君がそれを愛と呼んでも 二次創作   作:セパさん

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二つの思い

「う~ん。値段で言うと緑茶……、でも最近緑茶が続いているからほうじ茶?あ、水出しのジャスミン茶なんてあるんだ!陽平の舌に合うかなぁ。」

 

 現在質素な私服に身を包んだ江野明日花は、小柄な体格に似合わぬ大きなリュックを背負い、格安スーパーの飲料品コーナーでポットに入れるティーパックをどれにするか悩みに悩んでいた。彼女の収入を考えれば〝ここからここまで全部下さい〟をやってもお釣りがくるくらいなのだが、明日花は彼氏である陽平に貢ぐことを第一に考え、自身に散財する考えを持っていない。

 

 そのため、買い物ひとつとっても明日花にとっては重大なイベントだ。一挙手一投足、脳の働き全てが〝陽平の為〟に動いている。如何に陽平に使えるお金を無駄にしないか、如何に陽平が喜ぶ品物を買えるか、それだけを考えて行動していたはずなのだが……。

 

「陽平……本当にどうしちゃったんだろう。」

 

 あの事故以来、明日花の心に微弱な雑音(ノイズ)が走るようになって久しい。【愛の証】であった絞首も行ってくれなくなり、暴力も振るわなくなり、暴言も吐いてくれなくなった。違和感は覚えるものの、それで愛情に陰りが見える事は無い。……そう信じたいが、日常に物足りなさを覚えると同時に、自分でも理解できない心の雑音(ノイズ)翻弄(ほんろう)される日々が続いている。

 

「ああ、いけない。買い物!う~ん、やっぱりジャスミン茶に挑戦してみよう!いつも緑茶とほうじ茶ばかりじゃ飽きちゃうからね。」

 

 気を取り直してジャスミン茶のパックを手に取り、「むん!」と気合を入れて彼女にとってラスボスとも言える米飯類コーナーへ足を踏み入れる。江野明日花は小柄な体格を更に下回る勢いで非力であり、5kgのお米を家まで持って帰るのが毎回一苦労。しかし1~2kgのお米では費用対効果が悪い。そのためマイバックではなくリュックを買って背負うことでラスボス(お米の購入)と格闘していた。

 

「うんしょ!よし!これでOK!あとは……帰るだけ!」

 

 レジで会計を済ませ、リュックにお米とお茶、肉や野菜を詰めて店を出る。その直後、けたたましい警急信号(サイレン)と共に(まばゆ)い赤色灯をグルグルと回しながら朱色に塗られた緊急車両がスーパーの近くにある住宅へ集まっていた。

 

 そこでは民家が火の粉を巻き上げ、木材から石材までを火焔が包み込んでいる。幸い住民の避難は終わっているようだが勢いは凄まじく、懸命な消火活動も功を制さず、全てが灰となって空に消えるばかり。

 

 江野明日花はしばらく呆然とその様子を眺め、自分が涙を流している事に気が付いた。思考が混迷を極め、脳内は快と不快の記憶が奇妙な形で混合し奔走していく。今自分はどんな表情をしているのだろうか?それを確かめる勇気は、今の明日花には無かった。

 

 

 

「陽平!今日のご飯は中華だよ!陽平揚げ物好きだったよね?あと今日ね、ジャスミン茶買ってきたんだ♪」

 

「へー!油淋鶏(ユーリンチー)自分で作ったんだ!凄いね!」

 

「えへへ……。どうかな、どうかな?」

 

「すっごく美味しい!それにジャスミン茶も良い薫りで料理に合うよ。」

 

「ありがとーー!どんどんおかわりしてね!」

 

「えのぉ……えっと、明日花。今度時間が出来たら本格的な中華料理屋さん行ってみようか。一回行ったことあるんだけれど、ジャスミン茶は花茶って言われていて、(つぼみ)にお湯をかけて花を咲かせて薫りをつけるんだ。その瞬間が凄く綺麗でさ。一回写真を……あれ、明日花?」

 

 江野明日花はいままで以上に無視できない心の雑音(ノイズ)を覚えた。一日に二度も理由の理解出来ない涙を流すなんて……と自分でも思う。しかしそれは先ほどの火事と同様、やはり自分がどんな表情をしているか確かめる勇気は彼女にはなかった。

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