあったりする。

 

「もう立っていい、疲れてるだろう?・・・それで、何かあったのか。」

 

「いえ、大したことでは・・・・・・。」

 

そこまで言うと、私達はこのクルシュ邸の入り口付近から少し位置を変えるために歩きながら話す。

 

ヘッケルは歩きながら後ろの下士官達に手で合図を出し、各偵察部隊をクルシュ邸に撤退させるよう伝令を出したようだった。

 

するとすぐに彼ら下士官達は霧状となり、風に運ばれるかの如く夜空へ散らばって行った。

 

「実は先ほどまで、私と幾人かの影魔法に秀でた下士官達でこの王都の貧民街の方に偵察に出ていたのです。

というのは、閣下から偵察の命を授かってから正午過ぎ程でしょうか・・・奇妙な少年を発見したのが起因しておりまして。」

 

「奇妙な・・・?」

 

クルシュ邸の見事に整えられた庭園の花壇に咲き誇る薔薇を眺めながら、私は彼に問う。

 

「はい・・・その少年は明らかにこの王国の民とはかけ離れた珍しい服装と髪をしておりました。

・・・そして、話したとは思いますが、王選候補者の一人である()()()()()()()()()とその少年が接触したのですが・・・。」

 

「何・・・?」

 

それを聞いた私は眉を顰め、少々思考に耽った後に口を開く。

 

「・・・他の王選候補者はいずれカルステン陣営に取って不倶戴天の敵となろう。

伯爵、良くやった。

今のうちに敵の情報を得ておけるのは得策だ。

それに、銀髪のハーフエルフともなれば蹴り落とすのも容易い事であろう・・・。」

 

私はニヤリと口角を歪に上げ今後の王選における計画を描いていくが、伯爵はそのまま話を続ける。

 

「その通りなのですが・・・少し気にかかるのです。」

 

「何が?単なる奇怪な格好をした青臭い少年など放っておけばいいんだ。

重要なのはそのハーフエルフの方だろう?」

 

私が自信たっぷりに言い放つと、彼は

「いえ・・・それが。」と言い淀む。

 

私はその彼の返答に不満げになり、再度問いかける。

 

「なんだ、まだ何かあるのか。」

 

「はい・・・実はその少年は最初に真っ先に貧民街の方に向かい、盗品蔵という場所に入ったのです。

・・・そしてその後に、件のハーフエルフが()()()()()を使役しながらその建物に入って行ったのです。」

 

「ふむふむ・・・それで?」

 

クルシュ邸の壁際に寄りかかりながら、背後の壁に立て掛けられた松明の淡い炎の灯をうっとりとしながら見つめる。

 

クルシュ邸の私兵達や使用人は既に我々の事を伝達されているのか、気づいても軽く会釈する程度でこちらに近寄ろうとはしてこない。

 

「知覚魔法で極限まで強化された私の眼と耳が役立ちました。

 

その時、ハーフエルフの背後に特徴的な刀剣を持った、外套を纏った女が斬りかかったのです。

・・・()()()()()()()()()()事から、明らかに戦闘慣れしている暗殺者でしょう。

 

この時点で既に中にいた何者にも反応出来ないことは明白でした。それどころか、盗み聞きした会話からは気づいてすらいなかったようでしたので・・・。」

 

「なるほど、それで?」

 

「・・・ですが、あの少年だけは・・・()()()()()()と名乗っていた若造だけは、私でさえ気付くのに多少の時間を要したあの女の気配に・・・気付いたのです、それもあたかも()()()()()()()()()()。」

 

「・・・。」

 

・・・知っていた、だと?

 

あり得ない。その一言に尽きる。

 

「・・・その少年に、なんらかの特別な才があったとかではないのか?」

 

「いえ、それが・・・尾行していた時に見たのですが、腕力に多少自信があるだけで他は大したこともないただの少年なのです。

 

・・・しかし、奇妙な事にハーフエルフが()()()()()()()場所に()()()()()()()()()()先に辿り着き、中で蔵の主人を仲介に盗人と交渉を始めていました。

 

さらには戦闘に関しては、あの素人同然の立ち振る舞いで女暗殺者の気配を()()察知し、ハーフエルフの使役する猫に大声で察知させて守らせ・・・。

 

どうです・・・ただの少年にこれだけの事を判断できる情報を予め持っているというのは不可解に思えませんか、閣下。」

 

「・・・。」

 

未来予知の能力か・・・?

 

私は頭の中でその少年の一連の行動を考察する。

 

確かに、伯爵の言う通りどう見ても偶然にしては出来すぎている。

 

「・・・その少年は今どうしている。」

 

「はっ・・・その女暗殺者、腸狩りエルザ・グランヒルテとの戦闘後、負傷により気絶しました。

ですが盗品蔵に()()ラインハルトが突入し、無事その場にいた全員は生存した模様です。

 

・・・あぁ、剣聖の資料はこちらに。」

 

ポトン、と彼が脇腹に抱え込んでいた報告書の丸い羊皮紙の内一つを受け渡されると、早速中身を流し読みした。

 

「・・・なるほど、通りでその女が勝てなかったわけだな。」

 

「えぇ・・・アレ(剣聖)には私では歯が立たないでしょう。

恐らく提督ほどの(信仰心)が無ければ・・・。」

 

資料にはズラリと剣聖とやらの家系からその立場に能力等が載っていた。

 

どれも常軌を逸した内容だが・・・能力、この世界では加護というらしいが、その欄が特に縦長で凄まじく長かった事だけはわかる。

 

こんなの反則級だろ、と愚痴ってしまう程の量だが、それが剣聖と謳われるだけの才なのだとも納得してしまう。

 

「その後は少年、ナツキ・スバルはハーフエルフの方に引き取られ、盗人の方は剣聖の方に引き取られたという形です。」

 

「・・・ご苦労だった。少年は・・・なるほど、ロズワール辺境伯領に向かったか。」

 

「はい、そのようです・・・それ故、偵察部隊は途中で引き返させました。

流石に本陣に出向いて此方が見つかって仕舞えば少々厄介な事になりかねなかったので・・・。」

 

すっ、と伯爵がもう一枚報告書をこちらに見せてくれたおかげで大体だが、その少年の現状把握が出来てきた。

 

辺境伯の資料も片手で渡してくれた後多少目を通してみたが、なるほど追跡を断念するわけだ。

 

辺境伯領に逃げ込まれたとなれば迂闊に手を出せまい。

 

「この件は内密にしておく。

後にじっくりと考えよう・・・その少年は将来、我らがクルシュ陣営に取って天敵になり得る。」

 

「はッ・・・では引き続き私は部隊の撤収作業に向かいます。

それとこちらが本日分の残りの報告書です。どうかお目通しをお願いします、閣下。」

 

バサッ、と数枚の丸まった羊皮紙を押し付けられた私は急いで受け取る。

 

「うぉッ、と・・・ありがとう。」

 

それに対し、では、とだけ言って彼は再び霧状に身体が薄れていき、そのまま運ばれて行った。

 

はぁー、とため息をついた後、私は邸宅の部屋にとりあえず報告書と私物を置きに戻るのであった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはーい、こっちのみんなもついて来てね〜。漸く今晩寝泊まりできる場所が決まったんだから!」

 

そう言えば目の前の下士官率いる分けられていた小部隊は、街頭によって明るく照らされた舗装された貴族街の道に姿を現した。

 

その何も無いところから空間がねじ曲げられるかのようにして大人数が現れる様は、優秀な影魔法使いによるものだ。

 

「な、なにこれ・・・こんな陰魔法、見たことも聞いたこともない・・・フェリちゃん驚きの連続ですにゃ。」

 

・・・そして私の隣でいちいち私達の装備や使う魔法に驚きを隠さずにいるフェリスとかいうお付きの奴が進行方向を妨害して来る。

 

「そんなのいいから、さっさとそこ退いてください・・・行きますよ、Hazlo rápido(早くして)!」

 

既に後方の4つの部隊が並んでカルステン公の屋敷まで行列を作っていたガリバルディは夕食の為、提督のため先を急ぐ。

 

「あ、ちょっ、待ってよ!」

 

その後をちょこまかと小走りで追ってくるフェリス騎士。

 

 

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

 

 

そうして何とか平行して歩いていれば、段々とこの何の会話もない気まずい雰囲気に居た堪れなくなって来たのか、やはりフェリスの方から話が振られる。

 

「・・・えーっと、ガリバルディ、でいいんだっけ?」

 

「・・・どうとでも呼べばいいじゃ無いですか。」

 

常々愛想のないヤツだなと心の中でフェリスは愚痴を吐くが、そのまま続ける。

 

「じゃぁガリバルディはあのヴァロワって人とどーゆー関係なのかにゃーって、フェリちゃん気になったり!」

 

猫耳をペコリと折り曲げて愛嬌ある表情をするが、それに対しても冷淡な顔でそのまま歩き続けるガリバルディは、数秒ほど黙り込む。

 

「・・・無視されちゃうだなんて、フェリちゃん泣いちゃうかもよ〜?」

 

それを聞いたガリバルディは、少し考えた後にこう述べる。

 

「・・・提督は、私の・・・師匠みたいなものです。」

 

「師匠・・・?」

 

「・・・はい、それ以上でも、以下でもありません。私が目指すべき人であるという事以外、特に変わった事はないですよ、フェリス・・・で良かったですか。」

 

「・・・ふーん、案外クールなんだねガリバルディって。いつもは『てぇとぐぅぅ、私ぃぃー』って泣きついていそうなイメージなのに。」

 

「ばッ・・・そんな事、絶っっっ対にあり得ません!・・・絶対・・・。」

 

唐突な言葉に多少頬を赤らめながらあたふたした後、なぜか最後の部分だけ弱々しく話したガリバルディ。

 

フェリスはそれに対してあざけるように笑った後、こう言った。

 

「・・・ま、フェリちゃんもクルシュ様みたいになりたくないって言ったら、嘘になっちゃうしね。」

 

「それは・・・。」

 

フェリスの言った事からガリバルディは、彼もまた自分と似ている想いを主へと馳せているのだと、そう理解した。

 

そして沈黙がまた訪れてから数十秒経った後、今度はガリバルディの方から隊列の前へと駆け始め、こう言う。

 

「ほら、さっさと行くよみんなー!

我らの美味しい夕飯とベッドが待っているのです!」

 

「・・・はぁ、ちゃんと道分かってるの?そっちじゃないヨ。

案内はフェリちゃんがするから、ほらそこ退いた退いた。」

 

「なッ・・・こっちじゃないの・・・?」

 

ぷるぷると震えながら後ろを振り向き、クルシュ邸とは全く別方向への道角を曲がろうとしていたガリバルディを呼び寄せ、フェリス達一行は夜道を進んでいくのであった。

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