殺し屋、鎖に繋いだ嫁の為にメシを作る   作:和鳳ハジメ

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ターゲット3/夫へ贈る『おにぎり』

 

 

 

『ひぃっ!? な、なんだコイツありえねぇ!?』

 

『ぎゃああああああ! オレの足が!? 兄貴は首がねぇ!?』

 

(くッ、――あんなモノを見せられて僕はどうすれば良いんだよッ!! 脳が破壊されるぅ!!)

 

『くそッ、黄色い猿共のの田舎町じゃねぇのかよ!! はるばるイタリアから来たってのに――あぎゃあああああああああ!!』

 

 阿鼻叫喚、獅子累々、そんな言葉がぴったりくるとある埠頭の古く大きな倉庫であった。

 イタリアから日本の裏社会に侵攻をかけたギャングの尖兵は、次々に見るも無惨な姿へなっていく。

 

(くそッ、僕は問いただすべきなのか? それとも体で――い、いやダメだ、最近は良い感じなんだよ壊したくないんだ……、でも、僕が、僕を……)

 

 考え事に夢中になっている雷蔵は、手加減やら自重やら、節度やら限度やら、様々な単語を忘れて斬り刻む。

 

(そもそも無理矢理襲ったし、無理矢理結婚させたし、…………考えてみれば――――好かれる要素ないよねッ!? いや分かってたけども!!)

 

「ねぇヨシダさん、今日の不破さんは妙にハッスルしてません? 何かいいことあったんすかね?」

 

「こりゃ寧ろ逆だな、嫁さんと上手くいってないのかもなぁ……、見ろよ、人間って刀持ったまま壁を走った挙げ句に天井使って三角跳びしてさ、それでいてキレーに首を斬れるもんなんだなぁ……」

 

「あ、今オレ見えましたよ、不破さん飛んできた銃弾を足場にジャンプしましたよ?? オレら今、ハリウッド映画でも見てんすかね?」

 

 倉庫に集まっていたギャングと、彼らと契約していた傭兵達は三十人をゆうに越えていて。

 だからこそ、ヨシダ達も雷蔵と共に殺す筈だったのだが。

 流れ弾に注意しながら、証拠隠滅班と共に傍観するばかりである。

 

「いやー、アイツが味方で良かったよ。今日もコッチの被害ナシで帰れるってもんだ」

 

「ですねヨシダさん、オレらも楽出来るってもんです。ま、後片づけが面倒そうですが」

 

「それは仕方ない、でもま、今回は煙草の不始末で火事が発生するシナリオだ。それにすぐそこは海だ」

 

「ああ、それは楽ですね。――いつもこんな現場ならなぁ」

 

 雷蔵に頼りすぎるのも善し悪しだよ分かってはいるが、しかして楽に稼げるならある程度は許容範囲だろう。

 ヨシダはそう考え、同時に。

 

「しかしアレだな、アイツの悩みを聞いてやった方がよさそうだな」

 

「ですね、この後何人かで呑みに行きます?」

 

「……妻帯者、恋人持ちで何人か。代金は楽させて貰った分コッチが出すって事で」

 

「ええ、皆に伝えておきます」

 

 ヨシダは雷蔵が最後の一人を唐竹割りにしたのを見届けると、苦笑をひとつ煙草を取り出し吸い始めた。

 それから二時間後、雷蔵とヨシダ達は会社近くの居酒屋の個室に居て。

 更に三時間後、家で彼の帰りを待つ貴咲といえば。

 

「あの人は……覚えてないでしょうね」

 

 例の指輪を左手で摘み、いつものソファーで物思いに耽っていた。

 子供のサイズに作られたソレは、大人である彼女の指には入らず。

 その事が残念であるような、どこかホッとしている様な。

 

(アレって、どれくらい昔だったかしら。私が五歳かその前か、それで三歳差ぐらいだったからアッチの歳は……)

 

 子供の頃、一度だけ家を抜け出して行った地元のお祭り。

 その頃から頭角を表していた彼が、こっそりと追いかけていて。

 

(帰りたくないって駄々をこねて、一緒に回ったのよね)

 

 当時はお小遣いなどなく、金銭を持ってなかった貴咲は屋台で遊び回る子供達を羨ましそうに眺めるだけで。

 哀れに思ったのだろうか、それとも上の指示でもあったのだろうか。

 

(買ってくれたのよね、綿飴やリンゴ飴、射的や金魚救い……嗚呼、今なら自由に行けるわね)

 

 花火を見て帰る前に、彼は何も言わず。

 そっと指輪を握らせて、ただ一言。

 

「――頑張れって」

 

 多分きっと、それが幼い初恋だったのだろう。

 その日から彼女にとって指輪は宝物になり、次の日から姿を探したけれど。

 

(会えなかった、見つからなかった。今考えれば、その時もう色々と忙しかったのでしょうね)

 

 大人に混じって彼が仕事を、誰かを殺している姿を想像し貴咲はくすりと自嘲した。

 羨ましい気持ちはまだある、けれどそれが彼にとって悪い事である事も今なら理解できる。

 

「……何時からだったかしら」

 

 初恋を、想い出に変えてしまったのは。

 意図してそうした訳じゃない、余りにも、そう、不破が彼女に施した女としての英才教育は余りに過酷で。

 端的に言えば、彼女の体に他人が触らなかった場所はなく。

 

(少し、違うわ……。諦めていたのね、私は、自分の幸福を)

 

 幼い頃から体に教え込まれた、女性としてのありとあらゆる快楽。

 男に対する淫蕩で淫靡で、言葉に出せない手練手管の数々。

 男に消費させられる物だと、道具でしかないと。

 

(バカなのよ、こんな汚れた道具を妻にするなんてね)

 

 彼は知っているだろうか、処女膜なんて手術で再生出来るという事を。

 彼は覚えているのだろうか、初めて一緒に食事をした時の事を。

 彼は想像した事があるだろうか、幼い初恋だけで全てに耐えていた事を。

 

「もう……いいのかしら」

 

 淡い初恋だった、忘れようとして、でも諦めて。

 恨んだ、誰も助けれくれない、彼が助けてくれなかった事を。

 羨んだ、彼の境遇も知らずに、家の役に立つ、力を持つ彼を。

 

「――会いたい」

 

 一人でいるからだろうか、思わず心の欠片がこぼれた。

 ぎゅっと強く抱きしめて貰いたい、執着でも、偽りでもいい、愛してると囁いて欲しい。

 彼のした事は許せない、でも破滅して当然の家だったのだ。

 

「会いたいだなんて、私は言える立場なのかしらね?」

 

 酷い、とても酷い家だった、権力に媚びへつらい、利用し、弱者を血に染める家だった。

 身寄りのない子供を殺し屋に育てて、そうでない子供も素質があると見れば親を殺して浚って。

 知らなかった、知った後でも何も出来ず、否、何もしなかった。

 

(どうして)

 

 あんな家に、美しい女として産まれてしまったのだろう。

 何故、妹の様に殺しの素質が無かったのだろう。

 でも。

 

(そうでないと、出会えなかった。私はあの家の運命から解放されなかった)

 

 貴咲があの家に産まれなければ、幼子だった雷蔵が両親を殺された上に浚われて育てられなければ。

 そうでなければ、出会えなかったのだ。

 恨みがある、怒りはある、感謝もある、再び燃え始めようとしてる初恋だってある。

 

「違うわ、……きっと新しい恋なのね」

 

 そっと首輪をなぞる、鎖の重さを確かめる。

 これこそが彼との何よりの繋がりで、絆で、確かな何か。

 結婚指輪よりもきっと、今の二人にはお似合いで。

 

「でも、まだ――笑顔をみせてなんてあげないわ。ふふっ、もっと美味しいものを作って、私をときめかせて」

 

 それから。

 

「愛してるって、心から言えるようになりたい」

 

 言ってしまった、口にしてしまった、言葉にしてしまった。

 今の貴咲を変えてしまう想いを、自ら出してしまった。

 でも、全ては終わったのだ。

 

(人形は壊れて人になった、なら道具だった私も……人になれるのかしらね)

 

 誰かに、好きでもない男に抱かれる為の人生から。

 

(妻、……奥さんになってしまったのだもの)

 

 逢いたい、そんな気持ちが強くなっていく。

 飲み会に誘われて遅くなる、そう連絡があったのは大分前だ。

 そろそろ帰ってくるのではないか、彼女はそわそわとし始めて。

 

「髪の毛よし、メイクよし、服……、はこのままでいいかしら?」

 

 着飾って出迎えるには、まだ気持ちが追いついていない気がする。

 しかし、先日買って貰った服に変えても。

 貴咲が逡巡したその時だった、ガチャリと鍵の開く音が玄関からして。

 ――気づけば、早足で歩き出す。

 

「おかえりなさ――――きゃっ!?」

 

「……貴咲」

 

「ふぇっ!? ちょ、ちょっと旦那様? どどど、どうして壁にっ!?」

 

 扉が開いた直後、彼女はドンという壁を叩く音と共に迫られて。

 ぐいと雷蔵の顔が近づく、酒の臭いに顔をしかめる。

 貴咲が押し返そうとした瞬間、彼から想像すらしなかったありえない言葉が飛び出し。

 

「今までゴメン、別れよう貴咲。……君を解放するよ」

 

「――――――――ぇ」

 

 突然の離婚宣言に、貴咲は目を丸くしたのであった。

 

 

 

 ■□■

 

 

 

 時は少し巻き戻る、具体的には雷蔵が離婚を切り出す少し前。

 家路への道にて、千鳥足の彼の脳に飲み会で言われた言葉がこびり付いて離れず。

 ようやく見慣れてきた通勤路が、知らない土地にすら思えた。

 

『……悪いこたぁ言わねぇ、な、一度奥さんと距離を置いてみねぇか?』

 

『嫁さんを愛してるのはコッチにも伝わってくるんですけど、ちょい重すぎません? まー、そんなに大事ならもっと感情ぶつけても良さそうですけど』

 

『素直に聞けばいいと思う、でも距離を置くかどうかは別問題かな』

 

(僕は……いったいどうすればいいんだッ!!)

 

 ぐらぐら揺れる視界、ゆらゆら傾く思考。

 久しぶりにアルコールで鈍った頭は、雷蔵に暗い考えをもたらして。

 

「貴咲ぃ~~、僕は、僕は……」

 

 正直な所、彼女が他の男を愛する、愛している可能性は覚悟していた。

 否、覚悟していたつもりだった。

 だってそうだ、雷蔵は暴力にまかせて無理矢理に結婚した訳で。

 

(そりゃあさ、こんな男なんて好きになる筈ないよねぇ……)

 

 こんなどうしようもない男でも、少しぐらいはという甘い考えでいたのは認めるしかない。

 違う、少しぐらいどころか大きく期待していたのだ。

 だからこそ今、こんなに衝撃を受けてる訳であり。

 

(――――そもそも)

 

 何故、どうして、なんで、貴咲という女性を殺さなかったのだろうか。

 強姦した挙げ句に鎖に繋いで、結婚を強要したのか。

 

(美人だから? 性欲? 復讐……ははッ、そうだね否定はしない、だって)

 

 弱いものを好きなように嬲るのは、憎しみに満ちた心を癒して。

 不破の一族を殺し尽くし屋敷を焼いてなお慟哭した心は、貴咲を犯すことで最後の満足を得た。

 手放すことなんて出来ない、どうしようもない執着があって。

 

(でもさ、愛おしいって思ったのは確かなんだ。笑っちゃうよね、犯して初めて、誰かを愛してたんだって理解するなんて)

 

 いつから愛していたのか、彼女は世界一綺麗で、可憐で、妖艶で、淫猥で、語り尽くせぬほどの魅力を備えている。

 しかし雷蔵は知っている、彼女がまだそうで無かった時代を。

 その全てを覚えている訳ではない、だが最初に彼女に感じたことは。

 

「なんて――哀れだったんだろうね」

 

 芸術品のように美しく、目を背けたくなるほど卑猥な道具として調教される姿に、その生活に。

 同情や憐憫を抱いた、そして同時に怒りと苛立ちを。

 

(あの全てを諦めた目がさ、すっごい嫌だったんだ)

 

 他に誰が、それを気づいていただろう。

 例え彼女の親兄弟を誤魔化せても、雷蔵の目は誤魔化せない。

 活力に満ちた意志の強そうな瞳の輝き、そんなものは演技で。

 

(同じだったんだ、彼女が一人になった時に見せた目がさ。殺してきた奴らの死に全てを諦めた目と同じだったんだよ)

 

 その瞬間、彼は「――ぁ」と小さな呻き声をだした。

 気づいたのだ、だからこそ貴咲という存在を。

 

「そっか……僕は、幸せにしたかったんだ」

 

 嗚呼、と観念したように立ち止まり雷蔵は天を仰いだ。

 今更気づいても遅すぎる、彼女に対して犯した過ちは大きく多い。

 本当に彼女の事を想うなら、もっと方法があった筈なのだ。

 

(でも、僕は止まれなかったから)

 

 ――本当の親を殺された恨みを。

 ――両親から送られた名前を奪われた怒りを。

 ――あり得た筈の人生を滅茶苦茶にされたの報いを。

 でも、不和に罪はあっても貴咲には罪はなくて。

 

(僕がやったのは……ただの八つ当たりだッ)

 

 その自覚があった、負い目があった。

 そうだ、だからこそ。

 

「ははッ、僕に聞く資格なんてなかったんだ」

 

 誰を本当は愛してるか、なんて。

 雷蔵には、それを聞く資格が砂粒ほども無い。

 

(指輪のことを、聞けない筈だよ)

 

 きっと己は、それを無意識に自覚していたのだろう。

 ならば、彼女に対して出来る事はなんだろうか。

 悪酔いした頭脳は、飲み会での会話を思い出して。

 

「今までゴメン、別れよう貴咲。……君を解放するよ」

 

 帰宅するなり、第一声がこれである。

 目を丸くして驚く妻に、雷蔵は続けて。

 

「離婚しよう、うん、君が望むなら新しい戸籍を用意するし、今の戸籍が気に入ってるなら役所に行って離婚届を貰ってくるよ」

 

「え? は? ちょ、ちょっと旦那様っ!? いきなり何なのよっ!?」

 

「僕は君を幸せに出来ない、――愛している男が他にいるんだろう? 僕がそいつを嫉妬で殺す前に、そいつと僕の知らない所で幸せになってくれ!!」

 

 そう言うと、おいおい鳴き始めた雷蔵に貴咲としては困惑しかない。

 本当に何なのだろうか、二人の関係はこれからであるのに。

 肝心の雷蔵がこの様であり、ならば貴咲の気持ちはどこへ行くのだ。

 

「お、落ち着きましょう雷蔵? こんなに酒精の臭いをさせて……ね、呑みすぎたのね、水でも飲んで落ち着きましょう?」

 

「僕は酔ってないし正気だよ!! ――昨日さ、見ちゃったんだ。君が指輪を見て愛おしそうにしてたのを!! 嗚呼、嘘は言わないでくれッ、覚悟はしてる……僕をさ、好きじゃないんだろう? 愛情なんて欠片もないんだろう? ははッ、当たり前だよね、僕は君に愛されるようなコトとは真逆の行為しかしてないもの――――」

 

(物凄く酔ってるし、誤解されてるうううううううううううううううううっ??)

 

 事態を把握した貴咲は、その美しい顔をさっと青ざめた。

 確かに昨日寝る前から、問いたげな視線を送られていた。

 けれど何も言ってこないし、指輪の事で浮かれていて聞き出すことをしなかったのだ。

 

「まさか、こんな事になっているなんて……」

 

「うう、ごめん、ごめんよう貴咲ぃ~~。僕はあの家に囚われて絶望してた君を、幸せにしようって想ってたのに、君が僕の他の男を愛してるだなんて考えないようにしてた……嗚呼、こんな僕なんて君を幸せにできないんだ、ごめんよぅ、今まで八つ当たりで辛いことをして、貴咲が僕に何かをした訳じゃないのに――」

 

 抱きつきながら泣きながら謝罪を繰り返す夫に、妻はどうすればいいのだろうか。

 何より、酷く酔っぱらっているのだ。

 この言葉が本心である証拠もなく、けれど。

 

(…………たぶん、これが本当なのね)

 

 貴咲は雷蔵の様子を、本心だと確信した。

 悪い酔い方をしていると思う、それ故に偏った思考で言葉を出しているとも思う。

 けれど、それは。

 

(いつも思ってなければ、離婚だとか、幸せにしたいとか、出ないものね)

 

 その事を、嬉しく思ってしまう。

 酔っていないと口に出せないとか、なんてダメな人なのだろうと。

 側にいて欲しいと、想われている事が何より嬉しくて。

 ――――でも。

 

「よしよし、よしよし、……一端、落ち着きましょう旦那様。私達は話し合う必要があると思うの」

 

「言わなくても分かるさッ、あんなに指輪と大切そうに見ててさ!!」

 

「誤解しているのよ、覚えてないと言うべきかもしれないわね」

 

「誤解? 覚えてない? くッ、なんて優しいヒトなんだ貴咲! こんな僕を傷つけまいと……ううッ、それにくらべて僕は――ッ!!」

 

 あ、ダメだこれ、と貴咲は直感を得た。

 彼の思考はネガティブの坩堝にはまっており、口で言って理解して貰えるだろうか。

 本当の本当に誤解であるのに、離婚する必要などないのに。

 

(………………ああもうっ!! どうすればいいってのよ!!)

 

 このままだと、今にも離婚届を取りに行きそうであるし。

 明日の朝、正気に戻っても離婚する決意を固めてそうである。

 その姿は想像するに容易く、貴咲の中でふつふつとした怒りが沸き上がって。

 

「あははっ、ままならないわね人生って」

 

「ごめん、僕が全部悪いんだ!!」

 

「ええ、そうね、そうよね、貴方が全部悪いの」

 

「ううッ、どうして僕は殺すコトしか能がないんだ……ッ」

 

 言葉での説得には夫の酔いを醒まさなければならない、暴力では無理だ貴咲は雷蔵に敵わない。

 自然にアルコールが抜けるのを待つのは悪手、絶対に誤解したままで。

 故に、――彼女は大輪の花のように微笑み。

 

「…………貴咲??」

 

「あら、嫌だわ旦那様? どうして離れるの? もっと側にいて欲しいわ?」

 

「ええっと、その……なんで??」

 

「何で、とは? さ、貴方の顔をもっと近くで見たいのよ、――近くに来なさい」

 

 刹那、雷蔵の酔いはいっきに醒めた。

 もはや職業病と言っても過言ではない、そして同時に大きな困惑に襲われる。

 何故ならば。

 

(うえええええええええええッ!? 僕には分かるッ、殺す気だよこの雰囲気!! よく知ってるよこの殺気!! 今日も散々浴びてきたし!!)

 

(――――殺す、殺す気で挑むわ)

 

(そんなに憎まれて……いや憎むよね普通!! 僕だったら憎んで殺す算段してるだろうし!!)

 

(嗚呼、なんて憎たらしいのでしょうね旦那様?? 私が初めて、そう、貴方に初めて――自分からキスしようとしてるのに)

 

 貴咲は彼を正気にするため、人生産まれて初めて己からキスしようと意気込み。

 その意気込みは今までの鬱憤や過去の慕情、何より大いなる恥ずかしさが混じり合い殺気となって。

 殺気を向けられたなら、雷蔵としては殺し屋家業として正気に戻らずにはいられず。

 

(ど、どうするッ!? 逃げる……何処へ? 僕はこのまま殺されるべきでは? いや、でも、貴咲にさせるの? 何も罪を犯してない貴咲に、僕を殺すという罪を見逃すのか??)

 

(きっとチャンスは一度だけよ、まだ体はアルコールが残って動きが鈍いはず、向こうは不破が生み出した最高傑作、――殺す気でキスしないと、キスさせてくれないわ)

 

(何か反撃、い、いやどんな攻撃か確かめてからでも――??)

 

(ええ、ええ、ええ、この部屋から逃げ出しても世界中追いかけてキスしてやるわよ!! 私のプライドにかけて!!)

 

 貴咲は大きく美しい目をギンギンに見開き、じわじわと近づく。

 包容を強請るように差し出された両の腕は、雷蔵には死神のそれに見えて。

 一歩彼女が踏み出すと、彼はそれに合わせて一歩後退する。

 

「ね、ねぇ貴咲? 僕達は話し合う必要があると思うんだ!」

 

「あら奇遇ね、話し合う為に側にいて欲しいのよ旦那様??」

 

「――――愛してる貴咲、僕の言葉なんて信じちゃ貰えないだろうけど。心の底から愛してる」

 

「では雷蔵、貴方はこの指輪を私に送った時そう思ってくれてましたか?」

 

 え、と彼は思わず足を止め思考がそちらへ割かれてしまう。

 指輪、あの玩具の指輪は雷蔵が送ったらしい。

 本当にそうなのか彼にその記憶などなく、しかして彼女が嘘を言っている様には見えない。

 

(どういうコトだ?? 僕がアレを? 何時何処で? そんな関係じゃなかったし、昔は惚れてるとか思って――)

 

(動きが止まったわっ、今!!)

 

「――ぁ、しまっ――――ッ」

 

 貴咲の腕がふわりと雷蔵の首に回される、隙をつかれた。

 普段なら、素面の時ならあり得ない意表を突かれ。

 思わず目を瞑り硬直、痛みを覚悟し反撃の時を待ち。

 

「……………………あれ?」

 

「ふふっ、――――ちゅっ」

 

「………………………………んん?? んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんッ!?」

 

「正気に戻るにはまだ足りない? なら……ちゅっ、わ、私からキスするのはこれでお終いなんだからね!! もう二度としないんだからっ!!」

 

 キスされた、しかも二回も。

 今まで貴咲から一度もなく、無理矢理キスしては冷たい視線を送られてきた。

 その彼女が、恥ずかしそうにもじもじして。

 

(どうなってんのコレぇッ!?)

 

 事実を認識したとたん、雷蔵の脳味噌はオーバーヒートしてフリーズしたのであった。

 

 

 

 ■□■

 

 

 

 キスとはこんなにも羞恥心を引き起こすものであったか、雷蔵も貴咲も赤面し俯いたまま無言で。

 けれど彼の両手は、しっかりと彼女の両手で包まれている。

 この雰囲気はどういう事なのだろうか、さっきまで愁嘆場だったのに。

 

(き、きききききキスッ!? 今キス、僕キスされたの!? え? 夢? 夢なのこれ!? というか――なんで??)

 

(ううっ、セックスなんて散々してきたのに……なんでキス如きでこんなに恥ずかしいのよ……知らないわ、聞いてないわよこんなのぉ)

 

(これって、そういう事だよね? 聞いていいのかな? で、でも)

 

(向こうが口を開く前に私が先に話すのよ、こっちのペースにするの、……処女じゃないんだからキスひとつで狼狽えないっ!!)

 

 すぅはぁと深呼吸を一度、貴咲はおもむろに語り始める。

 この忘れん坊の夫に、過去を思い出させなくてはならない。

 そう恥ずかしげに睨む妻の姿に、雷蔵は思わず見とれてしまって。

 

「……ねぇ、覚えているかしら。私と貴方が初めて直接話した日のコト」

 

「え、ええっと……、初めて話した日? それって中学の時に君の登下校の護衛担当になった時のことかい?」

 

「ふふっ、やっぱり覚えてない。ええ、ええ、そんな事だろうと思ってましたわ」

 

「その言い方、もしかしてそれより前に話したことがあるの? 覚えてないなぁ……」

 

 首を傾げてうんうん唸る雷蔵、しかして心当たりはない。

 彼女が言うなら真実なのだろうと思うし、そして彼自身としては子供の頃の記憶は余り思い出さないようにしていた。

 きっとその中にあるのだ、とはいえ。

 

「――――ごめん、思い出せないというか思い出したくないって言うか。……小さな頃はは今ほど強くなかったし、その分、辛いことが多かったから恨みだけ忘れないようにしてたんだ」

 

 寂しそうに笑う夫に、貴咲は意地悪に詰ることをせず。

 

(私とのコトも……記憶に残さなかったのね。私にとってはあんなに大切でも、貴方にとっては――)

 

 でも、それを口にはしない。

 貴咲とて、心の拠り所にしていたから大切な想い出として記憶に残っているのだ。

 それが復讐だった雷蔵には、残念だが無理からぬことで。

 

「お互い、子供の頃は辛いこともあったわ。……でも知っていて欲しいの。貴方が復讐を胸に生きてきたように。…………旦那様との想い出が私の心を支えていたってコトを」

 

「うん、教えて欲しい。僕と君の間にあった事をさ」

 

「そうね、なら――――おにぎり握ってあげるから。それを食べながら話しましょうか」

 

「……………………ええッ!? 今日はどうしちゃったの貴咲!? 自分からキスするだけじゃなくて、あんなに拒否してたのに料理まで!?」

 

 どういう風の吹き回しだろうか、雷蔵には妻の心が分からず。

 同時に、とても嬉しい事で。

 初めてなのだ、貴咲の作った何かを食べるのは。

 

「そんな日もあるってコトよ、それに――ううん、後で話すわ。着替えて待ってなさい、それと冷蔵庫の中は知ってるでしょ。中の具はあまり期待しないで」

 

「う、うん分かった……」

 

 どんな品なのだろうか、雷蔵は後ろ髪を引かれつつ律儀に手洗いうがいと着替えに向かい。

 一方で貴咲は口元に笑みを浮かべつつ、自分用のエプロンを手に取る。

 

「女性だからってピンクは安直よね旦那様?」

 

 とはいえ悪い気はしない、彼女は着ながら炊飯器の前に向かい。

 何を作るかは決まっているのだ、彼は忘れてしまっているがかつて作ったそれであり。

 また、酔っぱらいがシメに食べるのにも丁度良い。

 

「海苔はあった筈、なら塩と、梅と、……うん、シーチキンとマヨネーズもあるわね」

 

 そんなに多く作るわけではないが、己も少しは食べるつもりだ。

 日付が変わりそうな時間だが、気持ち多めに作っても大丈夫だろうと。

 貴咲はラップと皿を用意し、ならば後は作るだけである。

 

「――――おにぎりを作ります」

 

 誰に言うでもなく宣言する、不思議と口元に笑みが浮かび。

 誰かの為に、何かを作るのは何時ぶりだろうか。

 

(少し楽しいって、そんな感情残ってたのね私。……いえ、閉じこめてたのを旦那様が解放したのかしら?)

 

 くすりと笑って、先ずはラップにご飯を乗せる。

 昼は余り食べなかった故に、白米は丁度良く残っていて。

 恐らく、二人分合わせて六個は出来るだろう。

 

「梅干しの種は取っておきましょうか、食べるとき手間ですものね」

 

 口から種を出す、というのも風情がある気もするが。

 ともあれ梅の果肉だけを入れたら、次は握ればいい。

 彼女はそのまま、ぎゅ、ぎゅと軽く俵型へと変化させていく。

 

「――そういえば、どうしてコンビニには俵型が置いていないのかしらね?」

 

 形が整ったら、ラップを外して海苔を巻くだけだ。

 不破に居たころ、というかその地域では家庭で作るおにぎりの形は三角ではなく俵型。

 何故、外で買えるおのぎりは三角と丸しかないのか。

 

「ま、食べれればいいのよ。……梅が二個完成、次の二個ツナマヨで――」

 

 ツナマヨを作っている途中、着替えた雷蔵が興味深そうに後ろから覗いて。

 その事に、苦笑がひとつこぼれた。

 彼はきっと覚えていないだろうが、あの時も同じように後ろから覗いていたのだ。

 

「最後は塩ね、…………よし、完成っ!」

 

「やった! 貴咲のおにぎりだ!! いやぁ感激だなぁ、君のおにぎりが食べれるなんて……くぅ、こんなの初めてだよ!!」

 

「やっぱり覚えてないのね、ま、いいわ。――言っておくけど、これで二回目よ旦那様」

 

「え? 何それ僕知らないよ!?」

 

 目を丸くして首を捻る夫を置き去りに、貴咲は出来上がったおにぎりをテーブルへ。

 お供に麦茶をコップに注いだら、席に着き。

 

「「――――いただきます!!」」

 

 ならば、後は食べるだけである。

 雷蔵は待ってましたと言わんばかりに手を伸ばして、迷う。

 右から梅、ツナマヨ、塩であるが。

 どれから食べるのがベストか、これは重要な問題である。

 

(くッ、どれも美味しそうだ!! うーん、コンビニでもおにぎりって買わないというか。仕事中は相変わらず匂いのしない系しか食べないし)

 

 初体験とは言わないが、どれも物珍しい。

 一方でそんな彼の様子に気づいたのか、貴咲は微笑ましく見ながら塩おにぎりを頬張る。

 

「もぐもぐ……、我ながら良い出来ね」

 

 花嫁修業の一環で、和食も洋食も仕込まれている。

 もっとも、積極的に使っていないので腕は確実に錆付いているだろうが。

 おにぎりぐらいなら、普通に美味しく出来ていると。

 

(――――“上”を目指すなら、炊き立てご飯の方がよかったわね。うん、でも)

 

 誰かと、目の前の不器用な夫とならどんな物でも美味しく感じる。

 そんな、確信すらあるのだ。

 貴咲が梅に手を伸ばした時、ツナマヨを食べていた雷蔵は。

 

「うまッ!? え、おにぎりってこんなに美味しかったっけ? え、これを僕が以前食べたことがあったって本当??」

 

 マヨネーズとシーチキンの組み合わせは、最強ではなかろうか。

 特に複雑な工程もなしに、この美味しさ。

 そして何より。

 

「んぐんぐ――――嗚呼、なんか……安心する味だ」

 

「安心する味って、誉められているのかしら?」

 

「うん、誉めてる。今すっごく、……なんて言えばいいかな、感謝っていうか、嬉しいっていうか」

 

 言葉にした瞬間、雷蔵の目頭が熱くなり喉の奥がキュっとなった。

 こんなにも、そう、こんなにも。

 

「君が、貴咲が僕の妻でよかった。ひとつ食べただけなのに、何故だか強く思うんだ。ありがとうって……僕は、ここに帰れる家があったんだって」

 

「…………そう、よかったわね」

 

 穏やかな幸せ、普通の幸せ、そういう物が己にもあったのだと。

 雷蔵は今、真の意味で理解したのかもしれない。

 おのぎりは涙で少し塩気が増して、でもほっとする味で。

 

「そうか……そうだったんだ」

 

「旦那様?」

 

「僕はね、きっと君を救いたかったんだ。復讐とは別に、君を救えば僕も救われるって心の何処かに思いこんでた。――でも、やり方なんて分からなくて、君への想いに気づかなくて、色々間違った」

 

「………………それでも」

 

 貴咲は拳をぎゅっと握った、言っていない事がある。

 恨みがあった、怒りがあった、だから言えなかった。

 今が言うときだと、貴咲は雷蔵をまっすぐ見て。

 

「――――ありがとう雷蔵、私の旦那様、そして……初恋の人」

 

「ぇ……ッ!?」

 

「言うのが遅くなったわ、ありがとう、私を救ってくれて、あの家の呪縛から解放してくれて、――私を道具として扱ったあの家の全てを殺してくれてありがとう、恨みや怒りはまだあるわ、でも……私を初恋のヒトの奥さんにしてくれて……ありがとう」

 

「………………………………え?」

 

 それは思わぬ感謝であった、彼女には彼に対する憎悪しかなくて。

 だってそうだ、雷蔵こそが全てを奪ったのだ。

 その上、彼女が本来辿るであろう運命と似たような仕打ちしかしていない。

 

「なん、で……、え? なんで感謝するの? 僕、君の親兄弟を殺したんだよ? 妹だって、君が嫁ぐ筈の家の男だって、無理矢理犯したし、今でも鎖をつけて逃がさないようにしてさ、どうして――――??」

 

「それでも、私は貴方に感謝しているの。……ねぇ、知っていた? あの指輪、私が初めてあの家から抜け出して夏祭りに行ったとき。貴方が買ってくれたのよ?」

 

「…………僕が、そんな事を?」

 

「ええ、私を連れ戻しにきた貴方は必要な事は何も言わず。……でも、屋台を楽しむお金を出してくれて」

 

 懐かしむように語りかける貴咲の姿に、雷蔵は思わず覚えてると言いたくなった。

 でも、嘘はつけない。

 愛する妻にだけは、嘘はつきたくない。

 

「ごめん……覚えてない」

 

「じゃあ、最後にこの指輪を買ってくれて。……頑張れって言ってくれた事も?」

 

「…………」

 

「そう、……そうよね、貴方にとっては私も憎しみの対象だったのよね。きっとあの頃から」

 

 しゅんとする貴咲に、雷蔵は慌てて。

 言わなければいけない、訳があるのだ覚えていない訳が。

 記憶力には自身がある、きっと己にとってもそれは大切な思い出で。

 

「違うッ! たぶん、あの頃から君をきっと――」

 

「なら、なんで覚えていないの?」

 

「………………あの頃はさ、ある意味一番辛かったんだよ。だから連鎖的に思い出すかもしれないから、思い出さないようにしてたんだ」

 

「辛いこと?」

 

 一番辛いこととは何か、とても気になる奥様は夫をジトっと見つめ。

 言うまで見つめ続けるぞ、そう受け取った雷蔵はしぶしぶ口を開く。

 脳裏に嫌な思い出ばかりが蘇って、食事の時にする話ではないのに。

 

「……………………あの頃はさ、幼さを利用した暗殺しかできないっていうか、そう指示されててさ」

 

「つまり?」

 

「…………………………抱かれてた、んで、その後に殺してた」

 

「もっと具体的に」

 

「……………………………………、幼い男の子が趣味の、それも太ったハゲデブとか、しわくちゃのお婆さんとか、そういうのに笑顔で抱かれて、色々聞き出すように言われてたケースも多かったし、事が終わって向こうが疲れた後に殺すしかなくて」

 

「………………ごめんなさい、本当に嫌な事を思い出させたわね」

 

 貴咲は激しく同情した、道具として使われていたのは彼も一緒だったのだ。

 殺し屋としての腕だけではなく、文字通り体を使って。

 

(不破の一族が殺し尽くされたのも、ええ、本当に自業自得なのね)

 

 思い出さないようにしていた筈だ、それに先ほど言った言葉。

 救えば救われると思った、その意味も理解した。

 ある意味、同じ境遇だったのだ。

 

「私は……幸せ者ね」

 

「貴咲?」

 

「理解のある旦那様で、初恋の人で、私を救ってくれた酷い……本当に酷いヒト。ふふっ、じゃあおにぎりを作ってあげた時も似たような理由で覚えていないのでしょうね」

 

「めんぼくない……」

 

 頭を下げる夫を、妻は抱きしめたい衝動にかられた。

 でも片手におにぎりを握ったままだったし、今なお残る憎悪の火がそれを押しとどめる。

 だから、それでも。

 

「――――本当に酷い旦那様ね? 無理矢理結婚しておいて離婚だなんて。私は何処へ憎しみを向ければいいの? 私は誰に感謝すればいいの? …………側に居て抱きしめて愛を囁いて欲しいのに、その相手と離れろって言うの?」

 

「………………ッ!! ぼ、僕は君の側に居てもいいの!?」

 

「バカね、死んだ方がマシな愚かさだわ。この世に存在する他の誰にその権利があるっていうのよ」

 

「~~~~ッ!! き、貴咲ぃ~~~!!」

 

「もう泣いちゃって……貴方って本当に手が掛かるヒトなんだから。……さ、残りも食べたら寝ましょう」

 

 うん、うん、と泣きながら食べる雷蔵。

 その顔は悲しそうではなく、嬉しさと美味しさと安堵と。

 とても満ち足りた顔をしていて、だから。

 

(意地悪しても……少し、我が儘を言ってもいいわよね?)

 

 なんて幸せそうなのだろうと、嫉妬のような嬉しさのような何かが彼女の中に産まれる。

 

「は~~~ぁ、今日はとても傷ついたわ~~、旦那様は離婚しようって言い出すし。大切な思い出も忘れてるし、ええ、とても傷ついてしまったわ」

 

「ッ!? ご、ごめん!! おにぎりのも必ず思い出すから!!」

 

「そんな事で埋め合わせになると思っているの? ああ、なんて愚鈍なの旦那様? あーあ、今日は寂しくて寝れないかもしれないわ。誰か一緒に、優しく抱きしめて寝てくれるヒトがいないかしら??」

 

「はいッ!! はい!! 立候補します! 是非、是非ともさせてください!!」

 

「愛を?」

 

「囁きます!!」

 

「明日は仕事を休んで、ずっと抱きしめてくれる? それ以上はさせないけど」

 

「喜んで!! 後でヨシダさんにメールしておくよ!!」

 

 仕事と私、どっちが大切なの? という問いに秒で妻を優先して。

 かくして、二人はまた一つ本当の夫婦に近づいた。

 そしてその週の金曜日、仕事終わりの事である。

 

「え? なんですヨシダさん? バーベキュー?」

 

「ああ、ここに居るメンツと社長の別荘でな? まー、休日出勤扱いになって手当が出るし、な? 親善を深めると思ってお前も出てくれないか?」

 

「でも……パートナーも一緒って」

 

「この業界、横の繋がりは大事だからな。妻同士の交流も必要だって事さ。――仲直りしたんだろう? 浮気はまったくの誤解でお前が色々忘れてただけだって」

 

 あの美しい妻を外に出す、それはとても不安で。

 しかし、思うところもある。

 彼女とて友人が必要で、外に出ないと不健康でもあると。

 

「…………分かりました、嫁には伝えておきます」

 

「ああ、嫁さんがもしダメって言ったらそれでも良いからお前さんだけでも出てくれよ」

 

「ええ、分かりました。日曜日のお昼に社長の別荘でバーキューですね」

 

 そんな訳で、週末は貴咲と一緒にバーベキューに行くことになったのであった。

 

 

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