今にも堕ちてきそうな桜の木の下で   作:航貴

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9話 恋は罪悪

 私は小さい頃から本が好きでした。クラスでもおとなしい方で友達はあまり多くなかったけど、中学でルビィちゃんという子に出会いました。ルビィちゃんはスクールアイドルが好きで私とは違う趣味を持っていたけれど、仲良くなりました。ルビィちゃんのアイドルの話を聞くのが好きで、私も次第にアイドルに興味を持つようになりました。でもこっそり見るだけで私には届かない遠い世界だと思ってました。

 

「ルビィ、スクールアイドルがやりたい!花丸ちゃんと!」

 

 そんな私をルビィちゃんが本の世界から引っ張り出してくれました。スクールアイドルを始めた当初は練習について行くのが大変だったけど、、Aqoursのみんなと過ごして一緒に過ごす日々は本当に宝物でした。

 

 スクールアイドルを始めても本を好きな自分も変わらなくて、度々図書館に通っていました。そこで私はある人に会ったのです。

 

「あの、早人さんですよね」

 

 その人は善子ちゃんの幼馴染で三年生の川田早人さん。善子ちゃんから話は聞いていて何度か見かけたことはあったけど喋ったことはなかった。いつも善子ちゃんが下の名前で呼ぶから、私もつい下の名前で呼んでしまった。なんで話かけたんだろう。特に彼を気にしていたわけじゃないけど、あの時図書館で見かけた時反射的に声をかけた。早人くんは私の本の話にも興味を持ってくれて、本の話をしてくれた。それは嬉しくて、Aqoursの練習がない時は積極的に図書館に行くことにした。

 

 私のスクールアイドルとしてに魅力って何だろう。そう悩んでいた時も彼は私は今のままでいいとそう言ってくれた。それはただの慰めやお世辞なんかじゃなくて彼の本音だった。本の感想を語り合う中で、早人くんは自分の感じたことを素直に言葉にして伝えられる人だってわかったから。だから彼の言葉も本当何だろうって思うことができた。自身のない私が頑張るから勇気をもらえると彼は言ってくれた。早人くんと過ごしてずっと本の世界にいた自分も、自信のない自分も自分の魅力なんだって気付くことができた。

 

 

「ずら丸。早人の話してる時すごく幸せそうな顔してるわよ」

 

「えっ」

 

 練習の帰り道。善子ちゃんとルビィちゃんの3人でバス停まで歩く。早人くんの話をしていると善子ちゃんにそう言われてハッとする。そんなに表情に出てたなんて全く意識していなかった。

 

「早人くんはただの本仲間ずら」

 

「隠さなくていいわよ。早人のこと好きなんでしょ」

 

「すっすき!?」

 

 思わず大きな声あげてしまう。顔が熱い。

 

「えっ花丸ちゃん好きな人がいるの?」

 

 ルビィちゃんはとても興味津々といった風に興奮している。

 

「違うずら! そんなわけないずら」

 

 私は真っ赤になった顔を隠して否定する。

 

「否定しなくってもいいじゃない」

 

 興奮するルビィちゃんとは対照的に善子ちゃんが冷静に言う。ダメだ。だって善子ちゃんと早人くんは...

 

「本当にただのお友達で...」

 

「言っとくけど私と早人はただの幼馴染よ。サーバントとマスターの関係とも言うわね」

 

「サーバント?」

 

 ルビィちゃんが不思議そうにそのカタカタを復唱する。

 

「ま、要するにそんな関係じゃないってこと。今までずっとそうだったんのよ。だから私に遠慮する必要なんてないんだから」

 

「私にはそんな」

 

「あいつああ見えて意外とモテるから。早人のこと好きな人他にもいるかもよ」

 

 そう言って善子ちゃんは前を向く。他にも早人くんをことを好きな人がいる。そう思うとなんだか嫌な気持ちになってしまった。彼と過ごす時間を誰かに取られるかもしれない。そう思ってしまった。でもそれがAqoursの誰かだったら...

 

 

「この前のライブ見たよ。結果は残念だったけ俺にとってはAqoursが一番だったから」

 

 二学期に入ったある日。いつものように図書館からの帰り道に早人くんと会い帰路に着く。東京の大学に見学に行ったそうでそれから早人くんのやる気は高まっていた。

 

「あ、ありがとうございます。名古屋は大都会で緊張しちゃいました」

 

「でも決勝は東京だからもっと都会だよ」

 

「先が思いやられるずら」

 

「俺も東京で受験受けるから。一緒だね」

 

 そう言って早人くんはにこりと笑った。一緒という言葉が嬉しくて心が躍った。

 

 

 

 

 その日の夜。暗い部屋で静寂が流れる。沼津の中でも中心の市街から離れた所に住んでいるので夜は本当に静かだ。音が聞こえない分、周りからの情報が入って来ずついつい考え事をしてしまう。早人くんはAqoursが一番だと言ってくれた。じゃあAqoursの中では誰が一番なの? そんなこと聞けない。でもその答えが私だったらいいなって考えちゃったのはずるいかな。

 

 

 その後も眠れずに考え事に耽っていた。善子ちゃんは早人くんのことを好きな人が他にもいるかもと言ってた。となるとその女の子は善子ちゃんとも早人くんとも知り合いということになる。となれば大方予想はついてしまう。

 

「Aqoursの誰かなのかな」

 

 可能性が一番高そうなのは...記憶を辿る。梨子ちゃんが東京に行く日。沼津駅で梨子ちゃんをお見送りした時、早人くんもたまたま駅に来ていた。その時果南ちゃんと喋っていたような。まさか果南ちゃん!? でもあの2人に特別接点なんてあったかな。ダイヤさんや鞠莉ちゃんは特に喋ってなかったはず。ルビィちゃんも全然知らないみたいだし。となると二年生の誰か? 曜ちゃんや千歌ちゃんは明るいしすぐ仲良くなりそう。梨子ちゃんもすごく美人だしモテそう。二年生の三人とは楽しそうに喋った印象がある。私は窓の外に映る月を見てため息をついた。

 

 

 翌日。練習の休憩中、私は2年生が集まっている所に行って早人くんと図書館でよく会うという旨の話をしてみた。

 

「そうなんだ。早人くん勉強頑張ってるんだねえ。私も頑張らなきゃ!」

 

「千歌ちゃん点数危なくて先生に呼び出されてたもんね」

 

「ちょっと曜ちゃん。それは秘密でしょー!」

 

「あはは。ごめんごめん」

 

 千歌ちゃんと曜ちゃんはいつもの調子でふざけ合っている。でもひとりの子は様子が違った。

 

「は、花丸ちゃんと早人くんは仲良いの?」

 

 梨子ちゃんは掠れそう震える声でそう聞いた。その声色から彼女の気持ちを察することは簡単だった。梨子ちゃんは善子ちゃんと仲良くて一緒に遊ぶことも多いみたい。だったら梨子ちゃんと早人くんもよく会ってる可能性がある。

 

「特別仲良いわけじゃないよ。ただよくAqoursのライブ見てくれて、応援してくれる人がいるってわかって嬉しかったんだ」

 

 するとその話を聞いていたダイヤさんが話に入ってきた。

 

「ファンの方がいてくださるのはありがたいことですわね」

 

 ダイヤさんに続いて鞠莉ちゃんと果南ちゃんも話に入ってきた。

 

「私たちもますますビッグなグループになってきたわね」

 

「うん。ファンの人の期待に応えられるように頑張らなきゃね」

 

 まだ夏の暑さが残る屋上でAqoursは気持ちを新たに頑張ることを誓った。

 

 

 いつもの帰り道。もう何度目になるだろうか。早人くんと並んで歩く時間は私にとってとても幸せだ。

 

「この前羅生門読んだんだ。高一の時に授業でやったはずなんだけど、その時は全然ちゃんと聞いてなくてさ、今改めて読み直したらすっごく面白かったよ。人間のエゴイズムをうまく表してる作品だよね」

 

「私もそう思います。結局、あのお婆さんも自分がやられる側になることを考えてなかったのが、人間の本性を表しているみたいですよね」

 

 そうだよねと早人くんは頷く。

 

「結局人間ってみんな自分が可愛いのかな」

 

「どんな人にもそういう部分はあると思います」

 

「じゃあ花丸ちゃんにもそんな部分あるの?」

 

 早人くんは楽しそうに笑いながら私にそう尋ねた。

 

「...ありますよ」

 

 そう答えると早人くんは「どんなところ?」と少し揶揄うように聞いた。

 

「秘密ずら」

 

 早人くんと一緒にいる時間を独り占めしたい。心の奥底で思っていることを言えるほど私には勇気はなかった。

 

「そういえば」

 

 この前の練習で気になったあのことについて聞いてみることにする。

 

「なに?」

 

「早人くんと梨子ちゃんって仲良いんですか?」

 

「いっいや全然。普通だよ。そんなこと...ない」

 

 そう答えると早人くんは顔を赤く染めて視線を逸らすように応えた。彼は素直に思ったことを伝えてくれる。そんなところは好きだった。でも今だけはその素直なわかりやすい部分が嫌だった。

 

 

 

 

参考文献 芥川龍之介(1989). 羅生門・鼻・芋粥 角川文庫

 

 

 

 

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