私兵団と共に!   作:YJSN

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第6話 所領への帰還

 

「・・・こんな所にいたか。」

 

「・・・まさか大公に探される身となるとは。その辺りを哨戒している部下に申し付けてくれればすぐ参上しましたのに。」

 

巨大な噴水が中央に座する庭園にて、木陰で大量の本を積み上げながら一晩中読み耽っていれば、もう昼間になったのか日は高く昇っており、強烈な日差しに目を細めてしまう。

 

そんな中我慢して見上げてみれば、見知った顔が一人、眼前に凛々しく佇んでいた。

 

「卿自身に会って話がしたかったのだ。それに執務もひと段落したところだ・・・どうだ、お茶でも嗜まないだろうか。」

 

私は興味本位から読んでいた魔法理論に関する本をパタリと閉じ、積み上げられていた山積みの本と一緒に、空間拡大魔法をかけられた私の小さなポーチへと押し込む。

 

「ええ、構いませんよクルシュ大公。私もちょうど小腹が空いていた所です。・・・もちろんケーキでお願いしますよ?」

 

「卿は食事に注文が多いな。・・・侯爵のが移った」

 

「はいはい、早く行きますよ。」

 

私はその言葉を聞き終える前に大公の背中をくるりと回してお屋敷の方へと押していく。

 

「全く・・・卿は些か強引過ぎないか?」

 

「ガリバルディと似ているなどと言うからです。ささ、お腹を空かした従者に食事を。」

 

「朝食どころか昼食にさえ来なかったのは卿の方だと思うのだが・・・。」

 

クルシュは私に少し困った顔をするが、それでも微笑みながら一緒に屋敷へと戻ることになった。

 

 

 

「他の者達は良いのか?侯爵が聞けば後から嫌な目をしてくると思うのだが・・・。」

 

「良いんですよ大公。アイツは今部下と鍛錬に励んでいるでしょうから。」

 

ハハハ、と乾いた笑いを漏らしながら私の目の前にいるやはり不思議な感覚を覚えるヴァロワ卿に懸念を伝えるが、彼は特に何とも思っていないのか目の前のケーキを一口二口と次々に口へ放り込んでいく。

 

味わってくれているだろうか・・・紅茶を口に含みながら、私もケーキに一口だけ手をつける。

 

・・・本当に不思議な存在だ。

 

突然私の前に現れ、自らを従者として保護するよう求めてきた他国の軍隊・・・その総司令官が、こうも融和な人間とは。

 

当家の、そして(ヴィルヘルム)の悲願でもある白鯨討伐に手を貸してくれるどころか、圧倒してくれるであろう程の戦力であり、神すら凌駕し得る能力を保有する帝国・・・想像しただけでその存在を認めたくない。

 

だが、今は我が従者である以上頼りになることこの上ない。

 

私は食事の手を止め、彼の方を向いてから話を振る。

 

「そういえば卿は暫くの間手は空いているか?」

 

「え、あー・・・はい大公。特にやる事といえば、この地の見聞録を書いたり、補給次官に弾薬や武装の点検の確認をさせたりとか・・・あとはガリバルディの世話?」

 

「なるほど、ならば問題はないな。早速ですまないが、明日よりすぐにカルステン領に帰還する。卿にも護衛としてついて来てほしい。」

 

私は彼の予定を聞いてから、従者として彼を連れて行く算段を立て始めた。

 

彼にも少しは働いてもらわなくては、このような贅沢三昧をさせている費用対効果を得られないではないかと、彼の日常における怠惰に関して心の中でため息をつく。

 

「こちらとしては漸く働きどころが見つかった気分です、大公。ぜひお供したいのですが・・・目的は如何様に?」

 

彼は迷う事もなく、日頃の憂さ晴らしなのか快諾してくれた。

 

しかし、彼のほっぺたにクリームがついているのが、真面目な表情で答えてくれるヴァロワ卿に不似合いでどこか笑みが溢れてしまう。

 

「・・・何笑ってるんですか。」

 

「ふふ、卿は私を飽きさせない奴だな。」

 

私は椅子から立ち上がり、卿の前まで近づいて彼の口をナプキンで拭き取ってやる。

 

「えっと、大公何を んムグッ・・・。」

 

「貴公には少し品が足りないぞ。もう少しゆっくり食べる事だ。」

 

「あ・・・すみません、大公。」

 

彼は自分の口周りが汚れていたことに気づき、面目もなく顔を若干赤らめさせながら下を向いて俯いている。

 

「では早速のことで悪いが、出立は今日の午後・・・目的は所領に湧いて出た魔獣の殲滅だ。

 

昨夜、早馬でティライユール伯から報告が来たばかりだったが、どうにも様子が変だと言う。この地を治める公爵として行かない訳にはいかないのだ。」

 

私はヴァロワ卿に己の務めを淡々と、しかし威厳を持って説明する。

 

すると、目の前の彼もその真剣さが伝わったのか、即座に快諾してくれる。

 

「もちろん、お供いたします。魔獣だろうと何であろうと、大抵のものは地獄に送り返してやりますとも・・・文字通りの意味で。」

 

最後の言葉に笑顔をのせた彼に若干悪寒を感じなくはないが、その言葉と彼が右手で構えて見せてくれる腰の変わった形をした帯剣を一眼すればわかる。

 

彼は成し遂げる。そう言う人間・・・いや、祝福を受けた兵士、あるいは化け物なのか。

 

ともあれ、私も彼の言葉を信じて、補給の問題を屋敷の警備の依頼も兼ねて伝える。

 

「共に連れてくる卿の軍団については総司令である貴公に一任するが、所領にはあまり美味しいものがない。さらに言えば、住民の蓄えもあまり多くはない・・・故に屋敷の守備としてもここに大半の部隊を残して欲しいのだが。」

 

「・・・なるほど、大部隊では攻略できない、か。補給というのは厄介極まりないですね。

わかりました。私と信仰や魔法に適性を持った精鋭部隊だけを50名ほど連れて行き、残りは屋敷及び王都の守備に回しておきましょう。」

 

「助かる・・・ではヴァロワ卿、早速食事を終えたら容易に取り掛かってくれ。事態は一刻を争う。」

 

「承知した、大公。」

 

やりとりを終えた後、私は椅子を立ち上がり、最初の庭で出会った融和な表情は隅へと追いやり、部屋を出て自室で自分自身も兵装を整えて支度をし始める。

 

(・・・あの娘(エミリア)が王選に立候補した時から分かっていたことだが、いざ現実になって初めて厄介だと気付かされるな。)

 

銀髪の娘・・・ハーフエルフが王選に出て以来、魔女教が活発に活動しはじめ、魔獣などの襲撃事件が多発するようになった。

 

もう半年が経つが、未だに良い印象はない。

 

様々な考えを巡らしながら、カルステン公は騎士フェリスやヴィルヘルムを呼び戻し、事に当たり始めたのであった・・・。

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