普通なんてこんなもんだ   作:黒金剛

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泥棒少女と海へ出る 前編

場所は何処にでもありそうな質素な飯屋。その中の一席に座ってコーヒーを飲む俺の目の前には、忙しなく飯にありつくひょんなことから知り合ったナミというオレンジ髪の少女。ちなみに、飯代は俺持ちである。

 

 

「は〜、美味しかった。ご馳走様でした!」

 

「そりゃ何より。飯くらいゆっくり食ったらどうだ?」

 

「しょうがないじゃん。まともなご飯食べたのなんて久しぶりだったんだもん」

 

 

少女とは思えない食いっぷりに苦笑しながら告げれば、“当たり前じゃない”というようにそう返された。なんというか随分とふてぶてしい奴だと再び苦笑。

 

 

「それにしても、なんで私のこと助けてくれて、しかもご飯まで食べさせてくれたの?」

 

「さあな。強いて言うなら、昔から年下はほっとけない性格なんだよ」

 

「.........小さな子が好きなの?」

 

「おいこら、やめろ」

 

 

自分の肩を抱きながらドン引きした目で見るのやめてね?俺はロリコンじゃないから。シスコンだから。ルフィっていう弟もできたからブラコンでもあるのか。

 

 

「とりあえず、助けてくれてありがとう。あ、でもっ!このお宝は渡さないから!」

 

「いらんっつうの」

 

 

あの男達から盗ったのであろう宝を渡すまいと抱きしめるナミ。そんな危ない金を持つ気はさらさらないし、嫌味に聞こえそうだが生憎金には困ってない。

 

 

「にしてもその歳で随分と危険なことしてんだな。泥棒なんて褒められたもんじゃねえぞ?」

 

「何?お説教?別にあなたには関係ないでしょ」

 

 

こちとら一応心配して言ってやってんのにほんと可愛げのない奴だな。だがまあ、彼女の言うことももっともではある。こんな見ず知らずの男に踏み込まれたとて素直に答えるはずもない。むしろペラペラ喋り出す方が心配になるレベル。可愛げないのに変わりはないけど。

 

 

「とにかく!助けてくれたのはお礼を言うけどそれまで!これ以上あなたと関わるつもりはないから!あとご飯ご馳走様でした!」

 

「あっそ」

 

 

ビシッと指を突きつけてくるナミに肩を竦める。確かにこれ以上赤の他人の面倒を見る義理もこちらには無いし、そもそも助けたのだって成り行きだ。あんな小さな子が海賊専門の泥棒なんてやってる時点で何か事情があるのは明確だが、だからといって他人のプライベートに土足で入り込むのはぼっちの流儀に反する。

 

 

店内から駆け足で出ていく少女の小さな背中を見送りながら、俺はもう一口コーヒーを啜るのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

(色々あったけどお宝は手に入った。見た感じ高値がつきそうだし、今回は当たりだったかも)

 

 

手に持った宝箱に嬉々としながら街中を歩くナミ。今まで何度か海賊の船に盗みに入ったが、大抵見つかって宝を持ち出せなかったり、そもそもお宝がないことだってあった彼女にとって、今回の盗みは成功だったと言えよう。

 

 

(あとは海賊に見つからないように早く島を出ないと........)

 

 

そこで思い出すのは、先程自分を助けてくれた一人の青年の顔。海賊に負けず劣らずの悪人顔、というよりゾンビ顔のお人好しな青年の顔が、ナミの脳裏から離れないでいた。

 

 

(........ハチマン、だったかな。もしあの人に“助けて”って頼んだら、この地獄から助けてくれたのかな.........)

 

 

第一印象は目が怖い人。しかし、それは話してみてものすごくお人好しという評価へと変わった。実際に危ないところを助けられたこともあり、知らぬ間に青年の存在が無視できないものになっていた。

 

 

(って、ダメダメ!今日会ったばかりの他人を信用してどうするの!)

 

(それに、これ以上誰かを巻き込みたくない。これは私一人で成し遂げなくちゃ.........)

 

 

植え付けられた猜疑心と僅かな恐怖で心を埋め尽くされた少女は、前から歩いてくる人影に気づいていなかった。

 

 

「いたっ!?」

 

 

ぶつかった衝撃にその小さな体は耐えきれず、いつかのようにその場に尻もちをつく。

 

 

「あの、すいませ........」

 

「ようやく見つけたぜ〜?」

 

「観念しろよ?お嬢ちゃん?」

 

 

ドスの効いた低い声につられて顔を上げたナミの視界には、先刻自分が盗みに入り、逃げていた海賊の下っ端二人の姿が映っていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「船長、連れてきやした!このガキです!うちの宝を奪いやがったのは!」

 

「ちょっと!離してよ!」

 

 

街から少し離れた港。そこに停泊している一隻の船。立派な帆船の帆に描かれているのは、この時代ではもはや当たり前とも思えるドクロマーク。つまりは海賊船だ。

 

 

そのとある海賊船の船内の比較的大きな部屋に集まるガラの悪い男達。もしかしなくともこの船の乗組員だろう。そのうちの一人が首根っこを掴んで宙吊りにしているのは、オレンジ髪のまだ幼い少女。オレンジ髪の少女ーーーーーナミは抵抗するように暴れるが、男の方は煩わしそうに顔を顰めるだけで離そうとはしない。

 

 

「........ようやく見つかったか。手間かけさせやがって」

 

 

船内に居る中で一際派手な装飾を用いた服装と威厳のある雰囲気を持つ男がそう呟く。呼称からも分かるように、この男がこの船の船長なのだろう。

 

 

「こんなガキに宝を奪われる部下共もマヌケだが..........泥棒とは感心しねえな、お嬢ちゃん。人のもんを盗るのは悪いことだってお母ちゃんに習わなかったのか?」

 

 

チラリと自分の部下を一瞥したあと、男はギロリとナミのことを睨みつける。強面なことも相まってその迫力は相当なものだ。

 

 

「べーっだ!海賊にそんなこと言われたくないわ!どうせこれだって何処かから盗んだくせに!」

 

 

しかし、ナミは怯まない。男に向かって舌を出しながらあろうことか煽りだす。それによって男の額に青筋が浮かぶ。

 

 

「調子乗ってんじゃねえ!このクソガキ!」

 

「あっ.......!?」

 

 

次の瞬間、ナミの頬に男からの平手打ちが炸裂する。相当な力ではたかれたのかナミは首根っこを掴んでいた男の手から飛び、そのまま床へと叩き落とされる。

 

 

「船長!このガキどうします?」

 

「宝は戻ってきたんだろ?なら、このガキにもう用はねえ。奴隷商人にでも売っぱらって金に変えちまおう」

 

 

なんでもないように末恐ろしいことを口にする。決して冗談なんかでは無い。子供にも容赦ない姿はまさに世間一般的な“海賊”そのものであった。

 

 

「私のお宝を返してよ!この馬鹿海賊!そのお金は私が自由になるために必要なんだから!」

 

 

しかし、そんな海賊に負けじと言い返すナミ。痛む頬を押さえ、目から大粒の涙を流しているが、言葉だけは何処までも強気なまま叫ぶ。

 

 

「........奴隷商人に売るのはなしだ。臓器屋に変更しよう」

 

 

その言葉がいよいよ海賊達の逆鱗に触れたのだろう。船長がそう言うと部下の一人がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながらサーベルを抜き、床にへたり込むナミへとその切っ先を向ける。それが何を意味するのかなど言わずもがなだろう。その考えを肯定するように、男がサーベルを振り上げる。今から自分に起こることを察したであろうナミは、涙の止まらない瞳をギュッとキツく閉じた。振り上げられたサーベルが、ナミへと一直線に振り下ろされるーーーー

 

 

「っ!?」

 

「な、なんだぁ!?」

 

 

ーーーーーかと思われた瞬間、船内を襲う爆発音と猛烈な揺れ。あまりに突然の出来事にナミや海賊達は驚愕の色を隠せない。

 

 

「船長!大変です!武器庫の火薬が爆発して船底に穴が!このままだと水没します!」

 

「なんだと!?くそっ、どうなってやがる!?」

 

「ど、どうしましょう!?」

 

「どうもこうもあるか!さっさと穴を塞ぎに行くぞ!」

 

「こ、このガキは........」

 

「知るかそんなガキ!そこら辺に縛っとけ!」

 

 

突然の事故に焦燥を隠せない乗組員。船長の命令通り一人の男がナミを近くの柱に縛りつけ、慌てた様子で全員が現場である武器庫へと走っていく。部屋にはナミ一人だけが取り残されていた。

 

 

(助かった、のかな.......?あいつらが戻ってくる前に早く逃げ出さないと........)

 

 

思いがけず訪れた逃走のチャンス。まずは自分を縛りつける縄を解こうともがくが、大人の力で縛りつけられた縄はキツく、いくらもがいても一向に緩む気配は無い。

 

 

どうにか解こうと必死にもがくナミ。すると、突然縄の締めつけが緩み、パサリと解けた縄が床へと落ちる。かと思うと、突然ナミの体が抱き上げられるように宙に浮く。何事かと思ったナミは、自分を抱き抱える存在を見て目を見開いた。

 

 

「よう、さっきぶりだな」

 

 

何処か安心した様子で笑い腐った目で優しくナミを見つめている、先程別れたはずのアホ毛の青年ーーーーー比企谷八幡の姿がそこにはあった。

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