勇者「この中に一人裏切り者がいる」???「ンンンンンンンそれは一体誰の事でございますかな?」 作:偽馬鹿
「勇者様! この度はこの街に滞在いただいて感謝しております!」
「ささ、勇者様! こちらにどうぞ!」
「勇者様!」
「勇者様!」
あれから暫く。
街から街へと渡り歩き、魔王がいるという場所へと近づくにつれて、勇者は歓迎されるようになってきた。
何度か男にも裏切られはしたものの、最終的には元の鞘に収まるように一緒に旅を続けている。
何度も裏切られはしたものの!
「ええ、拙僧も反省しておりますれば。拙僧、既に反省しておりますので、できればこの縄を解いてほしいのですが」
「駄目」
「さようですか」
そう言うと、するする縄を自分でほどく男。
最早何も言うまい。
聖女様が意味深な顔をしているのを見てぺしぺしと遺憾の意を示していると、その傍らの猫がにゃんにゃんと鳴く。
やめろと言っている様子だった。
仕方なくやめると、ペロペロと勇者の手を舐める。
なるほど、殴った方が痛みを感じると思っているらしい。
優しい子である。
なお男が触れようとすると噛みつく。
さもありなん。
「ところで、本当なの?」
勇者はゴキゴキと固まった身体をほぐしている男に聞く。
彼が言うには、そろそろ魔物の住む村が存在しているとのことだった。
「ええ、ええ。あと数日歩き進めば辿り着くでしょう」
「楽しみだわ。この子たちの知り合いはいるかしら?」
「ええ……」
聖女様は何やら勇者とは違うことを考えている様子である。
勇者的には魔王を崇拝する詰め所のような場所だと思っていたのである。
それ故に、警戒しようとみんなに告げていたのだが……。
「何故でしょうか? 拙僧あまり警戒し過ぎるのも不審に思われる原因となるのでは、と具申しますぞ」
「きっと魔物とも分かり合えると思うの。だからまずは話し合いたいなって」
男はともかく、聖女様は優しい理由であった。
男はともかく。
「とにかく、これまで戦ってきた相手がいるかもしれないし、警戒しよう!」
「はあ。いえ、分かりましたぞ。拙僧、勇者殿の心に寄り添う従者でありますれば」
「まあ、それなりには、ね」
これは、自分がしっかりしなければならない。
勇者は気合いを入れたのだった。
「まあそんな気合いも空回りするのでございますが」
「うるさい」
「ああ、おやめくだされおやめくだされ」
剣で男の脇腹を刺す勇者が見たのは、魔王との戦いなど存在しないかのように平和に暮らす魔物たちの姿であった。
聖女様はほらね、と言った顔でこちらを見る。
男はただにっこりと笑う。
ムカついたので男の脇腹を剣で刺した。
「おや、君たちは見ない顔だね。キラーマシンと、黒艶の君。そして……蘆屋道満様」
「おや。拙僧の名前も御存じで」
「そりゃそうでしょ。魔王様の右腕を知らない魔物はいませんよ」
全員が男を見る。
そして男は首を左右に振る。
拙僧知らない、聞いたこともない。
しかし問答は無用だった。
ぐさぐさと脇腹を刺される男。
それをあらあらと見ているだけの聖女様。
かおす。
「いや、しかしそうだねぇ。あの人ほど清廉さを感じませんねぇ。もしや偽物?」
「ここではい、と答えるのも些か面倒ではありますので、本物でございます、と返答させていただければ」
「ああ、その胡散臭い感じ、実に蘆屋道満様ですねぇ」
「清廉さとか言ってたよね?」
怪しい所は変わりないらしい。
それはそれとして脇腹を刺される男。
混沌としてきたところで、聖女様のお腹が鳴ったので昼食に。
別にお腹なんて空いてませんと顔を真っ赤にしながら反論する聖女様をなだめつつ、食事処へと向かう。
ただし男は飯抜きである。
この裏切り者、という感じである(前科7犯)。
「ンンンンンン拙僧今回に関してはとんと心当たりがございませぬ。ええ、神に誓いましょうぞ、色々と」
「この世界に神様とかいるの?」
「おや、いらっしゃらないので?」
「いたら、私は独りじゃなかったよ」
寂しげな勇者。
何やら理由があるらしいことは周りの人にもわかった。
沈痛な面持ちの周囲。
しかし男だけは何やらにやりと笑っていた。
「ンンンン拙僧、神がいなければ御身と出会うこともなかったと思っております。ええ、これは神が遣わした運命なのだと、そう思っておりますれば」
「……うさんくさい」
「事実ですので」
ンンンンンンと笑う男に、漸く勇者も笑顔を取り戻す。
ほっとする周囲に、勇者はきょとんとした表情だった。
その日の夜。
上手く寝付けなかった勇者が村の中を散歩していたところ、何やら誰かと話している男を見かけた。
声をかけようとしたが、何やら様子が変だ。
さっと隠れて男の様子をうかがうことにした。
「ンンンンンンなるほどなるほど、そう言うことでしたか。拙僧理解しましたとも。なるほどなるほど」
「それでは拙僧と一緒に来ていただけますかな? リンボ殿?」
なんと、男と話していたのは男と瓜二つの男性であった。
なるほど、男と話している清廉な方が蘆屋道満か、と勇者は納得した。
それだけ雰囲気が違っていたのだ。
あと男はリンボって感じが似合いそうだった。
謎の感覚である。
「ですがまあ、はい。お断りします」
「おや、何故ですかな? 拙僧の1側面であるリンボ殿では敵わない、そう本人が言ったことではありませぬか」
何やらよく分からないことを話しているが、なんてことはない。
勇者から離れる気はないと、男が言っただけの話である。
その台詞にちょっと何となく嬉しくなった勇者だった。
「とはいえ拙僧、一応ひとりではありませぬ故。勝ち目そのものがあるわけでございますれば」
「なるほど、勇者殿と聖女殿、中々に強い存在でありますれば」
「ええ故に、魔王と蘆屋道満相手でも負けることはないでしょう、ええ」
「……では、交渉は決裂。魔王の城で、あなたたちを返り討ちにしましょうぞ」
そう言うと、蘆屋道満はぶわりと消えていく。
あれはまさか失われた呪文ルーラだろうか。
それをあのように使うとは、恐ろしい相手である。
「……というわけで、勇者殿はそろそろ木陰から出てきてもよろしいのですぞ」
「気付いてた……?」
「ええ、あちらの拙僧も気付いてましたぞ」
それは恥ずかしい。
のこのこと出ていく勇者である。
「蘆屋道満って結局誰?」
「ンンンンン拙僧ですな」
宿屋に帰り、男の部屋に入り込んで詰問する勇者。
「リンボは?」
「拙僧ですな」
「???」
男の言うことがよくわからない勇者。
そんな様子に、男は説明をするのだった。
「簡単に言うと、拙僧は蘆屋道満という本体から分かれたちょっと弱い分身、リンボなのですよ、勇者殿」
「なるほど……弱いの?」
「ええ、そこそこ弱いですぞ」
「……」
弱いんだ……と内心で思いながら、勇者は朝の戦闘を思い出していた。
ビーム、徒手空拳、謎の呪文、そしてアキミツ殿の攻撃。
どれもこれも凄まじい強さだった。
それが、弱いということは。
つまりは蘆屋道満の方が強いということで。
魔王と戦うのが不安になるのだった。
「なあに、安心してくだされ勇者殿」
「何が?」
「拙僧は勇者殿のためなら例え火の中水の中、果ては溶岩の中も突き進みましょうぞ」
「それで?」
「ええはい。拙僧の全ては御身のお傍に。決して離れませんとも」
「7回裏切ったのに?」
「ンンンン反省しております故、ご容赦いただきますれば」
色々と話していると、なんとなく不安が和らいだ勇者である。
そのまま聖女様のいる部屋へと戻るのだった。
「……何かいいことでもありましたか?」
「別に」
※恋愛感情とかではありません