そう言いながら、目の前にいる翔太郎さんは俺が持っていたナスカメモリとロストドライバーを解析するように見つめる人物、フィリップさんに尋ねる。
どうやら、彼は仮面ライダーになる時の相棒らしく、天才的な頭脳を持っているらしい。
「ふむ、これは実に興味深い。
このナスカメモリはどうやら僕達の持つメモリと非情に似ているらしい。
おそらくだが、元々組織が持っていたナスカメモリを改良したと思われる。
そして、このロストドライバーだが、これはむしろ君の方が詳しいかもしれない」
「俺の方が?
どういう事だ?」
そう言いながら、翔太郎さんは思わず突っ込む。
「これは鳴海荘吉が持っていたロストドライバーを修理・改良した物だ」
「どういう事だよ、それは!」
「鳴海荘吉?」
その言葉に俺は思わず首を傾げる。
『聞いた事がある。
ミュージアムが本格的にメモリを売り始めた頃に、敵対していた仮面ライダー。
その仮面ライダーの正体が、鳴海荘吉だとは聞いた事はある』
「俺が知らないだけで、ずっと前に仮面ライダーが」
それには俺も思わず驚きを隠せなかった。
そうしている間にも、俺の横にいる女性は霧彦を見ようとする。
「本当にここにその霧彦っていう人がいるの?
私、全然見えないけど」
「亜樹子には、やっぱり見えないのか?」
そう翔太郎さんは確認するように言った人物は、どうやらこの鳴海探偵事務所の所長である鳴海亜樹子さんだ。
「全然」
「どうやら、そこにいる霧彦は僕達を始め、メモリの使用者にしか見えないらしい。
実際に照井竜にも見えていたとなれば、そう考えるのが妥当だろう。
実に興味深い!」
そうしながら、フィリップさんはそのまま霧彦の方へと見つめる。
「とにかく、お前がナスカというのは分かった。
だけど、これ以上、怪盗活動なんていう危ない真似をするな」
そう翔太郎さんは俺に言う。
「それは、無理です。
俺は爺さんが残したZを追う為にも、仮面ライダーを続けなきゃいけないんです」
「だったら、俺がそれをやってやる。
高校生のお前が、そんな無茶をするもんじゃない」
その言葉に俺は思わずむっとしてしまう。
「翔太郎君、さっきから結構親しげだけど、どういう関係なの、この子とは?」
「あぁ、まぁなんだ。
昔から遊び相手をしていた弟みたいなもんだ」
「俺は、その、姉や侍女の人以外は仲が悪かったんだ」
「んっ、侍女?」
「禅空寺家で、風都海岸付近の地主一族。
現在はZENONリゾートの創設者として有名だね」
「それって、超大金持ち!!」
「・・・その話は止めてくれ。
俺はあの家とは関わりを持ちたくないんだ」
そう俺はその話を遮った。
「あのクソ親父も、姉さん以外の兄姉は金の事しか目に無かった。
爺ちゃんの大事にしていたのを全部潰して、あんなのを建てて」
「おいおい、そこまで言わなくても」
「別に、今更建った物に対して文句はないよ。
それはそこで大切な思い出を作った人に対する侮辱になる。
けど、それでも爺ちゃんが財産だと言った自然を壊したのは、どうも」
そう俺がそこまで言うと、少し固まった様子が見えた。
「お前が言いたい事も覚悟は分かった。
けどな、それでも高校生であるお前に、これ以上は怪盗行為を続けさせる訳にはいかねぇ」
同時にロストドライバーとナスカメモリを俺に渡す。
「だったら、どうするつもりだ」
「決闘だ。
どうせ、ここで俺が何度も言おうと、諦めるつもりはないんだろ。
だったら、白黒はっきりさせた方が良いだろ」
「・・・あぁ、やってやるよ!!」
翔太郎さん達に連れられてのは、風都からそれ程遠くない採掘所だ。
現在、俺が所有している数少ない土地の一つであり、普段は誰も通らない。
施設を建造しようにも、様々な条件があって、不向きという事もあって、入らない弟に渡された場所だ。
だが、こうして、誰の目も気にせず戦える場所という事もあって、これから行う戦いには丁度良い。
「覚悟はできているようだな、影」
『ジョーカー』
鳴り響く音声に合わせるように、その腰には俺の持つロストドライバーとは違うWの文字が目立つドライバーだった。
『サイクロン』
同時にドライバーに装填された緑色のメモリと共に、翔太郎さんはそのまま自身の持っているジョーカーメモリを挿入する。
「変身」
『サイクロンジョーカー』
その音声が鳴り響くと共に翔太郎さんの姿はWへと変わる。
身体の右半身がメタリックな緑、左半身はマットな黒。
ほぼ人体に即したシンプルなプロポーションをしているが、複眼状の巨大な目とV時型の銀の触覚、そして右肩から伸びた銀色のマフラーが特徴的だ。
それこそが、俺が仮面ライダーとして活動する前から、この街を守ってきたヒーロー、仮面ライダーW。
その仮面ライダーWはそのまま俺の方へと構える。
「お前に、覚悟があるなら、俺を認めさせてみろ」
同時に、俺もまた覚悟を決めるようにロストドライバーを腰に巻く。
『ナスカ』
鳴り響く音は、これまで以上に覚悟を問われるものだった。
それでも俺は、覚悟を決め、ロストドライバーに装填する。
同時に、俺の姿もまた、ナスカへと変わる。
それを見た翔太郎さんもまた構える。
その構えから既に分かるが、これまで戦ってきた誰よりも強い相手だという事が彼らから流れる風で感じ取れた。
そんな強者を前にしてなお、不思議と恐怖はない。
ただ、この人に認めなければ、前に進めない。
そして、戦いが始まった。
最初に動いたのは翔太郎さんだ。
俺もそれを追おうとするが、彼は既に目の前にいた。
「っ!」
瞬時に俺は両手を構えて、防御を行うが、そこから繰り出される攻撃に驚かされた。
疾風を思わせる速さと巧みな技による攻撃。
それらは、俺の防御を簡単に崩し、更に俺を吹き飛ばすほどの威力を持っていた。
しかし、それはあくまでも一撃のみ。
すぐに体勢を整えれば、追撃が来るかと思ったが、来なかった。
どうやらこちらの力を測るつもりらしい。
『彼らが変身する仮面ライダーWは二つのメモリを使う事で、二つの特性を同時に使用できる。
しかも、どの組み合わせもなかなかに強力だ』
「あぁ、それは今、受けて、はっきり分かる」
未だに痺れが取れない腕と共に、改めて見つめる。
サイクロンという名前からして、既に風の記憶というのは分かっていたが、ジョーカーという単語には何なのか分からなかった。
しかし、先程の攻防で格闘能力を飛躍的に上げる事ができると予想はできる。
だが、それが分かっても、対処は難しい。
疾風のような速さで繰り出す格闘はシンプルだからこそ厄介であり、また力の強さも相まって防ぐだけで精一杯だった。
ならば、こちらも同じ力で対抗するまで。
そう思った瞬間、俺は再び駆け出す。
今度はこちらから仕掛けるためではなく、あくまで相手の出方を見るためだ。
しかし、やはりというべきか、翔太郎さんの速度は俺を上回っており、気付けば俺の首元に手刀が迫っていた。
咄嵯に首を曲げる事によって回避するが、彼の手刀は止まらない。
だが、俺は瞬時に腰にあるナスカブレードで斬りつける。
刃による斬撃に対して、翔太郎さんはそれをバックステップする事で避けた。
そのまま俺は追撃を行おうとしたが
『サイクロントリガー!』
聞こえた音声と共に、Wの姿はマッドな黒からクリアな青へと変わり、片手に持った銃を真っ直ぐと俺に向けていた。
「っ!?」
驚きを隠せない俺に対して、そのまま引き金を引く。
そこから銃口から放たれる風の弾丸が、まるでマシンガンのような速さで俺に襲い掛かる。
一発一発が軽いが、速い。
それ故に、全てを避ける事はできず、被弾してしまう。
ダメージ自体は大した事はないが、衝撃だけは大きい。
吹き飛ばされた俺は地面に転がりながらも何とか起き上がるが、既にWの姿はなかった。
「どこにっ!」
『ルナメタル!』
聞こえた音と共に、既に瞬く間に接近していたWはそのまま手に持った棒状の武器をそのまま薙ぎ払う。
薙ぎ払われた棒をなんとか避けるが、鞭のような動きをしたソレは俺の身体を叩く。
痛みはあるが、そこまでではない。
だが、次の攻撃を避ける事はできなかった。
『ヒートメタル!』
鳴り響く音と共に叩き込まれた一撃は重く、地面を削りながら後退させられる。
「その程度か、お前の覚悟は」
そう翔太郎さんから問いかけられる。
ここまで、反撃する事すらできない。
これが、これまで風都を守ってきた仮面ライダーの実力か……!
それでも、まだ倒れるわけにはいかない。
ここで倒れてしまったら、何もかも終わってしまう気がするからだ。
だから、負けられないんだ。
たとえ相手がどんなに強くても、俺はまだ立ち上がれている。
ならば、ここから先は俺の意地の問題だ。
「まだだ、俺はまだ諦めるつもりはない!」
『それは違うぞ、影』
だが、そんな俺の言葉を否定するように霧彦が言う。
「どう違うんだ」
『全く違うぞ。
君の覚悟を聞いた時から、既に私自身も君と共に戦う事を決めていた。
だからこそ、そこは私達と言うべきだろ』
「……まったく、悪党の癖に臭い事を言うぜ」
そう霧彦の言葉に対して、思わず笑みを浮かべる。
だが
「けど、屑の相棒には悪党が丁度良いかもしれないな」
俺はゆっくりと立ち上がる。
同時に、ロストドライバーからナスカメモリに手を重ねる。
「何か覚悟はできているようだな」
「えぇ、ここからは、俺達の覚悟を見せる時ですから」
『ナスカ! レベルアップ!』
通常、ナスカメモリを能力を使用する時に別のメモリへと書き換える事ができる。
だが、これは裏技みたいな能力であり、能力を書き換えた先がナスカメモリならば、その能力を上げる事ができる。
これを使えば、ナスカドーパントのようにレベルを上げる事に、その力を引き出す事ができるが、身体に追いつく事が出来なければ、生前の霧彦のように死を待ち受けるだけである。
それでも
『翔太郎、これは』
「あぁ、覚悟を決めて、受けないといけないようだな」
『サイクロンジョーカー!』
向こうの翔太郎さんとフィリップさんが、再びサイクロンジョーカーへと姿を変える。
同時に俺自身もレベル2へと変わり、ゆっくりと構える。
「行きますよ!」
「来い!!」
翔太郎さんの叫びと共に、俺は超加速で瞬く間に間合いを詰めて、ナスカブレードを振り下ろす。
それをWはギリギリで避けて、蹴りを繰り出してくる。
それを俺は左腕で受け止めると、そのまま右手で拳を放つ。
しかし、それは受け止められ、そのまま振り払われてしまう。
体勢が崩れた瞬間を狙って、Wはそのまま蹴りを繰り出す。
何とか防御を行うが、衝撃までは殺しきれず、後ろに吹き飛ばされた。
しかし、それだけでは終わらず、追撃を仕掛けるようにこちらに走り出す。
俺はそれに対抗するべく、ナスカブレードを捨て、身軽になると共に蹴り上げる。
互いに武器を持たない状態での攻撃であり、ぶつかり合った。
そのまま俺は何度も、連続で殴りかかる。
互いの攻撃を全て受け、全てを防いでいく。
「「『『はああああぁぁぁぁ!!!!」」』』
意地と意地のぶつかり合い。
俺達は互いを倒すために、全力で拳を振るう。
一撃一撃に込められた思いは強く、そして重い。
だが、俺とWの身体能力は互角。
つまり、このまま戦い続ければ、体力が尽きるのは俺の方だろう。
それでも、負けるわけにはいかない。
ここで負けたら、俺は自分の意地を通す事ができない。
『ナスカ! マキシマムドライブ!』
『ジョーカー! マキシマムドライブ!』
互いに自身の腰にあるマキシマムスロットにメモリをセットする。
同時に俺の脚には青いエネルギー、Wの脚には紫色のエネルギーを纏った。
俺は地面を踏み砕きながら駆け出し、Wも同じように駆け出した。
互いのスピードはほぼ同等。
「『ジョーカーエクストリーム!』」
Wの必殺技であるキックが俺に向かって放たれる。
それに対して、俺も同じ様に必殺の一撃を放った。
互いの必殺技がぶつかり合い、周囲に衝撃波が撒き散らされる。
拮抗しているように見えるが、徐々にだが俺の足が押されていく。
だが、この一撃だけは譲れない。
例え相手が強くても、今度こそ自分自身の決意を貫く為に。
だから、絶対に負けない!
「「『『はああぁあぁぁぁぁ!!』』」」俺達の声と同時に、更に力を込めた。
その声に応えるように、少しずつではあるが、確実にWの足を押し上げていく。
そして、遂に…………!
──―バキンッ!! 鈍い音が鳴り響き、俺は吹き飛ばされる。
「あぁ、くそっ」
変身が解け、地面を転がる。
やはり、俺の実力じゃ、風都を守り続けてきた相手に勝てるわけがなかったか。
悔しいな。
ここまでやって、結局何もできなかったなんて。
だけど、不思議と後悔はない。
「まったく、ここまで無茶をするなんてな」
そう言いながら、翔太郎さんもまた、変身を解除した。
「勝負は、俺の負けですかね」
「そうだな、お前は俺に負けた。
けど、それだけだ」
その言葉と共に翔太郎さんは俺の方へと手を伸ばす。
「お前の覚悟、確かに認めたぜ」
「翔太郎さん」
その手を握り、握手を交わす。
どうやら、認めてもらえた事に、俺は少し恥ずかしい。
「お前が怪盗で、誰かを泣かした時には容赦はしない。
けど、これからお前は怪盗として、そして仮面ライダーとして誰かの悲しみを盗め。
それは誓えるか」
「だけど、俺は俺自身の目的の為に」
「別に良いんじゃないか、何かを目的にして、戦うのは。
その最中、誰かの涙を拭えるならば、もうお前は仮面ライダーだ」
そう、俺に向けて言う。
「相変わらずハーフボイルドだね、君は」
『あぁ、どうやら私が思っていた以上にな』
「お前ら、揶揄うんじゃねぇよ!」
そう翔太郎さんの言葉に反応するようにフィリップさんも霧彦は揶揄う。
それに対して、翔太郎さんは思わず反応してしまうが、その光景に俺は思わず笑う。
「誰かの為に戦うか。
どうやら、仮面ライダーは多忙で、仕方ないようだな」
「けど、やりがいはあるだろ」
そう翔太郎さんの言葉に俺は小さく笑みを浮かべた。
そして、ゆっくりと立ち上がる。