ひょんなことから能力者になり、普通に生きるという出鼻をくじかれてしまった俺だが、なってしまったものはしかたがない。それに、この能力を使えばより面倒事から遠ざかることができるかもしれない。あれ?そう考えると結構便利なんじゃね?
そんでもって時の流れとはあっという間なもので、一人旅を始めて既に二年ほど経った。その間は適当に旅客船や商業船に乗せてもらいながら、“東の海”の島々を転々としていた。その度に故郷の情報について尋ねてきたが、めぼしいものは何もなし。二年経ってこれだと精神的に参ってしまいそうだ。
情報こそ手に入らなかったものの、この世界をある程度見ることはできたし、色々濃い体験もしてきた。一番はやっぱり、珍獣だらけの島で宝箱に九年間もはまったままのおっさんに会ったことだろうか。あれを超えるインパクトには未だ出会ったことがない。
(いつの間にか高校卒業しちまったな、俺.........)
高校二年生だった俺も、二年経った今ではもう十九歳。普通に暮らしてればなんでもないように高校を卒業して、大学にでも通っていたかもしれない。それが何を間違ったら一人で海を旅することになったのか。自分のことながら現実味が湧いてこない。
とは言っても、帰る方法が分からないのだからどうしようもない。何年かかっても元居た世界に戻る。それが今の俺の生きる意味であり原動力なのだから。
(なんて言ってみたものの、どうしたもんかねえ.........)
意気込んだはいいものの、俺は現在絶賛行き詰まっていた。というのも、次の島へ行く手立てがなくなってしまったのだ。
今までのように旅客船や商業船に乗ればいいと思うが、これらが回っている島にはあらかた行き着いてしまった。そうなると別の方法で海を渡る必要があるのだが、当たり前だが俺は航海術なんて持ってないから自分で船を操って島へと渡るのは無理。当然海賊船に乗るなんてありえない。こんな感じで完全に移動手段を無くしてしまったのだ。
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
とりあえず今日も適当に宿に泊まろうと街を歩き、少し細い路地裏のような道に差し掛かろうとした時、角から飛び出してきた小さな影と正面衝突。体格差故か俺の方はさほど何ともなく、ぶつかった方が尻餅をつく形になった。
目下で痛そうにお尻をさすっていたのは一人の少女。歳は多分ルフィ達と近いだろう。オレンジ色の髪はあまり手入れしていないのかボサボサだが、顔立ちは素晴らしく整っている。成長すれば数多の男を魅了する美女になりそうだ。
「待ちやがれ!!」
「逃がさねえぞ!このクソガキ!」
とりあえず起きるのを手伝おうかと手を伸ばそうとして、何処からともなく聞こえてくる怒号。その方向を見れば、遠くの方から数人の男がこちらに走ってきているではないか。
さてさて、ここで八幡の推理タイム。焦っていた様子の少女。怒号を上げる強面の男達。それを聞いて強ばる少女の顔。少女の傍らに落ちている小さめの宝箱。これらの情報から照らし合わせられることは一つ。
「.......掴まれ」
「えっ?う、うん........」
状況を整理した俺は、また厄介事かと悪態をつきながら少女を引き起こすべく手を差し出す。困惑しながらも言う通りにしてくれた彼女を引っ張り上げた俺は、手を握った状態のまま頭の中で“ステルスヒッキー”と唱え、悪魔の実の能力を発動する。別にわざわざ唱える必要は無いのだが、気分というやつだ。
そのまま道の端に寄った俺は、静かにするよう少女にジェスチャーを送る。遅れてサーベルを持った厳つい男達が目の前に到着。しかし、能力のおかげですぐ隣に居る俺達には気づいていない様子。
「くそったれ!何処に消えやがった!」
「このままじゃ船長に殺られちまう!とっとと見つけるぞ!」
能力のおかげでこちらに気がつかない男達は、焦った様子でこの場を去っていく。すっかり見えなくなったのを確認した俺は、息を一つ吐きながら能力を解く。
「.......ねえ、何したの?」
「まあ、なんだ。人よりちょっと不思議なことが出来るだけだ」
普通ではありえない光景に訝しそうに眉をひそめる少女に肩を竦める。人を変人を見るような目で見るのはやめなさい。傷つくから。俺だって好きでこんな体になったわけじゃないんだから。
「俺はハチマンって言うんだが。よかったら名前、教えてもらえないか?」
「........私はナミ。海賊専門の泥棒なの」
こうして俺は泥棒少女、ナミと出会ったのであった。