今にも堕ちてきそうな桜の木の下で   作:航貴

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14話 試験

「ここだな」

 

 オープンキャンパスで一度訪れているため会場へは迷わずに着くことができた。秋葉原大学。東京にあるマンモス大学で国内屈指の人気大学だ。自分が今この大学の受験会場にいることが嘘みたいだ。前日に何事もなく東京に到着、それからホテルで最後の勉強をしていた。と言っても昨日は緊張で勉強の内容は頭に入ってこなかった。飯を食っても喉を通らない。これが受験か。高校受験の際は地元の高校だったし家のすぐ近くだったので緊張も控えめだった。だが今回は東京だ。1人でこの大都会に来るのはやはり緊張する。

 

 受験票を確認し、指定された席に着く。周りにはもう既に多くの受験生が着生していた。大抵の学生は問題集やノートを読み最後の追い込みをしている。中にはスマホをいじっていたり友人同士で談笑している者もいた。東京の人なのかな。沼津から1人で東京へとやってきた俺がなぜか突然招かれざる客のように思えてきた。そう思うと突然周囲の人がみな東京の人に見えてきた。

 

 ダメダメ集中っと。俺はノートを英単語帳を取り出すと単語に意識を向けた。受験科目は国語、日本史、英語の三科目。ありがたいことに一部の経済学系の学部を除けば文系の私立大学は文系科目のみで受験することができる。理数系がからっきしな俺は早々に見切りをつけ私立大学のみを受験することにした。一般的に私立大学の学費は国立大学の学費に比べて高い。親に感謝しなくちゃな。

 

 昨日出発前に梨子から受け取った箱を開ける。中にはチョコレートが入っていた。お菓子のビニールには善子と梨子からメッセージが書かれていた。

 

『ハデスへ 勝ちなさい!』

 

『早人くん 頑張ってね』

 

 そのメッセージを見てクスリと笑った。今ので少し緊張が解けた気がする。ありがとう、善子、梨子。

 

 

「それではこれより試験問題を配ります。参考書やノートなどはしまってください」

 

 教室に現れた試験監督の声で一斉に学生たちは荷物をしまう。前の人から問題用紙と解答用紙を受け取る。動悸がする。心臓の音が聞こえる。俺はこの大学に入りたいとそう思って今日まで勉強してきた。この大学に行ってみたい。そんな思いだけで今日までやってきた。大丈夫だ。落ち着いて頑張ろう。ずっと共に勉強を頑張ってきた戦友であるシャーペンをぎゅっと握りしめた。

 

 

 

 

「試験終了です。筆記用具を置いてくだい」

 

 試験監督の声で皆一斉に筆記用具を置く。ついに最後の試験問題が終わった。試験中は必死に問題について考えていたためあっという間に感じた。試験監督が解答用紙を回収する。ついに終わったのだ。鞄に荷物をしまい教室を出る。受験生は物凄い数で渋滞が起こりなかなかキャンパスから出ることが出来なかった。こんなにたくさんの受験生と俺は勝負していたのか。この中で合格できるのは一体何人何だろうと思った。

 

 

 人の波を抜け一旦ホテルに戻り預けていた荷物を回収する。それから秋葉原駅へ向かいそこから東京駅へ。東京駅から新幹線に乗り込み沼津へと帰郷した。帰りの新幹線は行きと違ってだいぶリラックスできた。受験した東京の大学は秋葉大のみで他は県内の大学をいくつか受験した。2月中に全ての入試を終え俺に受験は終わった。それから授業もほとんどないため家でゲームをしたりその辺をぶらぶらして過ごした。

 

 

 

 

 

 

 全然落ち着かねえ

 

 受験勉強から解放されたものの合否が気になってしまう。それに勉強しなくていいのは嬉しいものの、勉強生活が身に染みていたため勉強しないと落ち着かない。そんな悶々とした日々を過ごした。

 

 

 初めに受けた県内の大学の合否通知の日がやってきた。この日は授業もなく自室にいた。きっと大丈夫、あれだけ勉強したのだ。そう自分に言い聞かせ結果を見る。スマホを震える手で握りしめ受験番号を入力する。このたった指一本の動作で合否がわかるのか。俺は一旦深呼吸してから慎重に『結果を見る』と書かれたボタンを押した。画面が真っ白になり新しいページを読み込む。それは一瞬だった。

 

 画面に表示された合格の2文字を見た瞬間安堵でその場に座り込んだ。よかった。本命ではないものの、とりあえず大学に合格することができた。両親は今も仕事中だし、善子や梨子も授業中だろう。とりあえず家族と友人にはメールで合格したと送信した。

 

 その後仕事から帰宅した両親は俺の合格を大層喜んでくれ、駅前の焼肉屋に連れて行かれた。本命の大学じゃないんだから別にいいのにとも思ったのだがお祝いはありがたく受け取ることにした。ほんと、あまり勉強のことに首を突っ込まない両親だけどこうやって喜んでくれるのはありがたいな。焼肉は普段よりも美味かった。やはり何かをやり遂げた後って気分がいいもんだな。善子と梨子からもおめでとうとメールが来た。2人に報告できて良かった。

 

 それから何度か学校へ行く日があり登校した。と言っても授業はなく連絡を受けたり進路の報告をした程度だった。クラスメイトととも自然と受験の話になる。結果が振るわなかった人もいるためなかなか言い出しにくい話題でもあったがやはり皆誰がどこの大学に進学するのか気になるようだった。俺の合格した県内の大学に同じく合格した人は何人かいた。もうその大学に行くと確定した人もいるようだった。良かった。この大学なら知ってる人がいるなと少し安堵した。もちろん第一志望は秋葉大なのだが。またすぐ休みになりいくつか残りの大学の合否発表が続いた。残念ながら不合格となってしまった大学もあった。その大学は秋葉大よりも確か例年倍率は低かったはず。大丈夫だろうか。国内屈指の人気大である秋葉大はもう無理なんじゃとも思ってしまった。でも逆転合格というのも聞く。第二志望に落ちて第一志望に受かったという先輩の話も聞いたことがある。だからまだ確定したわけじゃない。どうしても受験結果が気になって休みも休めない。俺は気を紛らわすために受験終了以降行っていなかった図書館へ向かった。気分転換に本でも読もうとやってきた。とりあえず面白そうな本はないかとブラブラと見てまわる。題名を見て面白そうだと思ったものをいくつか手に取り借りる。図書館を出るとそこで見覚えのある少女を見かけた。

 

「花丸ちゃん?」

 

「えっ早人くん?」

 

 彼女は俺を見ると驚いて小さくい声を上げた。

 

「ごめんごめん驚かせちゃったね」

 

「いえ、その...お久しぶりです」

 

「うん、久しぶり」

 

 そう言って花丸ちゃんはペコリと頭を下げた。彼女と会うのも本当に久しぶりだ。俺は勉強、彼女は部活でなかなか会う機会がなかったのだ。花丸ちゃんとは連絡先も交換していなかった。ちょうどいい機会だし伝えようと県内の大学に合格した旨を伝えた。

 

「うわあすごい。おめでとうございます!」

 

 そう言って花丸ちゃんは天使のような笑顔で祝福してくれた。

 

「ありがとう。まだ第一志望はわからないんだけどね」

 

「それって確か東京の」

 

「うん。秋葉大学。受かってればいいんだけど」

 

「そしたら東京に引っ越すんですよね」

 

「うん。受かったら、ね」

 

 まだわからない。でも受かったら俺は東京で暮らすんだ。まだ実感が湧かないな。その花丸の表情はどこか少し寂しさを漂わせていた。

 

「でも帰れる時は沼津に帰ってくるよ。新幹線使えば1時間だし」

 

「帰ってきてくれたら嬉しいずら」

 

 1時間って言っても料金は馬鹿になれないんだけどな...

 

「また本の話しようね」

 

「は、はい。もちろんです」

 

 大学へ進学してもまた会おうとそう約束し花丸ちゃんと別れた。そう言えば彼女とは連絡先を交換していなかったことを思い出した。大学の合否が出たら真っ先に報告したかった。それに果南の連絡先も知らないや。勉強を頑張るきっかけをくれたのは果南だし連絡したかったけど、またどこかで会えるだろう。善子に言えばメアドでも教えてくれそうだが。そんなことを考えながら家に向かって自転車を漕いだ。

 

 

 それからゲームをしたり散歩したり本を読んだりとする日々が続いた。ちなみにAqoursは嬉しいことに決勝戦進出を決めた。2学期に入ってから勉強の関係で生でライブを見に行くことはできなかったが、次の決勝は生で観れる。Aqoursの練習も本格的に進んでおりなかなか彼女たちと会う機会もなかった。俺は過去のAqoursの動画ぼおっと眺めながら昼飯を食べていた。やっぱり改めて見るとーーみんな可愛いよな。花丸ちゃんはおっとりした雰囲気でそれがお淑やかで癒されるし、何より普通の子が殻を破って頑張っている感じがする。善子は自分を思い切り表現していて自分を見てほしいって気持ちが伝わってくる。梨子は誰が観ても美人なんだけど、それを堂々と見せるわけでもなく少し控えめにそれでもできるだけ彼女の魅力を出せるギリギリまで出しているところにときめきを感じた。こんな美人な子が俺をーー。いかんいかん。そんなこと考えている場合ではない。すると突如携帯が振動し画面に見覚えのある名前が表示された。

 

「もしもし」

 

『繋がったかしら...? 聞こえますか、堕天使の囁きが』

 

「いや聞こえないな」

 

『聞こえてるじゃない!』

 

 大きな声がして思わず携帯を耳から離してしまう。善子のファンがこの様子を見たらきっとがっかりするだろうなあ。いやむしろギャップ萌えでもっと好きになっちゃうか。

 

「堕天使の囁きは聞こえないけど善子の声は聞こえるな」

 

『っならいいわ。やはり人間には聞き取れない周波数のようね』

 

 周波数の意味わかってんのか。物理を早々に諦めた俺も全くわからんが。

 

『今暇かしら』

 

「そりゃあもう。授業もないし家でダラダラしてるよ」

 

「良かった。早人さえ良ければ浦の星に来ない? 練習、見学してってよ」

 

「今から?」

 

『今からよ』

 

 予定を確認する。当然何もない。それにしても他校に入っていいものなのか。それも女子校に。

 

「いやあでも勝手に学校入っちゃいけないんじゃないの?」

 

『それならノープロブレムよ! 理事長の私が許可します!』

 

 電話の向こうから陽気な少女の声が聞こえた。理事長と名乗っていたが、なぜ理事長が善子と一緒にいるのだろうか。

 

『鞠莉もそう言ってるんだから』

 

 電話は再び善子に戻る。鞠莉って確かAqoursの子だったよな。まさか生徒が理事長をやっているのか? 事態が飲み込めないがとりあえず行っていいのだろう。善子がこんなことで嘘をつくとも思えないし。

 

「わかった。じゃあ今から向かうわ」

 

 そう言って俺は家を出て自転車に跨った。浦の星女学院。内浦のある女子校だ。内浦へと続く道はよく受験勉強のリフレッシュに自転車で走っていた道だ。市街を抜けると海が見えてくる。もしも東京に行ったらこの景色ともお別れか。そんなことを考えながら進んだ。

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