金色羅刹 銀色夜叉   作:言操法師

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咲夜さんが狙われてるっぽい回です。レッドマジックは血から怪物を生み出すことが出来る術式という設定にしました。元ネタはヘルシングの血の川です。その力を狙って軍事組織崩れが動いてるのもヘルシングが元ネタですし、三つ巴の構えになりそうなのもヘルシングが元ネタです。安直ですね。


【5】正直者

 

【5】正直者

 

 斯くして鴉は二度降り立つ。

 陽光を浴びながら〈ミス・ブロンド〉は怪訝な顔を隠さず紅魔館の庭の中に立っている。

「急々如律令だよ本当に。何? 君は物乞いに情報を売ってくれと乞うのかい? そりゃあ個人的には知った仲だが、ボカァ紅魔館全体にとっては部外者どころか、敵だぜ? 確かに宣戦布告した筈だが? 距離の詰め方ってもんがあるだろう」

「なのです」

 里香は〈ミス・ブロンド〉に慇懃に頭を下げている。

「――〈レッドマジック〉のことはフランドールに聞いた方が早い」

「やはり開発者はフランドール様ですね。それ以上のことを知らないもので。私もフランドール様には信用されているとは言い難い、碌な情報は得られないと踏んでいます」

「それもそうか。何を危惧している」

「貴方以外。私は貴方と決着を付けたい。雑魚は無用なのです」

「あっそ。ま、そうさな、〈レッドマジック〉を狙ってる奴は多いか。あんたさえいなければボクがさっさと一人勝ちしてたが、時間がかかると何が起こるか判らないかもなー」

「なので、情報交換をば」

 〈ミス・ブロンド〉は舌打ちした。

「――まず、本館の中に入れろ。ここで話す訳にはいかない」

「構いませんよ」里香は咲夜の方を見る。「構いませんね?」

「は、はい」

 里香が重大な決定をあっさりしてしまったことは咲夜にも判った。

「ハッ」〈ミス・ブロンド〉が不快そうに息を吐く。「なんだよ存外あっさり入れるじゃねえか今の紅魔館! ここまで用心したのが馬鹿みてえだ」

 里香が意味ありげに微笑む。

「何事も交渉次第ですよ、盗賊。暴力よりもよっぽど効果的な場面もある」

「うるせえ馬鹿。ネゴシエーター気取りやがって」

 〈ミス・ブロンド〉は再び舌打ちした。

 

 里香の部屋で咲夜と里香と〈ミス・ブロンド〉は向き合っている。

「うめえケーキが食いてえ! お貴族様がむしゃぶるような気取ったやつだ! 甘いもんがねえとくたびれる話なんでね!」

 ふかふかのソファーにどかっと腰掛けた〈ミス・ブロンド〉の要求である。

 咲夜はそのケーキを一瞬の内に運んできてみせた。

 それが〈時間を操る程度の能力〉の効果である。

 咲夜は〈時を止める〉ことが出来る。全てが静止した世界――〈止まった時間〉の中で咲夜だけが自由に動くことが出来る。それが咲夜の〈異能〉。今回は一秒一瞬も経たない内に保存してあったケーキとティーセットを運んできたのだ。ケーキはショートケーキである。

 〈ミス・ブロンド〉のカップに紅茶を注いだ。

「これが歴史の勝者の権利ってやつだよな。うんまいスイーツ、気取った茶!」と言いながら〈ミス・ブロンド〉は咲夜の顔をちらと見た。感情の読み取れない顔だった。「戦争を生き延びた紅魔館に乾杯!」そして〈ミス・ブロンド〉はカップをぐいと傾け紅茶を口に含んだ。

「出来ることなら〈レッドマジック〉の仕組みの全貌から聞きたい」

 咲夜は里香のカップにも紅茶を注いだ。里香はカップを一瞥して、まだ手を付けなかった。

「〈触媒〉は〈血〉だ。フランドールの部屋にある〈棺〉の中に詰まってる。テキストコードが咲夜の中にある。コードを流せば〈血〉が起動する。つまり、咲夜の意識の中に〈鍵〉がある。仕組み自体はシンプルだろう?」

「おいおい、只でくれていい情報か、それは」

「構わねえ。これぐらいは個人的な仲でくれてやる。〈戦車娘〉里香は〈レッドマジック〉を悪用しない――と思ってるんでね。つーか、悪用する気ならもう手遅れだろォ?」

「そうか」

「ボクはあくまでテキストコードを解析して技術を盗みたいだけ。紅魔館に貯蔵されたマジックアイテムを根こそぎ奪いたい訳じゃない。つまり〈棺〉と〈血〉はボクの獲物ではない」

「だそうです咲夜さん」

「ひゃい」

 話が専門的すぎて咲夜にはあまり判らない。

 多分――所謂吸血鬼の寝床である〈棺桶〉と、その中に詰まっている〈血液〉があって、その二つは特別な〈マジックアイテム〉なのだろう。その二つに咲夜の中にあるらしい〈テキストコード〉を合わせると、〈レッドマジック〉が完成し、起動するのだ。

「このシンプルなことが連中には判らねえらしい! あんたもそうか。まあ〈戦車娘〉が判らんなら判らんのかな。そんなことだからよ、紅魔館に押し入り強盗したくて仕方ねえ馬鹿はうようよいる! 〈棺〉も〈血〉も構わず暴力で根こそぎ奪っちまおうとする連中がよ! ぶっちゃけ――そういう奴をボクは大勢殺してきた」

 恐ろしい話だ。押し入り強盗がうようよいる、の部分がである。

 〈レッドマジック〉は吸血鬼の眷属を生む術式だということは聞いた。それが無法者の手に渡ればどうなるか? 無軌道な人災を生むだろう。それはきっと、避けなければいけない事態だ。

 対して〈ミス・ブロンド〉は――

 咲夜は何故か〈ミス・ブロンド〉には〈レッドマジック〉を渡してもいいのではないか? と思っている。この底なしの好意の正体は、まだ判らない。

「現代の幻想郷で――戦争をしたい連中ということか」

「おう。時代遅れのウォーモンガー共だ。人のこと言えねえのは判ってるが、連中は輪をかけて酷い。どいつもこいつも吸血鬼を目指して人体実験してやがった。やるならテメエの体でやってろってんだ」

「お前はお前の体でやってるんだな?」

「勿論だ。これでも中国武術家の端くれよ、鍛えるなら己の体だ。元々ボクは悪魔寄りの血筋だからね、親和性はあったぜ」

 そうか。

 少しだけ判った。〈ミス・ブロンド〉からは悪魔の――吸血鬼の気配が多少するのだ。

 直感だが、〈吸血鬼の血液を輸血している〉? そんな――ニオイがする。芳しい、善いニオイだ。高貴な香り。

 何より彼女は吸血鬼のニオイに呑まれていない。半人半吸血鬼は創作物ではダンピールと呼ばれるのだったか。彼女はそのダンピールに近いだろう。

 彼女は吸血鬼に喰われたのではない、吸血鬼を喰ったのだ。

 実に――素晴らしい。

「結構だドクター。それで、横着な研究者はどのくらいいる?」

「そっちの情報は高いぜ。調べるの無駄に苦労したんだァー」

「言い値で構わん」

「どうせ戦るんだろ? ボクも戦る羽目になるんだ、戦争が出来るぐらいのお金が欲しいナ」

「一月分の食料、銃器、弾薬。気持ち金品といったところか」

「ボク戦車も欲しい! 例の君の自慢の傑作!」

「その戦車は駄目だ。言い値ってのは嘘ということに」

「ちぇっ、やっぱり国家機密か」

「代わりに共同戦線は要らないか」

「嫌だね。はっきり言っておくがボクは隙を見つけ次第そこの、銀髪のお嬢ちゃんを盗むつもり満々だ。停戦交渉は受け付けません。雑魚の相手が終わるまでは手を出さないぐらいの配慮はするよ、本当だよ」

 咲夜は――やはり狙われているのか!

 ちょっとドキッとした。

「そういう時コーエーのゲームなら突然攻めてくるよな」

「友好度高めておいたのに突然他国に宣戦布告されるんだよな!」

「信長の野望だと武田とか上杉とかが容赦なくてな」

「一番来て欲しくないところで宣戦布告されんだよ」

「ははは!」

「ハハハハハハ!」

 ――剣呑な空気。二人共目が笑っていない。

 戦争の、段取りを――しているらしい。

 多分、これは本当に多分、戦争素人の咲夜の見解なのだが――里香は情報を買うことで〈ミス・ブロンド〉の好感度を少し上げて紅魔館が真っ先に攻められる可能性を減らし、加えて他に戦うべき相手がいることを提示し〈ミス・ブロンド〉の気を逸らそうとしている。〈ミス・ブロンド〉は〈ミス・ブロンド〉で、咲夜を奪い取る意思、つまり紅魔館に攻め込む意思自体は固いのでそこんところ宜しく、と宣言している状態、のようだ。

 それはそれとして、咲夜を狙う勢力はやはり他にもいたらしい。 

「では情報を聞こう」

「〈吸血鬼異変〉に参戦した中でまだ領土拡大の欲を持っている勢力は二つ、〈天狗〉と〈吸血鬼軍残党〉。〈天狗〉は気にしなくていい、連中は賢く、臆病で、善い子だ。〈レッドマジック〉の研究はしているだろうが必要以上の真似はするまい、少なくともボクが出向けば素直に引く。後者が問題だ。吸血鬼の力に魅せられた馬鹿共がいた、君も知ってるね?」

「〈吸血鬼異変〉の際に紅魔館軍に参戦して散々暴れまわった暴徒共だな」

「時代が経って、その、暴徒部分だけが残った。好意的に解釈しても邪教、所謂悪魔崇拝者の類だな」

「困ったもんだな」

「全くだよ! 連中を狩っても金にならねェー。その癖無限湧きだから困る。連中は〈レッドマジック〉の仕組みの一部を盗んでいる。だから〈グール〉ぐらいは作れる。〈グール〉ぐらいしか作れねえ。喧嘩してもいいことなし!」

「他は」

「新興勢力が一つ。通称〈妖怪嫌い〉。ほら、判るだろう? 人里の――」

 人里には妖怪を毛嫌いしている人間達の秘密結社があるという噂がある。

「ハッ。人里の人間が何故吸血鬼の力に手を染める」

「あいつらの利権関係複雑だぜェ? 裏に旧勢力の残党がうようよしてやがる。連中戦争の味が忘れられねえのさ。〈妖怪嫌い〉が魑魅魍魎に操られてんのよォ! 笑えるゥー。で、美味い話で人間を釣って、洗脳して、妖怪を沢山殺した英雄に仕立て上げようとしてるって訳。連中にとっちゃ〈レッドマジック〉は誰でも兵士になれる君だ、無限に快楽に浸れる麻薬だよ、欲しくて欲しくて堪んないんだろうねェー」

「そいつらは八雲紫に対立しているあの連中ということでいいな?」

「ああ」

「成る程、手札が増えた。情報感謝する」

「里香ちゃま、実は幻想郷内地の事情には疎いでちゅか」

「ええ、特に最近忙しかったので。実は私の自慢の情報網の一つは、貴方だ」

 里香はニコッと微笑む。可愛いが割りと怖い笑みである。

「ケーッほざきやがるよ。ま、あんたじゃないと紫との伝手は使えないだろうから教えといたぜ。他の勢力はいるとしても小粒、この二つに吸われて鉄砲玉にされるのが精々。死角から飛んでくる可能性があるとすれば、〈天狗〉が適当に拵えた鉄砲玉が一番怖えのかもな」

「その程度なら防備を整えるのは容易い」

「どういう配置になるか教えて貰えたりしますゥ?」

「貴方は紅魔館とは敵対するのでしょう? 教えません」

「冗談でぇぇぇっす。こうなりゃボクも君とガチでぶつかり合うのを楽しみにするさァ。あんたみたいな強敵との戦は学ぶところがあるからいい。最終的には儲けだ」

「一応聞いておく、〈吸血鬼軍残党〉と〈妖怪嫌い〉、この二つと紅魔館の和睦が成る可能性はあると思うか?」

「ある訳ねえだろ。あいつらファッキンウォーモンガーだぜ? 敵には全員死んで貰わなきゃ気がすまない、我が儘な独裁者共さ」

「成る程。では全員殺す」

「こわー」

「貴方も死にたくなければさっさと私との停戦交渉に乗ることだ」

「は? 正直村の〈最も美しいボク〉は里香ちゃまなんかに負けないが?」

 その二つ名も――

 どこかで――聞いたような――

「意固地だな。約束の品はどこに届ければいい」

「〈無縁塚〉に置いといてくれ。鴉の群れが目印だ」

「了解した」

 かくして話し合いは終わり、この後再び〈ミス・ブロンド〉は己の足で颯爽と紅魔館から退出していった。咲夜はそれを見送る。

「ケーキ美味かったぜ、ブルジョワジー。平和に感謝!」

 それが彼女の去り際の言葉である。

 口調は荒いが、礼儀正しい敵対者もいたものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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