Pokémon LEGENDS 三聖獣異聞録 神都秘邃百獣夜行   作:野傘

1 / 13
某所で投稿した三犬のリージョンフォーム妄想が抑えきれなかった。
オリジナルリージョンフォームが物語の主軸となるので、苦手な方はブラウザバック推奨。






純白の■皇

 空を赤く染めた異変より数ヶ月。ギンガ団所属のとある少女の活躍によって古代シンオウ人の末裔と荒ぶる反物質の神が引き起こした一連の事件が解決され、夜明けが齎されたヒスイの地。

 そんな夜明けを迎えたヒスイ地方にて時空の迷い人の少女・ショウはアルセウスより与えられた使命――『すべてのポケモンと出会う』ことを果たすべく、ギンガ団調査隊の一員としてポケモン調査に勤しむ日々を送っていた。

 

 ある日のこと。ショウが次なる調査に備え、宿舎にて荷物整理を行っていた時。

 

「おーい! ショウ、いるかー!」

 

 ガンガンと扉を叩く音と共に、外より彼女を呼ぶ声が届く。

 室内に響くどことなく焦った様子の掛け声。聞き覚えのある声に、外に居るのが誰なのかを悟ったショウは急いで扉を開けた。

 

「――テル先輩?」

「ショウ! よかった、ここにいたか!」

 

 果たして扉の前に立っていたのはショウの予想通りの人物。ギンガ団調査隊制服に身を包む少年――テルであった。

 

「そんなに慌てた様子でどうしたんです?」

「どうしたもこうしたも、ボスから早急にお前を呼んでこいって言われてさ」

「団長が……? 一体、何の用事でしょうか?」

「俺にも分からん。でも、かなり急いでいるみたいだった。――とにかく、さっさと団長室まで行け! あんまり遅いと怒られるぞ!」

「あ、はい!」

 

 デンボク(団長)から急の呼び出しに一体何の用事かと困惑するショウ。とはいえ、ギンガ団の一員である以上、団長直々の呼び出しとなれば従わざるを得ない。さっさと行かないと怒られるぞというテルの言葉にショウは準備を途中で切り上げ、大急ぎでギンガ団本部へと向かう。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 ギンガ団本部は隊舎のすぐ横、赤煉瓦作りの地上三階、地下一階に及ぶ巨大な建物である。そんな建物の最上階に団長室はあった。

 

「――デンボク団長。調査部隊所属のショウです、お呼びと聞いて参上しました」

「うむう。来たか――入れ」

 

 赤絨毯の敷かれた階段を上り団長室へとたどり着いたショウ。彼女が到着した旨を伝えると、中のデンボクより"入れ"と声が掛かる。その言葉に従い団長室へと入ると、中には部屋の主であるデンボクの他に複数人の男女の姿があった。

 調査隊隊長シマボシ、警備隊隊長ペリーラ、建築隊隊長サザンカ、製造隊隊長タオファ、医療隊隊長キネ、畑作隊隊長ナバナ、そして――

 

「ショウさん……」

「――カイさん!?」

 

 シンジュ団の長・カイ。空間を司るシンオウ様――パルキアを信仰するシンジュ団の代表であり、かつての赤い空の異変でショウと共に解決に尽力した少女がそこに居た。

 だが、そんな顔なじみ筈の少女の姿を目の当たりにして、ショウは思わず驚愕の声を漏らす。

 

「どうしたんですか!? その怪我!?」

 

 手足に包帯を巻かれた痛々しい姿。よく見れば体中が擦り傷や青あざまみれで、服装も薄汚れている。寝不足からか顔色も悪く、目の下には濃い()()が出来ていた。

 顔見知りの少女の一種異様とも言える姿に動揺するショウ。

 

「うむう、ショウよ。それは「――デンボクさん」……カイ」

 

 そんなショウへ、カイに代わって状況を説明しようとデンボクが口を開く。だが、当のカイ自身がそれを制し――

 

「気遣いいただき感謝する――でも、自分で話すよ。それがシンジュ団の長としての、私の役目だ」

 

 疲労が色濃く出た顔で、しかし毅然とした声色でそう告げるカイ。自身を慮った彼からの気遣いに感謝の意を示しつつも、しかしそれを説明するのは長としての自分の役目である、と。そんな彼女の態度を見たデンボクは、長としての彼女の覚悟を感じ取ったか、ならばと開いた口を閉じて引き下がる。

 

 両者の会話から漂う尋常ならざる気配にどうにも嫌な予感を覚えつつ、あらためてこちらへと向き直ったカイへ視線を合わせるショウ。ショウの意識が自身に向いたことを確認した後、カイは徐に口を開く。

 

「ショウさん、落ち着いて聞いて欲しい」

 

 果たしてカイの口から飛び出したのは――

 

「……シンジュ集落が壊滅した

「――え」

 

 あまりにも衝撃的な事実だった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「突然、ポケモンたちが大挙してシンジュ集落に押し寄せたんだ」

 

 淡々と抑揚のない口調でシンジュ集落に起きた出来事を語るカイ。

 

「いきなりのことで対応が遅れて……団のみんなを避難させるだけで精一杯だった」

 

 しかし、血が滲むほどに握りしめられた手を見ればその心中は容易に察せられる。

 

「幸い、死者は一人も出なかった……でも、怪我人は数えきれないくらい大勢出た」

 

 幸運にも団員から死者は一人も出なかった――だが、それだけだ。

 

「私たちは何もかも失った。今のシンジュ団には医薬品も食糧も――雨風を凌げる建物さえもない」

 

 拠点を失い、着の身着のままで極寒の凍土に放り出されたのだ。いくら寒さに慣れているとはいえ、女子供に怪我人がいつまでも耐えられる訳がない。

 

「だから、恥を忍んでデンボクさんにお頼みしたんだ」

 

 このままでは遠からぬ内に幾人もの犠牲者が出る。シンジュ団の長として、カイにそれを見過ごすことなど出来なかった。

 

「私たちを助けて欲しい、と」

 

 だからこそカイはギンガ団に支援を求めたのだ。

 

 無論、支援を求めることへ葛藤はあっただろう。何せギンガ団から全面的に支援を受けるということは、ギンガ団に自らの生殺与奪を委ねるということ――即ち、シンジュ団がギンガ団に膝を屈することに他ならない。

 古くからヒスイの地に根付き、暮らしてきたシンジュ団にとって、新参者のギンガ団に頭を下げ、助けを請うことなどあり得ないことだろう。一度膝を屈すればもう、シンジュ団はギンガ団に強く出られない――即ち、ギンガ団の傘下に下るようなものだ。だが、そうしなくては団員が大勢死ぬ。そしてシンジュ団の長としてカイは自らの大切な仲間をむざむざ見殺しにすることなど出来なかった。

 

 『シンジュ団』の誇りを守るため大勢の仲間を犠牲とするか、それとも仲間の命を守るため誇りを捨て『ギンガ団』に膝を屈するか。決断を迫られたカイが選んだのは――仲間の命だったという訳だ。

 

 そう言って話を終えたカイに代わり、今度はデンボクが口を開く。

 

「うむう――そして、我らギンガ団はそれを受け入れることとした」

 

 正直に言えばギンガ団とてそれほど余裕がある訳ではない。本拠地であるコトブキムラが出来てまだ2年ばかり。食糧の備蓄はギリギリで人員だって足りていない、そんな状態でシンジュ団を全面的に支援するとなれば、団の負担はとてつもなく重いものとなるだろう。

 

 だがカイのシンジュ団の長として下した、あまりにも重い決断。

 受け継いだものを全て捨てる覚悟で成された、気高き少女の嘆願。

 

 それに応じてやらぬほど、デンボクは人の情を捨て切れてはいなかった。*1

 

 もちろん、支援を行うメリットもある。支援を行えばその分だけシンジュ団へのギンガ団の影響力は増す。それは即ち、ヒスイ地方におけるギンガ団の発言力が増加するということだ。そのまま時間をかければ両団の平和的な形で統合することも不可能ではない。

 それはギンガ団が推し進めるヒスイ開拓事業に多大な効果を齎すだろう。何せ、ヒスイに存在する勢力の三分の二を抑えるのだ。となれば実質上、ギンガ団の決定がヒスイ地方の決定となる。

 それは最終的にギンガ団の名のもと、ヒスイの地を統一する端緒となりえる一歩だ。

 

 故に――

 

「各隊より人員を抽出し、臨時の支援部隊を結成! 総力を挙げてシンジュ集落の復興にあたる!」

 

 デンボクは命令する。ギンガ団各隊の総力を挙げてシンジュ団を支援せよ、と。

 

「「「了解!」」」

 

 団長からの宣言に、口々に了承の意を示す隊長たち。与えられた命令を果たすべく彼らは各々自らの職場へと戻っていく。

 そうして隊長たちが去った後、団長室に残っているのがデンボク、カイ、ショウ、そしてショウの上司たるシマボシのみとなったところで、デンボクが再び口を開く。

 

「――調査隊のみ残ったな? では、あらためて確認しておこう」

 

 そう、先ほどまでの話はあくまでギンガ団全体へと通達する話。他団員へは各隊長から伝えらればよいもので、わざわざ一介の団員であるショウを呼び出す意義もない。故にショウにとってはこれからの話こそが本題ということだ。

 

「此度のシンジュ集落壊滅の一件、どうにも不自然な点がある。そうですな、カイ?」

 

 デンボクが確認するようにそう問うと、カイはコクリと頷くことで肯定の意を示す。

 

「うん。ポケモンたちが集団になって集落を襲う……私たち(シンジュ団)があの地に居を構えて何百年と経つけど、こんなこと初めてだ」

 

 カイ曰く、シンジュ集落にはシンオウ様の加護がついている。だからポケモンたちが襲ってくることなどまずありえない。あったとしても精々、縄張り争いで破れたポケモンが迷い込んだり、集落の温泉目当てのポケモンが数匹単位でやってくる程度のもの。百を超える数のポケモンが集落になだれ込むことなど、シンジュ団成立以来初めてのことであるという。

 

「そうだ。そして、此度の事件にて集落を襲ったポケモンの種類もマンムー、ゴーリキー、ユキノオー、ルカリオ、エレブー、ガブリアス……と見事にバラバラ。『純白の凍土』に生息している、ということを除けば種もタイプもまるで異なっている」

 

 通常、大量発生および大大大発生においても、一か所で確認されるポケモンは一種類ないしその進化形を含む三種類程度。そしてそれらはあくま特定のポイントのみで見られる現象であり、今回のように複数種類のポケモンが大集団を形成して移動する、などということは有り得ない。

 

「事件当日、『純白の凍土』において大量発生および大大大発生が確認されたという情報はありません。つまり、この現象は既存で確認されたものとまるで異なる、全く未知の現象と考えられます」

 

 補足するかのようにシマボシが言えば、デンボクも同意するように"うむう"と頷く。

 

「その通りだ。そして一度起こった以上、同じ現象が再び起きる可能性も十分考えられる!」

 

 そう、今回の現象はシンジュ団も――そして恐らくコンゴウ団もその存在を知らない、ヒスイにおいて全く未知の現象。

 ならば、起こるのがただ一度だけだとどうして言えよう。

 『純白の凍土』でのみ起こるものだとどうして言えよう。

 

 ――次なる標的となるのがコトブキムラでないなどとどうして言えよう。

 

「故に、我らは知る必要がある! 此度の一件が何故起きたのか!? 襲撃の理由は何なのか!? それに備えるべく我らは何をすれば良いのか!?」

 

 だからこそデンボクは、ヒスイを救った英雄(ショウ)を呼んだのだ。

 

「ギンガ団団長として命ずる! 調査隊所属・ココノツボシ団員ショウよ! 此度の襲撃――否、百獣夜行(ひゃくじゅうやこう)を調査し、必ずやその原因を究明するのだ!」

「――はい!」

 

 デンボクにしては珍しい、非常に熱の篭った口調で発せられた命令。それに力強く応答しながら、ショウもまた心中にて決意する。

 

(――あの時、カイさんはわたしを助けてくれた。今度はわたしがカイさんを助ける番だ!)

 

 追放され、行く当てもなかったショウを助けてくれた人々、カイはその一人だ。時空の迷い人であり、頼れる者のいなかったショウにとって、それがどれだけ心強かったことか。

 

 ――それに自らの帰る場所を失う辛さは、ショウ自身が一番分かる。

 

「――ショウさん」

 

 決意を固める彼女にあらためて声を掛けるカイ。

 

「ただでさえ貴方を頼ってばかりで情けないけれど……もう二度とこの悲劇を繰り返さないように、どうかお頼みします」

 

 そう懇願するように彼女はショウへと頭を下げた。

 

「……カイさん」

 

 憔悴仕切った様子で頭を下げるカイのあまりにも痛ましい様にショウは思わず彼女の元へと駆け寄り、その手を取る。

 

「――大丈夫です! 今回の現象、わたしが絶対に解き明かして見せます!」

 

 震える彼女の手を握りしめ、"大丈夫だ"と励ますショウ。"大丈夫"――それはショウの口癖のような言葉。どんなに不安な時だって、この言葉を唱えれば不思議と信じる勇気が湧いてくる、そんな言葉だ。

 

「ショウさん……ありがとう」

 

 どこまでもまっすぐなショウからの励ましの言葉。勿論、カイの――そしてシンジュ団のおかれた現状にこれっぽちも"大丈夫"と言える要素はない。

 

 ――でも、ああ何故だろうか。彼女の言葉を聞いていると、本当に何とかなるかもしれないと思えてくる。

 

 襲撃以来、ずっと強張っていたカイの表情はその時、ほんの少しだけ緩んでいた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 団長室を離れ、シマボシと共に調査隊室へと向かうショウ。調査団員としてあらためて指示を受けるためだ。

 

「任務の子細を説明する」

 

 調査隊室へとたどり着き定位置である執務机座ると、シマボシはすぐさまショウへ此度の任務を言い渡す。

 

「今回の任務はシンジュ集落にて発生したポケモンの襲撃事件――『百獣夜行』の解明だ。キミは支援部隊に同行し、『純白の凍土』にて調査に当たれ。また、危険性も鑑みて此度の調査においてラベン博士の同行はない。報告はコトブキムラ帰還時に行うように」

「はい! ――あ、それと隊長、質問です! さっきから気になっていたのですが『百獣夜行(ひゃくじゅうやこう)』というのは一体なんでしょうか!」

「今回発生した一連の襲撃に対する名称だ。『数多のポケモン、すなわち「百獣」。その大襲来、すなわち「夜行」』……といった由縁からデンボク団長が直々に命名された」

「なるほど……分かりました!」

「よろしい。……今回の現象は今までヒスイで確認されなかった全く未知の現象だ。場合によってはシンジュ団のみならず、ヒスイに住まう者全てにとっての災厄とも成りえる。調査に際してはくれぐれも気を緩めぬように」

「大丈夫です! 調査に当たって"いろは"はしっかり心得ていますから!」

「……そうか、ならば命令する。『百獣夜行』を調査せよ」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エクストラ任務

『百獣夜行』を調査せよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「ひどい……」

 

 目の前に広がる凄惨な光景に、ショウは思わずそう呟いた。

 

 『百獣夜行』調査のため、支援部隊と共に『純白の凍土』シンジュ集落へとたどり着いたショウ。果たして辿り着いた先で彼女が見たものは、無残極まりない集落の残骸であった。

 かつて立ち並んでいた桃真珠色の家屋は、いまや一軒もなく。彼方此方に転がる焼け焦げた木材がかろうじてかつてそこに家があったことを示している。

 人々が行き交っていただろう道は戦闘の余波か、あちこちが穴ぼこだらけ。恐らく畑があったと思われる場所は、踏み荒らされた作物の残骸のようなものがところどころ残るのみ。かつてショウが訪れた時、カイが集落の自慢だと言っていた温泉もそのほとんどが土砂で埋まり、見るも無残な有様であった。

 ほんのつい先日まで人が住んでいたとは思えないほどに荒れ果てたシンジュ集落を目の当たりにして、あらためてショウは『百獣夜行』の恐ろしさを実感する。

 

 カイは「死者が出なかったことが奇跡だ」と言っていたが、なるほど、この景色を見ればそれも頷けよう。そう思わせる程に『百獣夜行』の残した爪痕は大きかった。

 

「ほら、アンタら何をぼさっとしてんのさ!」

 

 と、静まり返った集落へ良く通る声が響く。声の主はサザンカ、ギンガ団建築隊隊長にして今回の対シンジュ団支援部隊を率いる部隊長でもある。彼女はショウと同様にシンジュ集落の有様を前に茫然としていた支援部隊を一喝、ぼうっとしていないで仕事をしろと尻を叩く。

 

「アタシら仕事はこの何も無くなった集落をまた人の住める場所にすることだ! やるべきことは山ほどある、ボケっと突っ立てる暇なんかありゃしないよ! 生活の基本は「衣」、「食」、「住」! 人間それさえ揃ってりゃあ案外何とかなるもんだ! ――建築隊! 手始めに怪我人を収容するための施設を建設! 掘っ立て小屋でも雨風を凌げりゃあそれでいい! 先発した医療隊が怪我人を連れて来られるよう急げ! 製造隊と畑作隊は炊き出しだ! 空きっ腹抱えたシンジュ団の連中にあったけえもん食わせてやんな! 警備隊は周囲の警戒! もっぺんポケモンたちが襲ってこねえようしっかり見張っとけ!」

 

 支援部隊を叱咤し、各部隊へと次々指示を飛ばしていくサザンカ。流石ギンガ団において一隊を率いるだけのことはあり、その指示は的確であった。彼女の一声で止まっていた団員たちも次々と動き出し、各々与えられた仕事に取り掛かり始める。

 

「調査隊の。悪いが、アンタらもしばらくこっちを手伝ってくれ。怪我人連中を受け入れるのが最優先だ」

 

 同時にサザンカは調査隊であるショウに支援部隊を手伝うよう指示を出す。調査隊(ショウ)の仕事は本来『百獣夜行』の調査であり、支援部隊の仕事を担当する訳ではない。だが、如何せん支援部隊は人手不足でニャルマーの手も借りたいのが現状。職務範囲外だからと四の五の言ってられなかった。

 

「分かりました! 何をお手伝いしましょう!」

 

 そんなサザンカからの指示にショウは素直に応じる。彼女は支援部隊に同行するにあたり、シマボシから調()()()()()()()()()()()で支援作業を行うことが認められていた。まあ、そうでなくともショウの性格からすれば、求められれば素直に応じたではあろうが。

 

「おうよ、いい返事だ! んじゃ、アンタは……製造隊と畑作隊のところを手伝ってくれ」

「了解です!」

 

 サザンカからの指示を受け、ショウは腕まくりしながら駆けだした。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「サザンカ隊長! 医療隊が到着しました! 避難していたシンジュ団の方々もご一緒です!」

「来たか! 掘っ建て小屋だが、怪我人を入れる施設は出来てる! 医療隊連中に"建物は自由に使え"と伝えろ!」

 

 数時間後、避難場所へと先行していた別動隊がシンジュ集落へと戻って来た。医療隊はサザンカの指示に従い、簡易収容施設へと怪我人を次々運び込んでいく。

 

「はい! どうぞ!」

「ああ、ありがてえ……」

 

 一方でショウの役割は動ける人間に炊き出しを配ることだ。大量に作ったケムリイモの味噌汁を器に注ぎ、列に並ぶシンジュ団員へ配っていく。いくら寒さに慣れた彼らとはいえ、流石に極寒の凍土での野ざらしは堪えたのだろう。涙すら滲ませて温かい味噌汁を啜っていた。

 

(本当に、大変だったんだな……)

 

 列に並び炊き出しと物資を受け取る彼らの表情は皆暗く、どこか生気がない。服装も着の身着のままで、あちこちに汚れが目立つ。中には壊滅した集落を見つめボンヤリと座り込んでいるものもいた。

 打ちひしがれ、疲れ果てたシンジュ団の団員たち。そんな彼らの様子にショウは心を痛める。

 

(わたしに出来ることは少ないけれど、せめて)

 

 ――出来る限りのことはしてあげたい。

 

 そう思いつつショウは器に味噌汁を注ぎ、笑顔で団員に手渡す。

 

 それが今の彼女に出来ることで――彼女がすべきことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、作った鍋の中身が空となり、用意した物資もあらかた配り終わったころ。後片付けを手伝うショウに声を掛ける者がいた。

 

「ショウさん!」

「カイさん……?」

 

 ショウが声のする方を向けば、見えたのはこちらへ駆け寄るシンジュ団の長の少女(カイ)の姿。

 

「ハア……! ハア……! やっと見つけた……!」

「どうしたんですカイさん? そんなに急いで」

 

 ショウの眼前で立ち止まり、荒い息を吐くカイに一体どうしたのかと問うショウに対しカイは、どうしても急いで伝えたいことがあったのだと言う。

 

「"伝えたいこと"……?」

「うん、『百獣夜行』について新しい情報が得られたんだ」

「――! 本当ですか!?」

 

 その言葉にショウの表情が変わる。今回、彼女が『純白の凍土』を訪れたのは『百獣夜行』調査のため。シンジュ集落の復興作業を手伝ってこそいたが、本来の目的を忘れた訳では無い。特に『百獣夜行』とはヒスイにおいて未知なる現象。調査にあたり、情報はいくらでも欲しい。

 

「それでカイさん、その新しい情報というのは?」

「うん。あの夜、避難の時間を稼ぐために殿を務めてくれた人たちが居たんだけど……その人たちの何人かが、凍土に"白い雷"みたいなものが落ちるのを見たって言ってるんだ」

「"白い、雷"ですか……。それは凍土のどこに落ちたんです?」

「多分、『氷山の戦場』の方だと思う。混乱してたから、ハッキリとは分からないけど……」

 

 曰く、『百獣夜行』襲撃の際、『氷山の戦場』に"白い雷のようなもの"が目撃されたという。さらに、その日は薄曇りで雷が落ちるような天気ではなく、自然に起きたものとは考えにくいとのこと。

 

「『氷山の戦場』……ですか」

「うん。ただ、これが『百獣夜行』とどう関係しているのか分からないけど……。ゴメンね、こんなあやふやなことしか伝えられなくて」

「いえ! むしろ、それを調べるのがわたしの仕事です! カイさん、貴重な情報ありがとうございます。早速『氷山の戦場』まで行って、調べてみます!」

 

 と、申し訳なさそうな表情であやふやな情報しかないことを詫びるカイに、ショウは笑顔で礼を言う。事実、ポケモンたちの暴走くらいしか情報が無かったところに新たな手がかりが得られたのだ。ショウにとってはありがたい限りであった。

 

「そう言ってくれたら嬉しいよ。それじゃあ、私はまだサザンカさんと話し合いあるから、これで。……調査、くれぐれも気を付けてね」

「任せてください! カイさんの方こそ、根を詰め過ぎないように気を付けてくださいね」

「あはは、心配してくれてありがとう。うん、私は大丈夫だよ」

 

 そう言ってショウに軽く手を振り、歩き出すカイ。その足取りには若干の疲労の色が見えつつも、それ以上に力強いものだった。

 

(うん。大丈夫そうだね、カイさん)

 

 集落の壊滅という未曽有の困難を前にして、しかし折れることなく奮起するカイの姿に安堵するショウ。

 

「……よーし! わたしも頑張らなくちゃ!」

 

 同時に自身もまた『百獣夜行』解明のため頑張らなくては、と、ぴしゃりと頬を叩くことで気合いを入れ直す。

 

「すみません! 調査隊所属ショウ、凍土の調査に行ってきます!」

 

 彼女は近くにいた警備隊へ声を掛け、集落の南『純白の凍土』に向けて駆けだす。

 

 

 

 目指す先は『氷山の戦場』だ。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

(おかしい……)

 

 カミナギの笛にてウォーグルを呼び出し、『氷山の戦場』を目指して飛ぶショウ。そこでふと、彼女は眼下に広がる『純白の凍土』の景色に違和感を覚える。

 

()()()()()()()()()()……?)

 

 数多の生命が息づく『純白の凍土』。普段であれば多種多様のポケモンの姿が見られる筈のこの地において、全くといっていいほどポケモンの姿が見られないのだ。

 騒めき止まぬ凍土に満ちる、不気味なまでの沈黙。シンシンと降り積もる雪も相まり、どこまでも寒々しい姿を見せる『純白の凍土』にショウは思わず身震いする。

 

(これも『百獣夜行』の影響なの?)

 

 目にしたことで初めて実感できた、明らかに異常な光景。空が赤く染まった時でさえ普段通り活動していたポケモンたちが、一斉にその姿を消すという異常事態。

 これもまた、シンジュ集落を襲った『百獣夜行』が原因なのだろうか。

 

 赤い空の異変は「神と呼ばれしポケモン(ディアルガ)」によって引き起こされたものだった。ならば今回の『百獣夜行』もまた、何かしらのポケモンによって引き起こされたのだろうか。

 

(でももし、『百獣夜行』を引き起こしたのがポケモンなのだとしたら……)

 

 そのポケモンはどれほどの――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ひゅららーい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ッ!?」

 

 静寂の凍土を引き裂く、遠雷の如き咆哮。

 突如として響いた轟音に、ショウの意識が現実へと引き戻される。

 

 眼下には広々とした『氷山の戦場』の景色。どうやらショウが考え事をしている間にウォーグルは目的地まで到着していたらしい。だが、彼女がそれを認識した刹那、その視界が白一色に染まる。

 

(――な、何がっ!?)

 

 視界を焼く純白の光に、ショウは咄嗟に目を閉じた。次の瞬間、耳をつんざく轟音と共に強烈な衝撃がその体を襲う。

 

(っ、マズい!!)

 

 閃光によって視界を塞がれた現状。だが、轟轟と唸る風音と肌に感じる空気の流れ、そして体を襲う浮遊感から、ショウは自らが宙に投げ出されたことを感じ取る。

 最後に見た時、地上まで結構な距離があった。このまま手を拱いていては良くて大怪我、悪ければそのまま落下死だ。ならばと、ショウは咄嗟に背中のポーチに手を伸ばす。

 

(――あった!)

 

 指先に当たる丸く硬い感触――ポケモンボール*2を探り当てたショウ。探った位置から、収められた中身がお目当てのポケモンであることを確信するや、すぐさまボールの留め具を跳ね上げた。

 

「ジュナイパー! 着地、お願い!」

 

――じゅっぱぁ!

 

 飛び出したのは"やばねポケモン"ジュナイパー。冒険の始まりよりショウと共に在り続けた、彼女の最も信頼する相棒だ。ジュナイパーは主の声に応えるように一声鳴くと、その逞しい足でショウをがっしりと掴む。

 ジュナイパーは地上性が強いものの鳥ポケモンだけあって飛翔能力を持つ。無論ウォーグルのように人間を乗せて縦横無尽に飛び回ることは出来ないが、それでも人ひとりを掴んで安全に着地させる程度ならば問題なく可能だ。彼は枯葉色の翼をはためかせ、ショウを無傷で『氷山の戦場』へと着地させる。

 

「ジュナイパー、ありがとう!」

 

 固い地面を踏みしめ、自らが着地したことを認識したショウ。彼女はジュナイパーに労いの言葉を掛けると、すぐさま立ち上がって周囲を見回す。咄嗟に目を庇ったお蔭か先の閃光の影響も薄れており、彼女の視界は徐々に戻って来ていた。

 

「――ッ!」

 

 そうして戻って来た彼女の視界へ真っ先に飛び込んできたのは――

 

――ぐるぁぐるぁあっ!!

――ひゅらい!!

 

 争い合う二頭のポケモンの姿だった。

 

 一匹はシンオウの加護を受けし(ライドポケモン)猛き大鳥(ウォーグル)。黒白の翼をはためかせ、雄たけびを上げて地上にいる()()を威嚇する。

 そして、そんなウォーグルと対峙する、もう一匹のポケモンは――

 

――ゴルルルルゥゥゥ……!

 

 大地を踏みしめる四足の、どこかウィンディにも似た姿。されど体を覆う長い体毛は雪原を舞う雪のように白く。その下から覗く短い体毛は、まるで氷のような透き通った水色。

 肉食獣を思わせる荒々しい顔立ちに、口腔から伸びる牙はさながら異国の刀剣(サーベル)の如く。背部には一際長く伸びた黒灰色の体毛があり、時折そこから真っ白な稲妻が閃く様は、まるで雷雲を背負っているかのようであった。

 

(白い雷……! カイさんが言っていたのは、このポケモンのこと……!?)

 

 背負った雷雲から稲妻を閃かせる様を見て、ショウはこのポケモンがカイの語った白い雷の発生源であることを悟る。同時に先ほど自分たちを襲った白い閃光の正体も。ならばウォーグルが対峙しているのも当然だろう、なにせ相手は自身に襲い掛かってきた存在なのだから。

 

――ヒュルゴアアアアア!!

 

 白き雷獣が咆哮する。

 大気を引き裂き、凍土に鳴り響く轟音。至近距離で雷が落ちたかのような衝撃に、ショウの肌にビリビリとした感覚が走る。

 同時に、雷獣の背の黒雲より放たれる白雷の勢いがさらに増した。

 

――ぐるぁあう!!

 

 対峙した相手が戦闘体勢に移ったと見たか、ウォーグルもまた不気味な雄たけびを上げ、両翼にエネルギーを収束させる。

 

 【オーラウィング】

 

 機先を制するべく放たれた、サイコパワーの衝撃波。急所へと恐ろしい速度で殺到するそれは、並みのポケモンならばただの一撃で戦闘不能にまで持っていくであろう。

 

――ららいいぃ!!

 

 だが、白き雷獣は並みのポケモンではなかった。

 

 雷獣が全身に力を込める。

 瞬間、あふれ出した猛烈な冷気が獣の周囲の水分を瞬時に凍てつかせ、無数の氷塊を生み出していく。氷塊の大きさは掌大、込められた力は速度に特化。

 

 それは鍛え抜かれ、皆伝にまで至った"わざ"の奥義。ヒスイにおいてその名、称して曰く――

 

 "早業"【こおりのつぶて】

 

 技皆伝・早業

 技生成時に多量のエネルギーを注ぎ込み、その性質を変化させる戦闘技術。野生下においては一部の屈強な個体のみが到達できる一種の奥義とも言えるそれを、白き雷獣は見事に使いこなしてみせた。

 放たれた無数の氷礫(こおりのつぶて)衝撃波の刃(オーラウィング)を迎撃する。衝撃波は氷礫により次々と打ち落とされ、結果、どれ一つとしてまともに当たることなく虚空へと掻き消える。

 放った一撃を完璧に迎撃され、動揺するウォーグル。逆に機先を制される形となった彼の動揺を、雷獣は見逃さなかった。

 溢れる冷気を吸収、口腔へと収束させていく雷獣。集められた冷気は強大な"こおり"の力の塊となりそして――

 

――ヒュラアアオオオオオオ!!

 

 "力業"【ふぶき】

 

 次の瞬間、咆哮とともに解き放たれる。

 

 顕現したのは万物を凍てつかせる極低温のブレス。桁違いのエネルギーが込められ、指向性を与えられたそれは進路上の雪を巻き上げ、巨大な雪嵐となってウォーグルに襲い掛かった。

 

――ぐるぁあっ!?

 

 突如発生した雪嵐から逃れようと必死に翼を羽ばたかせるウォーグル。だが抵抗も空しく、その体は一瞬にして白い嵐に呑み込まれた。

 のべつまくなく吹き荒れる風。身体を端から凍てつかせるほどの極寒。如何な天空の王者とて、弱点タイプの大技を受けて無事に済む筈がなく。果たして雪嵐の晴れたそこには、大地に倒れ伏すウォーグルの姿があった。

 

――ゴロルルル……

 

 力無く倒れるウォーグルへ雷獣がゆっくりと近づいていく。

 

 それは自ら打倒した獲物を喰らうため。

 自然界の掟とはすなわち「弱肉強食」。斃れた弱者は肉と成り、勝った強者の糧となるのが道理だ。そしてこの場において勝者は雷獣。ならば雷獣(きょうしゃ)ウォーグル(じゃくしゃ)を喰らわんとするのは当然のこと。

 

 そう、そんなことは分かっている。だが――

 

「――ジュナイパー! あのポケモンに"素早く"【3ぼんのや】!」

 

――じゅっぱあ!

 

 ウォーグルはライドポケモンとして幾度と無くショウを手助けしてくれた。

 幾ら自然界の掟だと言っても、そんな仲間とも言える存在がむざむざ捕食されるのを黙って見過ごすことなど、ショウには出来なかった。

 

 雷獣の意識が目の前の獲物(ウォーグル)を捕食することに向けられた一瞬。その一瞬でジュナイパーは瞬く間に彼我の距離を詰める。接近する枯葉色の影にようやく雷獣が気が付くも、その時ジュナイパーは既に攻撃態勢に入っていた。

 

 "早業"【3ぼんのや】

 

 繰り出されたのは強烈なかかと落とし。大木を圧し折り、巨岩をもカチ割る剛脚の一撃を土手腹に叩き込まれ、雷獣は思わず体勢を崩してしまう。

 ジュナイパーの攻撃は終わらない。蹴った勢いそのままに素早く身を翻すと、闘気を帯びた三本の矢を番え、雷獣へと撃ち放つ。

 

――ひゅるぐるるらあ!?

 

 雷獣の身体に突き刺さる、かくとうタイプのエネルギーを帯びた矢。次の瞬間、突き刺さった矢が爆発を起こし、雷獣を大きく吹き飛ばした。

 

 悲鳴のような鳴き声を上げ宙を舞う雷獣。だが、彼もまた然る者。中空にてひらりと身を捻り、危なげなく大地へと着地する。

 "早業"化した技は速度に特化されており、通常の技と比べると威力に劣る。故に不意を突いても雷獣を倒しきる(戦闘不能にする)ことは出来なかった。

 

(……でも、ウォーグルからあのポケモンを引き離すことは出来た)

 

 攻撃を仕掛けたジュナイパーへと怒りの咆哮を上げる雷獣を見て、ショウは思う。倒すことこそ出来なかったが、少なくともその意識をウォーグルから自分達に向けさせることは出来た。これでしばらくの間、ウォーグルの安全は確保されたのだ。ならば後は、自分たちがこの雷獣を打倒すればよい。

 

――ひゅららららーい!

 

 白雷を閃かせ雷獣は怒り狂う。

 不遜にも自らを邪魔だてした存在を排さんと、全身に力を込める。

 

「ッ! ジュナイパー構えて! ――来るよ!」

 

――じゅぱっ!

 

 雷獣から放たれるおぞましいまでの威圧感。

 心胆を寒からしめるそれを真正面から浴びて、しかし対峙するジュナイパーに一切の竦みなし。

 

 何者より信頼する主人(ショウ)の声に気炎万丈、雷獣なぞ何するものぞと構えを取る。

 

 睨み合う白き雷獣と紅葉づ梟(ジュナイパー)

 両者の視線が交錯し――そして、

 

 【こおりのつぶて】

 【マジカルリーフ】

 

 『氷山の戦場』にて戦いの火蓋が切られた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 放たれる氷の礫(こおりのつぶて)木の葉の刃(マジカルリーフ)。雷獣が機先を制すべく放った氷塊をジュナイパーの操る葉刃が迎撃する。【こおりのつぶて】は単純な攻撃の他に、数多の礫で相手の動きを制することで戦いの先手を取りやすくする効果もある。だが、その効果も()()()()()()()()()()()()。撃ち出す礫を全て迎撃されているこの状態では、先制など出来る筈もなかった。

 膠着を続ける戦場にやがて変化が訪れる。ジュナイパー目掛けて殺到していた【こおりのつぶて】が刹那の間、途切れたのだ。それは技と技の間隙、次なる技のためのほんの僅かな溜め動作。

 

「! ジュナイパー!」

 

 雷獣に出来たほんの僅かな、しかし確かな隙。それをショウは見逃さず、咄嗟にジュナイパーへと指示を飛ばす。

 

「"素早く"【はどうだん】!」

 

 ショウの指示と共に両翼を打合せジュナイパーは構えを取る。両翼の狭間に収束する青い闘気のエネルギー、瞬間それは輝く波導の弾丸となって雷獣めがけ撃ち出される。

 

――ひゅらら!

 

 対峙した敵より放たれた弾丸。発せられるタイプから、それが己にとって弱点となる一撃と判断した雷獣。瞬時に白雷を脚に纏い、跳躍することで弾丸を躱した。

 だが――

 

――ひゅらい!?

 

 次の瞬間、腹部への強い衝撃と共に雷獣は弱点タイプによる大ダメージを感じ取る。それは雷獣にとってあり得ざる事象。確かに躱した筈の弾丸が己へと突き刺さっていた。

 雷獣には知りえないことであったが、【はどうだん】という技には相手の放つ波導を追尾し、確実に命中させるという効果がある。故に身を躱したとて、その一撃より逃れることは出来なかったのだ。

 

 宙を舞う雷獣の身体が地へと墜ちる。弱点となるかくとうの一撃。"早業"故に威力は劣れど、しかし先の【3ぼんのや】にて守りの力が削られていた雷獣にとり、受けたダメージは無視しえない程であった。

 衝撃と痛みに揺れる雷獣の肉体。それでもどうにか着地せんと身を捻るも――

 

 

 

「ジュナイパー! "力強く"【3ぼんのや】!」

 

 

 

 すでに追撃は放たれていた。

 

――じゅっぱあああ!!

 

 ショウからの指示に合わせ、疾駆する枯葉の梟雄(ジュナイパー)。着地寸前で身動きの取れない雷獣へと力強く、己が必殺の一撃を放つ。

 

 疾駆の勢いを殺さぬまま、跳躍。

 振り下ろされる剛脚の蹴撃、それは正確に雷獣の腹部(きゅうしょ)を穿ち、その身を大地へと叩き落とす。

 続けて放たれたのは、闘気を纏った剛弓三射。叩きつけられた衝撃で無防備な姿を晒す雷獣へと余さず突き刺さり――炸裂した。

 

 "力技"により飛躍的に高められた威力。急所へ余さず叩き込まれた衝撃。弱点タイプによる耐性貫通。幾つもの要因により、【3ぼんのや】のダメージは緒戦において放たれたそれを遥かに超えるダメージを叩きだし、ほんの僅かの間、雷獣の意識を刈り取ることに成功する。

 

「――せいやっ!」

 

 その間隙を逃さずショウはポーチよりハイパーボールを投げ放つ。黄と黒に彩られた球体は放物線を描き、寸分違わず雷獣の体へと吸い込まれる。次の瞬間、バチン! という小気味よい音と共に着弾し、雷獣の体が光りながらボールへと収納された。

 

「――ッ」

 

 そのまま雷獣が収まったボールを固唾を呑んで見つめるショウ。そんな彼女の目の前でボールは一度、大きく飛び跳ねた後、

 

――パン!

 

 小さな花火を上げて捕獲が完了したことを知らせた。

 

「………………ふう」

 

 雷獣の捕獲が完了したことを確認したショウは、ふっと一息、ため息を吐き出し緊張を解く。

 全く未知のポケモンに遭遇し、ライドポケモンであるウォーグルが倒された時はどうなるかと思ったが、何とか捕獲することが出来た。直面していた脅威にどうにか対処し、ショウは安堵の胸を撫で下ろす。

 

 対峙した雷獣は恐ろしい手練れであった。放たれる威圧感はすさまじく、その力はオヤブンポケモンをも凌駕していただろう。ともすればあの荒ぶる反骨の竜(ギラティナ)にさえ匹敵していたかもしれない。何せ、シンオウの加護を受けたポケモンである()()ウォーグルを一方的に打ちのめしたのだ。一歩間違えれば、自分達も同じような目に遭っていたかもしれない。

 

「ありがとう、ジュナイパー。あなたのお蔭だよ」

 

――じゅぱー

 

 そうならなかったのは、この子の尽力のお蔭だろう。ショウは強大な相手に一歩も退かず、勇敢に戦った相棒(ジュナイパー)へ労いの言葉を掛ける。そんな彼女の言葉に、ジュナイパーは若干照れくさそうな様子であった。

 

「ふふ、お疲れ様。ゆっくり休んでね」

 

 ショウは戦闘で傷付いたジュナイパーをボールへ戻し、続けて雷獣を捕獲したボールを回収すべく歩みを進める。

 

(それにしても、あのポケモン……)

 

 ボールに向かって足を動かしながら、ショウは思う。

 

(全然"でんき"技使ってこなかったなあ……)

 

 思い出されるのは対峙した未知のポケモン(白き雷獣)の姿。

 背中の雷雲からあれほど白い雷を閃かせていたにも関わらず、あのポケモンがでんきタイプの技を使って来ることは無かった。でんき技対策としてくさタイプであるジュナイパーをぶつけたのだが、いざ戦闘が始まれば使ってくるのはこおりタイプの技ばかり。相性不利を悟り交代しようにも、激しい技のぶつかり合いでそんな隙はなく。弱点タイプの一撃が直撃したらどうしようかとヒヤヒヤものだった。

 

(雷なのに冷気を使う……変わってるよね)

 

 雷鳴を轟かせながらも、強烈な冷気を放つ。白き雷獣のその何とも不思議な生態に首を捻るショウ。とはいえ、研究者でもないショウが考えたところで正解なぞ分かる筈もない。

 餅は餅屋。解明はラベン博士(専門家)に任せるのが吉だろう。それに――

 

(あのポケモンが『百獣夜行』とどう関わっているのかも気になるしね)

 

 対峙した雷獣の姿。そしてカイの証言から得られた情報。そこから考えれば、『百獣夜行』の最中に目撃されたという白い雷は十中八九、あのポケモンが引き起こしたものだろう。問題はあのポケモンと『百獣夜行』がどう関わっているのか、だが……。残念ながら知識もないショウに分かるのはそこまでであった。これも結局、ラベン博士の研究を待つ他ないだろう。彼女できることと言えば一刻も早くこのポケモンのことを博士に報告するくらいであった。

 

(えっと、それじゃあボールを回収して……あと、ウォーグルの傷の手当もしないと)

 

 と、先々のことをつらつらと考えつつショウは雷獣を捕獲したハイパーボールに手を伸ばし――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ピシッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()が聞こえた。

 

「――――え?」

 

 ショウの耳が捕らえた微かな音。普段であれば聞き逃してしまいそうなそれは、しかし静まり返った『氷山の戦場』において確実に彼女の鼓膜を震わせた。

 

「うそ……」

 

 破壊音の発生源。それは彼女の眼前、伸ばした手の先にある黄と黒の球体から。同時にショウは捕獲した筈のボールの異変を目撃し、驚愕のあまり目を見開く。

 

「ひびが、入ってる……?」

 

 確かに雷獣を捕獲した筈のハイパーボール。その表面に幾つもの亀裂が走っていた。

 

「何、で……? 出発前に点検した時には……!」

 

 出立前、使用する道具を点検した際にそんな亀裂は存在しなかった。なのに、何故。

 

――ピキ、パキキ……

 

 ――決まっている。

 

 出立前に無かったのならば、この亀裂は()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

 そしてそれを裏付けるかのように、彼女の見ている目の前でボールに走る亀裂が増えていく。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ッ!!!」

 

 その事実に行きついた瞬間、ショウは全力で後ろに飛び退る。調査隊としてヒスイ中を駆け回る内に身に着けた危機察知能力。それが今、最大級の警報を鳴らしていた。

 

――バキャアッ!

 

 そして彼女が背後へと跳んだ、次の瞬間。ボール全体に無数の亀裂が走り、けたたましい音を立てて砕け散る。

 

 収めていた器が砕け散った。それが意味することは即ち――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ヒュラアアオオオオオオ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟雷の如き咆哮を上げ、雷光を纏う白い影が大地へと降り立つ。

 捕獲した筈の白き雷獣が再び『氷山の戦場』に顕現した。

 

(捕獲したボールを内側から食い破った――!?)

 

 それはショウにとって自身の常識を超えた現象。

 活力の溢れたポケモンに捕獲途中で破られることはあっても、捕獲完了したポケモンがボールを内側から破壊して脱出するなどありえない。そんなあり得ざる事象を前にして、ショウの思考が停止する。

 

 ――それはこの場において余りにも致命的な隙であった。

 

 

――ららああああいいぃぃ!!

 

 

 

 

 

???は おぞましい力を解き放った!

 

 

 

 

 

 突如として雷獣の身体から放たれる、身の毛もよだつような霊気(オーラ)。恐ろしい速度で迫るそれをショウは回避することが出来ず、瞬く間に全身をなめ尽くされる。

 

「――!? カッ、ハァ……!」

 

 黒い炎のような――しかし温度を感じられない――それに触れた瞬間、ショウの身体から力が抜ける。全身を襲う耐えがたい怠さ。感じたことが無いほどのソレに立っていることが出来ず、ショウは思わず膝をついてしまう。

 

(から、だが……動かない……! 何なの……、コレ……!?)

 

 まるで生命力を根こそぎ奪われたかのような感覚に困惑するショウ。とはいえ、目の前にはあの雷獣がこちらを見据えている状態、このまま無防備に蹲っていては危険だ。ショウは兎に角状況を打開せんとポーチに手を伸ばそうとする……が、活力を失った腕は鉛のように重く、まるで思う通りに動かない。

 

(はや、く……しない……と……!)

 

 だがそんなショウの努力も虚しく、その手がポーチに届くことはなく。

 

――らいいいぃぃぃ!!

 

 そして絶望が現れる。

 

 バチチチ!と、大気を裂く雷鳴。雷獣が雷光(ライコウ)を身に纏い、その身を眩く輝かせる。純白に染まった凍土でなお際立つ白い輝きは、美しくも恐ろしい、万物を凍てつかせる氷雷の具現。

 

(あ……)

 

 稲妻を纏い、白く輝く雷獣の姿。それを見てショウは悟る、あれは技の前の"溜め"である、と。同時に放たれようとしている技が誰に向けられたものなのか、嫌でも理解する。

 

 生命力を奪われ、動かない体。

 自身を射抜く、絶対零度の殺意の視線。

 獣へと集う、桁外れの雷の力。

 

 ()()が放たれればショウは終わりだ。全力で振るえば地形すらも変えるポケモンの力、脆弱な人間の身で直撃すればどうなるかなど考えずとも分かるだろう。

 

(ダ、メ……動け、動いて……!)

 

 迫る死の危機を前に、力を振り絞って何とか体を動かそうとするショウ。だが、活力の抜けきった体は彼女の意思に反し、まるで動こうとしなかった。

 

――らああい!

 

 そんな彼女の眼前で、雷獣が一際激しく閃光を発する。それは技の溜め(チャージ)が終わったこと――死のカウントダウンが終わったことを意味した。

 

 雷獣が四肢へと力を込め大地を蹴る。

 宙へと舞い上がった雷獣の体に、白い雷光(ライコウ)が収束し――解き放たれる。

 

 

――ひゅらああああああおおおおおおお!

 

【ゆきおろし】

 

 

 顕現したのは森羅万象を凍らせ砕く、氷の雷霆。

 

 天上から落ちる白亜の輝き。白い戦場をより白く染めながら、自身目掛けてやってくるそれを諦観とともに見つめるショウ。雷速で迫る白い稲妻を、碌に動けない彼女が避けられる筈もなく。込められた破壊の力は当たれば確実に自身の命を奪い去るだろう。

 

(せめて……この子たちだけでも……!)

 

 最早、自身の死が避け得ぬものと悟り、ショウはせめて手持ちポケモンたちだけでも生き延びさせんと、うつ伏せの体勢から仰向けに成ろうとする。自身の体を盾とすればポーチのポケモンに雷霆が直撃することはないだろう、と。

 しかし、力の抜けきった彼女の身体はそれすらも許さず、どれほど力を込めようとも這いつくばった姿勢のまま。だが、それが却って幸いしたのかもしれない。なぜならば――

 

――ピシッ……バキャア!

 

 ショウの背中――ポーチから破砕音が響く。

 同時に、雷霆を遮るかの如き影がショウの前に立ち塞がった。

 枯葉色の両翼に、紅葉の葉笠。主の危機を察知し、収めた器(ボール)を破壊してまで駆けつけた、彼女の最初の相棒の姿。

 迫る雷霆を前に彼は両翼を広げ、後背の(ショウ)を守らんと仁王立つ。

 

(ジュナイ……っ!)

 

 

――ドッゴオオオオオオ!

 

 

 刹那、轟音とともに【ゆきおろし】が炸裂し――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、全てが白に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

――ゴルルルル……!

 

 中空より雷獣が軽やかに着地する。視線の先、氷の雷霆(ゆきおろし)を撃ち放った箇所を見据え、低く唸る。

 何せ一度は自身を追い詰め、薄暗い場所に分けの分からない方法で閉じ込めようとした外敵だ。必殺の氷の雷霆(ゆきおろし)を放ったとて、その死骸を確認するまで油断はならない。抑えきれぬ飢餓感と闘争本能に支配されながらも、しかしどこまでも冷徹に雷獣は観察を続ける。

 着弾地点は【ゆきおろし】の衝撃で舞った雪により視界を塞がれ、直接見ることが叶わない。だが感じる空気の流れから、その場所に動いてるものがいないことは分かった。

 やがて舞い散った雪煙が収まり、徐々に視界が晴れてくる。

 

 果たして、雪煙の向こうに雷獣が見たものは、凍り付き物言わぬ氷像と化し(こおり状態となっ)鳥ポケモン(ジュナイパー)と、倒れ伏しその体のところどころが霜で覆われたニンゲンの姿であった。

 

――! 

 

 その時、ピクリと雷獣の耳が動く。捕らえたのは微かな呼吸音。発されたのは這いつくばるニンゲンから。どうやら鳥ポケモン(ジュナイパー)が庇ったお蔭でまだ息があるようだ。

 それに気が付いた雷獣は、ひんしのニンゲンにトドメを刺さんと再び力を集める。どういった理屈かは分からないが、このニンゲンが投げた奇妙な球によって自身は危うく閉じ込められるところだった。即ちこのニンゲンは自身にとって脅威と成りえる存在。ならば生かしておく理由などどこにもない。

 

 白き雷獣が咆哮を上げ、白い稲妻が閃く。

 そして雷獣がショウ目掛け、再び必殺の雷霆を放たんとした……次の瞬間。

 

 

【エアスラッシュ】

 

 

 殺到した空気の刃が雷獣の無防備な横腹に突き刺さった。

 

――ヒュラッ!?

 

 切り裂かれた毛皮から、鮮血が滴り落ちる。感じた痛みに思わずその場から飛び退く雷獣。切られたのは薄皮、然したるダメージではない。しかし、攻撃が当てられたことは事実。先の戦闘でかなりのダメージを負っていた雷獣にとって、意識外からの一撃は何より警戒すべき脅威に他ならない。

 すぐさま全神経を集中させ、攻撃の発生源を探る雷獣。攻撃の出処を突き止め振り向けば、そこに居たのは先ほど打ち倒した筈の黒白の大鳥(ウォーグル)の姿。満身創痍の状態で翼を振り抜き、雷獣目掛け大気の刃を放ったのだ。

 既に討ち果たした筈の――自身にとって喰らうべき餌でしかない筈のウォーグルに不意を打たれ、傷を付けられた……その事実に激昂する。雷獣はあらためてトドメを刺さんとウォーグルへ向き直り――

 

【ひ ょ う ざ ん お ろ し】

 

 突如として雷獣目掛け飛来する、氷の槍。ロケットの如く凄まじい速度で()()()()()()()に着弾し、固く凍り付いた地面をやすやすと砕き割る。

 飛来した氷槍を間一髪のところで回避した雷獣。槍が飛んできた方向を向けば、視線の先、地響きと共に永久凍土の大地を砕きながら生ける氷山がその姿を現した。

 

 

――バアアアアオオオオオオオオォォォォ!!

 

 

 "雪原キング"クレベース。

 古代の英雄に付き従ったポケモンの末裔にして、『純白の凍土』を統べる王が、縄張りを荒らす侵入者を排除せんと乗り出したのだ。

 

――ヒュゴルルルル……!

 

 現れたキングクレベースの威容を前に白き雷獣は僅かに怯む。

 目の前の氷山モドキは雷獣が先日()()()()()()()()()()()()()獲物。だが同時に、容易ならざる相手であったことも確かだ。

 万全の状態ならまだしも、傷つき体力を消耗した今の状態でアレに挑んだとして、果たして打ち倒せるか。

 

 対峙する凍土の王の力と今の己の力を勘定し、雷獣が出した結論は――

 

――ららいー!

 

 撤退。

 ここは一時退いて、傷の回復に専念することを優先する。高いエネルギーを持つ獲物(ウォーグルとクレベース)を失うのは惜しかったが、幸いこの地(ヒスイ地方)は今、手頃な獲物であふれている。命を賭してまで捕食するメリットは薄い。

 これが常であれば雷獣は襲い来る飢餓のまま、目の前の獲物を捕食せんと吶喊することを選んだだろう。だが、今の雷獣は豊富な獲物を喰らったことで飢餓感が薄れ、僅かなりとも冷静な思考ができる状態だった。

 四肢に雷光(ライコウ)を纏い、白き雷獣が駆けだす。その速さは【でんこうせっか】をも上回る神速(しんそく)のソレ。一筋の軌跡を残し、雷獣は瞬く間に雪原上の点となった。

 逃走する雷獣を前にして、しかしクレベースは追撃する気配を見せない。それは逃走する雷獣の速度があまりにも早すぎた、というのもあるが、なによりも……

 

――ドズゥン……

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 地響きとともにクレベースが膝をつき、その巨体を傾ける。よく見ればクレベースの体のそこかしこに、深く抉られたような傷跡があった。それはつい先日、自身に襲い掛かった白き雷獣との戦いで付けられたもの。雷獣の恐るべき力の前に深手を負い、這々の体で逃げおおせた屈辱の傷だった。

 その後は安全な地中に身を潜め、じっと回復を待っていたクレベースであったが、先ほどの『氷山の戦場』での戦闘で雷獣がダメージを負ったことを察知し、打ち払う千載一遇の機会と痛む体に鞭打ち現れ、結果、何とか雷獣を追い払うことに成功したものの、先の【ひょうざんおろし】で限界を迎えてしまった……ということである。

 

 そしてそれはウォーグルも同じだった。雷獣の放つ猛吹雪に閉じ込められ、ひんし寸前のダメージを負っていたところに、さらに無理やり翼を動かして【エアスラッシュ】を放ったのだ。反動で翼はボロボロ、しばらくの間は飛翔すらも困難だろう。

 

 膝を付くクレベース、地に伏したウォーグル、氷漬けのジュナイパー、そして意識不明のショウ。

 雷獣を追い払い勝利したにも関わらず、残された勝者たちは満身創痍。

 

 果たして此度の戦いはどちらが勝者(はいしゃ)であったのか。

 雪のチラつく『氷山の戦場』は、ただただひたすらに静かであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「カイさん! ハマレンゲさん! こっち、こっち! 早く!」

 

 『純白の凍土』に幼い童の声が響く。

 声の主は新緑の髪を三つ編みに束ね、コンゴウ団の装束に身を包む少女――名をワサビ。千里眼を有すという彼女は幼き齢ながらも、ライドポケモンたるウォーグルの世話を任されたキャプテンの一人である。

 そんな彼女は現在、常の掴みどころのない態度はどこへやら、何やら焦った様子で付き従う二人を急かす。

 

「ハア……ハア……! 待ってワサビちゃん!」

「お待ちくだされワサビ殿! 本当なのですか!? ショウ殿らが満身創痍で倒れているというのは!?」

 

 駆けるワサビの背中を負うのはシンジュ団の長であるカイとクレベースと世話するキャプテンであるハマレンゲの二人。集落の復興作業を行っていたところ、酷く焦った様子のワサビに突然「ショウさんたちが危ない!」と無理やり連れ出されたのだ。

 曰く、千里眼でショウとウォーグル、それにキングクレベースが謎のポケモンにボロボロにされるのを見た、ということだったが、ショウやキングの強さを良く知る二人にとって俄かには信じがたいことであった。

 

「ほんとだもん!! 千里眼で見たんだ!!」

 

 だが、頑なに「見た」と言い張るワサビが嘘を吐いているようにも見えない。常の浮世離れした口調をかなぐり捨て、必死の形相で声を荒げるワサビの姿にただならぬものを感じ、二人は彼女の言葉に従って『氷山の戦場』を目指す。

 そうして『戦場への道』を駆けあがり、『氷山の戦場』へとたどり着いた三人。

 

「嘘……!」

「なっ!? クレベース!」

 

 真っ先に目にしたのは傷だらけで膝を付くクレベースの姿。雪原キングの苦し気な様子にハマレンゲは驚愕し、カイは目を見開く。

 

「――居た! あそこ!」

 

 一方のワサビは()()()()()()()()クレベースの姿を気にすることなく、『氷山の戦場』を見回し、お目当ての存在を見つけ出す。

 声に釣られたカイが彼女の指差す先を見れば、そこにあったのは凍り付き氷像と化したジュナイパーと……

 

「――ショウさん!!」

 

 力なく地面に倒れるショウの姿。

 その姿を認めた瞬間、悲鳴のような声を上げてカイは駆けだしていた。

 

「ショウさん、しっかりして……!?」

 

 出せる限界の速度で『氷山の戦場』を下り、ショウのもとへと駆け寄ったカイ。そうして意識のないショウを助け起こそうと、その体に触れた瞬間……驚愕する。

 

(冷たい……!)

 

 まるで氷に触ったのかと錯覚するほどに彼女の体は冷たかったからだ。

 カイの脳裏に一瞬、最悪の可能性がよぎった。だがショウの胸が微かに上下していることに気が付き、ほっと胸を撫で下ろす。

 

(よかった……まだ、生きてる)

 

 そうショウはまだ生きていた――辛うじて、ではあるが。

 聞こえる呼吸音は本当に微かで、注意しなければ聞き取れないほど。よく見れば指の一部も紫に変色し、凍傷の症状を示している。もっと言えばその体は生きていることが不思議なほどに冷たく、放置すればすぐにでも生命活動を停止させてしまいそうだ。

 

(どうしよう、このままじゃ……)

 

 とにかく一刻も早く処置する必要がある。だが、どうすれば……。

 有効な手段が分からず焦り迷うカイ。そんな彼女に助け舟を出したのはワサビだった。

 

「カイさん! これ! これ使って!」

 

 そう言って彼女が差し出したのは薄黄色の地に幾つもの緑の輪が浮かぶ掌大の"きのみ"。

 

「――そうか! ナナシのみ!」

 

 ナナシのみの果汁には氷を融かし、しもやけを治す不思議な薬効がある。冷気に侵された者にはまずコレを使う、凍土に生きる者にとっての常識だ。動揺のあまり頭からすっかり抜け落ちていた。

 カイは受け取ったナナシのみを口に放り込み、噛み砕く。ナナシのみの覆う外皮はひどく固く、今のショウではとても飲み込むことはできないだろうと考えたからだ。そのまま形が無くなるまで咀嚼した後、口移しでショウに含ませていく。

 

「ん……んく……!」

 

 飲み込んだ果汁が気管に入らないよう慎重に、少しづつ喉奥に押し込んでいくカイ。そうして口に含んだ果汁をすっかり飲ませた後、今度はナナシのみを手で搾り、出て来た果汁をショウの変色した指に刷り込んでいく。

 十分に刷り込んだら、今度は清潔な布――手元に適当なものがなかったので衣服を割いて代用した――で手指を巻く。こうしておけば指が腐り落ちることもない筈だ。

 応急的だが、この場で出来る限りの手は尽くした。だが、所詮は一時しのぎ、ショウが依然として危険な状態であることに変わりはない。一刻も早く医者のもとに連れていく必要があった。

 

「ハマレンゲさん! ハマレンゲさん! こっちはあたしに任せて、先にショウさんを!」

「承知! キングのことは頼みましたぞ!」

 

 どうやらワサビの人選はそれも見越した上であったようだ。女性であるカイやワサビでは意識の無いショウを抱えて集落まで運ぶのは難しかっただろうが、怪力のハマレンゲならば問題ない。

 ぐったりとしたショウをひょいと担ぎ上げ、走り出すハマレンゲ。目指す先はシンジュ集落。幸運なことに、あそこには今怪我人治療のためギンガ団の医療隊が滞在している。ことヒスイにおいて彼女らを超える医療技術を持つ者は他にいない。彼女らの手に掛かれば、ショウが助かる確率もずっと高くなるだろう。まさに不幸中の幸いだった。

 

 ハマレンゲの後を追い、カイもまた全速力でひた走る。

 

(シンオウ様! どうか、ショウさんを……! お願い……!)

 

 友人たる少女の無事を、祈りながら。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 果たして、カイの祈りが神奥(アルセウス)に届いたか。ギンガ団医療隊の尽力により、ショウは無事一命を取り留める。

 

 彼女が再び目を覚ましたのは、それからさらに三日後のことであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「――以上が今次『純白の凍土』遠征における、調査結果の報告となります」

「うむう。報告ご苦労であった」

 

 ギンガ団本部最上階、団長室。シマボシより調査報告を受けデンボクはうむ、と一つ頷いた。

 

「――して、ショウの容体は?」

「手足に多少痺れが残っているようですが、命に別状はないとの事。現在は隊舎にて静養を命じています。医療隊の見立てでは、2週間もすれば元の通り動けるようになるだろう、と」

「そうか」

 

 回復すれば調査隊に復帰可能だという報告にデンボクは内心ホッとする。

 重症を負ったと聞いた時はどうなることかと思ったが、元通り復帰出来るならば問題ない。何せショウはギンガ団にとって替えの効かない人材だ。

 ポケモン捕獲に対する稀有の才能。団内で並ぶ者なきポケモン勝負の実力。荒ぶる「神と呼ばれしポケモン」を鎮め、ヒスイを危機から救ったという実績。ヒスイの先住民たるコンゴウ、シンジュ両団の長との個人的な信頼関係(コネクション)

 それが一度に失われるのはギンガ団としてあまりにも惜しかった。

 

「しかし……まさか、()()ショウが動けぬほどの傷を負うとはな」

 

 そう、意外そうに呟くデンボク。彼自身、訓練場にて幾度も手合わせした経験からショウの実力をよく知っている。故にポケモンに襲われ瀕死の重症を負ったと聞いた時は驚いた。

 

「いかにヒスイを救った英雄とて、人の子ということか」

「……捕獲済のボールから脱出され、動揺した不意を突かれたのです。致し方ないかと」

「うむう。その通りだ」

 

 ポケモンが捕獲された状態から自らボールを破壊し脱出したという、本来であればありえない事象。遭遇すれば動揺するのも仕方がない、というシマボシの言にデンボクもまた否定することなく頷く。

 

「問題は捕獲済のモンスターボールが内側から破壊され、中のポケモンの脱出を許したことだ」

 

 今回の一件にて発生した問題。それは不可能とされていた捕獲済ポケモンによる内側からのモンスターボール破壊が起きてしまったという点。

 

「――モンスターボールは我らがポケモンを使役するための手綱。力で優るポケモンに我ら人類が対抗するための、唯一の手段だ」

 

 人間を遥かに超える力を持つポケモン、それらを捕らえ使役するための装置。特別な訓練を受けずとも使用でき、持てば例え幼い子供であろうとも凶暴なポケモンに対抗することができる画期的な道具。有史以来、常にポケモンに怯える立場であった人類が「対等な立場」で共存するための手段。

 いかに凶暴なポケモンとて、捕獲さえすればこちらがモンスターボールから出さない限り襲われることはなく、だからこそモンスターボールは対抗手段となりえるのだ。

 

 故に、今回の事象は極めて深刻な問題といえる。

 

 捕獲されたポケモンが内側からボールを破壊して脱出した。それが意味することは即ち、ポケモンはその気になればいつでも人間の制御を離れることができる、ということ――ギンガ団の推し進めてきた「共存関係」の前提が崩れ去ることを意味した。

 

「由々しき事態だ」

 

 眉間に皺を寄せ、デンボクは呟く。

 

「我らが理想。"人とポケモンの争い無き新天地"創生が瓦解しかねん」

「――すでに製造隊がモンスターボールの強度改善に取り掛かっています。また、調査隊所属のラベン博士にもこれへ協力するよう要請を。『ポケモン図鑑』編纂に多少影響は出ますが……」

「やむをえんだろう。ギンガ団存続ための喫緊の課題だ」

 

 モンスターボールの存在はヒスイ開拓事業の切り札。これを保持するが故にギンガ団は各地の支援者から資金を得られたのだ。その切り札が役に立たないとなれば、最悪、支援を打ち切られた上でヒスイから撤退という可能性すらある。モンスターボール強度改善は最優先事項であった。

 

「我らが繋いでいたと思っていた鉄の手綱も、ポケモンたちにとっては容易に引きちぎれる生糸に過ぎんということか」

「しかし、同時にそれこそがショウを救った要因でもあります」

「――ジュナイパーのことか」

 

 ギンガ団の解散にも繋がりかねないモンスターボールの問題。しかし、それこそがショウの命を救ったというシマボシの言葉に、デンボクはすぐさま報告にあったジュナイパーのことであると理解する。

 

「はい。彼女の証言によればジュナイパーは自力でモンスターボールを破壊し、その身を省みず敵の攻撃から行動不能のショウを庇ったとのこと。仮にボールの強度が十分であった場合、ショウはそのまま死んでいた可能性が高い」

「うむう。ショウが危機に陥ったのはボールの強度不足が故、しかしその命が助かったのもまた強度不足のお蔭。……「禍福は糾える縄の如し」。人生、何が幸いするか分からんな」

 

 そんなデンボクの言葉に同意するかの如く、シマボシは瞑目した。

 

「そういえばそのジュナイパーはどうなのだ? 確かショウを庇った結果、氷漬けとなったと聞いたが?」

「幸いにして一命は取り留めたようです。ラベン博士の見立てによれば、羽毛に含まれる空気が断熱材の役割を果たしたことで、内臓器官への致命的ダメージを防げたとのこと。とは言え、復帰まで数ヶ月間は安静が必要らしいですが」

「全身を氷漬けにされてなお生き残り、僅か数ヶ月で元と遜色なく回復する、か。ポケモンの持つ生命力というのはやはり凄まじいな」

 

 人間ならば確実に死ぬであろう状態から僅か数ヶ月で回復可能という、ポケモンの凄まじい生命力に感心するデンボク。と、そこでシマボシから補足の言葉がかかる。

 

「これについては発見者であるワサビ氏の手当が的確であったことも大きいそうです。なんでも凍結への薬効を持つきのみを使ったのだとか。さらにポケモンだけでなく人間にも効くそうで。ショウの凍傷が重度のものとならなかったのもこれを用いたからとのこと」

「うむう、"ナナシのみ"だな。他のきのみと組み合わせることで、ポケモンの異常状態を回復する薬品(なんでもなおし)となることは知っていたが。まさか人間にも効果があるとは」

 

 報告より伝えきいた"ナナシのみ"の薬効。それは『純白の凍土』で生きるものたちの間で受け継がれていた知恵だ。今回のシンジュ集落への支援がなければギンガ団がそれを知ることは無かったか、あるいは知るのはもっと未来となっていたかもしれない。デンボクはシンジュ団への支援という自身の決断が誤りでなかったと、ますます確信を深める。

 

「畑作隊には各種"きのみ"の増産を命じよう。"ナナシのみ"に凍傷への薬効がある以上、他の"きのみ"にも何らかの薬効が存在する可能性は高い。また、『純白の凍土』へと赴く団員に対して"ナナシのみ"の携行を推奨するとしよう。これで事故に遭った際の生存率も伸びる筈だ」

 

 得られた情報をもとに団への新たな指令を語るデンボク。だが、最後に「もっとも――」と付け加えて

 

「全てはシンジュ集落の復興……いや、『百獣夜行』を解決してからとなろうが」

 

 眉間に再び皺を寄せながら、デンボクは呟いた。

 

 そう、今のギンガ団に新事業へ手を出す余裕はない。シンジュ集落復興に多数の人員が取られている上、先のモンスターボール改良も合わせれば、しばらくは通常業務を回すだけでも精一杯。残念ながら得られた知見を本格的に活かせるのはそれらが解決した後となるだろう。

 そして、何より『百獣夜行』だ。現状、ギンガ団が直面している最大の問題。シンジュ集落を襲ったポケモンたちの大集団。ヒスイに於いても前例のない、全く未知なる脅威。

 残念ながら此度の『純白の凍土』の調査では、その発生要因を解明するまでには至らなかった。

 

 だが――

 

「『百獣夜行』に関係する可能性の高いポケモンを発見した。そうだな?」

「はっ」

 

 デンボクの念押しするかのような言葉に、シマボシは軽く頷くことで応える。

 

「シンジュ集落にて得られた証言によると『百獣夜行』発生時に『氷山の戦場』にて白い落雷が発生していたとのこと。その証言をもとに調査のため同地へと赴いたところ、白い雷を放出する未知のポケモンを発見・交戦しました」

 

 『百獣夜行』の最中に『氷山の戦場』にて見られた白い雷。それは雷雲を背負う白き雷獣が引き起こしたものだった。

 

「ポケモンは雷を放出していましたが、戦闘時は主にこおりタイプの技を使用。ジュナイパーによるかくとうタイプの攻撃を受けた際の反応から、恐らく有するタイプも同様のものと推測されます」

雷光(ライコウ)を纏いながらも、氷雪の力を使うか。何とも奇怪なポケモンよ」

「――特筆すべき事項としては、その極めて高い戦闘能力と凶暴性です。ショウの証言によれば上空をウォーグルで飛行中に襲い掛かって来たとのこと。また状況証拠からの推測ですが、キングポケモンであるクレベースを襲撃した可能性もあります」

「うむう。ライドポケモンであるウォーグルのみならず雪原キングにさえ襲いかかる、とは。さらにその狙いが『捕食』とはな」

「クレベースに関してはあくまで推論ですが、可能性は高いかと」

 

 古代の英雄に付き従ったポケモンの末裔。シンオウの加護を受け、ヒスイ各地を治める王たるポケモン――それこそがキング。その力は一線の野生ポケモンなぞ比較にならず、荒ぶれば天災にも等しい存在だ。

 そしてキングには劣るがライドポケモンもまたシンオウの加護を受けるポケモンたち。有する実力はヒスイ指折りで、単なる野生ポケモンたちでは手も足も出ない。

 だが、件のポケモンはそんな実力者たちを何の躊躇もなく襲撃したばかりか、あまつさえ捕食寸前まで追い込み、さらに不意を突いたとはいえ、あのショウを瀕死寸前まで追い詰めたのだ。これでもし対峙していたのがショウではなく一般の団員であったのなら――その結果は考えるまでもないだろう。

 

「――して、そのポケモンの足取りは?」

「掴めておりません。連日の降雪により痕跡も完全に途絶え、追跡は困難でした」

 

 "現在も所在地が掴めていない"というシマボシの言葉に、"ううむ"と唸るデンボク。とはいえ、襲撃の可能性もある中での調査となれば慎重にならざるを得ないもの当然。ただでさえシンジュ団支援でキャパシティが圧迫されている現状、デンボクもそれを攻めることはない。

 

「仕方があるまい。今後、件のポケモンおよび白い雷を見かけたら、すぐさまの安全確保、および撤退を周知しよう」

「よろしいのですか?」

 

 白い雷を見かけたらすぐに逃げだすような命令によいのかと問うシマボシ。そんな彼女の疑問に対するデンボクの返答は「やむを得ない」だった。

 

「あのショウが敗れた相手だ。一般団員では万に一つの勝ち目もなかろう。ギンガ団には今、無駄に人員を消耗する余裕はない」

 

 キングをも打ち倒し、ヒスイを救った英雄(ショウ)さえ殺しかけた白き雷獣。そんな存在を相手に実力の劣る団員を対峙させて無駄に危機に晒す訳にはいかない。ただでさえ人手不足なのだ。即時撤退の周知もやむなしである。

 

「分かりました。では、早速の周知を」

「うむ……そうだ、シマボシよ。ショウと交戦したというそのポケモン、何か姿が分かるものはないか?」

 

 と、そこでデンボクはシマボシにそのポケモンの姿が分かるものはないかと問う。周知時に姿形が分かればより判断がしやすくなるという理由であった。

 

「はい。それでしたら、ショウの証言をもとに作成した似姿がこちらに」

「うむう」

 

 そう言ってシマボシが差し出したのは一枚の紙。デンボクはそこに描かれた件の雷獣の姿を一瞥し――

 

「――バカな!?」

 

 次の瞬間、席を蹴飛ばすように立ち上がり、瞠目して叫ぶ。

 

「デンボク団長? どうなされたのです?」

 

 デンボクの突然の豹変に困惑の声を挙げるシマボシ。

 

「ありえん……! なぜ、なぜ()()がこんなところに……!」

 

 だが、デンボクはそんな彼女の言葉に応えることは無かった。

 そんな余裕すら持てない程にデンボクは驚愕していた。

 

 なぜなら、渡された似姿に描かれたポケモンの姿。それは細部に僅かな違いはあれど――

 

ライコウだと……!?」

 

 故郷(ジョウト)に伝わりし、伝説のポケモン("いかずちポケモン")に他ならなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後に、ギンガ団はこのポケモンを正式に"ライコウ"と命名。

 目撃次第、即時の撤退・報告を周知し、その足取りを追うこととなる。

 

 

 

 

*1
あるいは、かつてムラのために尽力した少女を自らの疑心によって追放したことへの償いの気持ちがあったのかもしれない

*2
ポケモンが格納されたモンスターボールのこと






ライコウ(???の姿)
タイプ:こおり
『黒雲を背負いし白き雷獣。その姿、ジョウトに伝わりし"ライコウ"に酷似すれど、気質、大いに異なり』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。