Pokémon LEGENDS 三聖獣異聞録 神都秘邃百獣夜行   作:野傘

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お待たせしました。


舞うは錦、奏でるは鎮魂の調べ

「──これこそがヒスイを襲いし災厄の始まり。そしてそなたの持つ“はね”の由縁じゃ」

 

 そう言ってコギトは長い長い語りを締めくくる。

 

 果たして4人は彼女の語る壮大なる神話に言葉も出ず。

 しばしの沈黙の後、ようやく口を開いたのであった。

 

「……するってぇとだ、コギトさん。あの空に浮かぶ大穴は、その“ホウオウ”ってポケモンで間違いないのか?」

「然りじゃ。──尤もわらわの知るより随分と肥大化しておるがのう。果たしていったいどれだけの命を喰ろうたことやら」

 

 真っ先に言葉を発したのはコンゴウ団団長セキ。

 彼はコギトにあの“天穴”は確かに先の神話にて語られたホウオウであるのかと問うた。

 対し、コギトの答えは“是”。

 それは聞いたセキは少し沈黙した後、再び口を開く。

 

「あんたの話が確かなら、この災厄の元凶は荒ぶるホウオウだってことだよな? ──だったらよ、そいつを鎮められれば事態は解決すんじゃねえのか?」

 

 付け加えるように、セキは言った。「前のキングやシンオウさまみてぇによ」。

 その言葉に──セキとコギトを除く──その場にいた者がみな目を見開く。

 

 なるほど言われてみればそうだ。此度の災厄の元凶は荒ぶる“ホウオウ”。

 ならば先の異変が如く、元凶たる“ホウオウ”を鎮められればヒスイの滅びを食い止めることができるやも知れない。

 

 それはまさしく暗雲の間より射す、一筋の光明が如く。見出された可能性に、団長室にいる者たちの顔も明るくなった。

 一方のコギトはセキの言葉に頷くと、次いで僅か首を傾げて言う。

 

「ふうむ……確かに一理あるのう。じゃが、鎮めると一口に言うても具体的にはどうやって鎮めるつもりじゃ?」

 

 と、そんなコギトの言葉に、目を輝かせたカイがまるで割り込むような勢いで応じた。

 

「“鎮める”といったらもちろんシズメダマだよね!」

「……お前は本当にそればっかりだな、カイ。てか、そもそも好物も分からねえ相手に何を材料に作るってんだ。もちっと考えてから発言しろ」

「何だと!!」

 

 呆れた顔で発言の内容にダメ出しするセキ。その物言いが気に食わなかったか、思わず食って掛かろうとするカイ。

 いつもの喧嘩をおっぱじめようとする両者であったがしかし、いよいよ本格化するその前にコギトから制止の声がかかった。

 

「これこれ喧嘩をするでない。はあ……しかし、シズメダマか……。ふうむ、それならば何とかなるかもしれぬ」

「──本当ですか!?」

「──本当かよ!?」

おぬしら息ぴったりじゃのう。……ふう、ショウの持つ“はね”は庇護の証としてホウオウよりシンオウ人に与えられたもの。故にあの“はね”には“祟り神”と化す前のホウオウの在り方が残っておる。今のホウオウは還るべき姿を見失い暴走した状態、ならば“はね”に残るかつての在り方を還してやれば……彼奴も正気を取り戻すやもしれぬ」

 

 「どうも“はね”自身がそれを望んでおるように思えるしのう」と、コギトは付け加える。

 

「故に、時が来れば自ずからこの“はね”がシズメダマの役割を果たしてくれるじゃろうて、心配あるまい。問題は──」

 

 そこでコギトはスッとショウの手元、色褪せた“ゆうひのはね”を見遣り、

 

「どうすればこの“はね”に力を取り戻せるか、じゃのう」

 

 そう言ったのであった。

 

 コギトの言葉はまったくもって道理であった。

 ホウオウを鎮める鍵となるであろう“はね”は今、色褪せて力を失っている状態。これではホウオウに対する有効打とはなりえない。

 故に、荒ぶる“祟り神(ホウオウ)”を正気に戻すにはまずもって“はね”そのものに取り戻すことが絶対条件。

 だがしかし、いったい如何にして力を取り戻すというのか。

 

 射しこんだ希望の光に再び立ちはだかる難題の壁。

 再び部屋を沈黙が支配する。

 

 そのまま沈黙が続くことしばし、唐突にそれを破る者があった。

 

「……あの“はね”は聖獣たちとの戦いで色が変わっていった……」

 

 沈黙を破り口を開いたのはこの中で最も間近で“はね”を見てきたショウであった。

 思い起こすのは聖獣たちとの戦いの記憶。彼らの発する黒い霊気(オーラ)に触れる度“はね”はその色彩を変化させていた。

 

「ホウオウが暴走した原因は彼らがその亡骸を食べてしまったからで……つまり彼らの中にはホウオウの一部が残っている……?」

 

 コギトの言葉が正しければ、ホウオウが“祟り神”に堕ちてしまった切欠はかの異形の三聖獣たちがその屍を喰らったがため。

 言い換えれば、彼らはホウオウの一部を奪い自らの内へと取り込んだのだ。

 ──ならば。

 

「三聖獣たちが奪った一部を“はね”に還すことができれば……“はね”の力を、取り戻せるかも……!」

 

 ああ、そうだ。

 そもそもの暴走の原因は彼らがホウオウより肉体を──力の一部を奪い、その完全性を損ねたがたゆえ。

 ならばホウオウを鎮めるため、彼らの奪ったものを“はね(ホウオウ)”に還すのは当然の帰結である。

 果たしてショウの呟くような言葉に、コギトは三日月のような微笑みを浮かべ、言った。

 

「──なるほどのう。ホウオウの怒りは彼奴等の犯した罪が発端。彼の神に寛恕(かんじょ)を願うならば、その罪を雪がせるは道理よ」

 

 コギトは続ける。

 

「彼奴等が喰らった(奪った)ホウオウの一部は呪いとなって彼奴等の内に残っておる。それを祓い清め、“はね”へと移し替えることができたなら……“はね”は正しく輝きを取り戻すであろう」

 

 “折しも彼奴等の身柄はそなたの手の内にあるしのう”、そういって再びコギトは微笑んだ。

 

 コギトの言う通り、事の発端となった三聖獣たちはショウによって捕らえられている。そしてホウオウの力の器たる“はね”もまたショウの手にある。

 必要な要素はすでに揃っているのだ。あとは……。

 

「どうやって彼らの呪いを“はね”に移せば……」

 

 いかにして彼らの“呪い”を“はね”へと移すのか、だ。

 なにせ相手は「呪い」などという概念的な代物。いかにして取り扱うのか見当もつかない。そもショウはポケモン捕獲の達人といえども、そこまで高い学識を持ち合わせている訳ではないのだ。ましてや祈祷や呪術といった特殊な知識など、持ちうる筈がなかった。

 と、頭をひねるショウに助け船を出すかの如く、コギトが再び口を開く。

 

「荒ぶるポケモンを鎮めるため、力を示すのはヒスイの流儀。じゃが、彼の者は異郷の神。異郷には異郷のやり方というものがある。……そうであろう、デンボク殿?」

「……え?」

 

 そういってコギトが水を向けたのは先より沈黙を保っていたデンボクであった。

 釣られるように部屋内の視線が一斉にデンボクへと注がれる。果たして四人分の視線を一身に浴びたデンボクはしばし考え込むような仕草をした後、(おもむろ)に口を開いたのであった。

 

「──“歌”と“舞”か」

 

 デンボクが呟いた言葉、“歌”と“舞”。

 それだけでは此度の一件と何のかかわりもないような単語である。しかしデンボクの故郷(ジョウト)において、それは「神」と強く結びついた言葉であった。

 

「ホウオウは我が故郷にて「神」として祀られしポケモン。そして我が故郷──ジョウトには幽世(かくりよ)に座す神を、巫女が“歌舞音曲(かぶおんぎょく)”──即ち、音楽と踊りを以て現世(うつしよ)勧請(かんじょう)するという伝統がある」

 

 デンボクの故郷……条都(ジョウト)において、神事には歌と舞が不可欠なもの。

 そしてホウオウはジョウトにおける「神」である。ならばコギトの言う異郷の流儀とはこれ以外になかろう。

 

「“歌舞音曲(かぶおんぎょく)”の中には荒ぶる神の御霊を慰め、鎮めるためのものもある。可能性があるとするならば恐らくこれであろう」

「……!! それじゃ!!」

「だが、これはあくまでも我が故郷に伝わりし「伝統」に過ぎぬ。果たして本当に有効なのかは分からぬぞ」

「……そんな」

 

 そう、いかにそれらしき儀礼であったとて、デンボクが語ったのはあくまでも「伝統」。それが此度の件を解決する手立てと成り得るかは分からないのだ。

 垣間見えた希望に再び立ちふさがった重苦しい現実。ショウは思わずして俯きかけた。 

 

 ──だが、しかし。

 

「──ああ、だがそうだな。試してみる価値はあるか」

「──え」

 

 次の瞬間、デンボクの思わぬ言葉に弾かれたように顔を上げた。

 

「ですが団長、先ほど“有効なのかは分からない”と仰って……」

「うむう、その通りではある。だが我らに残された手立てはごく少ない。ならば試せるものは何でも試してみるべきであろう。……それに、いかに眉唾であろうとも犠牲を出さずに済む可能性があるのだ。それだけでも執り行うだけの価値はある」

 

 デンボクは言う。

 犠牲を出さず皆が助かる可能性がある、それだけでも儀式を執り行う価値はあると。

 

 その時、何かを思いついた風にデンボクが“ああ”と呟いた。

 

「ああ、そうだな。せっかく執り行うのならばいっそムラの皆も呼んで盛大に催すか」

「──ほほう、つまりは“祭り”という訳じゃな」

「……うむう、そうですな。神を祀り鎮める儀礼ならば、その催しは賑賑(にぎにぎ)しくなくては」

 

 “祭り”とは即ち“祀り”。神を迎えんとするならば盛大なる歓待もって持て成すがジョウトの流儀である。

 しからば辛気臭い雰囲気はご法度。せっかく招いた客神(きゃくじん)を興ざめさせるなど以てのほか。

 ましてや荒ぶる御霊を鎮めんとするならば、その催しはひと際に賑賑(にぎにぎ)しく──そして和和(にぎにぎ)しくなくてはならない。

 

「そういうことなら、旦那。コンゴウ団(俺たち)も協力するぜ! せっかくの祭りなんだ、派手にやろうや! ──それに俺はカイと違って太鼓も叩けるしな!」

「私だって笛が吹ける!! ──デンボクさん! シンジュ団(私たち)も協力するよ! 壊滅しかけた里を救ってくれたご恩、ここでお返し申す!」

「ふう……ならばわらわは舞台の設えに手を貸そうかのう。なに、ヒスイとシントの神祭(かみまつり)ならば心得がある。ああ、ついでに此度に相応しくなるよう多少の“あれんじ”も加えてやろう」

「うむう、ならば決まりですな」

 

 ある意味では自暴自棄、やけくそ染みたとも言えるこの策。

 しかし、避けられぬ数多の犠牲に思い悩むくらいならば、いっそ“全てを救える”僅かな可能性に賭けるのも悪くない。

 それにいかな方法を選ぼうとも失敗すればどのみち死ぬのだ。ならば苦しみながら死ぬよりも楽しみながら死ぬ方がまだマシであろう。

 その考えに共感したかは分からぬが、両団の団長もまたこの策に賛同し、催しはとんとん拍子に決まっていく。

 

「あ、あのぅ……!」

「うん?」

 

 と、その時である。

 話を進める四人を遮るように、ショウがおずおずと手を挙げる。

 

「どうした?」

「はい、その“歌”と“舞”の儀式についてなのですが……えっと、音楽の方はセキさん、カイさんが担当されるとして……踊りの方はどなたが担当されるのでしょう?」

 

 ショウの発した問い。それは“舞”をどうするかというもの。

 此度の()()において“歌”と“舞”は欠かせぬもの。歌の方はセキとカイに任せるとして、肝心の“舞”を舞う巫女役は一体誰が務めるのか。

 ある意味当然ともいえる彼女の疑問。果たしてそれを受けた四人は互いに顔を見合わせ──。

 

「お前しかおるまい」

「ショウしかいねえだろ」

「ショウさんしかいないよね」

「そなたしかおらぬのう」

「……え?」

 

 異口同音に、そう答えたのであった。

 

「ええ!? む、無理ですよ!? だって私踊り方も知らないですし……!!」

「うむう、それなら心配するな。神前に捧ぐ“舞”ならば私が伝授しよう。時間がない故に即席であるが……なに、祭りの準備が整うまでにはそれなりに見れるものにはしてやろう」

「デンボク団長が!? ──いえ、でも、団長はまだお怪我の方が……!」

「杖を突けば歩ける程度には回復している。教える分には問題ない」

「で、ですが……!」

 

 舞を奉ずる巫女として白羽の矢が立ったことに動揺し、慌てて固辞しようとするショウ。しかし、退路を断つが如く他の三人もまた口々に言葉を投げていく。

 

「そも……ホウオウの器たる“はね”を手にし、災いの獣たちを手中に収めたのは他ならぬそなたじゃ。ならばこの役割、果たせるのはそなた以外におるまい」

「コギトさん……」

「”巫女”ってからにはその役割は妙齢*1の女が務めるもんだろ? 男のオレにその資格はねえし──それにこっちの脳筋(カイ)にゃそんな繊細な役なんぞこなせる訳ねえしな」

つくづく失礼な奴だな!! ──んんっ! そこのバカ(セキ)の言うことに賛同する訳じゃないけど……でも、やっぱりこの役に相応しいのはわたしじゃなくてショウさん(ヒスイを救った英雄)だと思うんだ」

「セキさん……カイさんも……」

 

 口々に放たれる自ら(ショウ)こそが適任であるという言葉。寄せられる信頼と期待を前にもはやショウに断るという選択肢はなかった。

 

「分かりました……巫女の役割、務めさせていただきます」

「うむう。では後ほど外の訓練場に来るがよい、私が“舞い”の稽古をつけてやろう。セキ、カイは各々の団へと周知を。コギト殿は各隊長との面通しもあります故、私と同行をお願いいたす」

「おうよ」

「分かったよ、デンボクさん」

「ふう……よかろう」

「かたじけない。では参りましょうぞ」

 

 話合いを終え、各々自らの役割を果たすべく次々と部屋を後にしていく5人。

 そしてショウもまたこの部屋を後にしようとした、その時。

 

「──ああ、そうだ。ショウ、お前にもう一つ頼みがあるのだが」

 

 デンボクからとある頼み事をされたのであった。

 

「シャロンを呼んできてくれるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エクストラ任務

舞うは錦、奏でるは鎮魂の調べ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コトブキムラ、ギンガ団本部前広場。

 

 先の襲撃により再建中の本部前に、大勢の人々が集まっていた。

 炎上により幾分か広くなった広場にはあちらこちらに野点傘と縁台が設けられており、集った者たちはみな思い思いに腰を掛け、供される茶や料理に舌鼓を打つ。

 広場にはまた多くの柱が建てられ、懸けられた無数の提灯が人々の顔を照らし出していた。

 

 さながら祭りのごときその様相を呈する広場。

 広場に集った人々の大半はコトブキムラの住人であったが、中にはコンゴウ団やシンジュ団の団員服を身に纏う者もいる。

 種々雑多ともいえる彼らであるが、共通しているのは祭りを楽しみつつも、みな不安と期待、そして好奇心がないまぜとなった表情を浮かべていることだろう。

 

 何ゆえ彼らは集ったのか。その原因は、各団長より通達されたとある告知にあった。

 

 “来る○○日にコトブキムラ広場にて演舞を執り行う。観覧者には飲食物も提供されるため皆こぞって参加されたし”

 

 その知らせに「この異常事態の只中に何故そのようなのんきなことを」と不安を覚えた住人らであったが、続けて“此度の異変を解決するための秘策である”と聞き及んだことで、半信半疑に思いつつもこうして指定に日時に集ったという訳である。

 

 そんな彼らが視線を注ぐのは、広場の中央に設えられた檜舞台。

 告示にある通り演舞するためであろうその舞台には、何やら見慣れぬ紋様のようなものが描かれていた。

 

 

 紋様は複数の図形が組み合わさって形作られていた。

 最も外側は巨大な三角形となっており、その中にはこれまた巨大な円形が描かれる。

 そして大円形にはさらにの弧となる部分と重なるよう三つの小円が配されていた。

 

 ──集った人々は預かりしらぬことであるが、舞台に描かれたこの大三角、大円、小三円の紋様は古代シンオウ人に伝わる、宇宙の在り方を示した図像であり……かつてシントの地において「みつぶたい」と称された、偉大なる神を祀る舞台(ステージ)に描かれた紋様であった。

 大三角は人間が住まう宇宙(せかい)そのものを、大円は万物の源たるアルセウス(シンオウさま)を、小三円はアルセウスの分身たる世界を支えるポケモンたち──ディアルガ(時間を司るもの)パルキア(空間を司るもの)ギラティナ(反物質の王)をそれぞれ現し、円の内側には各々神を象徴する独特の紋様が描かれる……それが、本来の「みつぶたい」だ。

 だが、しかし。此度の舞台において円内に描かれし紋様は()()()()()()()()()()()()。三小円に描かれたのはそれぞれ「燃える炎」、「閃く雷」、「流れる水」の紋様。そして中央の大円に描かれたのは──「翼を拡げ舞い降りる(おおとり)」の紋様。

 そう。此度設えられた「みつぶたい」はヒスイ(シンオウ)の図像の内に、ジョウトの神々が配された……二つの宇宙(しんわ)折衷し混交(シンクレティズム)した曼荼羅。コギトによって用意された異郷の神(ホウオウ)を鎮めるための神楽殿であった。

 

 

 ──とはいえ、集った面々がかような事情を知る由もなく。

 ただ告示にて伝えられた演舞がいつ始まるのかと、気もそぞろに待つのみであった。

 

 と、その時。

 

「──うむう。皆、よく集ってくれたな」

 

 宴もたけなわの雰囲気となった広場に、よく通る声が響く。

 放たれたその声に、人々の視線が一斉に舞台へと注がれる。

 視線の先には壇上に立つ複数の男女の姿。コンゴウ団団長セキ、シンジュ団団長カイ、そしてギンガ団団長デンボクである。

 

「先の告示において伝えた通り、これより異変解決のための演舞──“鎮魂の舞(たましずめまい)”を披露する。皆、気負うことなく楽しんでいってくれ」

 

 その一言に会場にざわめきが起きる。

 何せ件の演舞が中々始まらぬことにいい加減不安を覚えてきたところ。ようやく告げられた開始の合図に、いよいよかと期待が高まるのも当然であった。

 

「──だがその前に気になっている者も多かろうゆえ伝えておこう。なぜ、此度このような催しを開いたか」

 

 しかし、デンボクの放った次の一言によって会場が静まり返る。

 同時に、空気に混じる不安と好奇の気色。無理もない、彼の言葉は集った人々にとっては最も気になる部分であったのだから。

 

「皆もよく知っているだろうが、いまヒスイは未曾有の危機にある」

 

 そう言うと、デンボクは手をスッと伸ばし──漆黒の大穴が鎮座する、天冠山の頂を指さす。

 

「見えるだろう。天冠山の頂に座す、あの黒い太陽が。このまま手を(こまね)いていれば、やがてあれの吐き出す死滅の黒靄によってヒスイは覆い尽くされ、滅ぶ──それが、我らの出した結論だった」

 

 コギトより示された齎された最悪の、そして最も訪れる可能性が高い未来。

 デンボクはそれを包み隠すことなく明かしていく。

 

「この時点で残された選択肢は二つ。即ち、危険を承知でヒスイより逃げ出すか、それとも座して滅びを待つか。……言わずもがな、座して滅びを待つことなど出来ぬ。だが、逃げれば確実に多大な犠牲がでるだろう。それを甘んじて受け入れるのか」

 

 座して滅びを待つべきか、犠牲を覚悟に逃げるべきか。

 だが、例えどちらを選ぼうともヒスイ地方の滅びは避けられぬ。

 ──故に彼らが選択したのは、第三の選択肢(みち)

 

「──我らはどちらも選ばなかった。例えどれだけ可能性が低くともヒスイの“滅び”を回避する。最後の最後まで“滅び”に抗い続ける。その道をこそ、我らは選択した」

 

 例え無駄骨に終わろうとも。例え無意味に終わろうとも。

 最後の最後、その命が尽きるまで“滅び”に抗い続けること。それをこそがデンボクの、カイの、セキの……彼らの決断であった。

 

「その上で我らが見出した策こそが、此度の“鎮魂の舞(たましずめまい)”。“滅び”の元凶たるホウオウの怒りを鎮め、その魂を慰める儀礼である」

 

 刹那、デンボクはニヤリと口角を上げる。

 

「──ああ、そうや。ちょっとばかり姿は変わっとるが……天冠山の()()は紛れもなく“ホウオウさん”や」

 

 彼の口より発せられたのはギンガ団団長デンボクとしての厳格な言葉使いではない、ヒスイに来てより滅多に使うことのなかった素の口調による言葉。

 ただ一人の“デンボク”という人間の言葉であった。

 

「今のホウオウさんは怒りすぎて我を忘れとる。やったらキチンとお祀りしてその怒りをお鎮めするんがジョウトの流儀ちゅうもんや。せやろ?」

 

 デンボクの放った一言に、集った面々のあちらこちらから笑いと賛同の声が上がる。

 声を上げたのはおそらくデンボクと同郷の者たちなのだろう。彼らはまた他の地方出身者たちにデンボクの言わんとすることの意味を伝えているようであった。

 

「ま、言いてえことは旦那が大体言っちまったんだが……。ああ、俺たち(カミナギの民)がヒスイを捨てるなんてありえねえよなあ!?」

 

 次いで、壇上にて声を上げたのはコンゴウ団リーダー・セキである。

 

「それに旦那の話によりゃあ、ホウオウってのは遥か彼方の異郷からやってきた神様だっていうじゃねえか。だったらここは俺たちの信仰をいっちょ異郷の神さんに見せつけて、疾くお帰り願おうや!」

 

 セキの掛け声に集ったコンゴウ団の面々から「応!」と声が上がった。

 

「コンゴウ団に賛同する訳じゃないけれど……でも故郷(ヒスイ)を見捨てて逃げることなんてできないのは、シンジュ団(私たち)だって一緒だ!」

 

 セキが口上を終えた後、口を開いたのはシンジュ団の長・カイ。

 

「ヒスイは私たちの土地! みんなと一緒に生きる大切な場所! それをどこのウマのホネとも知れない異郷の神なんかに奪われてたまるもんか!」

 

 “それに……!”、カイは続ける。

 

「デンボクさんたちは苦境に陥った私たちを二度も(たす)けてくれたんだ!! だったら今こそ、その御恩をお返しする時!!」

 

 「そうだよね!?」、とカイが呼びかければ集ったシンジュ団の面々から「応とも!」と声が上がる。

 

 三団の長の呼びかけに、場に残っていた不安が一挙に払拭される。

 代わって場に満ちたのは図り知れぬ使命感と希望。これより始まる儀礼はヒスイを災厄を退け、滅びの未来を変えるための重大なる一手。

 “自らがその一端を担うのだ”──その思いが会場を満たし、場の空気はこれ以上なく高揚している。

 儀式を執り行うのにまさしくうってつけのタイミングであった。

 

 果たしてデンボクはその機を逃さず、セキ、カイの両名に合図を送ると自らは舞台よりサッと降りる。

 此度の舞台、デンボクの役割はあくまでも前座。役割を終えたならば疾く主演に舞台を譲るが当然。

 そしてセキ、カイもまた各々の持ち場たる舞台の両端へと移り、その手に(ばち)を取りあるいは笛を咥える。

 二人の役目は音楽の演奏。演舞を盛り上げ、主演を導く添え役であった。

 

 セキが手にした(ばち)を打ち下ろす。

 ドオン、と腹に響く太鼓の音が鳴る。

 

 カイが咥えた笛に息を吹き込む。

 ヒョウ、と耳に優しき笛の音が響き渡る。

 

 金剛の如く力強く、真珠の如く柔らかな音色。

 広場に響く美しき旋律に、集った人々はうっとりと耳を傾ける。

 その刹那──。

 

 

 ──シャン……

 

 

 澄んだ鈴の音を響かせて、舞台に美しき乙女が進み出た。

 

 舞台に上がりし乙女の姿を一目見て、集った面々は皆思わず息を呑む。

 乙女の纏うは艶やかなる臙脂の衣、それはさながら紅葉の錦をちりばめたが如く。

 衣に映えるつややかな黒髪は後頭部にて一つに束ねられ、金の簪にて飾られる。

 唇には鮮やかな紅が差され、その整った顔立ちを殊更に引き立てていた。

 

 その美しき姿にて面々の視線を引き付ける彼女こそ、此度の演舞の主演。

 その手に結わえた“とうめいなスズ”を再びシャンと振り鳴らし、乙女はくるりくるりと舞い始める。

 

 舞台上にて舞い踊る乙女の姿に見惚れる観客たち。

 その時、一部の者たちは彼女の姿に見覚えがあることに気が付いた。

 

「……って、あれ? もしかして、あれショウか!?」

Wow(ワオ)! ショウくんとても綺麗なのです!」

 

 そう、いま舞台にて演舞を披露するはギンガ団調査隊所属団員にして、先の異変にてヒスイを救いし英雄……ショウに他ならぬ。

 

 彼女の普段の素朴かつ闊達な姿とはあまりにも異なる艶やかな姿。

 それを目の当たりにしたある者は思わず目を丸くし、またある者は素直に感嘆の声を上げる。

 

 そしてある者は──。

 

「おい、デンボクよ」

「……ムベか」

 

 客席にて“鎮魂の舞(たましずめまい)”を披露するショウの姿を眺めながら、ムベはデンボクに話しかけた。

 

「良かったのか? あの鈴と衣装……あれはお前の──」

「──良いのだ」

 

 その先を続けんとするムベを制するようにデンボクは言葉を紡ぐ。

 

「……私が後生大事に持っていたところであれらは日の目も見ずに朽ちていくだけ。ならばこの期に生かしてやるのが一番の供養よ」

「……そうか」

 

 そう、壇上にて舞うショウの鈴と衣、これらを用立てたのは他ならぬデンボク自身。

 特に衣装の方は儀式に間に合わせるため、シャロンに無理を言って仕立て直させたのだ。

 

 ──果たしてそんな古き友(ムベ)との語らいが切欠となったか。

 デンボクの脳裏にふと、色褪せぬ()()との思い出が蘇る。

 

 アレとの出会いはエンジュの都の歌舞練場だった。

 舞台にて舞うその姿に惚れ込んで、必死になって口説き落としたのだ。

 思い叶って結ばれた後も、あの衣装と鈴だけは決して手放さなかった。

 “娘が産まれたら継がせたいの”……そう言って結婚してからも踊りの練習も続けていたことを覚えている。

 ──それこそ付き合わされた自分が踊りを覚えてしまうほどに。

 

(──ああ、そうか)

 

 その時、ふと気が付く。

 舞い踊るショウの姿に覚えていたかすかな既視感の正体。

 そうだ、ショウの動きは記憶にあるアレの動きと瓜二つなのだ。

 此度、ショウにあの“舞い”を伝授したのは自分(デンボク)。そして自分が覚えている“舞い”は紛れもなく彼女のもの。

 ならば気づかぬ内に彼女の“舞い”の癖がショウに伝わったとて不思議ではない。

 

(──それにしても)

 

 と、デンボクはそこで抱いた既視感に納得を覚えつつ──しかし同時に疑問も抱く。

 

(何やら随分と上達しておるな)

 

 此度の演舞は急遽に催され、突貫で準備がなされたもの。

 故に準備時間は短く、ショウへの伝授も本当に最低限とならざるを得なかった。

 それでも何とか見れる程度にはしたのだが……正直なところ稚拙の域を出ない出来であった筈だ。

 

 だが、今はどうだろう。

 舞台上に立つショウの“舞い”は一切淀みのない見事なものだ。

 それこそデンボクが思い出のそれに瓜二つと思うほどに。

 

 とはいえ、今更そのようなことを思ったとて詮無きこと。

 理由の如何はどうあれ上手となったとであれば、それにこしたことはない。

 かくてショウの突然の上達に頭を捻りつつも、デンボクは佳境に入った“鎮魂の舞(たましずめまい)”を静かに見守るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(不思議……) 

 

 舞台上にて迷いなく体を動かしながら、ショウは内心で独り言ちる。

 

(練習の時はあんなに上手くいかなかったのに……)

 

 此度の儀式に巫女役として臨むにあたり、ショウはデンボクより踊りの指南を受けていた。

 が、何ぶん時間が足りぬ中での突貫練習。伝授はどうしても限定的なものとならざるを得ず、何とか最低限見れる程度の出来栄えで指南を終えることとなったのだ。

 その後も演舞の始まる直前まで練習を続けたものの、それでも素人臭いぎこちなさは払拭できぬまま、とうとう開幕の刻限(タイムリミット)を迎えてしまう。

 かくてここに至ってはもはや致し方なしと腹を括り、ショウは本舞台に臨んだのであった……が。

 

 その時、不思議なことが起こった。

 

 

 ──シャン……

 

 

 覚えた振り付けの第一、手にした“とうめいなスズ”を振り鳴らしたその刹那。

 突如として、彼女の体が何かに引かれるように動き出したのだ。

 

 それはある意味で無意識にも近い、夢遊するような感覚。

 どこか茫洋とした夢見心地のまま気が付けばショウは伝授された“鎮魂の舞(たましずめまい)”を舞い踊っていた。

 ──それも、つい先ほど比べ物にならぬほどの完成度で。

 

 舞い踊る手足は流れる水が如くに淀みなく。まるで体に染みついたかのようなごく自然な動きで舞いを続けるショウ。

 それはまるで自らの身体が自らのものでなくなったようであったが、しかし不思議と嫌な気分はしない。むしろ楽しい夢を見ているようでどこか心地よくさえ感じられる。

 我が身を支配する奇妙な感覚を不可思議に思いつつも、ショウは陶然としてそれに身を委ねるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神降ろし、口寄せ……いや、記憶の想起と言ったところかのう。ふうむ……」

 

 “湖の三神が何がしか仕掛けたか?”、コギトは首を傾げ呟く。

 舞台上にて舞い踊るショウの姿はデンボクから伝え聞いた拙さとは無縁の、流水が如く見事なもの。

 まるで熟練の踊り子が乗り移ったかのような様相にコギトは思わず湖の三神の関与を勘ぐるも……すぐに“まあ、どうでもよいか”と捨て置いた。

 重要なのは儀式の推移そのもの、それ以外は全て些末事。そして理由はどうあれ儀式は順調に進んでいるのだ。ならば何も問題はない。

 演舞は佳境を疾うに過ぎ、いよいよもって仕舞いに至らんとしている。そろそろ()()の出番も近い。

 

 コギトは手元に置いた三つの紫の球体(マスターボール)を見る。儀式の始めにあっては沈黙を保っていたそれは今、微かに震えているように見えた。

 

「──そなたらにも感じ入るものがあったか」

 

 震える球体(ボール)の表面をなぜながら、その内にある者たちへ語り掛けるようにコギトは言葉を紡ぐ。

 

「そなたらが犯したのは許されざる大逆の罪。じゃが、そこにはそなたらなりのやむにやまれぬ事情があったのも事実」

 

 赦されよ。赦されよ。

 我らが罪を赦されよ。

 

「すでにそなたらは千の刻に渡り塗炭の苦しみを味わった……もう罰は十分に受けていよう」

 

 贖いを。贖いを。

 我らの罪に贖いを。

 

「しからばそなたらが奪ったものを潔く還し、あの者の為すべき使命に助力せよ。それこそがそなたらの罪を雪ぐ、贖いとなろう。──さあ、行け」

 

 

 ──シャン……

 

 

 刹那、演舞の終幕を告げる鈴の音が響き。

 ──そして舞台に最後の役者が降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──シャン……

 

 

 澄んだ鈴の音が響き渡る。

 “鎮魂の舞(たましずめまい)”最後の振り付けが終わり、水を打ったように静まり返る広場。

 笛、太鼓の奏でる旋律は止み、最後の鈴音の余韻のみが残っていた。

 

 そんな中、“舞い”を終えた姿勢のまま舞台上にて残心するように瞑目していたショウ。

 その時、トンという軽い音を立てて、何かが舞台上へと降り立ったことを感じ取る。

 

 彼女が閉じていた眼を再び開くと、果たして目の前には異形なる三匹の獣──呪われし三災獣の姿があった。

 

「ライコウ……スイクン……エンテイ……」

 

 ヒスイに災厄をまき散らし、キングをも下さんとした三体の恐るべき伝説のポケモンたち。

 いかに捕獲したとはいえど、無防備の状態でそのような存在と至近にて相対する……常であれば恐怖で覚えたであろうこの状況。

 しかしながら、ショウの心に一切の畏れはない。

 なぜならば彼らの瞳に先の狂気の色はなく──代わって穏やかな理性の光が宿っていたのだから。

 

(ああ、そうか)

 

 眼前に並ぶ彼らを見て、ショウは気が付く。

 彼らの瞳に映っているのはどこまでも深い慙愧の念。

 彼らは自らの過ちを悔い、その罪を贖おうとしている。

 

 その事実を理解した瞬間──無意識の内に言葉が彼女の口を衝いて出た。

 

 

『あなた達の罪を赦します』

 

 

 それは果たしてショウの自身の言葉であったのか。

 

 

『さあ、お還しなさい』

 

 

 それとも彼女の口を借りた、何かの言葉であったのか。

 

 

『そして共に()きましょう』

 

 

 判然としては知れぬ。

 

 

『迷い惑うわたしの下へ』

 

 

 ただ、その言葉を聞き及んだ獣たちは神に拝するかの如く深々と頭を垂れる。

 そして天を仰ぐと、長い長い咆哮を上げるのであった。

 

 

 ──ららいいぃぃぃ……!

 

 

 ──すすいいぃぃぃ……!

 

 

 ──ええいいぃぃぃ……!

 

 

 四方全てに響き割るような、悲しくも力強い遠吠え。

 まるで自らの内に巣食う呪いを吐き出すかのように、それは長く長く続く。

 

 その時、彼らの鳴き声と呼応するかの如くショウの(ふところ)より、一枚の“はね”が飛び出した。

 

「……あっ」

 

 瞬間、中空に浮かぶその“はね”より目の眩むような輝きが発せられる。

 

「──ッ!」

 

 視界を焼く強烈な輝きに、思わずして目を細めるショウ。しかしなぜだろうか、不思議と“はね”の色だけは手に取るように分かった。

 

「……! “はね”が……!」

 

 刹那、光に包まれた“はね”の色彩がみるみる内に変わっていく。

 

 色褪せくすんだ灰色は、炎のような真紅へと。

 炎のような真紅は、夕暮れを思わせる黄金へと。

 

 そして夕暮れを思わせる黄金は──

 

(あれ、は)

 

 ──大空を彩る、鮮やかな虹色へと。

 

 やがて周囲を照らしていた輝きが止み、ショウの差し出された手のひらへゆっくりと“にじいろのはね”が舞い落ちる。

 

「成功した……?」

 

 舞い落ちた極彩色の“はね”を手に呆然と呟くショウ。

 手にした“はね”は先ほどまでの色褪せた姿から一変、美しい虹色の輝きを放っていた。同時にその内には清澄にして神聖なる力が満ち満ちており、それは正しく三災獣より“はね”の力が取り戻されたことを示していた。

 ショウたちの仕掛けた乾坤一擲の賭けは無事成功したのだ。

 

「──ッ! 光が……!」

 

 刹那、手中の“はね”の放つ輝きが収束し、やがて一筋の光となって天の一点を指し示す。

 光が示すのは遥かヒスイの中心。天冠の頂に浮かぶ、暗黒の太陽であった。

 

「空を、指して……?」

「──ふう、無事儀式は“()”ったか」

「コギトさん?」

 

 その時、壇上のショウへ声を掛ける者が一人。

 振り返ってみればそこには黒いドレスを纏う貴婦人……コギトの姿があった。

 

 壇上へ上がったコギトはショウの手元、虹色の輝きを放つ“はね”を見遣り目を細める。

 

「──ふふ、懐かしいのう。ああ、この輝きこそあたしの知る“にじいろはね(ホウオウの器)”に他ならぬ」

 

 どこか感慨深げな様子でそう呟くコギト。

 言葉尻に僅かな郷愁をにじませつつ彼女は続ける。

 

「“にじいろのはね”はホウオウより分かたれた力の欠片。そして失われた力が取り戻された今、“はね”は大元へと還ろうとしている。……さあ、身支度を済ませ彼ら(三災獣)とともに光の指し示す先へと向かうのじゃ。その先に──荒ぶる神(ホウオウ)が待っていよう」

「──! はい!」

 

 此度の儀礼により、三災獣によって奪われたホウオウの欠片は“にじいろのはね”へと取り戻された。

 ならば後は取り戻された欠片を還し、荒ぶる祟り神と化したホウオウを鎮めるのみ。

 

 歌舞音曲による歓待はジョウトの流儀。これによって(にぎ)なる御霊は降ろされた。

 故に──これより先はヒスイの流儀。荒ぶる御霊を鎮むべく、力を示す時だ。

 

 コギトの言葉に力強く頷き、ショウは駆け足で舞台を降りる。

 ──待ち受ける戦神楽に備え、己が装束を改めるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “鎮魂の舞(たましずめまい)”よりしばし後。

 コトブキムラ表門にて。

 

「それでは、みなさま。行って参ります」

 

 艶やかな舞台衣装から常の調査隊制服へと装いを改めたショウ。

 決戦の準備を済ませ表門にやってきた彼女は、見送りに集った面々の顔を見ながら言った。

 

 対し、集った面々もまたヒスイを救うため荒ぶる神に挑まんとする彼女へと激励の言葉を送る。

 

「調査隊のー! 頑張ってくれー! 応援してるぞー!!」

「あんたならきっとできる! 何せ一回似たようなことやってるからなあ!!」

「こんな空じゃあ洗濯物だって乾きゃしない! さっさとお天道様を取り戻しておくれよ! この前みたいに、さ!」

 

 コトブキムラに住まう人々が。

 

「ショウ……。だ……大丈夫だ、俺は信じてるぞ! お前ならやれるって!」

「テル君、その顔じゃ逆に不安になるのです! 笑顔、笑顔なのです! ……ショウ君! キミはボクたち調査隊の誇りなのです! だから、”Be confident(自身を持って)”! キミなら絶対成し遂げられると、ボクたちは信じているのです!」

「命令する……必ずや、生きて帰還せよ。キミは調査隊に不可欠な人員、未帰還は決して認められない」

 

 調査隊の仲間たちが。

 

「正直なところ……こうやってあんた(英雄)に頼りっきりになっちまってるのは、カミナギの民(ヒスイに住まう者)として情けねえと思ってる……」

「自分たちの大切な場所を自分たちの手で守れない……口惜しいよ」

「「それでも、どうか……」」

「オレたちの暮らしてきた、このヒスイ(じかん)を──」

「わたしたちの住む、このヒスイ(くうかん)を──」

「「守ってくれ/ください」」

 

 セキが、カイが。

 

「ふぅ……アレ(ホウオウ)は還るべき場所を見失い、永遠にさまよい続けておる。死ぬことも、生きることも出来ず……終わりなき苦痛に苛まれながらのう──何とも、憐れなことじゃ」

「そなた、終わらせてやってくれ。彼奴の苦難に満ちた放浪を。果てなき呪いの輪廻を」

 

 カミナギの巫女(コギト)が。

 そして──。

 

「──ショウ」

「団長……」

 

 かつて嫌疑の者として村より追放した少女を、此度は英雄として送り出す事実に感慨を覚えつつ。

 デンボクが放ったのはただ、一言。

 

「──行ってこい」

「……はい!」

 

 果たしてその言葉を最後に、人々へ背を向け表門をくぐったショウ。

 門をくぐった先、待っていたのは自らに(とも)する三匹のポケモン──呪い解かれし三災獣たち。

 

「ライコウ、スイクン、エンテイ……」

 

 ──ひゅらら……!

 ──どしゅしゅい……!

 ──がえええい……!

 

 現れたショウの姿を見とめ、“来たか”とでも言うかのように鳴き声を上げる三匹。

 次いで、三匹の内の一匹──エンテイが姿勢を()くめ、ショウに視線を飛ばしながら“がえん”と一声発した。

 ──さながら、”乗れ”とでも言うかのように。

 

「エンテイ……うん!」

 

 彼の意図を察したショウはすぐさまにエンテイへと駆け寄り、その背に飛び乗るとたてがみをしっかと掴む。

 

「──行こう、天冠山へ!」

 

 果たして彼女の言葉を聞き及んだエンテイはそのままグッと四肢に力を込め──次の瞬間、風のような速さで大地を駆け出した。

 同時に同胞たるライコウ、スイクンもまたエンテイの後に続き、ヒスイの地を凄まじい速度で疾駆する。

 

 目指す先は遥か彼方、荒ぶる神の坐す天冠の(いただき)

 

 ヒスイの滅びを防ぐため。

 呪いの輪廻を断ち切るため。

 (とも)とともに英雄は征く。

 

 ──決戦の刻はもう、すぐそこだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日輪、蝕に沈み

災厄、天を覆う

 

黒靄、地を這いて

劫火、國を呑まん

 

主亡き神座は鳳の卓

 

いざ顕れん壊劫の翼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エクストラ任務

舞い降りる“伝説”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
年若いの意

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