普通なんてこんなもんだ   作:黒金剛

6 / 18
フーシャ村での新たな日常

シャンクスさんの提案とマキノさんのご厚意でフーシャ村に滞在することになった俺。酒場の中にある小さな部屋で寝泊まりすることになった俺だが、女性と一つ屋根の下で暮らすことになった事実に気づいて身悶えしたのはもはやご愛嬌。

 

 

いやまあ、手を出すような甲斐性もなければ恩を仇で返すようなことをするつもりもないけども。年頃の男としては色々意識してしまうというか、こればっかりは早々に慣れるしかなさそうだ。

 

 

「ハチマンくん、こっちのお皿も洗ってもらっていいかしら?」

 

「うっす」

 

 

俺がフーシャ村に来てから既に早数日が経った。約束通り俺はマキノさんの酒場で雑用紛いのことをしている。赤髪海賊団の船に居た時もそんな感じだったし、俺ってば雑用の才能があるのかもしれない。

 

 

俺の基本的な仕事は皿洗いやお酒の整理。簡単な力仕事に料理やお酒を運ぶウエイター。それから毎日来る赤髪海賊団(酔っぱらい共)の相手などなど。専業主夫を志していた俺からしたら信じられない仕事量だ。

 

 

ああ、そういえばもう一つあった。そろそろ来る頃だとは思うが。

 

 

「「ハチマン!!」」

 

 

噂をすれば何とやら。酒場の扉を勢いよく開けて入ってきたのはいつも世話を焼いているチビッ子二人、ルフィとウタだ。

 

 

「ハチマン!おれさっき面白いもん見つけたんだ!一緒に見に行こう!!」

 

「何言ってるのルフィ!ハチマンは私と遊ぶんだから!!」

 

 

もう一つの仕事というのがこれ、二人の遊び相手である。この二人、暇さえあれば俺を遊びに誘ってくるのだ。それにしてもウタはともかくとして、まさかルフィにまで懐かれるとは思っていなかった。お兄さん人のことゾンビ呼ばわりしたことまだ忘れてないからね?

 

 

「いーや違う!ハチマンはおれと遊ぶんだ!」

 

「違う!私よ!」

 

「おれ!!」

 

「私!!」

 

「なあ、俺抜きで遊ぶっていう選択肢は.........」

 

「おれ(私)はハチマンと遊びたいんだ(の)!!」

 

「さいですか.........」

 

 

声を揃えて否定されてしまえば返す言葉もなく。何が面白くてこんな目の腐ったゾンビ男と遊ぼうと思うのか。

 

 

「ふふっ、モテモテね。ハチマンくん」

 

「やめてくださいよ........」

 

 

良い笑顔でそんなことを言わないで欲しい。他人事だと思ってからに。

 

 

「それなら、どっちがハチマンと遊ぶのか勝負して決めましょ!」

 

「臨むところだ!今日“も”おれが勝つけどな!」

 

「何言ってんの!この前もその一個前も勝ったのは私だから!」

 

「ハチマンは審判してくれ!ウタがズルしないか見張っててくれよ!」

 

「ちゃんと見ててよね!」

 

「へいへい.........」

 

 

大抵このように言い合いでは決着がつかず、こうして勝負に繋がるのが一連の流れ。その時は決まって俺が審判に回される。

 

 

今日の勝負は『チキンレース』。ルールは簡単、皿に盛られた骨付き肉を先に平らげて逃げた方の勝ち。逃げ遅れた方は残った肉に目の眩んだ犬に吹き飛ばされるという寸法だ。小学生くらいの少年少女がやる勝負にしては幾らか過激ではないかというのが俺の感想だ。

 

 

「そんじゃ始めるぞー。よーい........」

 

「「3、2、1!!」」

 

 

独特な掛け声と共にチキンレースがスタートする。優勢なのは男の子だからか、それとも単に食い意地が張ってるからか定かではないがルフィの方。このままいけばルフィの勝ちは固い。

 

 

「ルフィ!私のジュースあげる!」

 

「ほんとかっ!?ありがとう!!」

 

 

しかし、ここでウタの方が動く。彼女はルフィに自分のジュースを渡す。ルフィがジュースに気を取られているうちに自らの皿の肉を食べ切ったウタは、すぐさまその場から離れる。その二秒後に突進してきた犬によってルフィが跳ね飛ばされる。

 

 

「わーい!また私の勝ちぃ!」

 

「卑怯だぞ、ウタ!ズルしたからおれの勝ちだ!」

 

「や〜い、負け惜しみ〜♬」

 

「大丈夫か、ルフィ?顔に泥ついてるぞ」

 

 

これはチキンレースでの日常茶飯事な光景。ルフィは毎回ウタのこの手に引っかかっている。ルフィはよく言えば純粋無垢、悪く言えばものすごくアホの子なんだろう。ガハマさんを思い出しますね。

 

 

地面を転がったせいでルフィの顔についた泥を取ってやってる俺の横で、勝ったことに喜ぶウタとズルされて負けたことに納得のいってないルフィ。ルフィの反論に顔の横で両手をワキワキさせるウタお得意の『負け惜しみポーズ』で煽るウタ。これもまた見慣れすぎた光景だ。

 

 

「ハチマンも見てただろ!?ウタはズルしたからおれの勝ちだよな!」

 

「私は海賊なの!海賊の勝負に卑怯なんて言葉はないわ!ハチマンもそう思うでしょ!?」

 

 

これが二人の勝負の審判をしていて一番困る瞬間。どちらも自分が勝ったと言い張っており、最終的に俺の判断に全て委ねようとしてくるのだから本当に困る。

 

 

さっさと答えを出してやればいいじゃないかと思うだろうがそれは甘い。マッ缶より甘い。この状況を分かりやすく例えるとするならば、同い年になった小町と川崎の妹のけーちゃんが言い合いをして、俺にどっちが正しいのかを聞いてきているようなものだ。どっちかの味方をするということはどちらかを切り捨てるということ。どちらかの天使を切り捨てる、そのようなことを誰ができようか。世界滅亡か己の死か選ぶくらい難しいのではないか。

 

 

ちなみに、小町と戸塚、もしくは戸塚とけーちゃんでも可。誰もそこは気にしてないって?小町、戸塚、けーちゃんの三大天使は至高だろうがぶっ飛ばすぞ。

 

 

「........ルフィ。このチキンレースのルール覚えてるか?」

 

「先に肉を食べ切って逃げた方の勝ちだろ?それくらい覚えてるぞ!」

 

「その通り。つまり、『対戦相手にジュースを渡しちゃいけない』なんてルールは何処にもない。ウタは別にルール違反をしたわけじゃないんだ」

 

「でもよぉ........」

 

「それに、ルフィは何回もこの手に引っかかりすぎだ。ルフィは海賊になるんだろ?このままだと将来悪い海賊に騙されるぞ?」

 

「うぅ.........」

 

 

いつもシャンクスさんに自分を船に乗せろとうるさく頼んでいるのを見る限り、ルフィも将来海賊になりたいのだろう。実際本人の口からもその旨を何度も聞いている。

仮に海賊になった時、それ以前に大人になった時もこのまま大きくなってしまえばそれこそ心配だ。ここで人生そんな綺麗なことばかりじゃないと教えてやる必要があるだろう。これはそのための良い薬だ。

 

 

「かと言って、ウタも褒められたやり方じゃないのは確かだ。ある意味正面からの正々堂々な勝負をしたいルフィを冒涜してるとも言える」

 

「それは........」

 

 

俺の指摘に思うところがあるのか、二人とも俯いて黙ってしまう。流石にこんな光景をいつまでも見ていたくはないので、二人の頭をそっと撫でる。頭に手を置かれてピクッと震えた二人だが、すぐに気持ちよさそうに撫でる手を受け入れてくれる。

 

 

「つーわけだから、今回は引き分けってことで手を打とうぜ?それなら問題はないだろ?」

 

「........分かった。ハチマンがそう言うならそれで我慢する」

 

「本当は私の勝ちだけど.......ハチマンが言うならそういうことにしてあげる」

 

 

俺の提案に二人は渋々ながらも納得してくれた様子。結局はこれが一番丸く収まる。俺にとっては二人とも可愛い弟分と妹分。どちらの悲しむ顔も俺は見たくないのだ。最初はどっちも生意気なクソガキって感じだったが、今では比喩抜きで本物の弟妹のように思ってる。

 

 

「だけど、引き分けだったらどっちがハチマンと遊ぶんだ?」

 

「ん〜.........そうだ!私とルフィとハチマンの三人で遊べばいいよ!」

 

 

おっと?解決したと思ったらもしかして自分で自分の首を絞めていた感じ?こっちを向いた二人の目が怪しく光ったように見えたのは俺の気の所為だよな?

 

 

「い、いや.........俺はあれだ.........店の手伝いがあるから..........」

 

「お店の仕事なら気にしないで?ハチマンくんが頑張ってくれたおかげで後は私一人で大丈夫そうだから」

 

 

仕事を言い訳にして逃げようとした俺にまさかのところから追撃が。何を言うのかとマキノさんの方を見れば、悪びれのまったくない笑顔を浮かべていた。マキノさんなりに気を遣わせてくれたのだろうが、今の俺にとっては地獄でしかない。

 

 

だってこの二人、むちゃくちゃ破天荒なうえに体力が無尽蔵なんだもん。俺もまだ高校生だからそれなりに体力はあると自負しているが、二人に付き合ったら終わった頃には既にクタクタだ。おまけに偶にとんでもないことまでしでかすもんだから精神的にも参ってしまう。一言で言うと悪ガキすぎるのだ。

 

 

「マキノもこう言ってるし大丈夫だな!」

 

「言っとくけど、逃がさないからね?」

 

「........はあ、わかったわかった。せめて着替えさせてくれ」

 

 

とは言ったものの、ここまで来てしまえば今更断るのも不可能。仕事中に付けていたエプロンを脱いで自室に放り込んだ俺は、再び酒場のホールに戻ってくる。そこには見知った顔ぶれが。

 

 

「よおっ、ハチマン!あの二人に振り回されておめえも大変だな!」

 

「それにしても、よくあの二人の言い合いを止めたよな!流石は兄貴分だぜ!」

 

「見てたんすね........」

 

 

店内にはいつの間に来店したのか赤髪海賊団が全員勢揃い。先程の光景を何処からか見ていたのか大口開けて笑いながら告げる彼らにげんなりしてみせる。彼らの座るテーブルには大量の酒瓶やジョッキ。よくもまあ昼間から.........

 

 

「にしてもまあ、よくあんな屁理屈思いついたもんだ。まさかどっちも納得させるとはな」

 

「よく言うでしょ。屁理屈も立派な理屈だって。そういうことですよ」

 

「わっはっは!!これは一本取られたな!!」

 

 

俺の返答に爆笑しながら、ジョッキに入っていた酒を一気に呷るシャンクスさん。何がそんなに面白いんだか。

 

 

「遅いぞ、ハチマン!!」

 

「ほらっ!早くっ!」

 

「わかったから引っ張んなって.........」

 

 

どうやら待ちくたびれてしまったのか、外で待っていたはずの二人がいつの間にか店に入ってきて俺の両手を二人で引っ張る。そんな二人を宥めながらも、俺はこの状況に密かに頬が緩むのを感じるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。