「Aqoursのよさ、はですね...」
俺は絶賛Aqoursの今までの活動を振り返った。ろくにAqours以外のスクールアイドルを見てこなかった俺は他グループとの比較でAqoursを語ることはできない。俺は素直にAqoursを見て感じたことを、伝えることにした。
「友達が出てるって贔屓目も入っちゃうんですけど、同世代の子たちが頑張ってるのが心惹かれます。作詞とか作曲とか全部自分たちで作ってるのも応援できます。Aqoursの曲からは、全力さとか必死さを感じれます。余裕のあるチャンピオンってっ感じじゃなくて貪欲なチャレンジャーって感じです。なんていうか俺にとっては勇気をくれる存在、それがAqoursです」
思ったより言いたいことが出てきてしまい言葉がまとまらなかった。相当なスクールアイドルオタクであろうこの女性は俺の回答に満足してくれただろうか。
「...そう。そうよね。そのチャレンジャーって感じすごくわかるわ。特に夢を夜空で照らしたい、あの曲は地元の人の協力もあって作った曲よね。都会のスクールアイドルと比べるとどうしても設備面なんかで差が出ちゃうと思うけど、それに負けずに自分たちの強みを活かして勝負しているところが評価できるわ。それとMIRACLE WAVEの高海千歌のバク転は目を見張るものがあったわ。あれはインタビューによると元々3年生の松浦果南が行う予定だったみたいね。当時はできなかったあの振り付けを2年ぶりに、後輩の高海千歌が引き継いで行ったのは感動したわ」
俺の言葉は起爆剤になってしまったのか堰を切ったように彼女はAqoursについて語り出した。ちょっと待ってインタビューの内容も熟知してるの? そこまで熱心なファンだったんだな...俺が呆気に取られていると彼女はハッとして下を向いた。
「ごっごめんなさい。私、スクールアイドルのこととなるとつい」
「いえいえ。そこまでAqoursのこと好きになってくれて嬉しいです。俺はAqoursに救われたんです。Aqoursのおかげで今日までやってこれましたから」
「うん、私もスクールアイドルに救われた」
そう言う彼女はさっぱりとした明るい笑顔だった、はずだ。もちろんマスクとサングラスで表情は見えなかったけどその奥には明るく笑う彼女がいるはずだ。それから少しして大きなアナウンスと共にラブライブ決勝が始まった。彼女は俺の救われたという言葉の意味を聞かなかったし俺も彼女の言った救われたについて言及はしなかった。流石に初対面の人に話しづらいこともあるだろう。だけどきっとスクールアイドル1人1人に物語があるようにファン1人1人にも物語があると思う。
スクールアイドルたちのパフォーマンスはどれもレベルが高かった。歌詞も振り付けも曲もどれも質が高い。隣の女性も前のめりになって夢中で見ていた。俺もAqours以外のグループは全く知らずに来たが、かなり楽しんでいた。いくつか気になるグループもできた。どのグループにも個性があって一つとして同じグループはなかった。
大会も終盤に差し掛かりついにいよいよAqoursに出番となった。見ている俺まで緊張してしまう。隣の女性も一瞬俺の方を見た。俺は軽く頷いて深呼吸をした。ついに始まる。
ステージに現れたAqoursは9人が青を基調とした衣装だ。それぞれ薄い水色だったり濃い青だったり色合いに違いがある。中でも梨子、鞠莉、花丸ちゃんの3人はまるで絵本の中の姫様のようなドレスを見に纏っていた。おお、俺は思わず前のめりになってステージを見た。
曲は鞠莉から始まった。果南に言われた言葉が浮かぶ。将来のことはわからなくても今やりたいことや目の前のことをやる。きっとAqoursもそうやってこの舞台までたどり着いたのだろう。
歌からは彼女たちの思いがわかる。学校は廃校になってしまう。でも、浦の星の名前を残そうという熱い気持ちがビシビシと伝わってくる。サビに入る直前、花丸ちゃん、そして続いて鞠莉のロングスカートを他のメンバーが手で掴むと横へ思い切り投げ飛ばした。すると衣装は変わりその下に別の衣装が現れた。おお! ここでこんな隠し要素持ってきたか。そして最後に8人が梨子の周りに集まり、梨子も同じくロングスカートを投げた。 隣の女性も思わず感嘆の声を漏らし見入っていた。いいぞ、Aqours。 曜の言っていたサビ前に注目ってこれのことだったんだな。正直、期待以上だった。本当に最後にふさわしい演出だ。俺は、目を売るわせながら、感極まった。全力でこの瞬間を楽しんでいた。
Aqoursの曲が終わり、会場は大歓声に包まれ大きな拍手が起こった。俺は思わず立って拍手した。自然と涙が込み上げる。こんなすごいもの見れて、よかった。この瞬間に立ち会えて本当によかった。ただそう思えた。
無事にAqoursのパフォーマンスが終わったことへの安心と感動が入り混じってしばらく呆然としてしまった。
全てのグループのパフォーマンスが終わり結果発表となった。かつて前回大会ではAqoursは地区大会を突破することができなかった。今回の地区大会決勝の結果発表時、俺は祈るようにして結果を見た。Aqoursの軌跡を見てきた俺はただじっと結果が表示されるステージ上のスクリーンをじっと見つめた。アナウンスと共に会場もおおっと声が上がる。隣の女性も黙ってそれを見つめる。
上位10組のグループが発表された。10位から順番にグループが移される。グループが発表されるたびに喜びの声や驚きとショックの入り混じった声が聞こえる。10位以内に入って喜ぶものもいれば、優勝を逃し悲しむものもいる。順位はどんどん上がる。依然としてAqoursの名前は表示されない。3位、2位が発表された。そこにもAqoursはいなかった。そしてついに1位の発表が来る。優勝者ということで画面には色とりどりの演出がされなかなか順位は表示されない。その瞬間はとても長く感じた。会場の期待が最大に盛り上がったところで、画面が切り替わり優勝者が発表された。
その瞬間、隣の女性が小さく右手でガッツポーズを取ったのが見えた。
あの時。善子が部活を始めたと聞いた時の会話を思い出す。
「何の部活始めたんだ?」
「スクールアイドル部よ。この堕天使ヨハネ様の美しさを全国に知らしめるわ」
「スクールアイドルか! すごいな」
「えへへすごいでしょ」
嬉しそうに語る善子。善子は高校生になってからあまり登校できていなかった。善子がこんなに明るい姿を見せたのも高校入学以来初めてだった。
「グループ名はなんて言うんだ?」
「Aqoursよ。英語でー」
善子はえーっとと、思い出しながらそのグループ名のスペルを慎重に言った。その時は随分変わった名前だなと思った。だが今ではそのグループ名は沼津を、浦の星を代表するスクールアイドルにピッタリだと思えるようになった。
英語でエーキューオーユーアールエス。Aqours。ステージ上のスクリーンに、見慣れたグループ名が大きく悠然と輝いていた。
目の奥から熱いものが込み上げてくる。俺はAqoursをただ応援していただけだ。何もしていない。だけど彼女たちはこんなに熱い思いにさせてくれた。
「ありがとう」
自然と感謝の言葉が溢れた。ああ、Aqoursに出会えてよかった。会場は大歓声に包まれAqoursを呼ぶ声が広がった。俺も、隣の女性も大きな声でAqoursと叫んだ。決勝戦を見にいくのは初めてで正直このノリが何なのかはわからない。でも今俺は彼女たちの名前をただ叫びたかった。この溢れる感情をじっと心の中にしまっておくことはできなかったから。
声が枯れるまで叫んだ。もうこれ以上声は出ないだろうと思った時、会場内にどよめきが走った。新しい衣装に着替えたAqoursが会場に現れた。その姿を見た時、不思議とまた腹から声が溢れた。先程のWATER BLUE NEW WORLDとは変わって明るいテンポの曲が始まった。その曲は浦の星が廃校になって3年生が卒業する、そんな寂しさや終わりを感じさせない、「始まり」を意識させる曲だった。新しいことを始めるワクワクや、旅立つ人の背中を押すような曲だった。俺の高校生活も、生まれ育った沼津での生活も終わる。でもそれは新しいことの始まりなんだ。そう、思えた。
ラブライブ決勝大会は大盛り上がりで終了した。涙が止まらない。来年も絶対参加しよ。会場には多くに観客が来ているため規制退場となった。案内があるまで待つことになった。
「優勝したわね。おめでとう」
「あ、ありがとうございます!!」
俺は感極まって大きく頭を下げた。
「まあ私もAqoursかなとは思ったわ。本当にすごいグループと友達ね」
「幼馴染の子がいまして」
「なるほど」
女性は腕組みをしてしばらく何かを考えてから俺に向き直った。
「リーダーの千歌ちゃん、μ'sが好きで始めたって言ってたわよね」
「よくご存知ですね」
「雑誌のインタビューで言ってたのよ」
本当にこの女性は熱心なファンみたいだ。ここまで熱心なファンがいると知ったら彼女たちも喜ぶだろうな。
「それで、μ'sの曲を参考にしたとか、そんなこと言ってた?」
俺はうーんと唸って記憶を遡る。確か夏前くらいだったか。千歌はμ'sと自分たちの違いは何かと悩んでいたって善子から聞いた。μ'sは伝説のスクールアイドルだと。それから千歌がどのようにそのμ'sと折り合いをつけたのか詳しくは聞いていない。でも果南と話した内容から大体予想することはできた。
「直接は聞いてないので多分なんですけど」
女性は、マスクとサングラスを外して俺を真剣に見つめた。さっきは一瞬見えた程度だったが改めて見るとすごく綺麗な眼してるな。まるでアイドルみたいだ。俺はちょっと緊張して彼女の方に体を向けた。
「そのリーダーからは聞いてないのですが果南から聞いた話でしたら。あ、果南は」
「3年生、松浦果南ね。2年前に小原鞠莉、黒澤ダイヤと3人でAqoursをやっていた」
俺は果南について説明しようとするとすかさず女性の解説が入った。そうだよなさっきバク転の話した時も果南の名前出してたし、メンバーのことはしっかり名前知ってるか。
「えっと果南は目の前のやりたいことをやってたら今の場所にたどり着いたって話をしてたんです。遠い先の目標があったわけじゃなくて、今やりたいと思ったこと、好きなことをやっていたら気づいたら遠くまで来ちゃったって。俺もその言葉にだいぶ救われたことがあったんです。だから千歌も、きっとμ'sを目指すの辞めたんだと思います。自分たちの好きなこと、表現したいことをやっていたらそれが自然とAqoursの色になっていって。きっとμ'sも最初から伝説になろうとしたんじゃないと思います。μ'sだってその瞬間を精一杯輝いたのかなって思います」
果南の言葉と自分の受験勉強の経験も交えて解釈を語った。俺の解釈を聞いた女性はうんうんと頷きながら聞いて満足そうに微笑んだ。
「私もμ'sに対する考えは同じ。きっと先のことよりも自分たちの今を表現して、気づいたらその歩んできた道がすごく大きくなってた」
女性はもう誰も立っていないステージを見つめる。このステージに立ったスクールアイドル1人1人に歩んできた道があってそれはきっと卒業しても残って多くの人の心に残るんだろう。
退場のアナウンスがされ俺たちの列も退場となった。荷物をまとめて席を立つ。
「すごく楽しかったです。お姉さんが隣の席で良かったです」
「私もよ、楽しかったわ」
前の人たちが歩き始めたため俺たちも続いて歩く。階段を降りていると後ろから女性が思い出したとばかりに聞いた。
「そういえばμ'sって見たことあるのかしら」
「え、いや名前だけでちゃんと見たことは」
「...そう」
女性は機嫌を損ねたのか拗ねたような顔で俺を見つめる。きっとμ'sの大ファンなのだろう。
「家帰ったら調べてみます。絶対見ますから。おすすめの曲教えてください」
そう答えると女性は機嫌を直したのか嬉しそうな表情を抑えきれずに、それでも平然を装いながら笑みを抑えている。
「そうね、まあどれもおすすめだけど強いて言うなら夏色笑顔で1,2,Jump!とか輝夜の城で踊りたいかしらね」
俺は忘れないように言われた曲名を携帯にメモした。よしこれでバッチリだ。
「家帰ったら見ます」
「約束よ」
「絶対見ます」
長い列をぞろぞろと歩き退場までかなり時間がかかった。スクールアイドルの人気の凄まじさを痛感する。やっとのことで扉を抜けドームを振り返る。こんな大きなところでAqoursはパフォーマンスをして優勝したんだよな。俺は改めてAqoursの凄さを感じた。
「じゃあ私はここで」
「どうも、ありがとうございました」
「静岡なんでしょ。今日帰るの?」
「はい、この後新幹線で」
「もう夜遅いし気をつけてね」
優しい。高3にもなって勝手に大人になった気だったけどやっぱりまだまだ俺は子どもなんだな。
「ありがとうございます。お姉さんもお気をつけて」
「ありがと。じゃあね」
「ありがとうございました」
俺は女性に大きく手を振った。その女性も思いっきりの笑顔で手を振りかえしてくれた。その笑顔を見ているとこっちまで自然と笑顔になってしまう、そんな笑顔だった。
新幹線に飛び乗り沼津へと帰る。日帰りで東京に来たためもうクタクタだ。食事と風呂を済ませてベッドに横になる。携帯を開きあの女性に言われた曲名を検索する。動画サイトのpvが表示された。ん? センターの女性は黒い髪をツインテールにしている。赤い瞳とその明るい笑顔はとても可愛くて、自然と見てる方まで笑顔になるし、そしてどこかで見たことのある顔だった。
まさか。今日会ったあの女性を思い出す。不自然なサングラスとマスク、そしてスクールアイドルへの情熱。俺はその女性にそっくりなμ'sの矢澤にこさんについて検索する。さすが人気グループということで様々な情報が出てくる。そのうちのいくつかをスクロールして見ていると彼女の特徴として「スクールアイドル愛が強い」ことが挙げられていた。
もしかして,というかもしかしなくてもあの女性は...
俺は枕に顔を埋めて寝転んだ。俺は大会の前にμ'sについて調べておかなかったことを後悔する。サイン欲しかった。でもその後悔よりも、伝説的なスクールアイドルにAqoursを認めて貰えたことの喜びの方が大きかった。