金色羅刹 銀色夜叉   作:言操法師

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里香が滅茶苦茶話す回です。主にこの世界の是非曲直庁のことについて話します。なんか色々面倒くさい政治機関なんだって。これが後々尾を引いてきます。政治って面倒くさいね。そろそろSinGyokuこと讖嶷の出番が近いです。後次回辺りから漸く戦闘描写が増えていきます。導入があまりにも長ったらしいね。これ書いてる時あんまりお脳の調子よくなかったんですわハハハ。


【12】追記 ~忍者の子守記録~

 

【12】追記 ~忍者の子守記録~

 

「陰陽師さん、暇なんだけど!」

「姉妹揃ってまあ」

 姉妹揃ってなのである。

 レミリアの部屋である。

 レミリアも里香にうざ絡みしてくるのだった。咲夜を取られたからだという。それだけではなく珍しいモノに対する好奇心もあるだろう。珍しいモノとは勿論里香のことである。彼岸から派遣されてくる忍者など、女君主レミリア・スカーレットにとっては最上の娯楽なのだ。理解しているから里香は逃げないことを選択した。

 仕事の定例報告の度に里香はレミリアに捕まる。色々弄られる。

 別にそれぐらいなら仕事の範疇なのだが、レミリアはまあ、なんというか、色々オーバーなのだ。幾ら幼女の姿をしているからってデリカシーが感じられないレベルで色々触れてくる。凄い。無敵かこのヒト。

「そうよ、私達は暇なのですわ」

 〈式神フラン〉も言う。里香の腕の中にいる。なんだかんだで居心地がいいらしい。多分狭いところが好きなのだと思われる。

 こっちも持ってきてしまった。放っておくと可哀想だったからである。甘いよなぁ私、と里香は思う。

 レミリアは〈式神フラン〉を突いている。

「随分可愛くなっちゃってフラン」

「あら、いつもは可愛くないとでも言うのかしら? 酷いお姉様」

「捻くれたこと言わないの。困っちゃうわ。そうね、いつもの貴方は知的で凛々しいわ」

「ほほほ言葉を選んだわねお姉様。脳無しなのに」

 来客がいる前で姉を脳無しとか呼ぶなっての。里香は正直不快。

 一応理由がある。一つは〈紅魔館〉の仕組み。これは里香も先程完全に理解してきた。レミリアが館の顔担当でフランドールが頭脳担当という役割分担があるのだ。だからこういう軽口が許される。

 もう一つが衝撃の事実、レミリアの頭部には本当に脳に当たる器官が無いらしい。故に頭部への攻撃は大したダメージにはならないとか。

 じゃあどうやってレミリアは思考しているんだ? という話になる。

 そういう化学的思考がいかんのだ、吸血鬼はとってもファンタジーなのだ、不思議な思考回路があるのだ、という解釈も可能だったがこれも違うらしい。

 結論から言うと人間とは違う形で脳を持っている。

 レミリアは〈無数の蝙蝠の集合体〉である。

 つまりは無数の命、無数の意識の集合体であり、これらが相互作用して〈レミリア・スカーレット〉という自我が生み出されている模様だ。

 十分化学の思考回路が及びそうな存在だが、まあ、現代化学では解明しきれない気もする。〈集合無意識〉と呼ばれる領分だろうか。〈集合無意識〉は〈大母〉や〈老賢者〉という呼称を持つのでレミリアが〈グングニル〉を習得している説明にもなるだろうか。〈ジョジョの奇妙な冒険〉に丁度判り易い類似存在がいる、〈フー・ファイターズ〉。以上里香による魔理沙とレミリアの会話を前提とした考察終了。

 ――レミリアは〈血〉から生み出されている。〈紅魔館〉が世界各地から収集した〈血〉からだ。あらゆる遺伝子の底から、その可愛らしい悪魔は〈顔〉を作り上げられた。

 レミリアは〈永遠に幼き紅い月〉だと呼ばれる。それがとある〈血筋〉における〈アーキタイプ〉であることを指すならば、確かにそれは不変であろう。要はレミリアは〈亡き王女の為のセプテット〉――既に失われた血族のモンタージュ、あり得ざる肖像画なのだ。

 となれば、咲夜はコールドスリープから目覚めた〈幻の血族〉の生き残りで、レミリアはその〈血族〉の情報を纏めた生ける資料、フランドールは解説者兼運用者――即ち付属のAIのようなモノだろうか。〈紅魔館〉は〈幻の少女〉を護りながら世界を旅した一個の宇宙船だったのである。なんとなくSFである。高度に発達した魔術理論はSFと区別が付かない。

 ――などと里香は勝手に考えている。あくまで与太話である。珍説である。真剣には調査していない。そこまで判明させるには時間も資金も足りないだろう。

 もしもそうだったならば。

 少しだけ――うちの〈一族〉と似ているかな、と里香は思った。似ているだけだ。ご近所さんだが所詮は他人だ。だる絡みはいけない。

 でも里香は思う。

 ――愛おしい隣人であると。

 とまあこのように、里香は愛が深い人間である。

 基本的に、他人に対しての好意が大きすぎるらしく、里香をよく知る知人は口々に忠告してくる、優しすぎるのも考えものだぞと。

 宇宙はこんなに辛いのだ――

 隣人に優しくしたっていいじゃないか。

 〈ヒルコ〉の末裔は思う訳である。

 だからまあ、密かに決心している。

 守護らねば――と。

「何をボーッとしているのですか。私の頭蓋の中身がそんなに気になる?」レミリア。

「構えー構えー」〈式神フラン〉。

 愛しているのとウザいのは別。

「ンモー、こっちが五〇〇才とちょっとで」里香はレミリアを指差す。「こっちは四九五才とちょっとなんでしょ」里香は〈式神フラン〉を軽く抱き潰す。「駄々を捏ねるな」

「私を大人扱いしないでくれるッ?」レミリア。

「初めて聞いたよそんな開き直り方」

 里香は呆れる。

 レミリア、こういうヒトである。何かを欲しがるように手を差し出してくる。

「愛を下さい」

「愛ってねぇ」

「可愛がって下さい! 私可愛いでしょ! 愛でて!」

「黙れ危険人物。あんた私から見たら戦争責任者なんだぞ」

「いぢめる?」

「キャラが判らないんだよキャラがァ!」

 風評に聞くスカーレット姉妹はここまで崩壊していない筈なのだが、里香が来たら崩壊してしまった。なんでだ。

「里香お姉さん」レミリア。

「姉様! 姉様!」〈式神フラン〉。

「義妹を増やすなーッ。これ以上ッ、義妹を増やすなーッ」

「他にも妹がいらっしゃるの?」レミリア。

「――魔理沙や霊夢には里香姉さんって呼ばれますね。他にも偶に呼ぶ奴がいる」

「ママー」〈式神フラン〉。

「ママ違う! あんたは腹というか胃が痛くなる娘だが生んだ覚えはねえ!」

「貴方のような人が霊夢や魔理沙を育てたのね」レミリアが微笑む。君主の顔と淑女の顔と幼女の顔が同居している。食えないヒトだ。

「影響は受けたんだと思いますよ」

「ガラの悪さとか」〈式神フラン〉

「あー?」里香は腕の締め付けを強くする。〈式神フラン〉は震えている。

 里香はどちらかというと軍人寄りの人間である。確かにガラは悪かろう。訓練されているが個人としての顔を求められるとどうしても〈暴〉が表に出てしまう。

「世間話だけど大事な話が一つあります」レミリアは応接用のソファーを手で指し示す。里香に座ってくれと言っているのだ。「私は彼岸の世情を知りません。貴方の彼岸での立ち位置の詳細をお聞きしたいのです」

「構いません。緊急事態故に自己紹介が遅れたと思っていたところです」

 里香、レミリア、二人揃ってソファーに座り、向かい合う。

 先に切り出したのはレミリア。

「まず、陰陽師とのことですが」

「公的な免許を持っています。〈シンギョク〉様の門下生なのです。ちなみに〈シンギョク〉は〈この可能性世界では〉漢字でこう書きます」

 里香は名刺を取り出した。〈讖嶷流陰陽道免許保持者〉〈里香〉と書いてある。

「〈讖嶷〉」

「讖は讖緯説の讖、即ち占いの意味。嶷は山の頂き、つまり頂点に立つモノの意味です。我々の流派にはこの〈讖嶷〉の号を名乗ることが許される者が二人いまして、この方々が私達の師匠ということになっている。公的に認められた学問の流派と受け取って貰えればそれで間違いないかと」

「有難う御座います。続いて忍者、〈封魔衆〉頭目としての顔の説明を」

「また名刺があるのですが――」

 里香は〈忍者集団〉〈封魔衆〉〈頭目〉〈里香〉と書かれた名刺を取り出した。レミリアに渡す。

「確かに」拝領したの意。

「端的に言えば我々は彼岸に領地を持つ傭兵集団なのです。つまり、小規模ですが独立国家の一種ですね。誠に小規模でして、全体の数は三百には届きません。外の世界で言うところの企業のようなモノなのです」

「社長さん」里香のこと。

「そういうことになりますかね。我々が実現可能な事業は、戦闘、諜報、造船技術、自動車開発技術、航空技術、戦車開発技術、兵器開発技術、宇宙技術、土木、農業技術、戦闘食及び非常食開発、その他鉄工業各種、などですかね。提案次第では他事業も請け負うことが可能なのです。私個人は卜占や風水、医療、心の諸問題、戦後処理も取り扱っています」

「何でもやってるんですね」

「ハイスペ女子かよ」〈式神フラン〉が茶々を入れる。どこで覚えたのその語彙。漫画?

「出来る限りあらゆる事業を可能にしようとはしていますが、何でもは出来ません」

「またまた」

「我々で解決出来ない問題はまた別の伝手を紹介することが出来ます。特に〈夢時館〉という組織の科学力は目を見張る物があります。参考までに」

「彼岸には我々の上を行くモノがいるということですか」

「如何にも。彼岸は広い世界なのです。今日一日では語り切れない可能性が高い」

「月を目指した時と同じロマンを感じるわね、フラン」

「〈月の都〉は期待外れだったけどね。優秀な人材が少ない」〈式神フラン〉が鼻を鳴らす。

「切りがなくなってしまうと思いますので、質問は後一つでお願いします」

「貴方の上司に当たる〈讖嶷〉さんは〈是非曲直庁〉の役人であると聞いています。〈是非曲直庁〉のことは多少は知っています。閻魔様と縁があるので――そこでですね、貴方から見た〈是非曲直庁〉という組織がどういうモノか、出来る限りお聞かせ貰えませんか」

「漠然とした質問ですねぇ」

「すみません。判らない箇所が判らないので」

「宜しい。謎多き〈是非曲直庁〉のことを私視点で雑語りします」

「お願いします」

「〈是非曲直庁〉は幻想郷から見れば巨大な国家と捉えることが出来るでしょう。この国家は武力で他国に干渉し、〈法律〉の執行を強要します。つまり〈世界政府〉。主張哲学によっては〈是非曲直庁〉の有り様に不満を抱く可能性は高く、現状〈是非曲直庁〉は多数の敵を抱えています」

「厭な奴なのは確かね」

「しかも、主要業務は〈命を刈り取る〉こと、嫌われるのも当然」〈式神フラン〉。

「〈迎えの死神の派遣〉は確かに主要業務の一つなのです。でもフランドール様は勘違いされている。〈是非曲直庁〉は生き物の寿命を管理していますが、〈生き物に寿命を与えているのは是非曲直庁ではない〉。つまり全ての生き物を〈是非曲直庁〉が殺し、あの世に連れて行っている、という訳ではない。〈寿命や死の発生が先、是非曲直庁の成立は後なのです〉」

「ほう? もっと上がいると? 死神の口から明言されたのは初めてだ」〈式神フラン〉。

「そうじゃない。簡単な話なのです。〈生き物は何故か死ぬ〉」

「まさか――ブラックボックス送りにしたのか?」〈式神フラン〉。

「我こそが〈死の理由〉と、その〈座〉を目指した存在は多数存在しますが、〈死の理由〉そのモノを掌握した存在は絶無なのです」里香回答。「〈ゼウス〉が政治闘争の果てにあらゆる神を統べる神になったように、〈死神〉の〈座〉には政治闘争の結果登り詰めることしか出来ない。生まれながらにして〈全ての死の理由〉である存在は、私は存じ上げません。少なくとも〈是非曲直庁〉にはそんなモノはいない」

「所詮閻魔も〈最初の死人〉か。〈死〉が先、〈生〉という認識は後だ」〈式神フラン〉。

「そして、〈渾沌に目口を付けると、渾沌は死んでしまう〉」

「〈死〉は〈無〉、〈無〉は〈無〉のままでは〈顔〉を認識は出来ない。〈故に死の究極的な理由はアニミズム的魔術で擬人化することすら出来ない〉」〈式神フラン〉。

「〈無〉にも邦はあるかもしれませんが、我々の知恵が及ぶ領分ではありません」

「さしもの〈ヒルコ〉でも〈渾沌を航海〉することは出来るが、〈渾沌の中に住む〉ことは出来なかったか。〈カオスの細分化〉、確かに興味がある分野だが、一日で出来るとは到底思えんな。〈死の根源〉――いずれ拝んでみたいものだがね」〈式神フラン〉。すっかり〈破壊の魔法少女〉の顔が表に出てきている。

 里香は咳払いした。頃合いだからだ。

「――とまあレミリア様を置いてきぼりにしましたが、〈是非曲直庁〉は勘違いで嫌われている面もある、という話でした」

「ほえー。まあフランに聞けばいっかー」レミリア思考停止。

「〈是非曲直庁〉の正確な主要業務は、先程の話と〈生前死後の徳の換金〉ですかね」

「〈徳の換金〉」

「要は〈善行を行えば行う程社会的影響力を持てる社会の構築〉なのです」

「ほわい」レミリアが駄目になりつつある。

「レミリア様、〈天国〉と〈地獄〉って、どういう風に存在していると思いますか」

「えー、そういう名前を冠する国が、土地を持って、存在しているのでは――」

「実は違うんです。まあ確かにそれらを騙る空間はありますがね、究極的には〈住めば都〉と申します、〈どれだけ苛烈な空間、極楽な空間を物理的に造っても、それらが狙った作用を生み出すとは限らない〉。なので〈天国〉か〈地獄〉かの判断基準は個人の主義趣向に依存します。で、そこで自由意志が関わってくる」

「すると」

 里香は親指と人差し指を組み合わせて円を作る。

「〈地獄の沙汰も金次第〉。結局のところ、死後もお金なのです。寧ろ〈是非曲直庁〉はお金の価値を高めることでなんとか理想的な〈天国〉と〈地獄〉の概念を構築しようとしている。徳がある者が稼ぎ、徳無き者は貧乏に泣く」

「〈死後の国〉も所詮は〈国〉か」〈式神フラン〉がクツクツ嗤っている。

「素朴な信仰者が泣きそうな場所ね。所詮、〈連中〉がやることなんてそんなものか」

「そうですよ? 古今あらゆる宗教は、〈理解〉するモノを救い、〈感化〉された者を踊らせて絞り尽くすモノだ。全くアコギな商売ですよね。ところで〈是非曲直庁〉には特徴があります。多分フランドール様は辿り着いている」

「――〈万年金が無くて困ってるんだったか〉?」〈式神フラン〉。

「然り。つまり、〈徳が無い者も積極的に受け入れているということ〉なのです。このことからどのような考察が出来ますか? フランドール様にお聞きしたい」

「幾つかある。一つ、無節操だ。勢力を拡大する為に質の低い〈信者〉も迎え入れている。二つ、心優しい。上から下まで貧乏で泣くことが判っているのに国として運営を続けることを選んだという推測が出来る。三つ、ただの馬鹿かもしれない。貧乏に成り行く自分達の未来が見えていないだけで、やはり無節操に勢力を拡大したのかもしれない。こんなところか」

「有難う御座います。〈全て正解です〉。〈是非曲直庁〉には様々な役人がおりまして、様々な思惑で動いています。毎日が大運動会なのです。〈是非曲直庁〉が大きくなるだけで嬉しい者がおります。〈是非曲直庁〉傘下で沢山の人が幸せに暮らして欲しいと願っている者もおります。〈是非曲直庁〉で大儲け出来ると思い込んでる馬鹿もあちこちに詰まってます。そのですね、この例えはあまり使うなと〈讖嶷〉様に言われているんですが、お二人を信用して言いますね、外界に近い運営形態を持つ共同体が御座いまして――」

「何かな」〈式神フラン〉。

「〈コミケット〉」

「――あー」〈式神フラン〉。

「〈同人即売会〉?」レミリア。成る程、紅魔館の図書館には同人誌もあるらしい。

「要はですね、〈是非曲直庁〉という組織は、〈限りなく広い範囲の人々に対応する為に開かれた、無宗教の者からどこかの敬虔な信仰者にも対応出来る、緊急駆け込み先の、東洋所属の死後の国〉なのです」

「〈是非曲直庁〉の他にも〈死後の国〉はある?」レミリア質問。

「当然。〈ヴァルハラ〉とか、〈エリュシオン〉とか」里香回答。

「〈死後の行き先〉を適当に考えている連中を処理するお役所仕事な連中ということかな」〈式神フラン〉。

「大体そんな感じ」里香回答。「そんな塩梅なので〈是非曲直庁〉は〈楽園〉作成技術保持者を常に欲しています。あらゆる人々に対応出来る柔軟な国家を経営する為に人材が必要なのですね。えーここまで長くなりました、〈讖嶷〉様の話をします」

「あー、ここまで布石だったんだ」レミリア。

「ククク、とんでもない質問をしたわね、お姉様」〈式神フラン〉。

「〈讖嶷〉様の経歴なのです。私の上司、〈是非曲直庁〉で〈従四位上〉の官位を持っている方の説明を致します。通称は〈青烏帽子〉。いつも青い烏帽子を被っているからこう呼ばれて親しまれています。人間出身。生まれは西暦九百年代の京都周辺――」

「ん? それで陰陽師なんだろ?」〈式神フラン〉。当然反応するか。

 

「当時名乗っていた名は、〈安倍晴明〉」

 

「――晴明。〈あの方が〉」レミリア、絶句。

「そうだったのか。〈吸血鬼異変の時に彼と戦したが〉――いやあ、道理で強い筈だ。我々が死んでないのが不思議だな? それってトップシークレットか?」〈式神フラン〉。

「〈陰陽師にとって名前は大事なのですが〉、我々クラスになると別に明かしても問題ないので、大丈夫みたいです」里香回答。「じゃあ平安時代の経歴はざっと省略。〈安倍晴明〉の一生を終えた氏は訳あって〈八雲紫〉と同行、幻想郷制作事業に参加します。この事業当時の氏は〈人間の賢者〉なんて呼ばれてたりしました」

「幻想郷と縁深い人材である、と」〈式神フラン〉が捕捉。

「然り。事業終了後、か弱かった幻想郷を護る為にも〈青烏帽子〉――と以降氏を呼称しますね――氏は、〈是非曲直庁〉に幻想郷代表として出向します。色々あって出世し、〈青烏帽子〉氏は〈幻想守〉の官職を得ます。幻想郷を経営する役人の意なのです。当時は田舎の小さな集落を地元として護り、意固地に拝領した馬鹿で不幸な奴と嗤われたらしいですが――その後の評価は余人に任せましょう」

「幻想郷は凄く良いところよ」レミリア。

「宝くじに当たった程度の評価はしていいだろうな」〈式神フラン〉。

「参考までに言うと同僚からは破茶滅茶に嫉妬されている様子」

「フハハハハハハ!」〈式神フラン〉高らかに笑う。

「御上からの〈青烏帽子〉氏当人の評価も高く、あれよあれよと言う間に京の朝廷にいた頃より高い官位、〈従四位上〉を頂いたという訳なのです。幻想郷にとっての〈是非曲直庁〉の存在は〈青烏帽子〉氏抜きには語れないでしょう」

「つまり幻想郷は物凄く地元を大事にしてくれる政治家を輩出したということね」レミリア。

「そういうこと」

「死後、二度目の出世劇を演ったのか。大した爺だ」〈式神フラン〉。

「我らが爺は屈強なのです。で、そんな爺様を中心としてどんな関係図があり、どんな風に私が関わるかと言いますと――〈封魔衆〉はこの〈青烏帽子〉氏が幻想郷事業発足当時から使っていた〈草〉なのです。幻想郷を永く守護する為、大事に大事に育てられました。育てられてたんだけどなぁ、フランドール様如きに情報戦で負けるとは、先代は駄目な人だなぁ」

「〈全員が伊弉冉を信奉している〉という特徴があるのか?」〈式神フラン〉。

「然り。すっごく雑に言うと我々は〈宗教組織〉に分類されます。ちなみに初代頭目は〈青烏帽子〉氏その人。〈伊弉冉は日本の泰山府君だから〉。これ以上の説明はしない。〈青烏帽子〉氏本人に聞いて下さい。で、そんな初代頭目の司令や、他〈是非曲直庁〉各所の要請を受け、我々〈封魔衆〉は動き、様々な雑務を熟しています。そういう関係性なのです」

「つまりこうだ、〈安倍晴明〉はニンジャ」〈式神フラン〉。

「まあ実際――凄かったからね」レミリア。

「二度繰り返すが〈吸血鬼異変当時に我々は氏と交戦している〉。凄まじい剣術と魔術の持ち主だった。成る程、あれが世に言う〈安倍晴明〉の〈剣舞〉だったか――」〈式神フラン〉はうんうんと頷いている。

「そういうこともありましてね、我々はいつも幻想郷の行く先を気に掛けていますし、〈青烏帽子〉氏も幻想郷に気を配っている。昔戦った貴方達のことも、ね」里香。

「フラン纏めてー」知性を投げ捨てるレミリア。そういう姉妹。

「〈是非曲直庁〉は幻想郷にとって厄介だが頼りになる隣国。タフな幻想郷愛の強い政治家が潜り込んでいて、常に幻想郷を支援しているみたい。死後の行き先の候補にしていいんじゃない?」〈式神フラン〉が翻訳。

「有難うフラン!」レミリアが笑顔になる。姉妹愛。

「言っておくけど、外の世界の世情と雑に対応させて何らかの見立てをするのは駄目ですからね。お爺様は凡百の政治家とは格が違うからな。外の世界のこの政治家に似てるかもとか雑に言い出すとシバくぞ」里香は強火意見を言っておく。

「だってさ」〈式神フラン〉。

「へー」レミリア。

 ちなみに、読者の皆さんにはこの時の時系列は〈花映塚以降風神録前〉であるとお伝えしなければならないだろうか。風刺だとかそういう意図は一切ないので詮索しないこと。

「まあ、なんです、なので――咲夜さんには幸せになって欲しいなぁと、個人的には思っています」

 里香は正直なところを告白した。

「愛がデカい」〈式神フラン〉。

「複雑な乙女心?」レミリア。

 まあ上手く言語化は出来ないよなーと思っている里香。

 〈紅魔館〉は――はっきり言って平和を乱しかねない監視対象だ。

 でも、大事な保護対象でもある。

 そういうこと以前に、彼女達のような者も笑顔でいて欲しい。

 皆、幸せでいて欲しい。

 今回敵になる者も――報われて欲しかった。

 だが忍者にも限界はある。

 出来ることを、出来る限り成すのだ。

 それが忍者である。

 今からでも遅くないから〈青烏帽子〉に頭を下げに行くべきかもしれない。そうすれば、全てを救える妙策や、人員が手に入るかもしれない――

 だが、その思考は里香の甘さだ。

 〈青烏帽子〉は別の案件で頑張っている。〈是非曲直庁〉は常にいっぱいいっぱいだ。今派遣され得る人材は里香だけで、里香の限界がこの作戦本部の限界となる。

 〈ブロンド〉が彼女なりに和睦交渉の為に走り回っているだろう。だがあのヒステリックな狂笑からすると――この戦争は交渉の段階では終わりそうにない。

 敵対した勢力は殺さねばならない。手を緩めれば〈紅魔館〉が死ぬ。間に合わないのだ。衝突を穏便に解決するには、時間も、物資も、人材も、足りない。

 説得は間に合わない。里香の頭脳はそう結論している。

 そういうことを含めての、告白だ。

 数日以内に、誰かが破滅し、誰かが壮絶に生き延びる。

 最後までの盤面の動きは既に予想が付いている。戦争を続けたい者達が一掃され、災いの元である〈レッドマジック〉は〈禁忌の技術〉としては封印される。〈ブロンド〉が〈レッドマジック〉を盗んで会得するかまでは判らないが、〈奴〉ならやり遂げるだろう。

 あいつらは確かに悪人だ。どうしようもないゲス共だろう。

 ――それでも。

 なんとか犠牲者を減らせないか――

 〈泰山府君は必ず一人を殺す。一人生かすには一人差し出さねばならない〉――

 〈青烏帽子〉の如き絶技があれば、二人生かす奇跡も演じられるかもしれないが――

  ――神よ。

 レミリアと〈式神フラン〉の様子を確認する。雑談している。今度の動揺はバレていない。

 視界の端で何か動いた気がする。

 

 あれは――帯刀した――紅白の――巫女?

 

 ソレは。

 里香の計算に無かった。

 

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