「あーあ、暇だな」
警察署に豪華客室みたいな部屋があるのもどうかと思うが、VIPや男を一時保護するときにはこの部屋を利用するらしい。
大きなベッドの上でごろりと寝転がる。
現状、何かあった時は近くにある受話器から連絡してお取り寄せするみたいなことしかないし、『何故か』テレビは付かないし暇で暇で仕方ない。
せめて新聞や雑誌でもあればいいんだが「アレはロクなもんじゃない」と取り合ってくれなかった。
民度が低いのは分かった。だが提供できる書物が歴史書なのはつまらない。
見てる分には勉強になるが、俺が知る歴史と全く違うし男の武将が女になってたり、地名すら全く知らないものになっている。
あれ、武将が女性になっているのはソシャゲで…………これ以上はいけない。*1
そんなことで暇な時間を過ごしている。
たまにこっそりと扉を少し開けて覗きに来る馬鹿は居るが、そいつらに手を振ったら顔を赤めてどこかに行ってしまう。それがどうも面白い。
この世界の女性は
男性との接触回数が少ないのが原因だろう。どう接していいか分からず『欲』のままに襲ってしまう、なんか哀れだな。
こういう時こそ適度に接してやればいいのに、というのは無理があるか。
何かあったら困るのが現状、子作りできなくなったら最悪と言ったところだろう。
そんな危険がある中で、俺はこっそり軟禁場所を出た。
軟禁され続けるのは好きじゃない。迷惑だろうが、ちょっと暇つぶしさせてもらおう。
こそこそと歩いていると何やら騒がしい。
騒がしいと言ってもざわざわと小さい声が集まった感じだ。
こっそりと声が集まっている方へと足を向ける。
「っだーかーらー!ここに男をかくまってるって話がある!すぐさま見せてもらおう!」
「そんなの居るわけないだろう。とっととお引き取り願おう」
「ではこの目撃情報はどういうことだ?」
「単なる間違いだろう」
「ふざけているのか!」
怒声がはっきりと聞こえる。どうやら俺をめぐって署長と誰かが話し合ってるようだ。
だが署長は俺のことを渡すつもりはなさそうだ。あの怒鳴ってる女も引き下がるつもりはないらしい。
「落ち着きなさい。怒鳴ったところでこの堅物が渡すはずがない」
「ですが…………」
「肝心の『彼』はそこにいるものね」
カツカツとヒールにスーツという就活生みたいだが威厳がありすぎる女が前へ出る。
そして俺が隠れている方をしっかりと見てそういった。
まずったな、けはいは消していたつもりなんだがバレてしまっては仕方ない。
「まあまあ、俺のために争わないで」
「っ!その台詞、『ボードシューター☆レイア』*2のヒロインのセリフね」
「最近見たんでね、この世界の特撮がどうなってるか知りたかったんだ」
「…………この世界?」
「やっぱり女性が活躍しているのばっかりだったな。『チャーミーメン』*3はアニメだったが男は一人だけでそれを取り巻く怪人が全員女性ってのも…………まあこの話は置いておこう。俺に何の用だ?」
待て、思ったよりもやべー奴/おもしれ―奴が出てきた目をするな求めていた男だろうが。
俺は本当のこと言ってるのに世界が違えば痛いやつ扱いになるのホントやめてほしい。
そもそもの話、この世界に来てからまともに会話したのは所長の尋問の時くらいなんだよな。
他の女性と話してみたいが、少なくともカタギじゃなさそうなこいつらとは勘弁してほしい。
「こほん、彼はまあ、何だ、そういう所があるから私のところで預かっている。お前たちには渡す予定もない」
「へぇー?お堅い警察様が言いますが、ここの治安を考えて言ってます?」
「然るべき場所へ送るまでの処置だ。特に、身元不明という点では政府預かりの方が都合がいい」
「無政府主義に対していえるのかしら?」
「舐めるなよ女狐」
「吠えちゃだめよワンちゃん」
うおー、目の前でバチバチ火花散らしてる。
署長が言う然るべき場所っていうのは男性の職業安定所みたいな施設らしい。いくら貴重でも男性は働いて世間知らずになるのだけは避けるための措置だそうだ。
襲われないのかと言われても、基本的に秘書とか事務仕事など体を使わず頭を使う感じで身の守り方を知恵としてつけていくみたいだ。
出来るだけ監視はされているみたいだが、いかんせん男女比が狂いすぎて女が獣になる世界だ、前の世界とは違い弱めになっている男はそういう形でいつどこで襲われるか、最悪の場合は
この世界って『色欲』にまみれてね?と聞かされたときに思ったのは内緒だ。
「まあまあ、とりあえずここは俺の顔に免じて収めてくれよ。ホラ、握手握手」
火花を散らす二人の間に入り、スーツヒールの女の手を掴んで握手する。
「……………………へえ、随分と熱いんじゃないの子猫ちゃん?」
「まずは自己紹介だ。和澄シンだ、よろしくな」
「ケリー・キューリューよ。食べちゃいたいくらい可愛いお名前ね」
数秒の間、いきなり握手されたことにフリーズしていた女ことキューリューは硬直がとけてすぐグイっと引っ張られそうなくらい腕に力を込めていた。
だが、俺は引っ張られなかった。引っ張られたら抱きしめられ逃げられないと分かってる。だから引っ張られないよう、されど
「いいかい子猫ちゃん。確かにここは上辺の品性はいいかもしれないけれど、敵が他より多いのは確かで堅苦しいところへ連れていかれちゃうわよ?」
「結構、ヤクザものと関わると自由と引き換えに厄介ごとがここより入ってきそうなんでね」
「それはっ、ざんねんっ、ねっ!」
「残念、だった、な!」
この女、本当に人間か?若干改造人間と言われても否定しにくい俺でも手加減に苦労するほど力が強い。
引いてダメなら押してみる作戦に変更したみたいだが、びくともしなくて驚いている。
「やめんか貴様!シンも挑発をするな!」
「これは失礼っと」
「…………ふん」
署長の怒号に思ったより素直に手を放してくれた。
力を思ったよりも込められていたのかちょっとだけ手が痛い。
「また来るわ。今度は『手土産』も一緒にね」
「二度と来るな無法者」
そういうと踵を返してキューリューはさっさと出ていった。遅れて部下らしい女性もあわててその後を追う。
「…………はあ、大丈夫か?手は痛くないか?赤くなってるじゃないか」
「署長、この程度は大丈夫だ。ちょっと強く握られただけだ」
「あの馬鹿リュウに握られたことが問題なのだ!何もしなかったからよかったものの、君に何かあったら…………」
「簡単にはやられないさ。それこそ世界を滅ぼす邪神でも現れかねない限り、な」*5
まーた痛い子を見る目をしてくる。俺は本当のことを言ってるだけなんだけど誰も信じないもんな。
未だに俺の手を見ている所長を見て、ふと、昔のことを思い出す。
両親が殺された後、怯えて伏せていた俺に声をかけてくれた人。
『大丈夫か!せめて、君だけでも守り切って見せる。この命に代えても…………!』
その人はおまわりさんらしかった。今も名前も知らないまま、俺を守って死んでくれた人。
あの人も署長と同じように心配し、そして守ってくれた。
その後の俺の末路を見たら滅茶苦茶に叱られそうだ。
「…………思い出した」
「思い出した?何を?」
「俺の夢だよ。幼いころになりたいって思っていた職業の話だ」
「夢?それは一体…………」
何になりたいかと答えたら、所長が、その場にいた彼女らがぽかんと口を開けた。
そんなに驚くことだったか?
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「姉御、よろしいのですか?」
「…………あなた達、彼の動向を常に把握しておきなさい。何時に起きて何時に食事をして、何時にシャワーやトイレにいくかもね」
「は、はい!ですが…………」
「あら、何かしら?」
「あの男はいきなり姉御の手を握ったのに、姉御が乗り気にならなかったのですか?」
「そうねぇ、今日のところは『負け』にしておいてあげようと思うの」
「え、は、はあ」
警察署からの帰り道、ケリー・キューリューは妖艶な笑みを浮かべ、己の手を見る。
その手は未だに和澄シンと名乗る男の手形が赤く残っていた。
「うふふ…………ワスミ・シン。子猫かと思ったら堅物よりも虎かもね」
ケリー・キューリューは彼女が所属する、
その腕力は誰にも引けを取らず最強、と言われるほどまでのインテリ気取りの武闘派である。
「今度は、力で屈服させて…………うふふふ」
力以外で男を屈服できるようになった彼女に、今力でしかなびかぬ可能性が高い男があの建物にいる。
ケリーは再び和澄シン会うことを誓い、車に乗って去っていった。
次回!えーっ、夢は警察官!?周りは当然大反対するでしょ!だったら実力を示せばいい?やってやろうじゃないから
「第四 、技は大体のことを解決する」
『に、人間のすることじゃない…………』
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