そんな考えを余所に探偵事務所を開く音が聞こえる。
見ると、それは先日の依頼者の子供であるみゆちゃんだった。
「・・・あら、みゆちゃん、そのお婆ちゃんは?」
その隣にいた子供はお婆ちゃんが身に纏うにはあまりにも似合わない格好をしていた。
だが、それが何を意味するのか、
その質問をした亜樹子所長を含めて、全員が嫌な予感がする。
「もしかして」
「久美ちゃん」
それと共に、驚きを隠せなかった。
「また、老けさせ屋の仕業」
「それじゃ、復讐を頼んだのは」
「私のママっ!久美ちゃんのママ、絶対に許さないって言っていたからっ」
その言葉と共に、みゆちゃんも久美ちゃんも泣き始めた。
それには、俺達は思わず顔を下に向けさせてしまった。
ただ、1人だけ違い。
「あぁ、二人共、可愛そうにのぉ」
彼女達を慰めるように寄り添った。
『こんな事がっ母親がする事なのかっ』
そして、その中で2人の子供達に届かない事もあり、霧彦は俺達の心の声を代弁した。
「ママが今っみゆちゃんのママの所に行ってっ」
「それって」
それと共に何か嫌な予感と共に向かった。
そこは彼女達が所属している児童劇団「風の子」だった。
その建物の中では、2人の母親が言い争っている。
「貴女が久美をあんなめに遭わせたのね!?」
「そうよ。どう?大切な娘を赤ちゃんにされた気分は?」
すがりつく光子さんに、まるで別人にような冷たい態度で良枝さんは言い切る。
「酷いわっ!!」
光子は泣き崩れた。
「良枝さん!いくら悔しくても、復讐は・・・」
「あんたに何がわかるのよ!?」
良枝さんは止めに入った亜樹子所長を突き飛ばす。
「先に仕掛けたのはこの女よ!やり返して当然でしょ!!」
「う、う、うぅぅ・・・」
「ふざけんじゃないわよ!!泣いて済む問題だと思ってんの!?なに泣いてんのよ!」
その言い争うに、むしろ俺達が我慢できない中で
「好い加減にしろ!!!!」
突然聞こえた男の声。
その大きすぎる声に、場の空気がシーンとする。
見ると、そこには多少ボロボロな格好をした照井さんがいた。
「あんた、自分がなにやったかわかってるのか?」
「私はただ、娘のために・・・」
「違う。あんたはただ自分の憎しみをぶつけただけだ。
見てみろ、子供達を」
照井さんが指差す方向には、
「・・・・・・ママ」
「・・・・・・みゆ」
老人となったみゆちゃんの、悲しげな表情。
「愚かだ、あんたは」
「刑事さん、許してやってください!」
そこへ劇団の責任者である大倉さんがでてくる。
「親の子供に対する愛は、理屈ではないんです。全ては、愛なんです。だから、許してやってください」
大倉さんは深々と頭を下げる。
それを見て自分の過ちに気付いた良枝さんと光子さんは、半泣き状態の我が子を必死になって抱き締めた。
「愛」
その言葉に照井さんは何かを思ったのか、強く俯く。
『・・・影、リベンジ・ドーパントはおそらくは私達を狙ってくる。
ならば、どちらにしても翔太郎を元に戻す必要がある。
ならば、オールド・ドーパントを倒すのを先決しよう』
「だな、霧彦」
『なんだい?』
「お前、少し嬉しそうな顔をしているな」
そう、見てみると、なぜか笑みを浮かべていた。
『私は、愚かな大人達を消す事には何の躊躇もなかった。
だけど、あの人のように罪を許し、やり直せるような人。
そんな存在を、どこか忘れていた』
「そうだな」
おそらくは、この場で照井さんが来なくても、あの大蔵さんがなんとかしてくれたかもしれない。
『この街の風は、きっとそんな優しさを心に届けてくれる。
その風が来るまで、どんな人間も守りたい。
改めて、そう思った』
「だな。
それに」
「それに?」
俺は同時に息を吸う。
「リベンジ・ドーパントを倒す方法は思いついた」
『本当なのかい?
それは一体』
「かなり無茶だぜ。
ヒサメ、一緒にやってくれるか?」
「なに、かなり危険なの?」
「あぁ、とびっきりな。
けど、付き合ってくれるよな」
俺がそう言うと
「良いわ。
付き合ってあげる。
なんだって、私はいいや」
『この場合は私達だね』
「『影の相棒だからね』」
そう言ってくれた霧彦とヒサメの言葉を受け止め、同時に頷く。