完全敗北。
そうとしか言えない状況だった。
Wである翔太郎さんはテラーの恐怖によって、動きたくても動けない状況になっている。
アクセルである照井さんは、テラーが放ったテラードラゴンによって、その身体はボロボロとなり、今も危機的状況は続いている。
そして、ナスカである俺は、自分の力であるナスカメモリを使用する事ができなくなった。
既に鳴海探偵事務所は崩壊の危機だった。
どうしようもなく、反撃する事はできなかった。
「ズーで、戦う事はできないの?」
「ズー単体で使うのは、無茶だ。
あれは、ある意味、ナスカメモリが制御しているからこそ、十全に使える。
今、それを単体では」
何も出来ない。
そして、何よりも、今、翔太郎さんの心に突き刺さっているのは、相棒であるフィリップさんは既に死んでいるという事。
亜樹子所長から聞いた話だと、フィリップさんは既に死んでいた。
しかし、今の彼は地球の記憶によって、実体を持って、復活する事ができた。
だが、そんな彼も、もうすぐ死んでしまう。
その状況の中で、俺達は何もできないのか。
悩んでいる時だった。
事務所を開く音が聞こえる。
見ると、そこには依頼者である響子さんがいた。
「響子さん!」
そこへ、袋を手に、汗ビッショリになって、響子が事務所に訪れる。
「箱の中身よ!・・・evil tail」
「園咲家から、持って来ちゃったの?
どんだけ行動力あんのよ。という事は、ガイアインパクトとやらは阻止した?」
亜樹子所長の言葉に首を横に振る響子さん。
「勘違いだったみたい」
響子はテーブルを叩く。
「だって、それが何かの役に立つとは思えないもの!!」
亜樹子は試しにと、袋の中にあるイーヴィルテイルを確認した。
「翔太朗君、見て」
そして、それを翔太朗さんに見せる。
「これは・・・?」
「どういう意味だろうね?」
イーヴィルテイルの正体。
それは余りにも、悪の組織の計画とは無縁としか思えず、しかしながらも園咲家にとっては宝物となりえる代物だった。
「だけど、もしもこれが重要な物だとしたら」
同時に、俺が思考の海の中に入っている間にも、翔太郎さんに電話がかかっていた。
それは、フィリップさんからの通話であり、その電話の先で、何かを伝えた。
それが、意味をするのは何か、俺は自然と分かった。
同時に未だに恐怖に支配されているはずの翔太郎さんは、身体をなんとか動かす。
「行くぞ」
その一言だけ聞くと、俺達はすぐに飛び出す。
「それで、どうするんですか?」
「決まっている。
相棒達を救う。
この状況は、確かに絶望的だ。
だが、逆転の一手にもなる」
その言葉と共に、俺達が辿り着いた所。
そこは、まさにガイアインパクトが行われている場面だった。
「そうはさせない」
俺はそう叫ぶと共に、こちらを見る。
そこには既に地球の記憶と一体化しようとしているクレイドール・ドーパントエクストリームと園崎琉兵衛はこちらを見る。
「邪魔をする気?」
「あぁ、そうだ!」
翔太朗さんは活力満ちた声で返事する。
「ハハハハ!よく私の前に立てたな左君」
「なに、簡単なことだ、こいつの謎を知りたかっただけさ」
翔太朗さんは一本の古びた刷毛をとりだす。
「イーヴィルテイル!?」
琉兵衛は確認のため、小箱を開ける。
「何時の間に・・・?返せ!私の家族だ!」
「家族?これが家族だっていうの?」
亜樹子所長の呆れた表情とは裏腹に、翔太朗さんは刷毛の取っ手に書かれた文字。
園咲家の人間の名前が書かれたそれをまじまじと見る。
「あなたはは今迄目的を果たす為、家族との絆さえ切り捨ててきた。しかしながら、内心ではそんな自分の豹変に恐れたんだ。其れ故に全てが幸せだった頃の象徴であるこのハケを使って、己自身の本音さえも欺き続けた」
メモリの毒。
それによって、自分自身で理解していながらも、止められなかった。
だからこそ、その代用のように、これを使った。
「さあ、それを寄越せ。もはや、どんな抵抗も無駄だ」
『TERROR』
その言葉と共に、奴は、テラー・ドーパントへと変わる。
本来だったら、俺達には逆転はできないだろう。
だが
「この状況こそが」「逆転の時だ」
『JOKER』
同時に鳴り響く音声。
それは、翔太郎さんの持つジョーカーメモリであり、それをWドライバーに装填する。
琉兵衛からしたら、無駄な足掻きだと笑うだろう。
だが、それは僅かな間だった。
『うっ・・・お、お父様』
「どうした、若菜!」
若菜さんの変化に戸惑いを隠せない様子。
『シュラウドが託してくれた、最後の逆襲策のお陰だ
Wの変身システムは知ってるはずだ?僕の意識をメモリに載せて、翔太朗達に飛ばした』
そう、Wへと変身したフィリップさんが、テラー・ドーパントに説明する。
「そんなことをすれば、若菜はメインプログラムを喪失した状態になる!」
「そして」
俺はそのままナスカメモリを投げる。
それはまるでブーメランのように、真っ直ぐとクレイドール・ドーパントエクストリームへと向かう。
同時に、その光に当てられたナスカメモリは光を取り込むと共に、俺の手元へと戻る
それと共に
『ナスカ』
鳴り響く音声。
同時に、俺の隣には
『まったく、無茶をするね、君は』
「なっ、霧彦君だとっ!」
俺の隣に、霧彦が立っていた。
『霧彦はナスカメモリの一部となっている。
ならば、そのデータを補うように入れば、彼自身も蘇り、再びナスカメモリを使う事ができる』
「ある意味、あんたのおかげで怪盗として、もう一度戦える」
「なるほどね」
そう言いながら、後ろから聞こえた声に振り向くと、そこにはウェザー・ドーパントが立っていた。
『お姉様っあの時、確かにっ』
「先生が教えてくれた霧による幻覚よ。
けど、これだったら、私にもその力を手に入りそうね」
「悪いけど、あんたにも、この力を渡さない」
「退きなさい、過去の亡霊」
『悪いが、君を止める。
例え、元嫁だとしても、この街を守る為に、止める』
「亡霊如きが生意気な」『ウェザー』
「翔太郎さん、フィリップさん、そっちは頼みます」
「あぁ、派手にかませ」
そう、翔太郎さんはテラー・ドーパントに。
俺は目の前にいるウェザー・ドーパントに。
園崎家での最後の戦いが今、まさに始まる。