普通なんてこんなもんだ   作:黒金剛

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フーシャ村からの船出

時間が経つのは早いもので、あっという間に一週間の時が流れた。久しぶりに港へと来てみれば、懐かしい潮の香りが鼻をくすぐる。遠くからはカモメの鳴き声も聞こえてくる。

 

 

「忘れ物はないか?」

 

「元々荷物ありませんって」

 

 

既に船出の準備は万端。とは言っても、この身一つでこっちの世界に来たので荷物も何もあるわけない。

 

 

「マキノさん、本当に色々お世話になりました」

 

「それはこっちの台詞よ。ハチマンくんにはお店のことを色々手伝ってもらって本当に助かったわ。........できればずっとこの村に居て欲しかったけれど」

 

「.......すみません。もう決めたことなので」

 

「うん、分かってるわ。..........寂しくなるわね」

 

 

それはきっと使い勝手の良い雑用が居なくなってしまうからだろう。そう思わないと優しいマキノさんに思わず涙が浮かびそうになる。この世界で身寄りのない俺を面倒みてくれた彼女は母........と言うには若すぎるか。姉のような存在だったと言っておこう。本当に彼女には感謝しかない。

 

 

「ハチマン!」

 

 

マキノさんと話す俺を呼ぶ幼い声。顔を向ければそこには何かをこらえるように服の裾を握りしめ、今にも泣き出しそうに顔を歪めたルフィの姿があった。

 

 

「なんで村から出て行っちゃうんだよ!おれ、もっとハチマンと一緒に居てぇ!ハチマンはおれの大事な“兄ちゃん”なんだ!だからっ.........」

 

「........ごめんな、ルフィ。俺はどうしても故郷を見つけたいんだ。そのためには、いつまでもこの村に居るわけにはいかないんだよ」

 

 

必死に訴えかけるルフィに心が痛みながらもはっきりと告げる。本当に懐かれたものだ。ましてや血の繋がりもないどころか会ってまだ半月程の俺のことを“兄”だと言ってくれる。元千葉の兄として嬉しくないわけがない。もちろん俺だってルフィのことは本当の弟のように思っている。

 

 

「でもっ..........!」

 

「ルフィ、これはハチマン自身が決めたことだ。それともお前は、男が掲げた冒険に水を差すのか?」

 

 

シャンクスさんの援護に押し黙るルフィ。大きな瞳からは我慢できず溢れ出した雫がポタポタと地面に染みを作っている。やれやれしかたがない。最後まできちんと『お兄ちゃん』しますかね。

 

 

「なあ、ルフィ。シャンクスさんの船に乗るのか自分でなるのかは知らんが、お前は将来海賊になって海に出るんだろ?」

 

「........うん」

 

「そうなればこの広い海の何処かでもう一度会えるかもしれない。或いはお前が俺の故郷に来るかもしれない」

 

 

「そうだろ?」と言いながらルフィの頭をガシガシと撫でる。涙は止まったが本人はまだ不服そうだ。それならしかたないと更にダメ押し。

 

 

「ルフィ、小指出せ」

 

「小指?」

 

 

キョトンとしながらもまだ小さい小指をこちらに差し出すルフィ。差し出された小さな指に自分の小指をしっかりと絡める。

 

 

「ゆーびきりげんまん嘘ついたら針千本のーます。ゆびきった、と」

 

 

小指同士を絡めたままゆっくりと縦に振る。それと共に口ずさむのは聞き馴染みのあるそんなフレーズ。

 

 

「今のは約束のおまじないだ。これで俺達は約束を破ったら指を切られて針を千本飲まされることになった」

 

「なんだそれ!痛えぞ!?」

 

「だろ?つまり、この約束は絶対に守らないといけなくなったわけだ」

 

 

約束というのは当人同士を繋ぐ鎖のようなもの。その鎖は目には見えずとも絶対に切れることはない。言ってしまえば一種の呪い。だからこそ『おまじない』という言葉は『お呪い』と書くのかもしれない。

 

 

「“いつか必ず再会する”ーーーーこれが俺とルフィとの約束だ。これならまた会えるだろ?」

 

「そっか!ハチマンって頭良いな!」

 

 

それでも、こんなに俺を慕ってくれるこの少年との再会という約束なら、呪いだってかまわないのかもしれない。すっかり納得してくれた純粋な瞳をキラキラと光らせるルフィに苦笑しながらそんなことを思う。

 

 

「分かった!おれはいつか立派な海賊になって、絶対にハチマンに会いに行く!だから、ハチマンも約束忘れんなよな!」

 

「ああ、楽しみにしてる」

 

 

まだ少しだけ涙の残る瞳をぐしぐしと力任せに拭うルフィ。赤く腫れた目はそれでも確かな意志を宿しているように見えた。俺の約束はともかく、きっとこいつならいつか立派な海賊になってそうだ。弟分の成長を思い浮かべて少し笑みが零れる。

 

 

「........んじゃ、そろそろ行くわ。元気でな、ルフィ」

 

「ああ!“また”な、ハチマン!」

 

「........おう、“また”な」

 

 

互いに言葉を交わす。別れ際に柄もなくぶつけた片拳は、何故だか妙に熱を持っていた。

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