勇者「この中に一人裏切り者がいる」???「ンンンンンンンそれは一体誰の事でございますかな?」 作:偽馬鹿
「お前だよ!!!」
勇者は怒鳴った。
キレたと言ってもいい。
というか二人旅なのに裏切り者が誰かとか決まっているだろうといった感じだ。
「ンンンンンンそれは心外でございますれば。拙僧、勇者殿の心に寄り添い、付き従っております」
「そんな筋肉を持ってるくせに私を前に突き出して戦闘するとかどういうこと?」
「おやおや。まさか、そんな。拙僧めはただの術者。拙僧めの身体なぞただの紙同然、でございますれば」
「ぐぬぬ」
確かに。
術者は後方から支援するのが常だ。
前衛が身体を張り、後衛たる術者などはそれを支援するのが一般的だ。
その割には筋肉質で時々接近を許した魔物を引き割いているようにも見えるが、あれはどういうことなのか。
「だけど、お前はなんか信用できない」
何となくだったが、勇者はそう思っていた。
しかし。
しかしだ。
勇者の旅路についてこようとするような酔狂な人間はほかにいなかった。
仕方なく。
仕方なく勇者は彼……多分彼を引き連れて旅をすることにしたのである。
だが、それも結構限界である。
ゆく先々に魔物が現れ、ボロボロになりながらも強行軍で進めてきた旅。
その旅路の過酷さの原因があるのであれば、間違いなく付き人の彼であろうと勇者は確信していたのである。
「だから解散! もうついてこなくていい!」
と言って、勇者は彼を振り切るために全力で駆けだした。
深い森の中だ。
術者である彼が足腰を鍛え上げた勇者に速度で敵うはずもなく。
勇者はなんとか一人になることができたのであった。
「……はぁ」
ため息を一つ。
勇者は装備を脱ぎ捨て、その場に座り込んだ。
愛用の剣、鎧、そして盾。
それらを地面に置いた勇者は、服も脱ぐ。
男とは思えぬなだからな曲線を描く身体が露わとなった。
そう、勇者は女性であった。
誰にも知られていない、秘密である。
小さな身体、貧弱な力。
それを補うかのように彼女は全力で自身を虐めぬいた。
その結果、彼女は街で名の知れた戦士となり、勇者として送り出されたのである。
「……はぁ」
二つ目のため息。
こちらは自身の身体つきなどに対する不満であった。
確かに女だとバレるわけにはいかなかった。
しかし、しかしだ。
それでも女としてはそれなりに起伏のある肉体になりたいと思っていたのである。
それが、ちんまくて、細っこくて、ひ弱なそれ。
ため息も出てくる。
「……はぁ」
そして、あの男に関して考えて更にため息。
ため息ばかりである。
そもそもが怪しかったのだ。
何の装備もなく町の外にいて、魔物に襲われていたところを助けた時にもそうだ。
「ふむ……なるほど、そういうことか」
と言ったかというと、即座にあの怪しい口調で話しかけてきたのである。
「ンンンンンその太刀筋、技の切れ、見事にございます。さぞ名のある戦士であらせられるのでしょうな」
その時はおだてられて気分も良くなってしまい、町に招き入れたのが失敗だったのだ。
まずなにも装備していない状態で町の外に出るなど自殺行為だ。
戦闘の心得があると言っても、術者では魔物が接近してきたときに対処できないはずだ。
……いや、先程もバリバリと魔物の身体を引き割いていたような気はするが。
それはともかく。
一人で町の外にいた人間を招き入れたのは間違いだったのだ。
きっと魔物……いや、魔王のスパイだったのだろう。
そうでなければ、魔物の数が少ないと言われたこの地域にこれほどの魔物が出てくるはずがない。
ならば、誰かが手引きしているに違いないのだ。
よって冒頭のセリフである。
それなりに考えた結果であるが、彼女もちょっと反省していた。
こんな状況になってから、何だか一人でいるのが不安になってきたのだった。
一人。
誰も味方のいない状況。
いやまあ、彼女的には最初から味方がいなかった感じなのだが。
とにかく、一人で深い森の中にいるのだ。
心細くなってもおかしくない。
「……っ」
ぶるりと寒気を感じ、さっと服を着込んで装備を整えた彼女は、森の外へと向かうことにしたのだった。
「そいつは災難だったな」
暫く歩いた彼女は小さな町に辿り着いた。
そこで酒場へ赴き、一緒に旅をしてくれる仲間を探していたが見つからず、途方に暮れていたところで声をかけられたのだった。
男が二人、屈強な肉体を持った戦士風の彼ら。
きっと力になってくれるだろうと、彼女は思ったのだった。
だが。
「へへへ。嬢ちゃん、知らない人について行っちゃいけないって教わらなかったのか?」
そう、彼らは山賊だった。
勇者を少女だと見抜き、攫うために声をかけたのであった。
「くっ!」
「おおっと、危ない危ない」
剣を振り回すが、力では勝てない。
身体を抱え込まれた彼女は、そのまま装備をはがされて転がされるのだった。
場所は先程通ってきた森の中。
辺りには人影もなく、誰かが助けに来る可能性は低い。
どうする。
彼女は考えた。
考えて、考えて、考えて……途中で、面倒臭くなってしまった。
勇者である。
この世界を蝕む魔王を倒して、世界を平和にするために旅をしていた。
それなのに、守ろうとしてしていた人たちに裏切られ、辱めを受けている。
やる気がなくなってしまったのだ。
もう、どうでもいい。
彼女は身体の力を抜き、諦めようとした。
その時であった。
「ンンンンンなんと愚か! 勇者たる御身が諦めるとは何事でありましょうか!」
ばばんと、彼が現れたのだった。
「……どうして」
助けられ、宿屋へ運ばれた彼女が聞く。
どうしてあの場に現れることができたのか。
どうして……助けてくれたのか。
「ンンンンンンまずは失礼」
そう言うと、ぺりっと盾から謎の紙を取り出した彼。
なんとそれは彼女の場所を察知することのできる術が込められていたのだという。
つまるところ、彼は彼女がどこにいるのかわかり切っていたのだった。
「そして助けた理由ですが……はい。借りでございます」
「え……?」
「助けていただきました。そのお礼と言ったところです」
それは。
あの時、最初のそれだろうか。
そう聞くと、彼は頷く。
「でも、あれは」
「拙僧、あの時は自身の状況把握もできておらず、まさに絶体絶命でありました」
「……」
「そこを助けていただいたのです。命を救われた以上、命を救い返すのは当然のことかと」
そんなのは、きっと違う。
彼女はそう思った。
だって、彼なら自分自身で助かることができたはずだ。
「いいえ。拙僧、あの瞬間はただの人でございました」
彼女の言葉を遮り、話を続ける彼。
曰く、彼の力はあの瞬間に生まれた。
曰く、彼女の力に見惚れた。
曰く曰く曰く。
色々な理由が、彼の口から語られた。
「拙僧、勇者様には言えない秘密がございますれば。その秘密故に貴女様を尊敬をしております」
「……」
「勇者殿に救われた以上、拙僧は救い返すのです。それが礼儀であり恩義……でございますれば」
義理堅い。
外見からはまるで想像つかない。
そう思うと、少しおかしくなった。
「ンンンンンンやはり勇者殿には笑顔が似合いますぞ」
「え……?」
「気付いておられないかと思いますが、貴女様の笑顔は素敵なものなのでございます」
「……」
そんなことを言われると恥ずかしい。
急に顔が熱くなった。
しかし、だ。
それよりも聞きたいことがあった。
もしあの時、自身が攫われる理由について知っていたとしたら。
もしかしたら、彼は自分が女だと気付いていたのだろうか。
「はい」
気付いてたらしい。
「……はぁー……」
一つ、大きなため息をついた。
気を張っていた理由が一つなくなったからだ。
それと同時に、どうしてそのことを言わなかったのかと問いただす。
「その方が、面白いかと」
殴った。
「それと、さっさと出て行ってくれる?」
「おやおや、何故でしょうか勇者殿?」
「男女同衾は、駄目!」
ぐいぐいと部屋の外に彼を押し出す彼女。
その顔は若干赤いままだ。
それを指摘された途端、彼女はドアをバタンと閉めた。
そして、彼の耳に小さい呟きが聞こえたのだった。
「ええと……また明日も、よろしく」
そのままばたばたと駆ける音と、ぼふんとベッドに倒れ込む音がして、無音になる。
彼はニッコリと笑い、一言呟いたのであった。
「御意に」