その日の会社は社長が死んだという事で大きく騒いでいた。
そうして、帰宅時間がようやく0時になった頃、俺はその目的の人物に近づく。
「社長が死んで、明日から環境が変わる。
そんな顔をしていますが、悪いけど、ここで止めて貰いますよ」
「っ!」
その言葉に、俺の目の前にその人物は振り向く。
「夜まで仕事はお疲れ様です。
だけど、悪いけど、今夜、あんたからそのメモリを頂くぜ、佐藤さん」
それと共に、俺は目の前にいるシガレット・メモリの所有者である佐藤さんに言う。
「なんの事だ?
それにメモリって、何の事だ?」
「このブラック企業に勤めてから数年。
あんたは酒も煙草もしていなかった。
だが、その身体から体臭が特徴的な事以外にも、よく咳き込む事が多い」
「あんなブラック企業に勤めていたら、シャワーを浴びれないし、風邪も引くさ」
「そうかもな。
けど、これらの特徴は煙草を吸う人によく出てくる特徴だ。
あのブラック企業では、それを吸う程の余裕がある奴はそういない。
そして、シガレットメモリは、毒素が薄い代わりに、煙草のような中毒性を引き起こす」
それと共に、俺はゆっくりと詰め寄る。
「あんたの特徴は、それに当て填まる。
何よりも、疲れすぎて、メモリが見えているぜ」
その言葉にドキッとしたのか、一瞬、胸ポケットに触れる。
「どうやら、正解のようだな」
「ちっ、少し仕事をやりすぎたか」
「一応聞くけど、なんであんな事をしたんだ」
「上司が憎かった。
だからこそ、このメモリを手に入れた。
だけど、このメモリではあいつの使った姿には敵わなかった。
諦めずに何度も変身し、機会をうかがった。
そして」
「俺がタイミング悪く、倒したから」
それは、いわゆる俺が起こしてしまった事件でもある。
「あぁ、君には感謝している。
だけど、こうなった以上、君にも居なくなって貰わないといけないねぇ、怪盗さん!!」
目の前にいる佐島さんもまた、隠していたシガレット・メモリを取りだし、そのまま自身に突き刺す。
そうする事によって、その見た目は葉タバコ、紙巻きタバコを生やした緑色の鳥型のドーパントへと変わる。
「ふぅふぅ、ここで死ねぇっ!!」
叫び声と共に、そのシガレット・ドーパントはその口から煙を吐き出す。
吐き出された煙と共に、まるでその煙と一体化するようにシガレット・ドーパントはその姿を消した。
同時に、俺もまたナスカメモリを取り出す。
「変身」
『ナスカ』
その音声と共に、俺は仮面ライダーへと変身する。
俺はそのまま手にナスカブレードを構える。
囲まれるように、煙に対して、俺は警戒する。
そんな俺を見てか、佐島さんが叫ぶ。
「ふははははは!! この煙で僕を見失う! お前の負けだぁっ!!」
その言葉の通り、確かに、煙に包まれた空間の中では相手の姿が見えない。
そして、その煙の中に紛れて、再び現れたシガレット・ドーパント。
攻撃事態は、あまりダメージは受けなかった。
しかし、このままではじり貧になる可能性もあるため、どうしたものかと考える。
(煙の中だから、音を頼りにしても、どこにいるのかわからない)
とりあえず、相手の位置を探るためにも、手当たり次第に斬撃を振るう。
だが、煙に覆われた中で、音だけが頼りのため、命中率はかなり低い。
(このままじゃあ、ラチが明かないな)
このままでは先にこちらの方が体力の限界を迎える可能性すらある。
何か打開策が必要だ。
(どうにかして、敵の居場所を知る方法があればいいんだけどな)
とはいえ、煙の中で戦うなんて経験は一度もないため、対処法なども思いつかない。
そうしながら、周りに目を向けていく。
煙は僅かな変化を見せて、その場に留まり続けている。
そんな中でも、煙の動きを察知しようとしてみるのだが、やはり感覚的な事なのでわかるはずもなかった。
仕方ない、とばかりに、俺はナスカブレードを構えながら、前へと飛び込む。
地面を踏み込み、煙の外にまで出てみれば、そこには既にシガレット・ドーパントの姿はなかった。
「本当にこれは厄介だな」
煙と一体化した事によって、気配を感じなくなった事には少しだけ焦りを覚えた。
ただでさえ煙による視界の悪さに加えて、動き回られるとなるとかなりやり辛い。
「煙と一体化。
確かに視界は悪い。
だけど」
「既に攻略は分かっているよ」
その言葉と共に、ヒサメもまたドライバーを巻いた。
それを合図に、すぐに俺の姿が変わる。
『ナスカズー』
その音声と共に、俺は姿が変わる。
『オウル!』
その音声と共に、俺に梟を模したアーマーを身に纏う。
まるで、梟を思わせるフードを身に纏いながら、周りを見つめる。
視力が極限まで強化され、煙で覆われた世界の中でも、はっきりと見えている事に安心感を覚える。
さらに言えば、相手の位置がしっかりと把握できていた。
煙の中から突如として現れようとしていたシガレットドーパントに向けて、俺はそのままズーメモリのスイッチを押す。
『オウル! マキシマムドライブ!』
同時にその手には羽を模した弓が現れる。
その矛先は真っ直ぐと実体化したシガレット・ドーパントに向けて弦を引く。
そのエネルギーの矢を真っ直ぐとシガレット・ドーパントを貫く。
一撃を受け、シガレット・ドーパントは絶叫と共に、その場で倒れる。
同時にその身体からメモリが吐き出される。
そうして、戦いを終えた。
「影、今回、結局最後まで」
「あぁ、未だに終わっていないからな」
今回の事件において、確かにシガレット・ドーパントを倒す事ができた。
だが、彼をここまで追い詰めたのは、このブラック企業で間違いないだろう。
「これで、この環境はどうにかなるのかなぁ」
「かもしれないな。
けど」
結局はまた現れるだろう。
メモリという、分かりやすい形だからこそ、こうして俺達は対峙できた。
けど、世の中、ガイアメモリなどなくても、簡単に混沌に落ちてしまう。
会社の社長が自分の欲の為にメモリに手を出したように。
佐島さんが、会社の皆の為にメモリに手を出したように。
善悪関係なく、欲望のままに動けば、どんな場所にだって落ちてしまう。
だからこそ、こんな事件、これからもずっと起こり続けるだろう。
「やるせないなぁ」
そう言いながら、俺は空を見上げる事しかできなかった。