Pokémon LEGENDS 三聖獣異聞録 神都秘邃百獣夜行   作:野傘

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3話連続更新その2
※その1をご覧になっていない方はそちらから先にご覧ください



盤古不易:建木、水災を塞ぐ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エクストラ任務

深緑の泥君

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ごぼぼぼ……ごぼぼぼぼ……

 

 ——『紅蓮の沼地』に不気味な水音が木霊する。

 

 場所は『ゴロゴロ坂』の近傍。

 『リッシ湖』より流れ落ちる滝壺に、蠢く深緑の影が一つ。

 揺らめくたてがみを広げ、周囲の水を吸い上げるそのポケモンは——ヒスイを襲いし異形の聖獣、深緑の毛皮持つスイクンである。

 

 彼の目的は次なる狩りに備え、消耗した水分を補充すること。

 滝壺の水を際限なく吸い上げ、時を追うごとにますますと深い藍色と変わっていくスイクンのたてがみ。

 同時に、色合いが深まるのと比例して滝壺の水位はみるみると下がり、ついには人間の腰ほどの高さまで干上がってしまう。

 

 やがて失われた水分が完全に取り戻され、たてがみの色合いは深淵の如き深い藍に染まる。

 そうして渇きを潤したスイクンが、次なる獲物——かつて取り逃がした忌々しき「神」の眷属を狩らんと、鼻先を向けた……その時であった。

 

 ——!!

 

 突如として感じ取った、突き刺さるような強烈な戦意。

 本能の鳴らす警鐘に導かれるままスイクンは瞬時にその場より全力で飛び退った。

 

 "早業"【エナジーボール】

 

 刹那、彼の立つ水面に若草に輝く弾丸が撃ち込まれ、水飛沫を上げてはじけ飛ぶ。

 意識の外側より叩き込まれた弱点(くさ)タイプの一撃。それが示すのは自らへの明確な敵対の意思。

 撃ち込まれた草の弾丸を避け、地上へと降り立ったスイクンは次いで【エナジーボール】が放たれた方角へと視線を飛ばし、そこに自らへ叛意を示した愚者の姿を捉えた。

 

 視線の先、見止めたのは巨大な影。

 大地を踏みしめるたくましい四足。身体を覆う頑健な甲羅。頬より白岩の棘を伸ばし、背部に木々や草木を生い茂らせる様はさながら「動く森」が如く。

 若草と土に彩られた、まさしく「大陸」そのものの威容を持つ陸王亀——その名も"たいりくポケモン"ドダイトス。

 ヒスイにおいては無双の剛力を持つ傑物と称えられ、遥か未来(シンオウ)においては始まりの三匹の一角とされる"くさ"のポケモンであった。

 

 

 ——どおおおるごおおお!!

 

 

 自らを見据える外敵を前に、地を踏み鳴らし猛り吠えるドダイトス。

 その時、スイクンは咆えるドダイトスの背に忌々しき「神」の気配を感じ取る。

 視線を僅かに動かせば、そこあったのは背に伸びる樹木に手をかけ立つ、ニンゲンの少女の姿。

 スイクンはその姿に見覚えがあった。

 

 あの姿、そしてこの気配……間違いない。

 あれは先の『天冠の山麓』にて、自らに屈辱を与えたニンゲンに他ならぬ。

 

 狩るべき獲物にまんまと騙され、同胞(きょうだい)たちと同士討ちを演じさせられた屈辱の記憶。

 耐えがたい恥の記憶が脳を過ぎり、スイクンの口から怨嗟の咆哮が漏れ出る。

 その恨み、憎しみに呼応するかの如く魂の奥底より叫びが響き、彼の精神をドス黒い衝動で染め上げていく。

 

 

 贄を贄を。疾く贄を。

 贖え贖え。汝が罪を。

 我が恨みを、我が憎しみを、その血で以て雪ぐべし。

 

 

 心内を埋め尽くす狂気の叫び。

 湧き上がる衝動のまま、スイクンは眼前の仇を仕留めるべく己が狩場を展開した。

 

 

 ——どしゅるるる……どしゅすいいいいい!!

 

 

 濃藍のたてがみを"ぶわ"と拡げ、自らの足元へと突き立てるスイクン。

 瞬間、彼の立つ大地が俄かに湧きたち、周囲一帯が泥の大海へと変わる。

 

 展開された泥の海は一度沈み込めば容易に抜け出せぬ底なしの(トラップ)

 創造主たるスイクン以外の存在を一網打尽とする、彼にとっての狩りの庭である。

 

 

 ——どるしゅおおお!

 

 

 依り立つ大地が泥濘に変わり、ドダイトスの四肢が柔い泥土へと沈み込む。

 これなるは獲物を確実に屠るための殺しの間。一たび囚われれば脱出困難な泥濘の牢獄である。

 次いでスイクンは身動きのとれなくなったドダイトスをなぶり殺しにせんと、前脚を泥濘に叩きつけた。

 

 

 "早業"【どろばくだん】

 

 

 地面が沸き立ち、作り出された泥弾がドダイトス目掛け降り注ぐ。

 果たして、泥濘に足を取られたドダイトスにこれを避ける術はなく。

 そのまま身動きできぬドダイトスの体を無数の泥弾が打ち貫いた——か、に思われた。

 

 

 盤古不易、揺ぎ無し。

 

 

 大地を覆い育むのは植物(くさ)の業。

 いかに大地が泥濘(ぬかる)めど、我が繁茂を留めるに能わず。

 

 

 ドダイトスの身体から新緑のオーラが溢れ出る。

 溢れるオーラは四肢を伝い泥濘に浸透、その水分を吸い上げ大地を急速に乾かしていく。

 堅頑強固なる四肢が引き抜かれ、乾いた大地をしっかと踏みしめた。

 

 前方を見れば迫り来る数多の泥弾。

 雨あられと降り注ぐそれらに、大地を統べる豪傑(ドダイトス)は己が刃を開帳した。

 

 

 "早業"【リーフブレード】

 

 

 振るわれる葉刃の閃き。巨体に似合わぬ素早い剣舞が降り注ぐ泥塊を次々と切り払う。

 気が付けばドダイトスへと迫っていた泥弾(【どろばくだん】)は全て切り裂かれ、バラバラと落下していた。

 

 ——!?

 

 獲物の動きを縛る狩猟領域にありながらその影響を取り除き、あまつさえ己が攻撃を捌いて見せた。

 有りうべからざる光景を前にスイクンは驚愕し、思わずして動きを止めてしまう。

 

 スイクンの意識に生まれた僅かな間隙。

 止まった時間はほんの瞬きの間。しかし、ほんの僅かであろうともそれが明確な"隙"であることは間違いない。

 ——そして、その隙を見逃すほどヒスイを救った英雄(ショウとドダイトス)は甘くない。

 

 

 "早業"【このは】

 

 

 ——どしゅううお!?

 

 瞬間、鋭い痛みが足先を貫き、スイクンはよろめいた。

 見れば足先にはドダイトスから放たれたのであろう、一枚の木葉(【このは】)が苦無の如く突き刺さっていた。

 

 さらに、ドダイトスの攻勢はこれで終わらない。

 スイクンがよろめき、体勢を崩したのを見るや片足を持ち上げ震脚。

 "じしん"とも見まごう衝撃で泥濘の地を揺り動かす。

 

 

 "早業"【じならし】

 

 

 ——ど、しゅ……るうううお!?

 

 

 痛みによろめいたところで間髪を入れずに放たれた【じならし】。

 完全に体勢を崩してしまったスイクンは堪え切れず泥濘に倒れ込んでしまう。

 自ら作りだした泥濘が頬を汚し、その事実にスイクンは耐えがたい屈辱を覚える。

 

 ——どしゅしゅいいいあああ!!

 

 すぐさまに立ち上がり、己を貶めた輩を誅殺せんと目をやったスイクン。

 だが、その瞬間——。

 

 

 ——ごおおおるううす!!

 

 

 "力業"【ウッドハンマー】

 

 

 ——がら空きだった彼の横腹を、渾身の大木槌(【ウッドハンマー】)が打ち抜いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「——決まった……!」

 

 

 轟音とともに泥濘に叩きつけられたスイクンの体が、弾けた泥によって覆い隠されるのを見てショウは独り言ちる。

 先の一撃は紛れもない致命の一打(クリーンヒット)腹部(きゅうしょ)を渾身の一撃で打ち抜かれたことで恐らくスイクンは"ひんし"寸前のダメージを負ったに違いない。

 感じた手応えから、そう確信を得るショウ。だが——。

 

 

(でも、これで終わりじゃない)

 

 

 同時に彼女はスイクンがこの程度で"ひんし"となるような生ぬるい存在でないことも、また確信していた。

 

 それは先のエンテイ、そしてライコウとの一戦を経て得た知見。

 三聖獣は追い詰められ命の危機に瀕したその時、恐るべき大技で以ってこちらを殲滅せんしてくる。

 その際に解放される力は正しく厄災。一たび振るえば地形すら一変させるほどの威力……直撃すれば死は免れない。

 

 しかし、そんな危険極まりない大技は一方でこれ以上にない好機でもあった。

 

 地形さえ変える大技はいかな三聖獣であってもすぐさま発動は難しいのか、繰り出す前には溜めが必須。

 そしてこの時、聖獣に許容量を超えるダメージを叩き込んでやれば制御しきれなかった力が暴発し大きな隙を晒すのだ。

 言ってしまえば『シンオウ神殿』でのシンオウ様との決戦と同じ——違いは用いるのが"シズメダマ"かポケモンの技か程度——ようなもの。

 

 ならば、経験者(ショウ)にやれない道理はない。

 

「ドダイトス、頼んだよ」

 

 ——どおおる

 

 スイクンが繰り出すであろう必殺の一撃に備えるよう、ドダイトスに促すショウ。

 対しドダイトスは全身より新緑のオーラを漂わせ、"任せろ"とばかりに一鳴きした。

 

 

「——ッ!!」

 

 

 その時である。

 ゾワリとショウの全身が総毛立つ。

 身に圧し掛かる桁外れの重圧。発せられる先を辿れば、そこには泥濘より咲き出でる一輪の青い花の姿があった。

 

 濃藍のたてがみを拡げ、泥海にたつスイクン。その様はさながら泥中に咲く蓮が如く美しい。

 しかし、美しささえも感じさせる立ち姿とは裏腹に、発される威圧はどこまでもおぞましいもの。

 四方にまき散らされる憎悪、憤怒、狂気……種々雑多の負の感情が混ざり合った汚泥の如き殺意。

 そして、その意に呼応するかのように地面がゴボゴボと沸き立ち始めていた。

 

 

 

 ——どしゅしゅいいいいいいいい!!

 

 

 

 刹那、咆哮とともにスイクンが前脚を泥濘に叩きつける。

 周囲の泥海が隆起し、小山ほどある泥の柱となって立ち昇る。

 それは濁流を内に秘めたシャボン玉が如く。

 破裂すれば大質量の土石を無差別に放出し、洪水となって遍く地上に襲いかかるであろう。

 

 

 其は地を押し流す水の厄災。

 なだれ落ちたが最後、地上の一切を呑み込む土石の波浪(マッドフラッド)

 ヒスイを襲う三災が一。冠されしその名は——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【すいさい・やまつなみ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来た……ドダイトス!」

 

 

 ——どおおごおお!!

 

 

 眼前にて隆起する泥の大海、それは紛れも無き大技の予兆。

 待ち望んだ機会にショウは躊躇なく、相棒へと声を掛ける。

 果たしてその声に応えるように、ドダイトスの周囲一帯へ新緑に輝くエネルギーが拡がっていく。

 

 

 

 

 ——どおおるごおおす!!

 

 

 

 

 刹那、拡がりし新緑が炸裂し、巨大な樹根となって空に伸びる。

 天をも貫く巨木の樹槍。それは遥か未来において、"草の究極技"と冠されし大技。

 その名を——

 

 

 

 

 

 

【ハードプラント】

 

 

 

 

 

 

 

 草の究極技(【ハードプラント】)が波浪を貫き、濁流渦巻くその内を穿つ。

 顕現した樹槍によって浸食され、隆起した水の厄災(【すいさい・やまつなみ】)萎凋(いしゅう)していく。

 

 伝説のポケモンの大技が、いかに強靭とはいえ一般のポケモンのそれによってねじ伏せられる。

 一聞(いちぶん)すれば冗談の類いとしか思えぬ現象。しかし、それは必然の結果であった。

 山野に生い茂る数多の草木。それらは張り巡らせた根で以って土をしっかと支え、余剰の水をその身に蓄えることで山の崩れを防ぐ役割を担う。

 ならばこそ、恐るべき水の厄災(【すいさい・やまつなみ】)を食い止めるものとして樹の槍根(【ハードプラント】)ほど相応しいものはない。

 

 故に、この結果は必定。

 根より水を啜り上げ、樹槍はさらに高く伸びて行く。

 それに比例するかの如く、隆起した【やまつなみ】はますます萎み続け——そして。

 

 

 ——どしゅるいいいいい!?

 

 

 その頂に座す、スイクンを捕らえたのだった。

 

 伸縮自在の樹根がスイクンの体を縛り、ギリギリと締め付けていく。

 弱点タイプの究極技に身を蝕み、尋常ならざる苦痛に悶えるスイクン。

 痛みによって精神の集中が途切れたのだろう。隆起した泥の柱が音を立てて崩れ落ちた。

 後の残ったのは天に高く聳え立つ樹根の槍(【ハードプラント】)の残骸のみ。そしてそれも技の効果が切れるとともに新緑の粒子となって消失する。

 

 解放されたスイクンの体が力なく落下する。

 スイクンは体力を使い果たし既にひんし寸前の状態。抵抗する余力は微塵も残っておらず。

 まさしく、その身を捕えるための千載一遇の好機(チャンス)だった。

 

 

「(今だ!)——ビーダル! 【ころがる】で私を打ち出して!」

 

 

 ——びびっぱ!

 

 

 【ハードプラント】の反動で動けぬドダイトスの背にて、ボールよりビーダルを繰り出したショウ。

 そのまま高速回転するビーダルの背に足をかけ、勢いよく中空に飛び出した。

 

 落下するスイクンを追い、放物線を描いて跳ぶショウ。

 片手に切り札たるマスターボールを握りしめ、スイクンが射程に入るその時を待つ。

 

 一方のスイクンも自らに近づくショウの存在に気が付いたか。

 その身から漆黒の霊気(オーラ)を解き放ち、何としても脅威(ショウ)を遠ざけんと抵抗する。

 

 

 

 

 

 ——どしゅううるる……どしゅすいいいいいい!

 

 

 

 

 

スイクンは おぞましい力を解き放った!

 

 

 

 

 

 『紅蓮の湿地』の中空におぞましき力が溢れ出し、黒い波浪となってショウ目掛けて殺到する。

 

 体の自由が利かぬ中空ありてショウがこれを避けることは不可能。

 だが、いかに厄介な力といえども対策が確立された今、もはや黒い霊気(オーラ)は彼女にとって脅威たりえない。

 

 

 

「——ハア!」

 

 

 

 迫る霊気の黒波を目前にしたその時、ショウが懐に忍ばせた"ゆうひのはね"から目も眩むような金色の輝きが放たれた。

 

 

 

 

"ゆうひのはね"の輝きが おぞましい力を打ち祓った!

 

 

 

 

 羽根の齎す神聖なる輝きが漆黒の霊気(オーラ)を掻き消す。

 同時に、放たれた金色の光がスイクンを焼き、残っていた抵抗の意思を丸ごと消失させる。

 

 黒い霊気(オーラ)による抵抗が失敗に終わり、意思を完全に挫かれたスイクンには、もはや抗う術は残されておらず。

 

 

 

「——セイッ!」

 

 

 

 瞬間、無防備なその身体目掛けマスターボールが投擲される。

 放たれたボールは寸分違わずスイクンへと叩きつけられ、紫の鎖で以ってその身を縛り上げた。

 そのまま全身を光に包まれ、スイクンはボールへと格納される。

 そして、一度、二度と揺れた後、小さな花火とともに捕獲の完了を告げたのであった。

 

 

 

「——取った! ビーダル! 着地、お願い!」

 

 

 ——びび!

 

 

 スイクンを捕らえ、落下するマスターボールをその手に掴んだショウ。

 次いで彼女は落下しながら、眼下の泥濘を見据えて相棒へと呼びかけた。

 

 その言葉を聞くや否や、泥飛沫を跳ね上げて彼女の下へと疾駆するビーダル。

 彼は元よりみずタイプ。故に泥濘の上にあっても機動性を失わず。

 見事に落下するショウの体を怪我一つなく受け止めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三災が一、泥君(デイクン)——ここに封神。

残る災いは、あと一つ




スイクン(???の姿)
分類:すいさいポケモン
タイプ:じめん
特性:ちょすい

膨大な水を吸い上げ背のタテガミにたくわえる。水の量が多いほどタテガミは深い藍色に染まる。
内部を流れる体液は毒性の強い特殊なもの。水と混ぜて振りまくことで地面をドロドロに融かしてしまう。

専用技:
【やまつなみ(山津波)】タイプ:じめん 威力100 命中100 特殊 単体
大量の泥で相手を押し流す。相手のすばやさを下げるほか、どく状態にすることもある。
※50%の確率で相手のすばやさ低下+30%の確率でどく状態にする。

【すいさい・やまつなみ(水災・山津波)】タイプ:じめん 威力130 命中100 特殊 全体
大量の泥で相手を呑み込んで攻撃する。
※水量フルチャージ状態で【やまつなみ】から変化。敵専用のフレーバー技。
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