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「提督〜、聞いてます?」
「ん、あぁ・・・。」
あれから私達は馬車・・・もとい竜車を数台率いてカルステン公所領のティライユール伯封土へと向かっている。時刻は深夜に当たろうか。
先頭の竜車には剣鬼ヴィルヘルム・・・後からアーガイル騎士から聞いた渾名だが、彼と主君カルシュタイン大公が乗っている。私達はその次の竜車で後追いする形で配列されている。
「・・・ヘッケル伯爵を置いてきたのが心残りなんだネ。」
「・・・あぁ、ガリバルディを抑える役がいないのは少々不安だ。」
「んなっ・・・提督まだそんな事いって!流石に気をつけるから今回は任せてもらって大丈夫です!・・・多分。」
今は一切揺れのないクッション魔法をかけられた竜車の中で、ガリバルディとフェリス騎士が戯れている形だ。
私が懸念することは、守備隊の司令にヘッケル伯を抜擢して残留させた事だ。彼はガリバルディを度々指揮官補佐として導いてくれた優秀な剣士だが、情報網構築のためにも王都に残る決意をしてくれた。
そのせいか、今ではガリバルディ侯は少し調子に乗っている。
「
「あーもう!ヘッケルがいなくなったと思ったら今度は提督が口うるさくなっちゃって・・・大丈夫ですよー!
本来の目的を見失うな、でしたっけ?目先のこと以外もちゃーんと考えてますから!」
「ほんとかにゃ〜?フェリちゃんちょっと疑っちゃーう。」
「フェリスまで!」
いつのまにか騎士アーガイルと名前で呼び合う仲になっていたとは、微笑ましい光景である。
だが私はこれから先のことに考えを馳せて深く俯く。
(先程出した偵察兵5名の先鋒報告を待っているが、帰りが遅い・・・。)
既に戦闘に入り浸ってしまい、帰還が困難という可能性もある。
彼らは信仰に適性のある者たちであり、霧化して高速な移動を行える者達だ。
また、剣術や信仰の力自体も群を抜いているため、斥候として遊撃させるにはいい手練れである。
そんな彼らが、つい一時間前に出たっきり一度の報告も来ない。
少し心配だが・・・夜明けの現地到着を待つしかないか。
そう思い、私は目の前の茶化し合うフェリックス騎士とガリバルディを見やりながら、少しだけ仮眠を取るのだった。
「・・・とく・・・・・・提督!起きてください!」
「・・・ん、もう着いたのか。」
馬車のように、揺れが収まったかどうかで到着を知る事ができないため、着いたかどうかは視認しなくてはならないのがこの竜車の悪い所だ。
だが、ガリバルディとフェリックス騎士の真剣な面持ちを見るに本当に着いたようだ・・・それもあまり良くない凶報付きで。
私が既に空いた竜車の扉からバッと飛び出して外を見れば、既に辺りは日が明け、その血の海は鮮血として太陽の光を反射し、煌びやかにこの森の中の道を照らしてくれていた。
何体もの・・・白い兎が大量に捌かれた屍肉とその腐敗臭で吐き気を催す光景だったのだ。
そしてそれは綺麗に束にされて道脇に積み重ねられており、それが先の方に見えるティライユール伯邸の大きな館まで続いているようであった。
「卿も気づいたか。」
「えぇ・・・どうやら少し遅すぎたようですね。」
スゥーーッ・・・
私が剣を右腰にかけてある鞘から取り出し、元は程よい緑のカーテンのようであった森林が赤い血液溜まりで染め切っているのをみやる。
「ですが、恐らく彼らなら今でも耐え凌いでくれているはずです・・・早く行った方がいいでしょう。」
「彼ら・・・?・・・貴殿が昨夜出していた数名の斥候のことか!」
「・・・たったあれだけの兵数で多兎を食い止められましょうか。」
そこに同じく竜車から降り立ち、戦闘態勢へと入った剣鬼ヴィルヘルムが疑問を呈する。
隣にいたガリバルディも、刀身を鞘から抜き出し、誇らしげに私を代弁してくれる。
「彼らは
「そうか・・・ならば時間がない、行くぞ!」
大公はそういうと、凛々しい姿で竜車と共に連れてきた知竜に跨り、先へと向かっていく。
「ヴァロワ殿もお早く!」
ヴィルヘルムも大公の後を同じく知竜に乗って追って行き、あっという間に遠くへと見えなくなっていく。
どうやらここからは徒歩になりそうだ。既に竜車から残りの兵達も降りて周囲に散開し、警戒に当たってくれている。恐らくガリバルディの指示だろう。
「ガリバルディ、ここからは徒歩だ。霧化してでもここは急ぐぞ。」
「了解です、提督!・・・えっと、フェリスの方には8人ほど護衛をつけておくから、知竜に乗って後から追いついてきて。」
「わかった!物資の運搬とか、後方支援の分野はこっちで何とかするから、あんた達は早く前線へ行って!」
フェリックス騎士はそうとだけ早口で言うと、早速竜車に乗るカルステン公の私兵達に指示を飛ばし、竜車の進む経路などを細かく伝えて行っている。
「・・・我らは神と共に。」
「・・・はい、提督。」
その言葉とともに、40名のイスパニア兵が黒霧と化し、風に運ばれながら、血生臭い戦場の方へと向かっていくのであった。
ガチンッッッ
「・・・フッ・・・ぐッ!」
斥候として提督に送られて以来、ティライユール伯領についてからずっと戦闘を行っているせいか、少し疲労が溜まってきているようだった。
私の腕は既に数カ所ほど、この切っても切っても増え続ける兎どもに齧られており、黒い血液が滴っている。
仲間の下士官らを横目で見ると、同じようにボロボロな状態でも何とかティライユール伯邸の周囲を覆う柵を越えさせずにここまで凌いできた。
だが、もう気づけば夜明けだ。切り刻んだ兎の数などもう数えていられない程、返り血で真っ赤な軍服と三角帽に染め上げられており、辺りは血肉の山だ。
我々の信仰心では、提督程の持久戦は出来ない。そんな分かりきったことを前提にここまで耐え凌いだ。
それもたった5名の先鋒でしかないのだ。
一応、ティライユール伯爵が建物の中から火矢を放ったり、ここにいた伯爵の私兵達が奮闘してくれたが、その私兵達は既に壊滅し、残りは我々のみであった。
後ろの館の中でこちらを伺う伯爵と貧弱な武装で固められた領民達の視線が妙に背中に突き刺さり、彼らも絶望に打ちひしがれているのが見て取れた。
「はは・・・我々だけでこの館を死守しろ、だなんて、無茶にも程がある。」
「そういうな、トゥールィエ。我々は貧乏くじを引き当てたにすぎん。その上、戦闘員が我々しか残っていないのだ・・・誰かがやらねば、後ろの村民と伯爵は皆殺しだぞ。」
「そんな事言われずとも・・・ッ、わかっている!!」
サァァーー・・・
キーーッ ギギーッッ!!
今あらん限りの黒い禍々しい色をしたモノを使役し、目の前の飛びかかろうとしている兎数体を地獄へと呑み込ませる。
黒い液体なのか気体なのか、よく分からないモノに纏わり付かれた兎どもは身体を溶かされ、地面へとその液化したナニカに吸い込まれていく。
「ハッ・・・魂ごと分裂してそうだな、ありゃぁ・・・。」
「あぁ、だがいくら分裂してもアイツらの魂は薄くなっちゃいねぇ・・・つくづくイカれた存在だぜ、まったく。」
数体がやられたと思えば、すぐに目の前の数体が分裂し、同じ白い兎を複製しやがる。
切り刻まれた大量の屍体に紛れてわらわらと群がってくる光景も合わさり、本当に気持ちの悪い事になっている。
・・・もう、持たないな、これは。
そう呟こうとした瞬間だった。
大量の黒霧が、それも濃度の段違いな
「ッ!!退避ぃぃ!!」
サァァーーッ
我々5名の名も無き兵士達はそれを確認した後、希望の色と絶望の色を織り交ぜた目で必死に身体を霧化して柵の中、ティライユール伯爵邸の領内に入り込む。
そして柵の外を見れば、文字通り全ての動植物は枯れ果て、溶かされ、食い尽くされて行っていた。
ギィーーッッ
ギギギ・・・・・・
あれだけ大量にいた白兎達も、一匹残さずその全てが呑み込まれ、断末魔を上げながら地獄の養分へと化し、地面の下へと染み込み落ちていく。
「・・・遅くなってすまない。」
そしてそれを見ていた全ての兵士達はその存在に気付き、歓喜の声をあげる。
しかしそれを見ていた全ての民達はその存在に気付き、畏怖の目を向けたのであった。
「ガリバルディ、逃げ延びた
「了解。」
その瞬間、ガリバルディと呼ばれた者と数名の兵士達は瞬時のうちに黒い影に呑まれずに逃げ延びようと必死に逃走しながら分裂する兎達の元に霧と共に移動し、そのすべてを悉く切り捨てる。
ギギギィーーッ!!
キーーッ!
その断末魔を横耳にしながら、提督は黒い禍々しいまでの地獄の使徒を引き上げさせ、後には何も残らない地面だけが残った。
そして提督の後ろから、白い美しい知竜に跨った凛々しい戦乙女が全速力で駆けてきて、提督の数歩前で止まった。
「・・・まさか卿に先を越されるとは。一体どんな魔法を使ったのだ?」
苦笑しながら提督に語りかける彼女は、辺り一面の凄惨な状況を驚愕の表情で理解しつつも、提督へとそう語りかけた。
「・・・いえ、単なる掃除ですよ。この世界に
領主の姿を見て安堵したのか、館の中から避難していた領民達と、ティライユール伯爵が歓喜と共にやってきて、先程までは生命線であったであろう、重く閉じられた門を開けて出てくる。
5名の斥候兵達は提督の後方から現れた増援の兵達に介抱されながら、手当を受け始める。
こうして初の多兎の