金色羅刹 銀色夜叉   作:言操法師

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私の世界観の中での戦車むすめ里香は陰陽師の一種です。なんでだよ。後で説明します。まだまだ導入の話なんで彼女らが何話してるか判らないと思います。でもなんか〈ブロンドのあの子〉と咲夜さんに因縁っぽいものを感じて下さい。感じろ。


【2】夜叉、【3】悪鬼

 

【2】夜叉

 

 薬師如来は両脇に日光と月光の二菩薩と、さらにこれらを護る十二の武将・十二神将を従えています。

 十二神将とは、薬師如来の世界とそれを信仰する人々を守る大将で、一体に七〇〇〇人の眷属(けんぞく:部下)を率いているといわれます。

 土壇の上で円陣に取り巻いて、お薬師さまを護衛しています。

 激しい怒りを表したほぼ等身大の立像で、我が国、最古最大の十二神将像です。

 また十二の方角を守っていることから、干支(十二支)の守護神としても信仰されています。

 十二神将像の各名称が、国指定と新薬師寺指定と異なっています。

 ――『新薬師寺 公式ホームページ 十二神将のページ』より引用。

 

 夜叉、また薬叉に作る、又閲叉とも書く、能敢、勇健の意、印度の鬼神で、これに天、地、虚空の三種があり、福徳殊勝なるを以て招祭鬼といひ、俗間にこれを祀つて福徳を求める、また捷疾鬼ともいふ、『法華科註』に、『夜叉此云捷疾鬼、居海島空中、天上三処伝々相持不得食人、仏初成道及転法輪伝唱上至梵天即此鬼也』とある。  

 ――『仏教辞林』より引用。

 

【3】悪鬼

 

 鴉がこちらを見ている。

 レミリアとの話し合いの後日、咲夜は紅魔館の庭にいた。陰陽師とやらはまだ来ていない。だから今の咲夜はレミリアに待てと言われている状態だ。

 咲夜はじっと、鴉と睨み合っている。

 全く以て賢い鴉である。人懐っこいというレベルを凌駕している。人間どころか妖怪に対しても恐れを抱く様子をまるで見せず、このように睨めっこの真似事までする。

 咲夜を前にしている時この鴉は食事をやめる。少なくとも目に見える悪行はしない。つまりは咲夜にとっての悪行の基準を理解しているということだ。こうなると人間的なコミュニケーションすら理解するのではという気がしてくる。

 ――不気味だ。

 ここは幻想郷。不思議が生き、不思議が住む、不思議の国である。そんな鴉がいてもいい。理性では咲夜にも判っている。

 だが――気になって仕方がない。

 果たしてこの違和感の正体とは、一体。

 誰かが咲夜の隣に立った。来客だ。一人の少女だった。

「成る程重傷なのです」

 所謂ワイシャツにズボンという、デスクワークの研究者然とした姿である。茶色がかった後ろ髪を二つに分けて三つ編みにしているのが特徴的だ。瞳は黒い。吸い込まれそうな大きな目である。童顔のようにも見えるが、利発そうにも、意思が強そうにも見える、一言で性格を決め付けがたい顔をしている。美人と言うよりは可愛らしい少女といった器量だろう。

 その立ち姿は、一瞬で忘れてしまえる程に印象が薄く思えるし、逆に一生覚えていられるような気にもなる、どこにでもいそうで、ここにしかいない、不思議な存在感を放っていた。

「貴方は?」

「陰陽師の里香なのです。もしくは忍者の里香と」

「ニンジャ――ニンジャッ?」

 咲夜もニンジャは聞いたことがある。日本の兎に角凄い集団だ。偏見である。咲夜は忍者を創作物でしか知らぬ。だからそんな伝説的存在が実物として目の前に現れたので驚いたのだ。

 陰陽師って、忍者と等号なのか?

「やはりイメージ湧かないですか。正確には、陰陽師と呼ばれる集団が使っていた技術体系の一部を、後の時代に引き継いだ格好になったのが忍者でした。私は現代忍者の中でも免許持ちの陰陽師に実力を認められた忍者なので、こういう自己紹介になります、なりました。より正確には忍者集団〈封魔衆〉頭目の里香なのです。今回貴方と、その鴉の一件を担当させて頂きます。宜しくお願いします」

 里香は慇懃に頭を下げた。

「ニンジャの――里香さん。よ、宜しくお願いします」

「この動揺振りでは初手で〈戦車娘〉の里香って名乗っても駄目でしたね。避けてよかった」

「戦車? なんでニンジャが戦車?」

 戦車とはチャリオッツの戦車か? それともタンクの戦車か? 忍者が? 何故?

「今は気にしなくていいです」

 初手のインパクトはばっちりだった。咲夜は混乱している。

 咲夜が混乱している間に里香は鴉の前に立った。

 そしていきなり――

「コノヤローッッッ」

 といきなり怒鳴ったので咲夜は尻餅を突いた。

 里香は大きな目を細めて鴉を睨み付けている。鴉は若干引いている。

「散々あたいらを困らせてくれたと思ったら次はここにいたか。それが運の尽きだぞ、観念するんだな。よりによって紅魔館を潜伏先に選ぶとは、ここできっちり封印してやる。お前は不本意だろうが自ら宿り木を決めてしまったんだ。もう自由気ままな渡り鴉とはいかないぞ。何を企んでいたかは知らないが、あたいが来たからにはお仕舞いだ。ここで決着を付けてやる」

 咲夜は何とか立ち上がる。

「何か企む、とは?」

「咲夜さん、貴方の危惧は正解なのです。この鴉はね、大の付く悪党だ。こいつは盗賊なのです。しかもただの盗賊じゃあない、とある盗賊団の一員、しかも筋金入りの殺人狂――」

 鴉が鳴いた。

 その開いたままの嘴の中から――

 ヒトの、腕が。

 

「そりゃあまた、随分急いだ呼び出しで。急々に律令を執行するにも程がある。お前達の流派らしくもない」

 

 腕だけではなかった。鴉の中から、ずるりと、一人の少女の全身が這い出してきたのだ。少女は庭の草花の上に四つん這いで降り立った。

 黒、そしてその端から白が覗く服装に身を包んだ、シルクハットを目深に被った少女。

 ブロンド髪の――美しい――少女である。

 咲夜は。

 咲夜は彼女を識っている。

 少女は、口角を釣り上げて、嗤った。

「初手で鬼と対峙するとは。退治の支度は本当に出来ているのかね? 段取りは済ませてあるのか? 神様にお祈りした方がいいんじゃないかい?」

 ――鬼。

 鬼か。

 咲夜も改めて本の虫に聞いてある。陰陽師とは鬼を退治することもあった人々であると。

 里香が咲夜を庇うように少女と咲夜の間に立つ。

「そういうあんたこそ、鬼が朗らかな昼の陽気の中に降り立つとは。迫力が出るように演技しているようだが台無しなのです」

 確かに――

 ブロンド髪を日光で輝かせ、草花の上を這う少女の姿は、悍ましいというより微笑ましさが勝っている気がした。

 そんなことよりも。

 彼女は美しい。

 まず顔立ちが驚く程に綺麗だ。無駄がない。体付きにも無駄がない。少女を少女たらしめるに十分なカタチを備えていて、余分な物は一切無い。まるで――人形。ヒトガタの美しさを讃えるには少々月並みな表現かもしれないが、彼女のカタチは、どこかの神様が丹精込めて無駄を削ぎ落とし抜いた、磨き抜かれた美を感じさせるのだ。

 そんな美が、日光に照らされて、煌びやかに輝いている。

 いや、きっと月光も似合うだろう。

 少女はゆっくりと疑問のカタチに顔を歪めた。

「そうかね?」

「そうなのです」

「そりゃあ――しくじったかもしれないな」

 少女は苦笑いした。

 里香も苦笑いしている。

 

 少女が里香に飛び掛かった!

 

 ――鬼!

「けええええええッ」

「シャアッ」

 怪鳥音を響かせながら振り上げた腕を振り降ろさんとする少女に向け、里香は動揺する素振りも見せず、冷徹に回し蹴りを放つ。蹴りは少女の脇腹を見事に捉え、少女を吹き飛ばした。

「あだだだ――モツが出る、モツが。重いんだよ馬鹿あんたの蹴りはァ」少女は転がりながら痛みを訴える。痛覚はそこそこあるらしい。十分に転がった後、少女はのっそりと起き上がった。「全くご挨拶だよねぇ。今のボクはしがない物乞いといったところだ。紅魔館の迷惑にならない程度の自然の恵みを頂戴して、細々と生きているだけだよ。見逃してくれたっていいじゃないか」

 里香は少女との距離を詰め直す。咲夜はそれを呆然と見送る。

「咲夜さんがお前に魅入られてしまった。この問題は喫緊に解決すべきという結論になった」

「あ? 魅入られた? どういうこと? ボカァ別に何もしてないが――」

 少女は所謂ボクっ子らしい。口調も荒い。男勝りというよりは、かなり育ちが悪い様子である。

 盗賊団の一員と言っていたか。ならば育ちも悪かろう。腕っ節で生き延びてきたような人種とみた。

 盗賊団――

 どこかで――聞いたような――

 夢の――中で――

 いい。

 凄く、いい。

 

 好きだ。彼女のことが。

 

 ――里香が咲夜の顔を見ている。

 少女が怪訝な顔をして咲夜の顔を見ている。

「見てみろ」

 里香が顎をしゃくっている。

「ああ?」

「こういうことだ」

「へえ?」

 少女はまるで事態が判っていないようであった。

 嗚呼。

 これは確かに、重傷だ。

 いつからなのだろう。咲夜が、この少女に心惹かれていたのは。

 全く不可解な話だが、咲夜にはこう思えるのである。きっとこの恋慕の情は、咲夜が〈十六夜咲夜〉になる前から始まっているのだと。

 判らない。

 咲夜はきっと、何か忘れている。

 何か――大事な記憶を。

 里香が少女と今の咲夜には理解不能な会話を始める。

「お前、租界にいた頃一度紅魔館に盗みに入っただろう。例の〈正直村〉の座長と一緒に」

 租界――例の、〈世界大戦〉があった頃に外界の、中国に存在したと言われる人間の生活区画の通称か。

 紅魔館は、外界から幻想郷にやってきたのだ。そう聞かされている。

 咲夜は――咲夜は齢二十に満たない人間である――その頃生きている筈がない。

 生きている筈が――

 咲夜は。

 一体いつ、紅魔館に仕えたのだったか。

 ――〈正直村〉?

 どこかで聞いたような――

「確かに入った」

「お前はその件の続きか?」

「そうだよ。情報戦では相変わらず強いな、君は」

「あたいもその件だ」

「どういうことだ?」

「〈紅魔館の中央には、いつも吸血鬼に護られた美しい少女の屍蝋があった〉。その〈屍蝋〉の存在こそが〈紅魔館〉が〈紅魔館〉たる条件であるとも言える」

 ――それは。

 少女は愉快そうにニヤリと笑った。

「よく調べたねぇ。外界での紅魔館の足跡なんて、今じゃまるで残ってないだろうに、それを幻想郷にいながら探り当てるとは! 一体どんな手を使ったのやら。ボクも欲しいねその伝手が」

「情報網は忍者の秘密なのです。そうだな――判れよ魔性の女、もしその〈屍蝋の少女〉がお前の自由な生き様を見たら、どうなると思う?」

 少女は怪訝な顔をしながら頬を撫でた。

 ――彼女は、美しい。

 少女は咲夜を睨み付けた。

 その。

 その〈屍蝋〉は――

「まさか、憧れた? ボク達〈正直村〉の生き方に?」

「よく判ったな。素晴らしい」

 少女は、まず最初に顔から表情を消して。

 なんだか呆れたような顔で咲夜を見つめてから。

「――そんな難儀な。とんだ馬鹿娘もいたもんだ」

 と溜め息と悪態を吐いた。

「そっちは何が狙いだ? あたいが段取りを考えてやる。戦争は交渉事だろう? 意思疎通が全く取れない状況で強盗に走るというのは、お前も本意ではあるまい」

「〈レッドマジック〉」

 確かレミリアが使っている〈スペルカード〉の中に同じ名前の物があった筈だ。

「紅魔館が〈吸血鬼異変〉で幻想郷を追い詰めた禁忌の術の一つだな」

「ああ、正確には〈血〉に触れた者を〈眷属〉、つまりは兵隊に作り変える、〈紅魔館〉の吸血鬼性の根本たる技術さ。もう紅魔館にとっての戦争は終わったんだ、お役御免になった物騒な技術ぐらい、最前線に引き渡してくれたっていいだろう。ま、強引に盗み出すつもりだったんだけどな」

「彼岸の戦場で使う気か」

「いいだろォ? 地形を吹き飛ばしちまうクソ兵器なんかよりもよっぽど環境に優しい! 何より優秀な人員が増えるんだから、復興事業や医療、その他の諸々にも応用が効く! クールな事業なのさこれは」

「駄目なのです」

「何故?」

「お前ばっかり得するから駄目だ」

「ハハッ、そうかよ!」

「何より咲夜さんが可愛そうだ。その技術、どこから盗む気だった?」

「ああ、まあ、そういうことになるんだなァ。そうだよ、ボクは〈レッドマジック〉の術式の核は咲夜の中にあると睨んでいるからね、遅かれ早かれ襲いかかって〈解剖〉するつもりだった」中々物騒な話だ。しかし妖怪は人間を喰うし、バラバラにしがちなモノ、咲夜はあまりその放言に嫌悪感を持たなかった。「で、今回の〈戦車娘〉様は、そこな小娘の付き添いの為に雇われた、ということで――」

「つまり交渉は決裂なのです。まず一手目、お前の我が儘は通らない。如何に腕力に優れた鬼であろうとも、暴力だけで全ての願いを叶えられるとは思わないことだ。暴力には暴力がぶつけられる可能性があるということ」

「所詮はアコギな盗賊家業、その程度は覚悟していたが、まさかあんたが来るたァねぇ〈戦車娘〉。ボクは〈シンギョク〉の爺様に余程高く買われているようだ」

 睨み合う二人。

 この二人は旧知の仲らしい。

 剣呑――な空気だ。

「紅魔館から手を引くならこれ以上殴らない。別の手を考えてやる。お前が武力を増強したい気持ちもよく判る。なんなら一人の武器商人として相談に乗ろう」

「嫌だね。〈レッドマジック〉は租界にいた頃から狙っていた術式だ。大物中の大物。最高級のマジックアイテム! アレがあれば――アレがあれば〈ボク達正直村は失われずに済んだだろうに〉!」

 〈正直村〉は――〈正直村〉とは――なんだ。

 咲夜は酷く、ソレに焦がれていた気がする。

 なんだか猛烈に悲しくなった。

「お前――」

 里香は憐れむような顔をした。

「察しが良いのも困りもんだな忍者様よ! 後、無駄に優しいと色々苦労すると思います。あんたの悪いとこだぞ。ごほん」なんだか少し少女の調子がおかしかった。「――憐れむな、これが妖怪としてのボクの有り様なんだ。ただの感傷なのは判っているがな、感傷だからこそだよ。あの時〈レッドマジック〉を手に入れられなかったから、ボクは〈正直村〉の崩壊を防げなかった。だからこそ今度は、〈レッドマジック〉を手に入れることで新生〈正直村〉を拡大し、でっかいビジネスをやるのさ。ボクの中の弱い部分が泣いているだけなのは判っている。だからこそ、そのトラウマに真正面から向き合ってやろうと言っているのさ」

「よく吠えた愚か者。つまりそれは、紅魔館と十六夜咲夜の護衛を任されたこの〈戦車娘〉里香への戦線布告と捉えていいな?」

「その通りだ! 戦ってやる! お前なんか怖かねェ!」

「今やるかい?」

「今日は帰る! 命拾いしたな! へっ!」

 少女は、普通に尻尾を巻いて、さくさくと庭の真ん中を横断して徒歩で帰っていった。

 里香はその様子を見送りつつ、額を人差し指でトントンと叩いていた。

「大体状況は把握した。思ったよりは楽な仕事になりそうだ、あたい個人は、ね」

 そのまま里香はふらりと本館の方へ向かっていく。

「あ、あのう」

 咲夜は暫く蚊帳の外だったので、心細かった。

「なんです?」

「お二人はどういうご関係で――」

「時に戦友、時に敵。傭兵仲間。喧嘩の勝敗は私が七割優勢。悪友。趣味は合わなくもない。ヤバい奴だと思っているが人のこと言えない。私の知っているあいつは、彼岸で一人ぼっちの傭兵団を組織しているワンマンアーミーで、数々の戦場を終戦に導いてきたプロとして一定の評価も尊敬もしている。役割で言うと基本的に衛生兵で、免許無しの闇医者だが凄腕。戦闘においても一騎当千の力がありますが、得意兵科が歩兵なので戦車乗りの私とは相性が悪い。元盗賊団〈正直村〉メンバーであり、新生〈正直村〉の頭目。これらのワードから好きにご想像下さい」

 〈正直村〉。

「〈正直村〉、とは」

「これからとっくり勉強して貰う必要があるので覚悟して下さい。どうやらそれが貴方の為なのです」

 果たして――そういうことになった。

 

 

 

 

 

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